23・同じアルプ君の妻としてですねえ
( ・ω・)フィオナが何の神か覚えている
読者がどれくらいいるだろうか。
日本・とある都心のマンションの一室―――
なぜかエアコンを切った室内に、うっすらと
汗をにじませる目付きの悪い少女が一人。
「……何をしているんですかフィオナ様。
エアコンが壊れたんですか?
それともソシャゲーに貯金し過ぎて電気代が
アウトとか」
お目付け役(猫Ver)が、その長毛の体を
暑がるように震わせる。
「いやー、アルプのいる異世界って、
エアコン無いじゃない?」
「まあそうですね。
それで、今こちらで苦行をしている事と
何の関係が」
そんな事よりさっさと冷房をつけろ、と
言外に要求するナヴィに構わず女神は、
「あの時はアタシも―――
普通に汗をかき、また寒い経験もありました。
ああいうごく自然の厳しさ、そして現代の
有難さを忘れないようにと……
この身でそれを経験しているのです!」
「建前はいいとして本音は?」
そこでクルっとフィオナはナヴィに向き直り、
「いやあ、あっちでアルプが汗をかいているのを
見て、そして匂いを感じて―――
健康的なエロスというのはとてもいいもの
ですなあと。
そしてそれはこのアタシにもあてはまるのでは
ないのかと思いましてですね、汗だくになった
アタシに発情してもらえればそれはそれで」
「汗疹を作る前にさっさとエアコン付けて
ください。
だいたい発情ならあなたは四六時中しているで
しょうに」
猫の手で器用にエアコンのリモコンを操作する
ナヴィ。
「そうですね。
夫婦となったからにはどちらから求めても
OK。
という事なら問題はありません」
「ご自分に都合良くポジティブで何より。
それではそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■コザイ国・某所遺跡 │
「うん? 何だこれは?」
「この地域で崇めていた、神の偶像か何か
でしょうかね……」
マイヤー伯爵とガルディ騎士団長が―――
照明の魔導具で照らされた先を見て感想を述べる。
「我が国の神像とは……
そのどれとも異なりますな」
同行してきた地元の学者の一人が見解を語り、
「様式も背景も全く異なります。
まるで突然別世界からやって来たような」
同じく、グレイン国から来た学者も、その異様な
形式に驚いていた。
「で、でも……
伝承通りならこれが、ま、魔王……」
「勇者様(バーレンシア侯爵の事)も来られて
いるから、復活しても大丈夫だと思うだべが」
地元の荷物持ちにと雇った現地住人は、不安の
声を上げる。
それを聞いて、筋肉質の体に痩せ過ぎの顔を乗せた
伯爵はため息をついて、
「確かに、今にも動きそうな躍動感があるが、
石像が動いたりはせんよ」
「しかし、ある意味芸術性においては、
この時代の方が上だったかも知れませんねぇ。
『まるで生きているよう』―――
生物としての筋肉とか体付きをよくとらえて
おります。
まあ、こんな生物がいたとしたら、
の話ですけど」
淡い桜色の短髪をした王室騎士団長は、軽く
おどけるようにしてその像へ視線を向ける。
地球でいうところのどの神にも似ていない……
頭は獣のようであり、それでいて上半身は戦士の
ような体つきをしており―――
下半身は爬虫類のそれを思わせる、シッポが
ついたそれは、異形の迫力を十分に伝えていた。
「とにかくこの場所を記録しろ。
おそらくここが、遺跡の最深部だろう。
もし出来るのであれば、これの運搬を―――」
『……いずれは外に出る。
まずは……待て……
目的の者が……来るまで……』
地の底から響くような声が聞こえ、
マイヤーとガルディは剣に手をかけて構え、
周囲を見渡す。
「……!?」
「どこだ……!?」
互いに背中を合わせるようにして警戒する
一方で、
「ううっ」
「な、なん……だ……?」
同行していた調査隊の面々が、次々と倒れる。
「何者か!」
「姿を現せ!!」
二人は照明の魔導具を手に方々に光を向ける。
しかし、対象と見られる者はどこにもおらず、
『目の前よ……
安心するがいい、貴様らは我の目的に非ず……
間もなく目当ての者が来るだろう……
その時まで待つがよい……』
そこでようやく彼らは―――
声の主が巨大な石像という事実に行き着いた。
「―――ッ!
レンジ様!」
「ああ、この気配……
あの剣闘会で感じたヤツと同じだ。
どうやら、一番奥から感じるけど」
レイシェンの呼びかけにバーレンシア侯爵が
応じ、不穏な気配を二人は感じ確認し合う。
「な、何があったんですか?」
「おおお落ち着け。
こちらにはバーレンシア侯爵様が……
勇者様がいらっしゃるだ!」
地元の調査隊の中では、バーレンシア侯爵=勇者
という図式がすでに成り立っており―――
パニックは起こすものの、それにすがって何とか
冷静を保つ。
「うーん、君たちはちょっと引き返した方が
いいかも。
僕たちが出るまで、中に入らないよう言って
もらえるかな」
「わっ、わかりましただ!」
「勇者様、後は頼んます!!」
訛りを直す事もなく、彼らは慌てて指示に従い、
遺跡の入口へと早足で戻っていった。
「!」
「ビューワー伯爵様、気付きましたか?」
「ふみゅう……
この気配、当たりのようでしゅね」
ビューワー伯爵、ネーブル、そしてナヴィの
三人がそれぞれ身構える。
「えっ?
何なに何かあったの?」
フィオナはそれを見て周囲をキョロキョロと
見渡すが、
「え、えぇえ~……
そういうの無しですって。
マジ勘弁……!」
メイもこの時ばかりは二人揃って手を取り合い、
年相応の少女のように怯える。
「ここは一つ、調査隊のメンバーには地上に
戻ってもらった方がいいかと」
「ええ。
何かあった後では遅いですし―――」
シルバーの短髪の貴族青年と、黒髪黒目の少年が
うなずき合い、
「じゃあアタシも避難しておきますねー」
「待て」
一緒に戻ろうとする女神を、お目付け役が
首根っこをつかんで止め、
「ぐえっ!?
ちょ、ちょっとフィオナ様どうして
わたくしまで」
「せっかくここまで来たんですから、
アタシと一蓮托生ですよっ!
同じアルプ君の妻としてですねえ」
メイはフィオナに首根っこをつかまれ、
そのフィオナはナヴィに―――
という具合に繋がり、
バートレットとネーブルはそれに困惑しながら、
とにかく奥へと進んでいった。
『来たか……』
「こ、これはいったい?」
まず先に到着した金髪の女性剣士が声を上げ、
「ご無事ですか?
マイヤー伯爵殿、ガルディ騎士団長殿」
頬にクロスの傷のある侯爵の言葉に、名を呼ばれた
二人は首を縦に振る。
「この像は!?」
「間違いありません。
あのグレイン国で感じた気配―――
この石像から発されています」
続いて到着したビューワー伯爵にネーブルが、
見上げて剣を構える。
『ようやく来たか……
あの剣闘会を通じ、やっと貴様の気配を
辿る事が出来たのだ……
あの憎き軍神・ユニシス―――
そして女神・アルフリーダ……
その血を引く者がこの世界にいる、
とな……!』
「!
お前は何者でしゅか!?
私の主の血筋が狙い!?」
ナヴィがフィオナ、そしてメイをかばうように
二人の前に立つと、
『……お前は……確かに近い……
だが、血筋では無い……』
そして石像はゆっくりと動き出し、
指先がある者を指し示す。
『貴様が……
神々の……血筋……か……?』
その指差された先はバーレンシア侯爵で、
「えっと?
いや、僕はただの人間だと思うけど?」
すると像は今度はビューワー伯爵を指差し、
『この世界の出身では無い者のはず……
貴様、か……?』
「いや、私はこの世界で生まれた者だ。
というか、女神様なら」
伯爵の説明の途中で、次に像の指先は
ネーブルへと向かい、
『では、貴様か……?』
「あの、フィオナ様の事を言っているのなら、
そちらに」
そこには、ハイハイと片手を高く挙手する
女神がおり、
『……?
確かにこの世界の者ではない……
さらに神力を感じるが……
貴様は何の神だ?』
「果樹の豊穣を司る優しき女神っ!!
フィオナ・ルールーですっ!!」
それを聞いた石像はしばし沈黙し、
『えっ』
「えっ」
やがて二人?同時に間の抜けた声を上げた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在6978名―――
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