07・再々降臨
今週も何とか間に合った(;・∀・)
日本・とある都心のマンションの一室―――
大型モニターを前に、座イスに座りながら
ゲームに興じる女神と―――
その膝の上でお目付け役(猫Ver)が
くつろいでいた。
「くああぁあ……んみゅ。
しかしフィオナ様―――よろしかったのですか?
ポーラさんを眷属に加えて」
あくびをしながら、前回の顛末と理由を聞いた
ナヴィが質問する。
「? どうしてですか?」
「いえ、だってシモン君のお嫁さん候補として、
アドバンテージを持たせるという交換条件でしょう?
それで、シモン君は諦める事にしたんですよね?」
膝から降りて、改めてフィオナと対峙するナヴィ。
その言葉に、女神は首をかしげる。
「??」
「不思議そうな顔すんな。
ではなぜ、ポーラさんを眷属にしたのですか?」
「そりゃー眷属として女性もそろそろ必要かなって
思ってたし、毎度毎度何かある度にファジーに
女装させるのも何てゆーか……
当人も嫌がっているしね。
さすがに何度も無理強いは。
ただ、ポーラに眷属になってもらったところで、
そもそも選択権はシモン君にあるワケでしょ?
そこを忘れてはいけません」
「おかしい。フィオナ様にしてはそこそこまともだ。
(お考えあっての事でしたか。失礼しました)」
「逆逆!
本音と建前が入れかわってる!」
「そうですか。
それではそろそろ本編入りましょう」
「え? スルーなの?
何事も無かったかのようにスルーして
いい事なの?」
「はいはい。
それではスタートしますねー」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■徴税官シオニムの家 │
「まさか、神様を我が家に迎える事になるとは……」
「あなた、さっきからそればかり言っていますよ。
もう少し落ち着いてください」
「う、うむ……すまないな、レン」
バクシア国徴税官、シオニムの家で―――
夫婦は女神降臨を前にして、それぞれの心持ちで
その時を待っていた。
品のよさそうな、娘と同じ銀のややウェーブの
かかったセミロングの髪をそのまま重力に任せ、
妻であり母である彼女は優しく家族を見守る。
「何か悪い気がしますわ。
ポーラ姉さまに押し付けたような感じで」
「メイ、私は別に気にしてませんよ。
光栄な事と思っていますし」
第三の眷属となったポーラとその妹メイは、
歓迎の準備を終えて、お互いを気遣う。
「そのフィオナ様が降臨なさる時は―――
どうやって家に来るんですか?」
母の問いに、姉妹が応える。
「アルプ君の時は、光り輝く中での降臨で、
直接家の中に……って言ってました」
「ファジー君の時は普通に玄関から入って来たって
言ってたわよね、メイ」
2人のそれぞれ違う答えに、夫婦は戸惑う。
「まあ……普通に来てくださるのであれば
有難いのだが」
「ポーラ、それはわかるの?
いつ来るか、とか」
ポーラは年下だが先輩である眷属の2人の言葉を
思い出し、母の質問に応える。
「アルプ君とファジー君、どちらの場合も、
降臨の少し前から神託があったそうです。
なので、もし来られるとしたら―――」
説明と同時に、彼女の頭の中に家族以外の声が
入ってきた。
それはまさに、今話し始めた神託が繋げられた
事によるもので―――
「……あ! 今、神託が……!
フィオナ様と―――ナヴィ様の声が……
……ん?」
「ど、どうしたの? ポーラ姉さま」
予兆をキャッチしたポーラだが、その態度を
家族が不安そうに見守る。
そして、女神とお目付け役の声が室内に響いた。
『今度は間違いないでしゅね!?
ココで合ってましゅよね!?』
『いやーマズったマズった。
まさかバクシアに降臨するつもりが、
間違えてルコルアのファジーの家に行ってしまい、
あまつさえさらに隣りの家に降臨してしまうとは』
『あの人たち腰を抜かしてましゅたよ。
何で貴女は人に迷惑かけないと
生きていけないんでしゅか?』
『そこまで言わなくてもいいでしょう!
ちゃんと謝りましたし……!
あ、そろそろバクシアに着きそう。
ポーラ、聞こえますか?
アタシの声が……』
「あ、あの……ハイ。
聞こえます。聞こえますが、その」
歯切れの悪い返しに、不審に思う女神は問い質す。
『?? どうかしたのですか?
過分に緊張する必要はありません。
今回はバクシアへの初めての降臨―――
その橋渡しとなるだけでも、貴女は十分に
眷属としての責を負って……』
「えっと、あの……聞こえております」
メイが応え、その反応にさらに女神は
不安感を増す。
『え? え?
あの、どうしてメイさんに、アタシの声が
聞こえるのですか?』
『あー、物理的にバクシアへ近づいて
おりましゅたから、少し前から直接聞こえちゃって
いるんじゃないでしゅかね?』
ナヴィがその不安を煽るように補強する。
『と、いう事は……
えっと、どのあたりから聞こえてました?』
「あの、フィオナ様。
大変申し上げにくいのですが……」
「バクシアに降臨するつもりが―――
くらいから、全部……」
シオニム夫妻が事実を告げ―――
続いて絶望の咆哮が部屋を支配した。
―――10分後―――
「失礼いたしました……」
ナヴィと並んでテーブルに座ったフィオナは、
深々と頭を下げた。
「い、いえ。お気になさらず……
こうして直接お会いするのは初めてでしたね。
シオニム・ネクタリンです」
まずは家主から挨拶が返される。
「私は妻のレン・ネクタリンです。
夫からお話は聞いております。
娘たちがお世話になっているようで……」
「まあどちらかと言うと、お世話になっているのは
こちらの方なのでしゅが」
妻の挨拶に、今度はお目付け役であるナヴィが返す。
「そういえば、私たちがお送りした物が、
『枠外の者』との戦いに役立ったと―――」
「微力ながら、女神様、その眷属のお力になれた事を
光栄に思っております」
(※送った物=アルプへの女性用の服・肌着・下着。
後、ファジーに転用)
ポーラ・メイ姉妹の言葉に、主客であるフィオナが
応える。
「はい。貴女たちには本当に感謝しております。
いろいろな意味で。いろいろな意味で。
アタシの眷属として、今後ともその働きに
期待しております」
ここでようやく空気が一段落し―――
それぞれが出された料理に口を付け始めた。
「しかし、『枠外の者』ですか―――
娘から聞いておりましたが、活動が本格的に、
そして大掛かりになってきているようですね。
そのどれもが阻止されたと聞いて、
胸をなで下ろしておりますが」
シオニムの言葉に、何かが引っ掛かったナヴィが
疑問を返す。
「詳細は、ボガッド家も知っていると
思うのでしゅが。
マルゴットしゃん、バートレットしゃんも
時々バクシアへ立ち寄りましゅし。
そちらからは、何か伝えられていないのでしゅか?」
「……私は立場上、特定の商人や人物と
懇意にするわけにはいかないのです。
商取引の申請や税の徴収で会う事はありますが、
必要以上の付き合いは要らぬ噂を招きます」
「ふみゅう、しょれは確かに……
失礼しましゅた」
「滅相もありません。
ただ、娘たちがよくストラジェン(シモン)君の
店に遊びに行くので、そこ経由である程度情報は
共有出来ております」
男性同士でややカタい話が行われる一方で―――
女性同士でも会話がスタートしようとしていた。
「フィオナ様。
私からもお聞きしたい事があるのですが、
よろしいでしょうか?
メイとポーラの事について、ですが」
「何でしょう?
答えられる範囲であれば―――」
母親・レンの言葉を何気なく聞き返すフィオナ。
その内容は―――
「お話に聞くアルプ君とウチのメイ、そして
シモン君とポーラの関係って、今のところ
どんな感じなのでしょうか」
その言葉に姉妹はお互いに顔を向けて、
飲んでいた液体を吹き出す。
「あら、汚い。粗相しちゃダメよ2人とも」
「なな、お母様いきなり何を!?」
「それ今、女神様に聞く事!?」
突然の質問に姉妹が抗議し―――
母はそれを受け流す。
「だってねえ。
あなたたち、方法は積極的なんだけど、
行動が今ひとつっていうか。
それでどうなんでしょうか。
フィオナ様の目から見て、ウチの娘たちは」
再び質問を向けられた女神は困惑しながらも
いつものノリを向けてみる。
「んー、アタシは基本的に、人間同士の事には
口を出せないんですけど。
そもそも、情報が足りてないんですよねえ。
ポーラはいつからシモン君を意識するように?」
明らかに好奇と興味の目を向けて、フィオナは
ポーラに問い質す。
「へあっ!?
あ、その、彼との初めての出会いはですね……っ!」
生真面目に答えようとする娘を前に、
父親が母親をたしなめる。
「いや、お前……女神様にそのような話をするのは」
「えー、だって女神様ならある程度はお見通し
なのかなって。
それにポーラが眷属になった事で、返って
恋愛ハードル上がったりしないかと」
今度はフィオナの方を向いて、シオニムは頭を下げる。
「も、申し訳ありません。
フィオナ様もその、このような個人的な話に
付き合わずとも―――」
「いえいえ♪
新たに眷属になった人の事を詳しく知るのも
重要ですから。
それでーそれでー?
いつから何ですか、ポーラさん♪」
戸惑うシオニムの肩を、ナヴィが背後からポンと
叩いた。
「……場所を変えましゅか?
こういう話に、男が入るとたいてい
ロクな事になりましぇんから」
「そうですな……」
盛り上がる女性陣を後に―――
シオニムとナヴィは別の部屋で、話を続ける事にした。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2695名―――