27・守りたいものがあるんだろ?
今まで火曜日深夜(水曜日午前)、
金曜日深夜(土曜日午前)の
週2ペースでやってきましたが、
仕事が始まり週1の金曜日深夜(土曜日午前)
更新になるかと・・・
今後ともよろしくお願いします<(_ _)>
日本・とある都心のマンションの一室―――
女神のお目付け役兼サポートをしている
ナヴィ(猫Ver)は、ある物を見て
フィオナに質問する。
「……これは何でしょうか、フィオナ様」
「あ……ええと……
何でもこの世界には『ばれんたいん』なる
イベントがあるようですので……
それでその、ちょっと手作りを」
1人と1匹は視線は同じ方向を見つつ、
彼女はそれから目を時々反らし、彼はその1点を
凝視するように動かない。
「動いていますね……」
「動いちゃっているんですよね……」
ガタゴトと音を立てながら、箱が揺れている。
それを見ながら感想を述べる少女と猫。
不穏を通り越して、危険すら感じる雰囲気が
その立方体から発せられる。
「何か画面に『ちょこれいとがあらわれた!
コマンド?』とか表示されてもおかしくない
気配を感じるんですが」
「やっぱり、失敗しちゃったんですかねえ」
「『食べられなくなった』というならともかく、
『動き始めた』というのは失敗というカテゴリーに
含めていいものなのかどうか」
「ま、まあまた冷蔵庫に封印……
もといしまっておきましょう」
「それでは、本編スタートしますね」
│ ■ルコルア国・月水晶鉱山 │
ボガッド家所有となった鉱山―――
そして、値段が変わらなかった原因である坑道、
そこに現れた岩盤を前に、従僕と眷属が顔を
見合わせていた。
「これ、です……
ナヴィ様」
「ナヴィでいいでしゅよ。
それよりファジー君、いよいよでしゅが―――
準備はいいでしゅね?」
「は、はい」
『ボウズ、何も怖がるこたぁねえ。
ちゃんと練習したろ?』
“ぱんつぁーふぁうすと”が、自分を持つ眷属を
リラックスさせるために声をかける。
「(……まったく。
いくら選択肢が限られていたとはいえ……)」
ナヴィは―――
ここまでに至る人選の経緯を思い出していた。
―――ナヴィ回想中―――
│ ■ファジーの家・食卓 │
「(―――さあ、アタシを導き給え……!!)」
>>198
【 シモン 】
>>199
【 アルプ 】
>>200
【 ファジー 】
>>201
【 ミモザ 】
>>202
【 ファジー 】
「(んんん……前後していろいろ別れましたね)」
【 まあ、女性か年少者っていうと。 】
【 一番軽そうだし、彼でよくね? 】
「(アタシもアルプかファジーだと
思っていましたからいいんですけど……
そうなると問題は)
……ファジー、貴方に任せます。
引き受けてもらえますか?」
「えっ? ええっ!?
は、はいっ」
『アンカー』の結果を告げるフィオナ。
当人は驚きながらも受け入れたが―――
「だ、ダメだって絶対ダメ!
ホラ生贄ならここに!
コレならいくら使っても構わないからああぁああ!」
ソルトにヘッドロックを極めるようにして、
ミモザは訴えるように悲痛な叫びをあげる。
「(やっぱりこうなりますよねえ……)」
「あ、あの、フィオナ様。
まだファジー君は眷属になったばかりですし。
僕ではいけませんか?」
ミモザの狼狽する姿を見て、思わずアルプが
自らを差し出す提案をする。
「い、いやそんな。
だったらいっその事、アタイが」
ミモザがその提案に首を横に振り、自分が身代わりを
申し出ようとした時、弟の声が彼女を止めた。
「ダメだよ、ミモザ姉」
「……え?」
「ん?」
「えっ?」
「へ?」
部屋の中の4人の視線が、ファジーに釘付けになる。
「ボクは確かに、まだ眷属になってから日が浅い
ですけど―――
ここはボクの国です。
それなら、この国の事なのですから、ボクが
するべきです」
「ファジー君……」
アルプのつぶやくような声に、ファジーはフィオナに
向けていた視線をアルプに変える。
「アルプさんだって眷属として、フラールのために
フィオナ様から授かった力を使ったと聞いてます。
それなら―――
ボクだってルコルアのために、出来るはずです」
「ででで、でもさぁ」
それでも同意しないミモザに、姉の心配を取り除く
ように、彼は微笑みながら答えた。
「大丈夫だよ、ミモザ姉。
今までフィオナ様のなさってきた事で、
間違った事なんて無かったんだから」
ファジーの自信に満ちた表情に、反論する術を
失った彼女は、諦めたように肩の力を抜いた。
「―――わかった。
もう、反対はしないよ。
でも無理だけはしないでくれ。
フィオナ様、ナヴィ様―――
ファジーをよろしくお願いします」
―――ナヴィ回想終了―――
│ ■ルコルア国・月水晶鉱山 │
「(そして、私がルコルアに行く代わりに
アルプ君がバクシアへ―――
一通りの『ぱんつぁーふぁうすと』の扱い方を
教えて……
後は、この岩盤を破壊するだけですが……)」
横を見ると、ファジーが震えていて―――
その振動がナヴィにも伝わってきていた。
「大丈夫でしゅよ、ファジー君。
手順は覚えていましゅね?
まずなるべく距離を取って岩盤を撃ち―――
もし崩落しそうでありぇば、私がファジー君を
担いで脱出しましゅ」
「は、はい……!」
ゆっくりと、そしてよろよろと岩盤へその
砲身を向ける。
その照準が合わないのは、重さのためか
それとも緊張のためか―――
『なあ……ボウズ』
それを見かねたのか、ぱんつぁーふぁうすとが
彼に意志を伝えてくる。
「ぱんつぁーふぁうすとさん……」
『あのデカブツは相手に取って不足はねえ。
しかし、アレを壊すにはお前の力が必要なんだ。
わかるな? ボウズ』
「ぼ、ボクの力って言われましても……」
『俺を持っているだけじゃ意味がねぇんだ。
言っただろ?
装備して扱えるようにならなきゃならねぇって』
「し、してますよ!
練習だってしたし、こうしてちゃんと……!」
武器からの指摘に、思わずファジーは反発する。
『してねぇんだな、コレが。
今のお前は、俺をただ『持っている』だけだ。
目の前のあのデカブツを砕き、壊す―――
その『覚悟』を持つって事が、俺を装備するって
事だ……』
「覚悟……?」
『守りたいものがあるんだろ?』
その言葉に目を閉じ、その意味を模索する。
「……ウン。守りたい。
ミモザ姉を、みんなを、この国を―――
『枠外の者』の好きにさせないために……!」
目を開き、目前の岩盤へその視線を突き刺す。
『おし。じゃああの岩盤の真ん中らへん
狙って撃っとけ』
「ごめんなさいもうちょっと具体的な助言を
言って頂けないでしょうか!?」
『男がゴチャゴチャ言ってんじゃねえ。
後は引き金引きゃ終わりだファイヤー!!』
その気迫というかノリに押されるようにして、
ファジーは引き金を引いた。
音、そして白煙が上がり―――
強力な推進力に押し出された弾頭が、ほんの2秒ほどで
岩盤に着弾する。
当然の結果として爆発が起こり―――
地響きと砂ぼこりが、その破壊力を伝えてきた。
「うわ、わわ……」
「んー、一応念のため脱出するでしゅよ。
……というよりマズいでしゅねコレは」
ナヴィはファジーを脇に抱えるようにして
持ち上げる。
と同時に地面が大きくぐらりと揺れて、
彼の手から持っていた武器が離れた。
「あ……っ、ぱ、ぱんつぁーふぁうすとさんっ」
「だ、ダメでしゅよ!
ここはひとまず外に出るでしゅ!」
それに向かって手を伸ばすも、拒否するかのように
武器は遠くへ2・3回ほど回転して離れて行った。
『……行きな、ボウズ。
俺の役目はここまでだ……
だが、満足しているぜ。
お前が漢になるのを、見届ける事が
出来たんだからな……!』
「ぱ、ぱんつぁーふぁうすと……さんっ」
「ここは感動する場面なのでしゅかねえ……?」
複雑な感情を武器に想いつつ―――
ナヴィは、坑道の出口へ向けて、ファジーを
抱えながら全力で走り続けた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2388名―――