06はじめてのあんかぁ
日本、とあるマンションの一室―――
そこで並ぶように、1人の少女と1匹の猫が
座っていた。
「―――はいっ皆様こんにちはこんばんわ!
好きな飲み物は可愛い男の子の涙! そして体液!
これでご飯三杯はイケるっ!
果樹の豊穣を司る優しき女神、
フィオナ・ルールーですっ!」
「―――知ってるか?
自己紹介で爆弾を置かれると
処理仕切れないんだぜ……?
あ、ダ女神のサポート兼お目付け役、ナヴィです」
テンションの高い女神をたしなめるように、
お目付け役(猫Ver)も自分の役割と名前を名乗る。
「ちゃんとアナタも自己紹介しなくちゃ
ダメでしょう。
好きな飲み物は? 何の体液?」
「何で体液限定なんだよ!
条件が特殊過ぎるだろ!!
ていうか私までそっち側に行ったら
収拾つかなくなるので止めてください」
「よし! フリですね! フラグですね!」
「違うから。
それではいい加減、本編スタートします」
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
「……お話はわかりました。
どうか―――今までの無礼をお許しください、
フィオナ様」
「フィオナ様……
グラノーラも彼と、母親の事が心配で
あのような事を」
(許すも許さないもありません。
アルプ、貴方は良き人に恵まれていると思いますよ)
「フィオナ様ぁ……」
「フィオナ様は、グラノーラに何と?」
「貴方は、良き人に恵まれているって……」
「もったいないお言葉―――
それで今のところ、こちらが把握している
情報はお伝えしましたけど……
今後、どのように動けばよろしいのでしょうか?」
│ ■日本国・フィオナの部屋 │
「どうかね作戦参謀。
いいプランはあるかね?」
「丸投げしないでお前も手伝え。
状況ちゃんとわかってるんでしょうね?」
マルゴットがもたらした情報は、すぐに
ネット上に整理して貼り付けられ、続々と
対案が交わされる。
・通貨は金貨1枚で銀貨5枚分。
銀貨1枚で10日分の小麦が買える。
・一般労働者の月収はおよそ銀貨4枚~金貨2枚。
平均は金貨1枚程度。
・税金は年収の3ヶ月分。家主・家長準拠で
つまり妻子の収入分は不問。
・奉公労働者がこれだけ多くなった理由は、
バクシア国がいきなり管理代としてさらに
2ヶ月分を上乗せしたため。
・そこへきて人頭税復活で、赤ん坊からお年寄りまで
支払わなければならなくなった。
・人頭税の方は一律で金貨3枚。
・それプラス優先権を巡ってオークション状態に。
・優先権はあくまで金持ち連中の間で取引・
競合されるので、奉公労働者へは還元されない。
「それで目的と達成に必要な条件は―――」
・メインは、バクシア国に流れた
奉公労働者の解放。
・国内の奉公労働者は同情した同国の人間が
メインで雇っているので、まだ扱いは良い。
後回しでも大丈夫だと思う。
・およそ2千人がバクシア国に流れているので、
税金が払えなかった者+人頭税が払えなかった者で、
金貨6千枚~1万枚が必要。
「アタシへの質問の答えは―――」
・自分の信者かどうかは
『眷属かフィオナが見れば』
わかる。
・ただしいちいち奉公労働者を
見分けて買い戻していくのは
現実的ではない。
・基本的にはフィオナが使えるのは
果樹の豊穣か果実に関する事全般。
ただし、信者がある程度戻らなければ
フィオナ本来の力は使えない。
・黄金の果実の作成は
ほぼ100%の力を使用する。
【 なあこの女神、結構詰んでね? 】
「わかってんだよンな事ぁよ!!
アタシも薄々感づいてましたけど
気付かないフリをして
ここまでやってきたんですよ!!」
PCの机に片足を乗せて吠える女神を
お目付け役が制する。
「協力者がいるだけ、
まだマシだと考えましょう。
―――しかし金貨1万枚、これ、どれだけの
価値なんでしょうね?」
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
(アルプ、金貨1万枚って―――
いえ、マルゴットも何人か奉公労働者を
買い戻したって話ですけど、どれだけの
ペースで?)
「グラノーラ様、あの、フィオナ様が―――」
「マルゴットでいいわよ。
もう、余計な虚飾は必要ありません。
ね、バートさん?」
「―――まあ、そうですね。
それで、フィオナ様は何と?」
―――アルプ説明中―――
「今のところ、調査も一緒に頼んでおりますので―――
月に10人前後というところでしょうか。
あと、今のグラノーラ家の財力を
全て吐き出したとしても、
金貨2千枚が限界でしょう。
申し訳ありません……」
(フーム……それでも月に金貨30枚は使ってんのね。
―――ん? ナヴィ、ネットがどうかしたの?)
│ ■日本国・フィオナの部屋 │
「ちょっと気になる書き込みがありまして―――」
【 これ、1万枚で足りるのか?
需要が上がってね? 】
【 よくないな。
特に買い戻しの動きがあると知られたら…… 】
「?? 1万枚以上になっちゃうって事?」
【 買い戻す『過程』で値上がりしていく
可能性がある。 】
【 チマチマ買っていったんじゃ、
ジワジワ上がるぞ。 】
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
「―――という不安が、フィオナ様に
あるそうなんですけど」
「そうですか……でも、今回はそんな心配は
無いと思われます。
商品ならば、需要と供給の関係で、
値段が上下するのですが―――
奉公労働者は『契約』です。
その時の契約書に記された金額さえ払えば、
解放しなければなりません」
「違約金などはどうなりますか?
向こう何年の契約を解除するわけですから」
自らの不安もかき消すように、ビューワーも
質問する。
「そもそも税金が払えないのを、労働で
肩代わりする条件ですので―――
肩代わりされた税金分が消えれば、
労働者を拘束する権利も消滅します。
続けたければ雇用主と労働者で、
延長するなり新たな契約を結べば
いいだけです」
│ ■日本国・フィオナの部屋 │
「という事ですが、
どうでしょうかネットの皆さん!」
【 完全固定相場かぁ。
じゃあインサイダーも使えねーな。 】
【 噂や偽情報流して、値段下げて
買い戻すのは無しって事ね。 】
【 どうすんだコレ? 解決の糸口全く見えて
こないんだけど。 】
「何なんだよお前らはよォ!
あー言えばこう言いやがってえぇええええ!!」
PCのある机に片足を乗せ、さらにイスをつかんで
振りかざす女神をナヴィは声をかけて止める。
「落ち着け。
全員が全員、有益な答えを出してくれるって
訳でもないんですから。
はい深呼吸して~。
鼻から吸って~」
「耳から吐く~♪」
「化け物かよ」
「女神です!」
「女神なら女神らしくしてください。
耳呼吸する女神なんてサポートしたくも……む?」
【 奴隷解放はマルちゃんに任せて、
金策でもしたら? 】
【 こっちの知識なら持ち込み可なんだろ?
何か教えてみれば。 】
「そ、そうですね……口頭で伝えられるものなら」
【 は? 口頭説明? 出来るの? 】
【 イメージとか図面もダメなわけ? 】
【 マジ使えんわ、このダ女神…… 】
『アンカー』達からの書き込みを見たフィオナは、
自分の所有する端末を取り、もう片手で画面を指差す。
「―――よーっしテメェらそこ動くなよ?
今から軍神呼んでこの国ごと消し炭にしてやる♪」
パパ
「止めろユニシス様を呼ぶな!!
しかし、このままでは確かにラチがあきません。
有効な手立ても思いつきませんし……
―――そろそろ使うべき時が来たのでは
ありませんか? アレを」
「アレ……?
ああ、そうですね。
『アンカー』を……!」
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
「……ね、アルプ。
フィオナ様は……今日はもう
神託はしないのかしら」
「時々、会話らしきものが耳に入って
来るんですけど―――
うまく聞こえないんです、ごめんなさい……
耳呼吸? って変な単語とか聞こえてくるし」
「耳呼吸!?」
「耳呼吸!?」
│ ■日本国・フィオナの部屋 │
「やっべ神託完全に閉じてなかったっぽい。
ただ、向こうもいつまでも次の神託が無いので
不安になっているようですね。
では、フィオナ様―――
初めての『アンカー』をご指摘ください」
「確か出された答えは拒否不可能―――
絶対に従わなければならないんですよね。
でも―――やらなければ。
いい加減タイトル詐欺になりますし。
今の番号は88くらいなので―――
『アンカー』、100!
『聞きたい事』は『金策』!
さあ、アタシを導き給えぇえええええ!!」
>>100
【 眷属の子? アルプだっけ。彼に働かせたら? 】
「―――えっ」
「ん?」
【 働かせる(意味深) 】
【 体が資本♪(爆) 】
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在253名―――
―――神の資格はく奪まで、残り53名―――