44・フラグのバーゲンセール
( ・ω・)もう次の人間ドッグの案内状が来た
(歳くうと月日の流れが早い)
日本・とある都心のマンションの一室―――
黒髪セミロングの少女と、それとは対照的な、
和風の佇まいをしして、その長い黒髪を
ポニーテールにまとめた少女が対峙する。
「もうコタツの季節なのですね、
フィオナさん……」
「そーですよ。
ナヴィもスキあらば入っています。
でも最近は、アタシが入る気配を察知して
すぐ出ていってしまうんですけどねー」
女神と悪霊は、広いコタツの上の天板に、
それぞれ上半身を投げ出しながら語る。
「それにしても悪霊ちゃんは……
その格好で寒くないんですか?
確か、下着もつけないんですよね?
ゲヘゲヘゲヘ♪」
「……なぜゲス親父的な口調になるのですか。
……それはもちろん寒いですよ。
でも日本の着物ってそういうものですから。
それに今は、きちんと和服専門の下着も
ありますので……」
下ネタ方面に向かう女神に対し、悪霊は
冷静に切り返す。
しかしフィオナは止まらず、
「特に悪霊ちゃんのその生足!
いやそれが和服の魅力でもあるんでしょうけど、
見ててスゴイっていうか」
「……こればかりはどうしようも……
昔は、防寒対策として猫を飼っているところも
ありましたが……」
不意に話が猫に飛んで、家の主は聞き返す。
「へ? 猫?
ああ、暖かいから?」
「それもあるでしょうが……
ほら、猫って人の足にまとわりついたり
するでしょう。
……遊女などは、それで冬も足を隠さないで
アピールしていたようです」
それを聞いた女神は視線を悪霊と合わせ、
「猫で、ですか……」
「ええ、猫です……」
それを機に会話が途切れ―――
五分ほどして、暖かい軽食を作っていた
お目付け役(人間Ver)がそれを持って
部屋に入ってきた時、
それぞれ上半身を絨毯の上に投げ出している
少女たちを発見した。
銀髪の少年は、ビクンビクンと体を震わせる
その二名を不思議そうに眺めていたが、
「どうしたのでしゅか、フィオナ様。
悪霊さんも」
彼の質問には答えず、二人は体を横たわらせながら、
「うっは……♪
猫が……ナヴィが……美少年が……
足元にまとわりつくって……♪」
「……善き妄想です……
これは……たまりません……♪」
ナヴィは何事か分析していたが、やがて理解を諦め、
「はあ……
しょれではそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■グレイン国・王都ウィーンテート │
│ ■剣闘会会場 │
『ではこれより剣闘会本戦・決勝戦!!
Aトーナメント・Bトーナメントを勝ち抜いた
『フラールの剣聖』……
バートレット・ビューワー伯爵と、
ええと、コザイ国出身・ゲルータとの
試合を始めます!』
審判役の男が選手を紹介すると、
シルバーの短髪に、年齢よりやや幼い印象を受ける
貴族青年と、
その相手……
スキンヘッドの、陰鬱な雰囲気の男がそれぞれ
中央へと歩み寄る。
しかし、観客席からはまばらな拍手が聞こえる
だけで―――
「何というか、静かですね」
「優勝と目されていた方々が、レンジ様を始め
次々と脱落しましたからね。
盛り上がらないのも、仕方の無い事かと」
マルゴットの言葉にレイシェンが答え、
「僕も含めて、勝った人たちも棄権か、
試合続行が不可能だったからねえ。
こんな事になるなんて、誰も思わなかったんじゃ
ないかなあ」
バーレンシア侯爵が、恋人の伯爵令嬢に
寄り添いながら話す。
一方、彼らから少し離れたところで……
白髪交じりの初老の男と、薄い桜色の短髪をした
眼光の鋭い青年が立っていた。
「ガルディ君まで棄権するとはな」
「カンベンしてくださいよ、伯爵。
全力でやってもどうにかって相手に、手負いで
立ち向かったって結果は見えてますって」
それを聞いて、彼の部下である独特のエアリーの
ような髪型の男性が、
「し、しかし……
もう勝負は決まっているような試合、
見る必要がありますか?」
おずおずとたずねる王室騎士団副団長に、
上司であるガルディは、
「だからお前はダメなんだよ。
『フラールの剣聖』の試合だぞ?
めったに見られるものじゃない」
「相手が誰であれ得る物はある。
見届けておくがいい」
マイヤー伯爵も観戦を促し―――
バスタは共に、その試合を見守る事にした。
「うーん。
やっぱり盛り上がらないわね」
「お前の信者だろちゃんと見ろ。
……と言いたいところでしゅが、実際、
先にあれだけの試合を見せられては」
観客席でつまらなそうにつぶやく女神に、
従僕の少年は声をかける。
「ネーブルさんも侯爵様の試合も―――
すごく盛り上がりましたからね」
「シッカ伯爵令嬢の試合もすごかった
みたいですよ!
最後は負けちゃいましたけど……
相手の方も試合続行を取りやめましたから」
アルプとメイ、第一眷属の少年と第三眷属の妹が
興奮気味に語り、
「アレー?
ミモザさんにファジーさんは?」
「交代でネーブルさんのお見舞いに行ってる」
「ずっと試合見てもらっていましたから……」
カガミの疑問にシモンとポーラが返すが、
「えー。
じゃあ何でカガミたちはまだ交代しないの」
赤茶のツインテールの獣人族は不満を口にするが、
「私たちは不穏な動きがあったら、それを止める
役割って言ってたはずでしゅよ。
この試合が終わればゆっくり休めましゅから、
それまでガマンでしゅ」
ナヴィの言葉に、『んー』とやや不満ながらも
納得し、一応黙り込む。
「まあまあ。
もう終わったも同然ですからこれが終わったら
アタシ含めてカップルの皆さんは結婚して
田んぼの様子を見に行った後きっと帰りは
パインサラダが用意してあって」
「流れるようにフラグのバーゲンセールを
始めるな。
それより、ちゃんと試合に集中するでしゅ」
ナヴィの声に、そこにいた全員が―――
眼下の試合場へと集まった。
「キィエーーーッ!!」
「―――!」
「はあぁああーーーっ!!」
「くっ!」
試合は始まったが、大方の予想を裏切り、
バートレットは防戦一方となっていた。
縦に、横に、斜めに―――
力任せに打ち込んでくる木剣は、そのまま
速度を上げ、
「バートレット様!」
恋人である、真っ赤なロングヘアーの女性が
思わず叫ぶ。
「まずくないですか、レンジ様」
「ああ。
あんな攻撃何度も繰り返しちゃ、
自分の腕の方が……」
腕に覚えのある侯爵と伯爵令嬢は、
対戦相手―――
ゲルータ選手の方を心配していた。
「短期戦狙いか?
それにしても無茶な」
「確かにもう後の試合は無いですが、
剣士生命に関わりますよ、こりゃあ」
マイヤー伯爵とガルディ騎士団長も、そも
異常性に気付き、
「何というか、目が……
あのゲルータとかいう男、正気でしょうか」
バスタもまた、その狂暴な攻撃性に目を見張る。
「……!」
「がっ!?」
ゲルータ選手が木剣を振り下ろし、床に打ち付けた
その瞬間―――
そのスキを見逃さず、ビューワー伯爵はさらに
上から木剣を叩き込む。
「しまった!」
距離を取ると同時に、一撃を与えた彼は
声を上げた。
見ると対戦相手の腕が、くの字に曲がっており、
「折れちゃったか。
でもこれで決まり―――」
「……えっ!?」
バーレンシア侯爵とレイシェンは同時に
息を飲む。
腕を折られた男はそれを気にする事無く、
構え直したからだ。
「い、痛みを感じていないのか……!?」
「ガルディ騎士団長!
あれはいったい―――」
「私が知るわけないだろう……!」
彼らに取っても想定外だったようで、
グレイン国の三人は目の前の光景に混乱していた。
「バートレット!!」
マルゴットが叫ぶと同時に、
―――軍神の加護が発動します―――
―――危険レベルが通常を超えました―――
―――軍神の加護(中)が発動します―――
―――危険レベルがさらに上昇しています―――
―――軍神の加護(大)が発動します―――
「こ、これは……!?」
彼の頭に声が響いた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在6551名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。
みなさまのブックマーク・評価・感想を
お待ちしております。
それが何よりのモチベーションアップとなります。





