02・三ヶ国の、日々
日本・とあるマンションの一室―――
そこで女神・フィオナはイスに座り、
PCと対峙していた。
【急募:〇イッターとかのSNSをやって
みたいんですけど、方法を詳しく】
【 まず必ず自分の顔写真を使うこと 】
【 恥ずかしい場合は、片手で目を覆うこと 】
【 あとなるべく、他の人と間違われないように
詳しく自分の個人情報を正直に記載すること 】
「―――わかりました。
・自分の顔写真は使わない。
・手で目を覆う写真も使わない。
・自分を特定されるような情報は載せない。
他には?」
【 この女神、俺たちの使い方を
覚えてきやがった……! 】
「フッフッフ……
いつまでもやられっぱなしでいる
アタシじゃありませんよ」
「いつから敵対していたんですかね?」
その光景を後ろから見つつ、ツッコミを入れる
お目付け役猫、ナヴィ。
「あ、ナヴィ。
見てください。今日はアタシが勝ちましたよ!」
「だから何の勝負なんですかね?
いい加減、本編入りますよ」
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「おはようございます、フィオナ様。
そろそろメシの時間だけど」
「ん~……あと3分と3時間……」
「それは二度寝で済ませていいのかどうか
疑問なんだけどさあ」
ベッドに入ったままのフィオナを、ミモザが
何とか起こそうと奮闘する。
「ミモザ姉、フィオナ様起きた?
そろそろ朝食の時間だけど……」
「あ、ファジー。
ナヴィ様は?」
「一緒に朝食の準備を手伝ってくれて、
もう食卓についてるよ」
「ホラ、ナヴィ様もすでに起きているんだから、
フィオナ様もお早く―――」
しかしフィオナの動きは鈍く、なかなかベッドから
出てこようとしない。
「困ったもんだねえ……
どうしたものか」
「あ、えっと、ナヴィ様から伝言が……
『あと3分以内に食卓に来なかったら、
ぴいしい? のりれき? を両親に
りいくする』だそうで―――」
「さあ今日も1日張り切って参りましょう!!」
その言葉が何かの合図であるかのように―――
フィオナは飛び起きた。
│ ■ファジーの家・食卓 │
「「「「いただきます」」」」
それから間もなく―――
食卓で、同じ朝食を食べ始める4人の姿があった。
「(あっぶねえ。
ママはともかく、パパにあんなの知られたら、
ゴートゥー家族会議ですよ)」
「(普段何を見ているんだお前は)」
「(え? も、もしかして中身を見て
なかったんですか? ブラフ?)」
「(さすがにプライバシーまでは見ませんよ)」
「あ、あの。
お口に合わなかったでしょうか」
心の中でフィオナとナヴィは話し合い、それで
無言の時間が出来た事を不安がって、ファジーが
話しかける。
「ん? そんなことは無いでしゅよ。
とても美味しいでしゅ」
「そういえば、降臨されたって事はさ。
何か目的があるんだろうけど……
アタイらはこれから、どう動けばいい?」
「えっ? そ、そうですね……
ナヴィ、今後の予定は何でしたっけ」
ミモザからの質問をそのままナヴィに流し、
それを受けた彼は呆れながらも対応する。
「(清々(すがすが)しいほどに丸投げしましたね)
しょうでしゅね。
取り合えずは情報収集、でしゅか。
ラムキュールっていう『枠外の者』も、
ルコルア国の人間なんでしゅよね?
ソルトしゃんとトニックしゃんの2人からも
情報は得てましゅが、これからの動向が
気になりましゅので」
「―――これから、何か起こるってのかい?」
「そうとも言えますし―――
すでに動いているのかも知れません。
事があれば、すぐに動けるように―――
今言えるのは、それだけです」
「わ、わかりました」
「(結局のところ、具体的なことは何も
わかってないし決まってないんですけどね)」
「(い、いいんですよ!
威厳さえ失わなければ……!)」
取り留めのない会話をしつつ―――
彼らは朝食を終えた。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
―――同時刻、アルプの家―――
「あいててて……
体の節々(ふしぶし)が……」
「植樹って結構重労働なんだな……」
寝起きと思われるソルトとトニックに、
アルプが声をかける。
「あ、お早うございます。
朝食の準備が出来てますよ。
あと、今朝マルゴットさんからの使いが来て、
お2人に至急来て欲しいとかで……
朝食の後で行ってもらえませんか?」
顔を見合わせ、疲れた表情で2人は返事をする。
「うへえ……そうかい」
「しっかし、
情報屋だったり果樹園の手伝いだったり……
せめてどっちかにならねーかなあ」
「ご、ごめんなさいっ。
あの、マルゴットさんのところとは別に、
果樹園の手伝い分のお給金はちゃんと
出しますので―――」
「お任せください、ボス!!」
「メシ食ったらひとっ走り行って参りますですっ!!」
そして、2人は朝食を終えると―――
そのままビューワー家屋敷へと向かった。
2人が去った後―――
家には、元々の住人であるアルプと
その母親が残っていた。
「―――この家も、ずいぶんと変わっちゃったわね。
あの人が生きてたら驚くかしら」
「これも皆、フィオナ様のおかげです。
あ、そうだ。お母さん」
「なあに? アルプ」
「えっと、バクシアのポーラさん、メイさんから
また荷物が送られてきたんだけど……」
「あの姉妹さんから?
それがどうかしたの?」
もじもじとアルプは答えにくそうにしていたが、
やがて意を決して母親に話す。
「それが……ファジー君のことを話したら、
彼の分も送ってきてくれたんだけど、
中身が女性物の服になってて……
また間違えちゃったのかな」
「そういえば、前もアルプに女物の服を
送ってきたって言ってたわね。
また間違えちゃうなんて、うっかりさんなのねえ」
「でもどうしよう、これ」
改めて、2つの箱を引っ張りだして
その前で考え込むアルプ。
「あ、今ルコルアにフィオナ様が降臨
なされているのよね。
ファジー君と一緒にミモザさんもいるし、
彼女に送ってあげたら?」
「そうだね。
一応、今度バクシアに行く時に、
あの2人は断っておこう」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■高級青果店『パッション』 │
「うふふふふ……ポーラ姉さま。
もう例の荷物は着いたかしら?」
「アルプ君が着なかったのは残念でしたけど……
ファジー君という逸材を見つけられたのは
大きいわ。
今頃、きっと2人で混乱しつつも、
顔を赤らめながら、どっちが似合う?
とかお互いに聞いてたりして……♪」
そして、やや疲れた顔の少年が姉妹に近付く。
「あのさ、ここはそういう妄想を垂れ流す
店じゃねーんだけどな」
「だって、もともとはシモン君が
メイド服着てくれないから」
「誰得なんだよ、ンなもん」
ため息をつくシモンに、思ってもいないところから
加勢の声が上がった。
「そうよ、メイ。
シモン君にメイド服はやっぱりおかしいと思うわ」
「な!? 味方の裏切り!?」
妹と彼に取っては予想外の言葉だったのか、2人とも
しばらく発言した彼女の方を目を丸くして見ていた。
「ポーラさん……まさかアンタが止めてくれるなんて。
俺は今まで誤解していたようだ……」
「メイド服だと露出が少な過ぎて、
細くても筋肉質なシモン君の魅力半減ですわ!」
その言葉に、眉間にシワを寄せて
シモンは視線を下に向けた。
「そうだな……アンタはそういう人だった。
一瞬でも信じた俺がバカだったよ……」
「うーん……でも、露出が多い衣装って……」
「では間を取って『裸エプロン』では?」
「『では』じゃねーよ!
『では』じゃ!!
あと、どことどの間を取ったんだよ!?」
「じゃあ実際に試してみるのも
いいんじゃないかしら」
「そうね。ポーラ姉さま。
ちょうど試食っていうシステムもある事だし」
「当店ではそのようなサービスは
行っておりません」
「だあってぇ、またアルプ君が来るまで
日にちがあるんだもの。
その間、誰が私たちを癒してくださるの?」
「だからここは
青果店なんだよおおおぉおおおおお!!」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1872名―――