11・へ た り ぇ
日本・とある都心のマンションの一室―――
そこに住む女神・フィオナは郵送されてきた
ある通知書を前にして悩んでいた。
「あれ、おかしいな。
今月の家賃が引き落とし不可って?」
「?? 初めてですね、そんな事は。
でも毎月アルフリーダ様が送金してくださって
いるのでは―――」
女神とお目付け役(猫Ver)は、お互いに疑問を
語り合う。
「考えられる事は、何か急な出費やトラブルで
お金が足りなくなったとか……
心当たりはありませんか?」
「ちょっと今月、サ〇ゲやバン〇ムに
貯金し過ぎたかなって思ってるけど」
「純度100%で心当たりしかねぇだろ。
どうするんだよコレ。
ハァ……アルフリーダ様に連絡して、
事情を話します。
お説教は覚悟してくださいね」
さすがにしゅんとしおらしくなるフィオナを横目に、
ナヴィは天界に報告をし、すぐに室内に主人である
アルフリーダの声が響いた。
『……何やってるのよフィオナちゃん。
ところで、どこに課金したの?』
「えーと、先週から始まったイベントで
新規衣装のキャラが手に入るアレ」
『あーあーアレね!
ちゃんと新規カード4枚ゲット出来た?』
「もちろんよ、ママ!」
『それでこそ我が娘。
あ、じゃあ追加で送金しておくわね』
「……あの、よろしいのでしょうか?」
事の成り行きに、思わずナヴィが口を挟む。
『まぁほらあのイベントは……
国民の義務だから』
「国民の義務!?
いつから日本国民に!?」
「とゆーわけだから、もうこの問題は解決済みね♪」
「(超納得いかねえ)」
「まぁまぁ。
そろそろ本編入りましょう♪」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
アルプがルコルアへ、ナヴィがバクシアへ着いた
その日の夜―――
フィオナに用意された寝室で、改めて女神と
お目付け役の間で、神託が開かれた。
(―――さて。
被告人、申し開きを)
「いきなり何でそうなるんですか!?
だからアタシは何もしてないって
言ってるでしょ!?」
(ミモザさん、ソルトさんが情報収集で家を空け―――
残ったのはアルプ君とファジー君、そしてフィオナ様。
この状況で貴女が2人に対し何もしない確率は、
太陽が西から上るよりも低いと思われます)
ナヴィは新たに得られた情報よりも、一時とはいえ
フィオナの置かれた状況に対して詰問する。
「た、確かにですねっ、そういう妄想をしたのは
事実なのですけど……」
―――少女回想中―――
「(え? もしかしてこの状況って……
家にはアタシと眷属2人のみ。
しかもアルプは到着したばかりでお疲れ。
って事じゃないの?
ど、どうしましょうか。
ここまで用意された据え膳……
もといシチュエーションにどう対応するべきか!?
お、落ち着けアタシ!
この貴重なチャンスをどう物にするかを
考えなければ……!)」
―――少女回想終了―――
「でも結局、本当に何もなかったんですってばぁ~……
後で2人に聞いてもいいですよ」
(……しかし、それが事実として―――
普段から事あるごとに欲望全開の言動を
繰り返す貴女が、こんなチャンスを前に
なぜ動かなかったのですか?)
「い、いやだって、ホラ……
二次元でも三次元でもモニターの向こうにさえ
いればいくらでも積極的になれますけど、
いざ実物を前にすると」
(マンションではお風呂上りの私に襲い掛かって
きたり、そちらでも2人の寝室で全裸待機
していたのに?)
「マンションの時はナヴィ相手だから、何かで
ガードしてくると思ってたし―――
全裸待機したのは、どうせナヴィが止めると
思って……」
(…………)
「…………」
数秒の沈黙の後、ナヴィの方からそれを破った。
│ ■バクシア国・ボガッド家屋敷 │
「 へ た り ぇ 」
ボガッド家屋敷に用意された自室で、ナヴィは
率直に感想を述べた。
(ヘタレじゃありませんー!!
相手の意思を尊重して、あとタイミングとか
状況を見極めているんですー!!)
「はいはい。それじゃ本題にいきましゅよ。
それで何か目新しい情報は?」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「そうですねえ。
やっぱりめぼしい情報は無かったみたいです。
あれから一応、ミモザさんとソルトさんが
少し調べてきてくれましたが―――
ラムキュール氏が本格的にルコルアで活動を
始めるためか、人手を募集している、
という事くらいしかわかりませんでした」
(それはこちらの情報と合致しますね。
ただ本来、『枠外の者』というのは国にこだわらず、
あちこちを飛び回って儲け話を探しているとの
事ですので。
だからこそ今回の行動は、奇異に見えるのですが……
それと、対抗手段も考えておこうという話でしたが、
これといった意見はまだ出ていません。
極端な話、こちらも鉱山を所有するのが一番
シンプルなのですが、現実的ではありませんし)
「まあ昨日の今日ですし、今回はこれくらいに
しておきましょう。
また明日、神託をつなぎますね」
(了解です。
あと、今私はシモン君のお店で手伝いを
しておりますので、時間は夕方過ぎで
お願い出来ますか?)
「わかりました。
それではお休みなさい」
こうして神託を閉じると―――
女神とお目付け役は、それぞれの部屋で
眠りについた。
―――翌日・お昼過ぎ―――
午前中はまたミモザ・ソルト組が情報収集へ行き、
アルプ・ファジー組は家事を済ませ―――
昼食を食べ終えて一休みしている頃、フィオナは
昨夜、ナヴィと共有した情報を全員に伝えた。
「とゆーわけなんですけど」
「対抗手段かあ。
そりゃこっちも鉱山持つのが一番だけどさ」
「安い鉱山もあるにはありますけど、
月水晶の鉱山となると―――
少なくとも金貨2万枚は必要になると思います」
「俺もこの国の出身だから、ある程度の相場は
わかるけどさ。
ラムキュールの旦那が一番の鉱山を買った事で、
他の鉱山も多少値上がりすると思うぜ」
ルコルアを母国とする3人は、現実を正確に
把握していた。
「うーん……やっぱり現実的ではありませんか。
でもアルプの商売が軌道に乗れば、
金貨2、3万枚なんてすぐに」
その言葉に、アルプの顔が少し曇った。
「も、申し訳ありません、フィオナ様……
実はあの後、シオニム・ネクタリンさんから、
あまり派手にやり過ぎると税率を変えられる
かもって忠告されてまして。
それと、シモンさんもお父さんから、
他の同業者のためにも手加減してくれと
言われたそうです。
なので今は―――
一度の出稼ぎで、金貨5・6百枚になるよう
調整しているので……」
沈む表情のアルプとは裏腹に、他の3人は
目を丸くして話を聞いていた。
「出稼ぎって、2ヶ月に一度でしたっけ?
それで金貨5・6百枚って……」
「けど、それでも手が届かないか。
経費とか雑費とか考えないで、1年で
3千6百枚稼げるとしても……
2万枚に達するまで5年以上かかるし」
「まあ、『時間があれば出来る』ってのも
スゲー話だと思うけどよ」
アルプが涙目になりながら、フィオナに向き合う。
「ごめんなさい、フィオナ様。
僕、こんな事になるとは思ってもみなくて」
「い、いいんですよアルプ。
あなたは何も悪くありません。
そもそも現実的ではないと、あちらの方でも
言っていた案ですので―――」
「となると、何が現実的かって話だが―――
やっぱここは、ラムキュールが何考えてんのか
探りをいれてきた方が早いと思うぜ。
幸い、ヤツの屋敷でもお手伝いさんを
募集しているって話だ。
だけど……」
「?? ミモザさん、何か問題が?」
「問題は、ここにいるメンバーのうち、
アルプさんくらいしか面の割れてない
人間がいないって事なんだよなあ」
「―――え? アルプが?」
「もともとアタイらは、アルプさんの調査を
頼まれていたんだよ。
特徴くらいはつかんでいるだろうけど、
アルプさんを直接見た事は無いはずだぜ」
その言葉に、全員の視線がアルプに集まった―――
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2082名―――