23・他に選択肢なんてあったっけ?
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ありがとうございます<(_ _)>
日本・とある都心のマンションの一室―――
お目付け役兼サポート役の猫・ナヴィは、
仰向けに転がっている女神・フィオナを
不思議そうに見つめていた。
「……どうしたんですかフィオナ様。
何やら、大量の本に埋もれていますが」
本をバサバサと落としながら、フィオナは
体を半回転させてゆっくり起き上がる。
「ちょ、ちょっとですね……
本の整理をしようと思ってまとめて持ち上げたら
バランスを崩して、そのまま背中から落ちて……」
「いけませんね、ちゃんと注意しませんと。
それで本は大丈夫でしたか?」
「いやまあ本は……ってオイ!
もっと他に心配する事があるでしょーが!!」
フィオナの抗議に、少し首を傾げて考え―――
「ああ、そうですね。
大事な事を忘れていました」
「でしょでしょ!?」
「床は大丈夫でしたか?」
「んー見た目、傷とかはついてないと思うけど……
ってだから! 何でそうなるんですか!?
それそんなに重要!?」
「重要ですよ。
あまり大きな音を立てたりしたのでしたら、
階下の部屋へ謝りに行きませんと」
「あぁそれは確かに……
じゃなくて!
他にもっと重要な事がですね……!」
なおも抗議を続けるフィオナに対し、涼し気な
表情でナヴィは対応する。
「毎度の事ながら、神様モードになれば
ケガや痛みの心配はないでしょうに」
「そ、それはそうですけど……
気持ちの問題ですよ」
「気持ちの問題であるなら、そもそも心配
させるような事をしないでください。
それでは本編スタートしますね」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
問題の鉱山訪問から一週間―――
第二の眷属・ファジーの家に、未だにフィオナは
滞在していた。
「今日だっけ、フィオナ様」
「あ、は、ハイ。ソーデスネ」
ミモザの問いに、気の抜けた返事を返すフィオナ。
豊穣の女神は、あの日の事を思い出していた。
―――少女回想中―――
│ ■ルコルア国・月水晶鉱山 │
「(じゃあ「『アンカー』は次のスレで……
100から110までの多数決!
聞きたい事は―――今回はシンプルに!
『この鉱山、買うか買わないか!』
―――さあ、アタシを導き給え……!!)」
>>100
【 買え 】
>>101
【 買う 】
>>102
【 買ってから考えよう 】
(以後、110まで『買う』で一致)
そしてフィオナが購入の意思を伝えると、
老人はゆっくりと立ち上がった。
「商談成立じゃな。
……では、次のここの鉱山のオーナーとなる
人に、見てもらいたい物がある。
全権委任なら、君たちにも見てもらう必要が
あるだろう。
ただし、それを見たのなら―――
もうキャンセルは出来んぞ」
最後の確認、というようにカベルネ・ワインは
3人の顔を視線で見まわす。
ファジーは不安そうに姉と女神の顔を
交互に見つめ、そしてミモザと一緒になって、
フィオナと目を合わせた。
「―――行きましょう」
そして3人がついて行くと―――
その鉱山のある一本の坑道、その奥の開けた場所に
彼らは案内された。
「……ここは?」
ファジーが不思議そうに『元』鉱山オーナーとなった
老人にたずねると、彼はある壁を指さした。
「何だい、ありゃ」
ミモザも一見して何の事だかわからないようで、
ワインに質問を重ねる。
「ここは、この鉱山の中でも最も月水晶を
産出していた坑道でな。
それが―――3ヶ月ほど前か。
この岩盤にブチ当たった」
「?? どういう事ですか?」
フィオナの疑問と同時に、姉弟の顔色が青くなった。
「岩盤……」
「ま、待ってくれ。それって」
「まあ、そう悲観した物でもない。
今年から鉱山全体の産出量は落ちるだろうが……
他の坑道が産出する分もある。
何より、ここの岩盤さえ何とかすれば、
まだまだ有望だ」
「何とかって、どうやって?」
フィオナがきょとんとした声で聞き返すと、
そのシワが入った顔をおりしわくちゃにして、
老人は応える。
「そんな事、もうワシの知った事ではない。
迂回用の坑道を掘るか、コツコツと岩盤を
削っていくか―――
好きにするがいい」
「…………」
無言になる姉弟に、今いち事情がわからない
フィオナが話をふる。
「あの、どうしたんですか?
そんなにマズいですか、ここ?」
「……フィオナ様。
坑道の先に岩盤が現れたという事は―――
これ以上、掘れないという事です。
つまり、月水晶も採れません」
絞るような声で、ファジーが応える。
「え? え?
で、でも、別の坑道を掘るか、岩盤を
削ればって」
「何年かかるか、わかったもんじゃないぞ。
特に岩盤を無理やり何とかしようとすれば―――
崩落事故も起こりやすい。
アタイらの両親も、それで……」
沈んだような表情になる2人に、老人が再び
声をかけてきた。
「何やら事情があるようだが、もう商談は成立した。
それと、ここの事は他言無用だ。
オーナーの全権委任というから、明かしたのだ。
まあ、自分の鉱山の評判を落とすような話を、
言いふらすようなヤツはいないと思うがの」
―――少女回想終了―――
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
そして、鉱山購入の手続きが終わり―――
その代金・金貨2万枚が送金される、その期日が
今日だった。
その連絡がバクシアから来るのを、彼女たちは
待っていたのである。
アルプとファジーは、ラムキュール屋敷で再び
働き始め―――
ソルトは別動隊として情報収集に当たっていた。
(……様。聞こえますか、フィオナ様)
「あっ、は、はいっ!」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「本日付けで、ルコルアへ金貨2万枚が
送金されたでしゅよ」
「ボガッド家名義という形で購入しました。
これで名実ともに、こちらが月水晶の鉱山を
所有する事になったのですが……
今後、これでどのように動けばいいのでしょうか?
フィオナ様」
バクシアで対応に当たっていたのは、
ナヴィ、そしてローン・ボガッドの2人だった。
マルゴットは商用、トニックはそのお伴、
そしてバートレットは領地を一時見てくる&今の状況を
アルプの母、ソニアに伝えるために帰国していた。
(そ、それはあの―――
夜になればアルプやファジー君も戻って
来ますし、その時に)
「ウム、そうですな。
こちらの方も、日暮れにはグラノーラさん、
ビューワー君が戻る予定です。
ではその時にご指示を。
ワシはいったんこれで……」
ローン・ボガッドが退出すると、部屋には1人
ナヴィが残された。
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「―――どうやら、送金は無事に出来たようだね。
これからどうするんだい?」
「え、えっとですね。
アルプ、ファジー君が戻ってきてからに
しようって事になりまして」
「まあ、そうだね。
それじゃ、アタイは食事の用意でもしてくるよ」
そしてこちらの部屋では、フィオナ1人が残され―――
そのまま神託を通じてナヴィと会話を再開する。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「……それで?
どうするんでしゅか? フィオナ様」
(う、うぅ~……
あの『アンカー』ども、どうして心を1つにして
一番やって欲しくない選択肢目掛けてくるんですか)
【 ご期待に添えたようだな 】
【 え? 他に選択肢なんてあったっけ? 】
「だからアルフリーダ様が仰っていたでしょう。
『アンカー』に頼るのはほどほどにしゅておけと」
(……パパに泣きつけば何とかなりそうだけど、
手続きはまだまだかかるし……
ママも今からじゃもっと間に合わない……)
「諦めてちにぇ♪」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「身もフタも無い提案ありがとうございます!
アタシは死にません!」
(八方塞がりじゃん? 今日は死ぬには良い日だ)
「く……くおぉおお……
な、何としても夜までに、何か打開策を
考えなければ……!」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2345名―――