01・今、会いに行きます
3章スタートです。
無職も11月からスタートしましたが
私は元気です。
失業保険出るし・・・(ーー;)
とある薄暗い一室で―――
『枠外の者』たちが再び集まっていた。
互いに顔を見ようともせず―――
しかし声は明確に、そして少しのいら立ちも
ある男へと向けられる。
「ラムキュール君、この報告はどう見れば
いいのかね?」
「今のところ、その報告書しか上がってきて
いないのだ。仕方あるまい」
「神様、眷属、その使い―――
私どもには似つかわしくない言葉の
オンパレードですこと」
クスクスと、薄闇に合わせるように、
女性の冷笑が響く。
「だが―――
一度ならず二度までも、この女神・フィオナと
その眷属とやらが、我々の動きに絡んできたのは
確かだ。
しかも堂々と、自分たちの正体を包み隠さず
伝えに来たというではないか。
偶然か、それとも『枠外の者』と
知っての事か―――」
表情は見えないが、ラムキュールは抗議も
込めて反論する。
「弁解のようだが、ミモザ、そしてソルトと
トニック以外の者にも調査は命じてある。
それによると連中の行動範囲は―――
バクシアとフラールに限定されている、との事。
調査は続行するとして、ここは1つこの両国から
離れてみてはどうか?」
「ふむ。となると―――
ラムキュール君、君の祖国での計画は
どうなっているかね?」
「ルコルア国のデータは蓄積してある。
いつでもテストに取り掛かれるが」
「よし、ならば君の思う通りに動いてみたまえ。
それが成功すれば、もっと序列の高い国でも
同様の事が可能だと証明出来るはずだ」
「それがいいかもね。
それに、もうこれ以上神様と関わりたく
ないでしょう?」
女性の軽口に周囲が反応し、嘲笑のような
雰囲気が場を支配する。
「まさか次の行き先―――
ルコルアでも神様に出会う、
なんて事はないでしょうからな」
「せやな!」
「「「ハッハッハッハッ!!」」」
│ ■日本国・フィオナの部屋 │
「今、会いに行きます♪」
「何を言い出した?
変な電波でも受信しましたか?」
とあるマンションの一室で、女神はお目付け役兼
サポート役猫と一緒に、次の降臨の準備をしていた。
「いえ、何かそういう事を言わなければならない
使命感に駆られて」
「正式に、新たな眷属となったファジー君の国―――
ルコルアに降臨するんでしょう?
あとフラール国のような事はゴメンですからね」
「フッフッフ……
このアタシが、同じ過ちを二度も犯すとでも?」
「思ってます」
あれから1ヵ月ほど経過し―――
信者数が1600人を超え、信仰を取り戻した時、
フィオナは改めてファジーを眷属に指名した。
・眷属は1つの国につき1人
・眷属のいる国へは降臨、移動可能
という条件を満たしたので、フィオナとナヴィは
彼の祖国―――ルコルアへ降臨する運びとなった。
『フィオナちゃん、まだいる?』
「あ、ママ」
『眷属は二人目だし、問題は無いだろうが……
ナヴィ、今回もフィオナのサポートをよろしく頼む』
そこへ、フィオナの母・女神アルフリーダと、
父であるユニシスからのコールが入った。
「もー、2人とも、もっと娘を信用してください」
『しかしなあ……それでも心配なものは心配なのだ。
ナヴィ、フィオナに余計な虫がつかないよう、
くれぐれも頼んだぞ。
特にフィオナのような娘に取っては―――
男というのはみんな狼なのだからな』
「狼を捕食する動物っていましたっけ?」
「どーゆー意味?
ていうかパパ、ここに狼が一匹いるのは
いいの?」
『…………』
「なぜ黙る? パパ」
『ま、まあナヴィはママの従僕だし、
そんな間違いはしないと信用しているからね、
ウン』
「おうこっち見て言ってみやがってください」
『何で視線を外した事がわかった!?
ていうか今こっちの姿見えないよね!?』
『ほらパパ、ここは娘の成長を素直に喜びましょう。
神の資格はく奪の危機から、2人目の眷属を
持つところまできたんですから―――
じゃあフィオナ、気を付けて行ってらっしゃい』
「はーいママ。
パパ、行ってきまーす!」
そしてナヴィはフィオナに寄り添い―――
ともに『降臨』する体勢に入った。
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「あ……そろそろ来るみたい」
「本当かい?
掃除も食事の準備も済ませてあるけど……
いざとなると、緊張してくるねえ」
ミモザ、ファジーの2人は、フィオナの降臨と
その歓迎のためのセッティングを終えて、
その時を待ちわびていた。
「どこから来るのかなあ……
以前、フィオナ様の降臨を見た時は……
いきなりまばゆい光が部屋の中を照らして、
そしてその光が消えたと思ったら、
その中から―――」
「やっぱりアタイらの前、この部屋に直接来るかな?
とにかく、失礼の無いように……」
ガチャ。
その時、玄関の方から扉を開ける音がした。
続いて足音、そして部屋の扉が開き、目的の
2人が姿を現した。
「お邪魔しまーす」
「……今回はずいぶんと地味な登場の仕方でしゅね」
ポカン、とする2人の目の前で、女神とサポート役は
言葉を交わす。
「げ、玄関から入ってきたんですか?」
「アレ? でも確かカギは掛けてあったような」
目をパチクリさせながら語る、眷属とその姉。
そんな2人とは対照的に、何事も無かったかのように
フィオナは応える。
「神の力の前では、人の仕掛ける拘束など
無いも同然―――」
「そ、そうですよねっ」
「あの程度のシンプルなカギなど、針金1本で
どうとでもなります」
「もうお前ホント黙りぇ♪」
言葉と同時にフィオナにアイアンクローをかけた
ナヴィを止めるため、ミモザとファジーは慌てて
割って入った。
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
│ ■ファジーの家・食卓 │
そして―――
数分後、彼らは席に着き、改めて
あいさつを交わした。
「ほ、本日はボクの家に降臨され、大変光栄に
思いますっ」
「いやもうホント、どこに出しても恥じゅかしい
女神で申し訳ないでしゅ」
「い、いやまあ……ハハ」
ナヴィの言葉にどう答えたらいいかわからず、
乾いた笑いがミモザの口からこぼれる。
「えっと、ここは―――
ファジー君の家、という事で
いいんですよね?」
「はい。一時、ミモザ姉と一緒に情報屋として
他国を回っていたんですが―――
それでも、時々は帰ってきてお掃除とか
してました」
「台所も裏の井戸もまだまだ使えるし、
ルコルアに来た時はここを拠点として
使ってくれ。
フラールのアルプさんの家ほどじゃないけど、
部屋は余っているしな。
それに、アルプさんからもらった給料で、
お風呂も改築出来たし」
「そういえば、アルプ兄ちゃ……アルプさんは
どうしていらっしゃいますか?」
「アリュプ君なら、来期から収穫量を増やすための
植樹を、ソルトしゃんとトニックしゃんに手伝って
もらってやっているみたいでしゅ」
「あー、アイツらか。
どんどんコキ使ってやってくれ」
こうして4人は―――
時が経つのを忘れ、話に花を咲かせた。
―――数時間後―――
「あふぁ……むにゅ」
「ファジーはそろそろ寝なさい。
アタイも後からベッドに行くから」
「私もそろそろ寝るでしゅかね」
「ふぁい……じゃ、ナヴィ様も案内します」
「お願いするでしゅ」
「アタシも後からベッドに行きますね♪」
「入ってきたら天界に直接送り返しましゅよ?」
「それ遠回しに殺すって言ってません?」
「あ、アハハ……」
ミモザの微妙な笑いを背後に、男子組は
寝室へと向かった。
後に残されたのはミモザとフィオナの女性組―――
「そういえば―――」
「なんだい?」
「いえ、ファジーは貴女の幼馴染という事でしたが、
どうしてその、預かる事に?」
「ああ、そういや話してなかったっけ。
実は―――」
ポツリポツリと、ミモザは話し始めた。
元々、両親がいなかったのはミモザの方
だったという。
だが子供がいなかったファジーの両親に
引き取られ、ファジーが生まれてからは
姉弟同然の扱いで育てられた。
彼女も育ての両親に恩返しがしたいと、
働けるようになってからすぐ、割のいい商売である
情報屋になった。
しかし、ある時仕事で長期的に家を空けていた時に、
ファジーの両親が亡くなり、またファジーも
奉公労働者として引き取られそうになっていたため、
慌てて自分の奉公労働者としての優先権を売って、
ファジーを買い戻した。
「それからは―――
前にも話した通り、自分の奉公労働者の優先権を
買い戻した時の借金を返すため、ファジーと一緒に
情報屋として駆け回っていたのさ」
「そうだったんですか……
苦労したのですね」
「アタイはまだマシな方さ。
ファジーが奉公労働者になりそうだって
聞いた時は、正直―――神様を呪ったよ。
あの子がいったい何をしたんだって。
前世で何かよほど酷い事をしたのかって
思わなきゃ、やってられなかった……」
ミモザはそのまま、唇を結んで視線を
床に落とした。
「あ、でも前世はあまり関係ないと思いますよ?
アタシなんて前世はアメの包み紙だし」
「アメの包み紙!?
そこからどんな事をして神様に!?」
「どうだスゲーだろ」
「いやスゴ過ぎるわ!!」
2人はどうしようもない会話をしながら、
その夜はふけていった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1844名―――