10・頼りにしてるぜ、神様
失業の初回認定の給付金Get。
これでようやく一息付ける(;・∀・)
日本・とある都心のマンションの一室―――
ウロウロと視線を落としながら歩き回る
挙動不審な女神を、お目付け役の猫が見かねて
何事かたずねる。
「どうしたんですか? 何かありましたか」
「いえ、確かこの辺に……
おっかしーな、どこに置いたんでしょう
アタシのスマホ」
そこへ、母であるアルフリーダの声が室内に響いた。
『フィオナちゃん?
あなたこの前、天界にスマホ忘れて
行ったでしょう?』
言葉が終わると同時に―――
フィオナの目前の中空にスマホが出現し、慌ててそれを
受け止める。
「あ、家に置いてきちゃってたのか。
ありがとう、ママ」
『ところでフィオナちゃん。
地球の国では―――
拾った物の一割、もしくは相応の物を、
拾ってくれた人にお返しする習慣が
あるみたいなんだけど』
「そうなの? ナヴィ」
女神は母親からの質問をそのままナヴィに投げる。
「習慣というか法の範囲ですね。
『そういう権利がある』との事。
自宅に置き忘れたのを拾ったとするのは
妥当かどうか、判断しかねますが」
「んー、でもこれでお返し出来る物って……
あ! 壁紙でもいい?
アタシの自作だけど」
「別にいいんじゃないでしょうか?
相手は身内ですし、それで納得すれば―――」
ナヴィの言葉に、主人であるアルフリーダは
同意を返す。
『じゃあそれでいいわよ、フィオナちゃん』
「でもエロだけどな!!」
それを自分で描いたのかよ、というツッコミを
お目付け役は母子の会話に割り込まないよう
スルーした。
『BLでなきゃいらない』
「言い切りやがったよこの人!!
どう思いますかナヴィさん!?」
「もうどうでもいいっていうか、
聞きたくねぇって感じでとっとと本編
行ってみましょう」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「ナヴィ、そちらでまた新たな情報が
得られたとの事ですが」
女神・フィオナは、バクシアで待機する事になった
お目付け役と神託をつなぎ、状況把握に努める。
│ ■バクシア国・ボガッド家屋敷 │
「はい。ラムキュール氏が手に入れた鉱山について、
ある程度情報が追加されましゅたので、共有する
でしゅよ」
そして視線をローンとマルゴットの商人組に向け、
お互いに合図のようにうなづく。
そしてマルゴットが言葉を続けた。
「彼が買い取ったのは、月水晶の鉱山よ。
ルコルアの中でも最大規模の―――
値段は金貨5万枚にもなると聞いているわ」
初老の男が、さらに会話を引き継ぐ。
「ルコルアは序列7位の国だが―――
前にも言った通り、そこの商人であるラムキュールが
一人で買えるような金額ではない。
裏に『枠外の者』が絡んでいるのは確かだろう。
だが、鉱山とは長期的な利益を前提に運営する。
これも『枠外の者』らしからぬ買い物だ」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「月水晶かよ、よりによって……
まあ当然っちゃ当然かも知れねーが」
報告を聞いたミモザは、苦々しく口を開く。
「どういう物なのですか、それは?」
フィオナの問いに、今度はファジーが応える。
「ボクの国、ルコルアの製品には欠かせない鉱石です。
あると無いとでは品質も値段もまるで違います。
代替品も無いので―――
独占されると……」
「それは非常にマズい事になりますね……」
ファジーの言う事に、アルプも深刻そうな
表情になる。
「けどよ、鉱山に関しちゃ国がウルセーぜ?
3割を国に納める決まりになってるんだし、
ごまかしたり出し渋ったりしたら、コレよ?」
横で聞いていたソルトが、首の前で手を水平にして
スライドさせた。
「ンな事くらい、『枠外の者』だって百も承知だろ。
だからその意図をどう調べるかって話で。
他に情報は無いのかい?」
ミモザの質問が、そのままバクシアへ伝えられる。
│ ■バクシア国・ボガッド家屋敷 │
「残念ながら、こちらでもそれ以上の事は
わからん」
「裏でこそこそやられるのならともかく、
堂々と購入していますからね。
もう少し調査が必要です」
ローンとマルゴットの商人組は、腕組みしながら
考え込む。
「ただ、あの『枠外の者』が今さら―――
地道な商売活動に目覚めたとも思えませんが。
彼らの意図は引き続き調査するとして、
対抗手段も考えておきませんか?」
バートレットの提案に、他の人間は耳を傾けた。
「しょうでしゅね。
平行してそちらも進めておいた方が
いいと思いましゅ。
―――フィオナ様、
しょれでよろしいでしゅか?」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「え? あ、ハイわかりました。
まずは西海岸一帯を攻撃した後、そこを占領して
反撃の狼煙とし―――」
(真面目な話が続いたので、
そろそろ限界みたいですね。
一応ここでいったん神託を切ります。
夜、寝る前にでも神託をお願いします)
「わ、わかりました。では……」
バクシアとの神託を終えると、フィオナは周囲を
見渡し―――
また眷属やその身内も、視線を返す。
「結局、あちらでも意図はまだつかめてない
みたいだね」
「だけど、これでバクシアと連絡が取れるように
なったよ、ミモザ姉!」
「で、でもあの……
フィオナ様、お疲れではありませんか?
神託が終わる前、何か言葉使いがおかしかった
ような―――」
アルプが心配そうにたずねると、フィオナは
慌てて取り繕う。
「だ、大丈夫ですよ。
ちょっと神託が長引いてしまったので。
それより、こちらでも何か考えがあったら
ある程度まとめておいてください。
夜にナヴィともう一度神託をつなぎますので、
伝えたい事があったら、その時に」
「そうだね。
それまでフィオナ様もちょっと休んでくれ。
確かに最後あたりおかしかったし……」
「でも、これで―――
あちらにはナヴィ様が、こちらにはフィオナ様が
いらっしゃる、そういう体制が出来上がったのです。
こんな心強い事はありません」
アルプの言葉に、第二の眷属となった少年の姉も
同意の態度を示す。
「ま、そうだな。
頼りにしてるぜ、神様」
「じゃ、俺もちょっと横になって……」
と、部屋の奥に行こうとするソルトを、
ミモザは後ろから
「ソルト、アンタとアタイは情報収集だよ。
ちょっとでも今後の方針に役立つためにな」
「あ、じゃあミモザ姉。ボクも」
「ファジーは家にいて、フィオナ様とアルプさんの
お世話をしてくれ。
あとアルプさんに、ルコルアの近況も話しておいて」
「えー、でも……」
なおも引き下がらない弟に、姉は重ねてお願いする。
「頼むよ。アルプさんは到着したばかりだし、
この家の人間が誰か残ってお世話しないと」
「う……わかった。
じゃあアルプ兄ちゃ……アルプさん、
まずは部屋にご案内します」
「あの、俺も到着したばっかなんだけど?」
「情報屋は足で稼いでこその商売だろ?
甘ったれんな。
どんな小さな情報でもいいから必ず見つけるぞ」
ソルトの首根っこをつかむようにして、ミモザは
家を後にした。
同時に、ファジーがアルプを泊まる部屋に案内し、
居間に当たる室内には女神一人が残される。
「……あれ? もしかしてコレって」
│ ■バクシア国・ボガッド家屋敷 │
「―――しゃて、取り合えずフィオナ様とは
夜にもう一度神託を受ける事になりましゅたが。
そりぇまで私はどうしましゅか……」
「ここを自宅だと思って、ゆっくりしていって
くだされば」
ローンの申し出に、ナヴィは首を静かに左右に振る。
「さしゅがにそこまでは甘えられないでしゅよ。
そういえば、アルプ君が果実を売っている店が
あるとの事でしゅが―――
そこで何かお手伝いでも出来ましぇんかね?」
「そうね。シモン君とも顔合わせしておいた方が、
後々のためにもいいでしょう。
では、これから案内しますね」
「お願いするでしゅ」
そしてナヴィは、ひとまず高級青果店『パッション』へ
マルゴットと向かう事にした。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在2065名―――