13・心の汚さとか黒さとか欲望とか
PV数4万突破しました。
ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
日本・とある都心のマンションの一室―――
昼間ではあるが、雨の肌寒さも手伝ってか、
女神とそのお目付け役の猫は、一緒にベッドに
入って横になっていた。
ナヴィの方は、すでに寝息を立てて呼吸と共に
お腹を上下させる。
それは普通の猫となんら変わりはなく―――
「やっぱり雨だと、動きが鈍くなるというか
大人しくなるようですね。
寒いのもあるんでしょうけど」
お目付け役を撫でながら、フィオナはふと
ある考えを思い付いた。
「こうやっていろんなところを撫でながら―――
『今あなた人間の姿になってるわよ』
とか言ったらどんな反応するんだろうやっべ
興奮してきたw」
その時、ナヴィはフィオナの方へ頭を向けて、
彼女と布団の間に交互に差し込むように、両手を
握ったり閉じたりしながら動かしてきた。
一説によるとこういった猫の仕草は、
子猫時代の事を思い出し、母猫に甘えながら
おっぱいをねだる行動で―――
―――数時間後・夕食―――
「……あの、フィオナ様。
今日は何かのお祝いでしたっけ?」
ナヴィは、自分に用意された豪華な料理を前に
困惑していた。
「いやウンちょっと反省して。
自分の心の汚さとか黒さとか欲望とか。
あ、料理は有名なお店で調理済みのを
買ってきたから安心して食べてください
お願いします」
視線を合わせないままフィオナは応えた。
「?? まあ何があったのかわかりませんが、
出された物はありがたく頂きますけど……
それでは、そろそろ本編に入りましょうか」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
その日の夕方になって―――
アルプとファジーは、ラムキュールのお屋敷での
求人に応募するため、出かける事になった。
「ではフィオナ様、行って参ります」
「フィオナ様……
ほ、本当にボクなんかで大丈夫でしょうか?」
元気いっぱいにあいさつするアルプとは対照的に、
ファジーの方はまだ不安を隠せないでいた。
さすがにメイド服は着替えて少し地味に変えた
ものの―――
その年相応の『女の子』の姿で、もじもじしながら
フィオナとミモザを交互に見つめる。
「心配性だよ、ファジーは。
アルプさんも一緒なんだし、今日はまず
雇ってもらえるかどうか、その確認のためだけ
なんだからさ」
その緊張を解きほぐすように、優しく姉が
説得する。
「雇ってもらえたら家から通う事になりますし、
念のため、神託もスタンバイしておきます。
ただ、少しでも疑われたり危ないと思ったら、
すぐに引き返すんですよ」
「まあ雇うかどうかはあちらさん次第だし。
ダメだったら次考えようや」
フィオナのフォローの後、ソルトが現実的な
意見を言って、3人は『兄妹』を見送った。
│ ■ルコルア国 │
│ ■ジン・ラムキュール屋敷 │
「うわー……」
1時間も歩いた後、アルプとファジーは
目的地にたどり着いていた。
目の前には、自分の実家とは比較にすらならない
立派な館を前に―――
ファジーは驚きと共にため息をつく。
「あれ? ファジー君はルコルアの人だよね?
このお屋敷を見るのって初めて?」
「い、いえ。このあたりにも数年前に来た事は
ありますが……
その時は、こんなお屋敷は無かったです」
「じゃあ最近出来たのかな?
とにかく屋敷の誰か、お話が出来る人を
探さないと」
キョロキョロとあたりを見回していると、
それに気付いた使用人らしき20才くらいの男が、
2人に近付いてきた。
「何だ、迷子か?
君たち、どこから来たんだ?」
「あ、あのっ。
僕たちはラムキュール様のお屋敷で、
お手伝いさんを募集しているって聞いたので」
「え? 君たちが?
確かに募集はしていたし、やってもらう事は
雑用だけど……
ウチは身元がハッキリしている人間しか
雇わない事になっているんだ。
ご両親とかは?」
彼の問いに、ファジーはふるふると首を振った。
「……あー、そうかい。
一応、主人に話をしてみるけど―――
期待はしないでくれ。
名前は?
アルフ・クリスプとファラ? そっちは妹さんね。
じゃ、ちょっと待ってな」
そう言うと男は屋敷に戻っていき、
アルプとファジーの『兄妹』が残された。
―――10分後―――
男は戻ってきたが、どこか沈んだような表情で、
重い足取りで2人の前まで来て、言った。
「はぁ……結論から言うとだな。
『雇ってもいい』そうだ」
その言葉に、アルプとファジーの顔はパッと
明るくなった。
「ただ、本来は1人あたり1ヶ月銀貨7枚で
雇うんだが……
まだ子供だっていう事で、2人で銀貨6枚なら
雇うって言っている。
悪い事は言わない、他を当たった方がまだ
割のいい仕事はあると思うよ?」
「大丈夫です!
ぜひここで働かせてくださいっ」
「い、一生懸命頑張りますから!」
「とはいえなあ……
今日日、宿代だって食事代だってバカに
ならないぞ?
せいぜい、昼の賄いくらいだな、出るのは。
使用人用の部屋はすでに埋まっちまっているし、
まさか廊下で寝させる訳にも」
「あ、それなら大丈夫です。
家はありますので」
「そうかい?
それなら一安心だが―――
じゃ、さっそくだが案内するよ。
もう日が暮れるが、それまでにどんな事をするか
一通り説明するから。
あ、俺の名はスタウトだ。
じゃ、ついて来てくれ」
そして2人は男に案内され、屋敷に入る事に
なった。
「(や、やりましたよフィオナ様。
雇ってもらえました!)」
アルプは男に気付かれないよう、小声でフィオナに
報告する。
(ええ。アルプの見聞きしている事は私にも
伝わっていますから、大丈夫ですよ。
第一段階突破、というところですね。
説明を聞いたら今日のところはファジー君を
連れて、帰ってきてください。
気をつけてね)
―――30分後―――
│ ■ラムキュール・ジン屋敷 広間 │
「―――さて、今言った事がやってもらう事だ。
簡単な料理の盛り付けやそれを運ぶ事、
掃除や洗濯物干し……と、まあいろいろ
あるが、その時その時誰かが指示して
くれるだろう。
じゃあ、今日はこれで。
これ以上暗くなる前に帰るんだな。
明日早朝から来てくれ。
俺の名前を出せば入れてくれるはずだ」
「はいっ、ありがとうございました」
「ではスタウトさん、これで」
『兄妹』はペコリ、と頭を下げると―――
屋敷の外へと足を向けた。
そして、2人の姿を物陰から視線で追う男が一人。
屋敷の主、ラムキュールその人であった。
「(名前を聞いた時、まさかと思ったが―――
思い過ごしのようだな。
妹の方も、もしやミモザの変装かと疑ったが
年が若過ぎる。
何より、反応を見るために賃金を下げてみたが……
もしあの『アルプ・ボガッド』であれば、
今や果樹園で人を1ヶ月金貨3枚で雇っている
人物。
こんな安月給で承知はすまい。
そもそも、自ら潜入してくるなど
あり得えんか―――)」
フッ、と鼻で微笑し、同時に視線を手元に下げる。
そこには彼が自分で抱えていた書類の束があった。
「安くコキ使える労働力が増えたと思えばいいか。
そんな事より―――
今は『コレ』だ。
ルコルアで一番の鉱山を手に入れたのは
あくまでも準備に過ぎん。
『コレ』があれば、利益はさらに跳ね上がる。
その先は、フラール国のあの状況の再現……
試させて頂くとしよう……」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「お疲れ様でした、2人とも」
「お腹減ってるだろう?
夕食の準備は出来ているよ。
あと、だいたいの事はフィオナ様から
もう聞いてる。
詳しい事は後でゆっくり聞くからさ。
……頑張ったね、ファジー」
無事帰宅したアルプとファジーを、
女神と姉が出迎えた。
「うぅ、まだ胸がドキドキする……」
「大丈夫だよ、全てフィオナ様の仰る事に
従ってさえいれば、上手くいくから。
あれ? そういえばソルトさんは?」
「今お風呂洗ってるよ。
そろそろ終わるはずだ」
「では―――
食事の後で、バクシアへ神託をつなぎます。
夕食の時にでも、お話をまとめておきましょう」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2129名―――