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03電子上の頭脳集団、その名はアンカー




信仰地域に向かったアタシを待っていたのは

恐るべき事実、障害の発覚だった。


自分の救える範囲を超えている―――

しかしそれで信者の救済を諦めるような

女神ではない。


眷属を決めて一筋の光明を残そうと、

流れるように計画を修正する。


しかし、そんな女神を嘲笑うように困難は訪れ、

混乱の中眷属と引き離される。


果たして2人は、真実、そして愛をつかむ事が

出来るのか―――




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「……という訳なんですけど、パパ―――」


別世界の日本の拠点に戻った、一人の女神と

一匹のお目付け役。

彼らは、音声通話で今回の件を相談していた。


『これは、初心者が対応出来る事ではないな……』


│ ■軍神:ユニシス・ルールー  │

│ ■戦と争いの裁きを行う神   │


『ごめんなさい、フィオナちゃん。


 確かに手に余るわ、こんな事態。

 ナヴィ、それで―――眷属は?』


│ ■女神:アルフリーダ・ルールー  │

│ ■時と成長を司り、見守る女神   │


「ハッ! 少年を1名選定し、『神の恩寵』を施しました。

 その時点で、アルフリーダ様から与えられた信仰を全て

 使い切ってしまったので―――」


「そうそう! 可愛いもとい可哀そうだったので、つい。

 それで、パパ―――」


『ああ、わかっているよ、フィオナ』




やった! これで勝つる!

後はどうやってアルプとビューワーを調達するか……



『お前を、フラール国の管轄から外すよう申請してくる。

 しばらく待っていなさい。

 すぐパパとママで、次の信仰地域を探すから』


「ありがとう!! って、え? 外す??」


えと、あと、『次の信仰地域』というパワーワードが

聞こえたような。


『ええ。とてもではありませんが、初心者が担当する

 レベルをはるかに超えてしまっていますからね。

 申請自体はすぐに通ると思いますよ』


「あの、スイマセン。しゅるとあの~……

 眷属は? どうなってしまいますのん?」


『お前が管轄から外れれば、あの地域での女神・フィオナは

 人々の記憶から無くなる。

 眷属といえども、記憶は同時に消去されるよ』




へーそっかーそれなら安心だー

…………

―――じゃねぇだろ!

それ一番アカンやつじゃねーか!!


「え、えええ、で、でもですねあの、

 あの子、お母さんと離れ離れになってたしー。

 神としてですね、

 あんな子を見捨てるなんていうのは、その」


『パパから、バクシア国の神々に対し、約束があるなら

 それを絶対に守らせるよう、神託を手配しておくよ。

 それならそのアルプという子の母親も、間もなく帰って

 来るだろう』


「でも、でも―――

 信者を何とかしてくれるって、パパ……」


『フィオナちゃん』


ママの声が、抑揚なくマンションの一室に、静かに響いた。

こういう時のママはたいてい、アタシを諭す時で―――


『今、あなたのいる別世界、国でも―――

 まだ幼いながら、母と離れてしまった子は大勢いるわ。


 家庭の事情で、仕事で、病気で―――


 私は、今回の―――初めての神様のお仕事の前に、

 パパと一緒に言ったはずよ?』


『もし戦災や天変地異であれば、パパやママが

 動けたのだが……


 聞くところ、それは人間同士の契約であり事情だ。

 それは我々が介入すべき事ではないのだ』


「―――軍神ユニシス様の言う通りです。

 神様に出来る事は案外少ないのですよ」




お目付け役のナヴィが追い打ちのように語った。


「ううぅ……」


いや、ここで引き下がったらダメです。


あの弟夫オトウットを諦めるわけにはいきません!


この手は何のためにあるのか!

それはあの子を抱きしめるため!


この目は何のためにあるのか!

それはあの子に熱い視線を送るため!


この耳は何のためにあるのか!

それはあの声や吐息を余すところなく感じるため!


この鼻は何のためにあるのか!

それはあの子の匂いを至近距離でクンカクンカ


『ど、どうしたんだフィオナ?

 ずいぶんと呼吸が荒くなっているようだが』


『言いたい事はわかるわ。

 でも落ち着いて、フィオナちゃん』




ウン、ママの言う通りちょっとクールダウンしなければ。


「あ、あのね、パパ……

 アタシやっぱり、あの子を見捨てる事なんて出来ません」


『フィオナ、残酷なようだが―――

 今のお前に何が出来るんだい?


 果樹を実らせれば、その子の母親が帰ってくるのかい?

 それともまた、黄金の果実を渡すのかい?』


『あれはママが、フィオナちゃんの力を

 100%使えるように

 信仰を戻してあげたおかげなのよ。


 それでもたった1回で、全て使い切った。

 今の貴女は、せいぜい眷属に神託を下す程度の事しか

 出来ないの。


 それでどうやって、その子を救うつもりなの?

 パパもママも、ずっと貴女に付きっ切りという訳には

 いかないのよ?』


気まずい沈黙が訪れる。

時計の秒針の音以外は、耳から途絶えている。


その静寂を破ったのは、フィオナの方からだった。




「……パパ、さっき言いましたよね。

 『約束があるならそれを絶対に守らせる』

 って。


 アタシ、眷属にしたあの子に約束したんです」


『…………』


「信者を見捨てたりしない。

 信じて待ってて、って。


 アタシは―――女神として、パパとママの娘として。

 ―――約束を破りたくありません」



『フィオナ……』


『フィオナちゃん……

 いつの間にか、

 こんなに立派になってウプッ、オロロロロッ!!』


『マ、ママ! 大丈夫かい!?』


「え? 何? 吐いたの? 何で?

 あ、もしかして悪阻つわり


 それならアタシ弟がいいなっていうか同年代の他の子に

 比べて背がちょっと低い事にコンプレックス持ってて

 それを言ったら『お、お姉ちゃんには関係ないよ』って

 意地張るような感じの」


『やたら注文が多いなオイ!

 いや、これはただ単に、ママの体調が本当におかしい

 だけだと思う』


「ママ、大丈夫!?

 でも突然、どうして―――」


『きっと……お前がいきなり立派な心掛けの事を

 言いだしたから、

 ママの精神と肉体が持たなかったんだ―――』


「何なんですかアタシの存在って!?」


「それでユニシスのオッサン、いつまで私は

 この家族漫才を見ていれば?」


『軍神からオッサンに格下げされた!?』


従僕であるナヴィが、一家三人の神様の会話に

割って入る。




「ですから―――アルフリーダ様がそのような

 状況であれば、夫であるユニシス様が何らかの

 指示をなさるべきかと」


『……フィオナ。いいかい。

 今がギリギリの状況だという事は

 理解出来ているんだね?


 書類の申請だって時間がかかる。

 パパもなるべく10%を切りそうだったら

 すぐに動くが―――

 間に合わなかったら、お前は神の資格をはく奪される。


 パパもママもお前を見捨てる事はない。

 だけど、もしお前が神から転落したら、また1から

 修行のやり直しだ。


 その覚悟はあるんだね?』


「―――苦労して、パパとママに追いつこうとしたんです。

 だから修行にも耐えてきました。


 そして神様になれて―――

 だからこそ―――後悔したくないの。


 ワガママな娘でごめんなさい」


『―――わかった。

 ナヴィ、引き続き娘のサポートをよろしく頼むよ。

 ママにはパパから言っておくから。


 しかし、本当に誰に似たんだか……』


「アタシが諦めの悪い性格って、

 パパも知っているでしょ?」


『フィオナ……

 本当に立派になってウプッ、オロロロロ!!』


「夫婦そろってそれですかあぁあああ!!」




天界との会話が終わり、ようやく部屋にいつも通りの時間が

戻ってきた。


「これで最悪の状況は回避出来ました、が―――」


ハッキリ言って、首の皮一枚残ったに過ぎない。


アタシはもう信仰地域には行けない。


イコール、果樹の実りを制御する事すらも無理。


眷属であるアルプに神託を下し、彼との会話で

何とかするしかない。


「しかし―――アタシは諦めません!

 女神として! 未来の妻として!


 彼とのAbsolute Strawberry Field

 (絶対ストロベリー領域)を

 展開するその時まで!


 他の誰でもないっ、アタシ自身の力だけでっ!!


 そんな訳でナヴィ、

 何か事態打開出来るような方法知らない?」


「せめて10秒は決意を持たせやがれ。

 まあ助言を求める事は悪いとは思いませんが―――


 せっかくこの世界にいるんです。

 何か方法を調べてみてはいかがでしょうか?」


「あっ」


―――そうだった。

目の前にあるぴぃしぃという箱は、『検索』すれば

いろいろと答えが出てくる。


それだけでない。


あるところに質問を打ち込めば、最適解をくれる

集団がいる。




―――その名も『アンカー』―――




この頭脳集団は、電子上に存在し、決して正体を現さない。

だが、あらゆる問題を解決するエキスパートなのだ!


「さあ、アンカーよ!

 アタシの問いに答え、導きなさい……!」


※豆知識:こういう事をリアルで言うと(社会的に)死ぬ




│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷  │




「―――で?」


「とぼけるな!

 あのアルプという少年は、ワシが目を付けて

 おったんだ!」


グラノーラ家の屋敷、その一室に怒号が響く。

そこでマルゴットは、派手な格好をした

一人の中年男性と対峙していた。


「ですから、税金はすでに支払われました。

 貴方に、彼をどうこうする権利はないはずですわ」


「グラノーラ家の小娘ごときが……

 お前が税金を肩代わりした事は知っているんだぞ!」


「正当な商取引、契約ですわね。

 それで?」


「ではなぜ、あの子をここに呼ばんのだ?

 他の子ども達はここで働かせていると

 言うではないか!」


「彼は親の果樹園を所有していましたから。

 お金を得る手段があればそちらで金策して

 返済する方法を選択させただけですわ。


 他にご質問は?

 私、いつまでもバカのバカバカしいバカ話に

 付き合っている暇はありませんのよ?」


「……後悔するぞ!」


「貴方に会う度にね。

 ああ、無駄な時間を過ごしたって。

 それではご機嫌よう、ボガッド様」




ドカドカと足音を立てて部屋を去る男と

入れ違いになるように、

一人の老紳士が彼女の前にツカツカと足を進める。


「お嬢様、お客様と何か?」


「気にしないでいいですわ、じい

 それより、状況はどうなっておりますの?」


「バクシア国に流れた奴隷―――コホン、奉公労働者の

 数ですが、およそ2千人に上ると見られております。

 国内での奉公労働者もほぼ同数かと」


「続けて―――」


その執事と思われる男性は、マルゴットの前で書面を

読み上げ続けた。




カシャ☆

―――女神フィオナ信者数:現在279名―――


―――神の資格はく奪まで、残り79名―――



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