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12・獲物はどちら?



日本、とある都心部のマンションの一室。


一人の少女がペットらしき猫に対峙し、

話しかける。


「ナヴィ! アタシっておしとやか系よね?」


斬新ざんしんな異世界ギャグだな」


自分の主人の娘である女神の問いかけを、

お目付け役は0.5秒でバッサリと斬り返す。


「ええぇえええ……その判断はどこから」


「普段の貴女の言動からするに、妥当な判断かと

 思われますが。


 それより、どうして突然そのような事を?」


素朴な疑問を口にするお目付け役に、女神は

改めて理由を説明する。


「いえ、アタシってヒロインでしょ?

 キャラとして、どんなジャンルになるのかなあ、

 って思いまして」


「いきなりル〇ンダイブで異性わたしに飛び掛かったり、

 薄い本の隠し場所を母子で競い合うヒロインって……」


「やめてください!

 泣いているアタシもいるんですよ!」


「泣くくらいでしたらヒロインらしくしてください。

 ほら、そろそろ本編スタートしますよ」




│ ■フラール国・バクシア国代官館  │




「何が言いたいんだい、アンタ。

 まさか―――」


バーレンシア侯爵の代官館で、ミモザがラムキュールに

食ってかかっていた。


「いや、こちらも保険を掛けておかねば

 ならないのだよ。


 契約破棄は別にいい。

 前金も諦めてやろう。


 だが―――

 少なくとも私が、この国を離れるまでは、な」


「?? それがさっきの言葉―――

 『神の使いがいらっしゃる』

 『大変結構な事だよ』


 それと何の関係が?」


フィオナが疑問をそのまま質問にして、

ラムキュールに問う。


それを補完するように、ミモザも続いた。




「……こっちがスパイ行為でアンタを訴えるとでも?


 そんな事すりゃ、アタイらだって同罪なんだぜ?

 ンなバカな事はしないさ」


「そうは言うが、女子供に甘いのは

 世の常だからな。


 例えば、そう―――

 ファジー君だったかな?

 彼に『一緒に来てもらえれば』、

 帰りもスムーズになると思うのだがね」


「―――ッ!!

 てめえっ!!」


席を立ち、詰め寄ろうとするミモザを

フィオナは腕をつかんで止めた。




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │




時を同じくして―――

アルプの実家に近付く、2つの怪しい影があった。


その素顔を隠すように布で巻かれた反面の顔、

そして盗賊を思わせる、動きやすさに特化した

恰好は、少なくとも一般人のそれとは異なる。


その片割れは、アルプの家の方向を双眼鏡らしき物で

ジッと見ていた。


「―――見つかったか? トニック」


「ガキは見つけたが……

 使用人らしき女の子もいる。


 ってか、あんなのいたか? ソルト」


「どれどれ……ホントだ。

 事前情報では、今ここにはミモザの弟しか

 いねーはずなんだがなあ。


 ラムキュールの旦那の情報もアテにならねーな。

 で、どうする?」


「定時連絡の伝書鳩が来なければ―――

 ミモザが裏切ったと見て、弟を『連れて来い』

 との命令だ。


 ま、荒事あらごとにはならねーだろ。

 ファジーってガキと女の子しかいないんだから」


改めてソルトからトニックに双眼鏡が手渡され、

再び彼は視線をアルプの家へと向ける。




「しかしまー、女の方もガキなんだよなー。

 胸が無いのはお呼びじゃないんだよね」


「まったく―――もう少し背が高く成長して、

 鎖骨から胸、胸から肋骨へのラインが美しければ、

 大きさは特に関係ないんだが」


「…………」


「…………」


「この貧乳好きがッ!!

 胸の大きさは重要なファクターだろ!!」


「べべべ別に貧乳好きちゃうわ!!

 トニックこそ胸の大きさだけで女性の

 価値を決めるのは止めろ!!」


奇妙な仲間割れをヨソに―――

『その時』は一刻一刻と近付いていた。




│ ■フラール国・バクシア国代官館  │




「てっ、てめえ……!

 もしファジーに手を出してみろ、

 ンな事したら……!」


「落ち着いて、ミモザ。

 ここで貴女が暴れてしまったら―――

 バーレンシア侯爵だって、貴女を捕まえない訳には

 いかないでしょう。


 そうなったら、ファジー君の元に帰れなく

 なりますよ?」


「……く……っ」


「賢明な判断だね。


 それに―――神様の使いとやらがいるんだろう?

 ならば彼の身は安全なはずだ。


 そうじゃないかね?」


挑発とも取れる態度で、ラムキュールは2人を

見下すような視線を向けた。




「ええ、その通りです。

 ―――行きましょう、ミモザ」


「……とにかく、報告はしたからな。

 コレで仕事終了だ。

 そしてアンタら―――『枠外の者』とは

 もう無関係だ。


 文句があるなら今のウチに言っておきな」


「こちらからも特にありませんよ。

 では、お帰りはお気をつけて」


ミモザがフンッ、と一瞥いちべつして席を立つ。

それに続いてフィオナも立ち上がり、扉へと向かった。


「あ、そうそう。

 言い忘れた事があるんですけど―――」


フィオナが振り向き、ラムキュールに語り掛けた。


「何かな?」


「確かに女神、フィオナ様を含む神様は―――

 人間同士の取り決めには手を出せないし、

 出しません。


 ですが―――

 手を『出された』場合は、その限りではない、と。


 それでは、幸運を祈っております」


うやうやしく一礼すると、元の扉から2人は

退室した。




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │




「―――伝書鳩が来ねぇな」


「やれやれ。

 って事は面倒くさい事になるねぇ」


果樹園の木々の間に身を潜めつつ―――

トニックとソルト、2人の侵入者は次の行動に

出ようとしていた。


「じゃ、とっととファジーってガキを

 『お届け』するとしますか」


「あのシルバーヘアーの少年か。

 出来れば使用人の少女と離れたところを

 狙うぞ」


その言葉を合図にするかのように―――

2人はアルプの家へと距離を詰め始めた。




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │

│ ■アルプの家・食卓       │




「ナヴィ様、お茶でも―――

 ?? どうかしましたか?」


ファジーの方を向こうともせず、

ナヴィは声だけを返す。


「ファジー君、こりぇから言う事を

 聞くでしゅ。

 どこかの部屋に入って、内側からカギを

 かけるでしゅ。


 私がいいと言うまで―――

 出てはいけましぇんよ」


「な、何が始まるんですか?」


「―――ちょっとした、


 鼠狩ねじゅみがりでしゅよ。


 ちょうど大きいのが2匹いるみたいでしゅから」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在1221名―――




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