04・とらいあんどえらー
ハロワやら役所やらでいろいろ手続き中。
説明会2時間は疲れた_(;_ _)_
日本・とある都心のマンションの一室―――
女神が携帯端末を握りしめ、うなる姿を
一匹のお目付け役の猫が見つめていた。
「うぬおぉおおおお……
せめてコレだけでも持っていけたら……」
「持っていけたとしても、
電波が通ってないと思われますが?」
「じゃあイベントもレイド戦も参加出来ないじゃ
ないですかー!!
チクショウ! なんて時代だ!!」
「現代だよ。
あっちはこちらの世界でいう、中世から近代の
間くらいですかね」
希望を述べる女神に、あっさりとお目付け役は
現実を突きつける。
「くおおぉおおリアルタイムでオンラインに
つながる事が出来ないこの苦しみ……
貴方にわかる!?」
「わからないというか、
わかったらお終いという気もします」
フィオナの欲望全開の不満をナヴィはあくまでも冷製に
受け流し―――
途中、何かに気付いたかのように女神が声を上げる。
「……アレ?
そういえばナヴィ、貴方は向こうにいる時でも
『アンカー』とやり取りしていたような」
「私の場合PCは音声入力ですし、イメージを
音声にして伝えていますから、別世界でも
さほど問題はありません。
映像もそれほど長い時間でなければ見る事が
出来ますし―――」
「おおー、ナヴィってやっぱり優秀なんですね」
「アルフリーダ様の従僕なのですから、それくらいは。
というより、フィオナ様もそれくらい出来ると
思うのですが……
神になる修行中に学びませんでしたか?」
「基本中の基本ですよ!
アタシがそんな事覚えているとでも?」
「まったくもって威張る事じゃねぇな。
それでは、そろそろ本編スタートします」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「ではフィオナ様、行ってまいりますっ」
「夕方までには帰ってくるよ。
フィオナ様には、また留守番頼んじまうけど……」
「んん~……
でもその間、アタシは何をすれば」
「しょんなに暇でしゅたら、天界の両親に
今後の行動方針とか相談したらどうでしゅか?
あのお2人でしゅたら、経験も豊富でしゅし―――」
「け、経験豊富……じゅるり」
「(夜の経験とか言ったら
あと1ヶ月は滞在させますよ?)」
「(お、おう……
ふぅ、間一髪だったぜ。
大丈夫大丈夫、アタシ頑張る、負けない)」
「?? どうかしたんですか?」
「い、いえ。
それでは気を付けて行ってきてください」
「それじゃお留守番、お願いいたします」
午前中、3人を見送った時と同じように―――
ただ1人フィオナが残された。
「ん~……しかし、どうしましょうか。
コレといってまだ何も起きてない状況ですし。
取り合えずパパに相談、かなあ」
家の中に取って返すと、自分に割り当てられた
寝室で、フィオナは父親であるユニシスに
コンタクトを取る事にした。
『……ン? フィオナかい。
今はそちらの世界の、確かルコルア国に
行っているんじゃなかったのか?』
「そうなんですけど、アルプを眷属にした時とは
違って、今イチする事が見えてこないんです」
『まあ、アルプ君の時とは状況が違うだろう。
今は情報収集の段階という訳だね?
あとは、そうだなあ―――
何かに備えるとして、知識を流用するとか』
「えっ? で、でもパパ。
異世界への物の持ち込みとかは、結構制限が
あったような」
『直接持ち込むのならともかく、そちらの技術や
道具で出来る事なら、それほど問題にはならないよ。
パパが教えてあげるから、何か作ってごらん』
「ウン!
やってみます、パパ!」
―――1時間後―――
│ ■ファジーの家・裏庭 │
「ふぅ」
裏庭で作業を終えた女神は、出来た物を前に
一息ついた。
「どうですか、パパ?」
『うーん、見事なぱんつぁーふぁうすとだね』
そこには、長い筒状の近代的な兵器が、その姿を
誇示するかのように立てかけられていた。
「これならどんなたいぐんがおしよせてきても
いちげきだぜ!
―――じゃねえよ!!
何がどうしてこうなったんですかー!?」
『パ、パパは食糧の長期保存とか、そのための
加工方法を教えたつもりだったんだけど……』
混乱する父娘の通信に、割って入る声が1人。
『2人とも何をしてるのよ、もう』
『あ、ママ』
『でも、あり合わせの物でこんな武器を作るなんて。
さすがは軍神の娘ね、フィオナちゃん』
『いやどう考えても、そちらの技術レベルで出来る
シロモノではないんだけどなあ』
「アタシこんな事で、親子の絆を確認したく
ないんですけど……」
出来上がった物を前にして困惑する父娘に、
母親はアドバイスを促す。
『難しく考えちゃダメよ、フィオナちゃん。
こういうのはもっとシンプルにいくの』
「シンプルって、どんな?」
『あなたは果樹、果実の女神なんですから―――
そこが工業国と言っても、草木が1本も生えていない、
という訳でもないのでしょう?
あなたなりに、素直に力を使ってごらんなさい』
その言葉に、フィオナは改めて裏庭を見渡し―――
それなりに草木が生い茂っているのを確認する。
「食用じゃないっぽいですけど、
いけるかなあ?」
『大丈夫、自分を信じなさい。
あなたはパパとママの娘なんですから』
「う、ウン!
アタシ、やってみる!」
―――数時間後―――
│ ■ファジーの家 │
日が暮れ始めた頃、情報収集に出かけていた
3人が戻ってきた。
そして、ファジーとミモザは慣れ親しんだ
生家を―――
ナヴィは、出かけた時とは異なる家を見て、
理解しようと苦心していた。
「また何かしやがりましゅたね、あのダ女神」
「ダ女神って!?
そ、それよりコレはフィオナ様の
仕業なのかい!?」
表からは見えないはずの、裏庭にあった草木が
平屋建ての屋根を超えて視界に入ってきていた。
それは異常事態を認識させるには十分で―――
「と、とにかく家の中に入りましょう!」
│ ■ファジーの家・裏庭 │
「地球でいうところの、バナナにみかん……
下に生えているのはパイナップルでしゅか」
「食えるのかい、コレ?」
見た事が無い果実を前に、ミモザは困惑した
声を上げる。
「そ、それは大丈夫です。
アタシの専門分野なので保証します」
「あの、で、でも―――
どうしてこんな事を?」
「な、何かアタシにも出来ない事はないかなーと
思って……あはは」
「まあコレは後で頂くとしましゅ。
ちょうど夕飯時でしゅし―――」
「では、何個か持っていきますね」
そして、ファジーとミモザが果実を抱えて
持っていった後―――
ナヴィは、茂みに隠されていたぱんつぁーふぁうすとと
女神・フィオナの顔を交互に見つめていた。
「(問題は、このロケットランチャーみたいなのを
どうやって処分するか、ですね)」
「(し、茂みの奥に隠しましたので、多分大丈夫だと
思いますよ?)」
「(今はそれしか手がないですね……
仕方ない、滞在する間は見張っていてくださいよ)」
│ ■ファジーの家・食卓 │
30ほど後―――
4人は一緒に食事を取るべく席に着いていた。
「ばななとみかんはこのままでいいんですね?
味見しましたけど、甘くて美味しいです!」
「このぱいなっぷるってヤツは
ちょっと調理に手こずったけど、
酸っぱくて美味かったよ。
料理の隠し味とかに使えるかもな。
さすが果樹の豊穣の女神様だぜ」
「ま、まあこれでも果樹の女神ですからね!」
「でも、この時期で良かったです。
今は人が少ないので―――
あまり目立つ事もないかと」
「?? 人が少ない……でしゅか?」
「ん、ルコルアは職人の国なんだけどさ。
この時期は出稼ぎに行く連中も多いんだ」
「出稼ぎって、どこへ?」
フィオナの質問に、ファジーは顔を曇らせ―――
その代わりというようにミモザが応える。
「―――炭鉱さ。
材料や素材を確保するために、自分で
炭鉱に掘りに行く職人もいるんだ」
「……その話は、ファジー君の顔が暗いのと
関係ありましゅか?」
「目ざといんだね、ナヴィ様は。
そうだな―――でも今は食事を楽しもう。
後で話すよ」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1922名―――