40・薄い本が厚くなる
( ・ω・)今回もトーリ財閥の3人の
出番が無い(そのぶん楽)
日本・とある都心のマンションの一室―――
黒いカラスのような羽を持った少女が、
家主であろう黒髪セミロングの同性と向き合って
座っていた。
「堕天使ちゃんお久しぶりです」
「お久しぶりです、フィオナさん」
お茶を口にして、女神と堕天使はフゥ、と
一息つき、
「そういえば先週ハロウィンでしたけど……
やっぱり堕天使ちゃんのお店は忙しかった?」
「んー、でも我の店で仮装は日常みたいな
ものですし」
「そういやそうだった」
フィオナの母、アルフリーダが身元保証している
彼女たち人外は―――
秋葉原のメイド喫茶に勤めていた。
「でもそういうのって―――
返ってやっぱりやりにくいものですかね?」
女神の問いに、堕天使は指を立てて
振り子のように振り、
「それがですね。
一応コスプレはしていたんですよ」
「ほほぉ、どのような?」
興味津々で身を乗り出すように迫るフィオナ。
それに対し彼女は、
「んー……まあ、ですね。
チャイナドレスとかOLとか、
女学生とかキャビンアテンダントとか……」
「何か原点という感じですね」
目を線のように細め、うなずく女神に
堕天使は続けて、
「それが返って新鮮に見えたのか、
お店は結構忙しくなりました」
「そうだったんですかー」
話が一段落したところで、今度は彼女の方から
フィオナに迫り、
「そ・れ・じゃ・あ……
フィオナさんの方のお話をお聞かせ願い
ましょうか……♪」
「フフフ……
焦る事はないですよ堕天使ちゃん。
何でも言う事を聞いてくれる弟夫、
その素晴らしさを余すところなく教えて
あげましょう」
そこへ銀髪の従僕の少年、ナヴィがお茶の
お代わりを持ってきていたが―――
「おい止めるでしゅバカ、と言いたいところ
ですが……
まあ異世界の出来事なので問題は無いでしゅか。
それじゃそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■グレイン国・王都ウィーンテート │
│ ■剣闘会 会場 │
「ではこれより剣闘会本戦―――
Bトーナメント準決勝!
『バクシアの鬼神』……
レンジ・バーレンシア侯爵と、
本国グレイン出身、
リーゾット・マイヤー伯爵との
試合を始めます!」
青みがかった短髪にフォックスタイプの眼鏡、
そのレンズの向こうから三白眼がのぞく男が、
まず試合の檀上に歩み出る。
次いで、白髪交じりの―――
痩せ過ぎとも思える顔とは裏腹に、筋肉質の
体を持つ初老の剣士が同じ檀上へと上がり、
互いに一礼すると、会場は大きな盛り上がりを
見せた。
「お手柔らかに頼むよ、侯爵様」
「手加減出来る腕前ならそうしますよ。
数試合見させて頂きましたが―――
各国から集まった腕自慢どもに、実力の半分も
見せていないでしょ」
声は檀上の外に出る前に歓声にかき消され、
二人にしかわからない会話となる。
「そういう君も、全力で戦う相手は
いなかったように思えるが」
「緊張して思うように動けなかっただけですよ。
何せ僕、こんな大舞台に出た事は無かったので」
侯爵の受け答えに伯爵はフッ、と笑い、
「実力に相反してどこまでも謙虚。
若い連中に見習わせたいくらいだ」
「僕の方からも一ついいですか?」
ン? とその問いにマイヤー伯爵は、
数秒立ってから同意のように首を縦に振ると、
「……ありがとうございます。
レイシェン―――
シッカ伯爵令嬢からもあなたの事は
聞いています。
また数試合ですが、あなたの剣を見て、
ご自分によほど厳しい修練を課した事も」
「…………」
初老の男は、青年の言葉を黙って聞き続け、
「だからこそ疑問なんですよ。
どうしてあなたほどの人が、『新貴族』
『枠外の者』に加担しているのか」
「そう、だな。
お互い、剣に対して―――
ひとかたならぬ思い入れがあるだろう。
剣で聞いてくるがいい……
というのではダメかね?」
マイヤー伯爵の提案に、バーレンシア侯爵は
苦笑し、
「わかりました。
語って頂きましょう」
「せいぜい聞くがいい、若いの」
そしてお互い距離を取り―――
試合開始の合図を待った。
「おーイイですねー。
アラフィフとアラサーのカップリング。
これは次の薄い本が厚くなるわぁ♪」
「?? どうして本が……」
「はいアルプ様!
試合に集中しましょう!!」
フィオナの言葉に第一眷属の少年が首を傾げ、
メイが慌ててフォローに入る。
「しっかし、あのじじぃマジで強いぞ。
ここまでほぼ無傷だし」
「侯爵様、負けないよね?」
ミモザの言葉に、弟のファジーが彼女の肩に
しがみつく。
「つーかグレインの貴族様って、
こんなに強いのか?」
「こっちも十分異常だと思います……」
さらにその隣りのカップル、シモンとポーラが
試合場を眺めながらつぶやき―――
「……始めっ!!」
審判の掛け声で―――
檀上の侯爵と伯爵は、互いに剣先を相手へと
向けた。
「―――ッ!」
「ハッ!!」
伯爵が接近と同時に槍のように繰り出す木剣を、
侯爵は合わせる事なくかわす。
かわした動きの延長で反撃に転じ、
今度は初老の男がそれを弾き返す。
「……フム。
粗削りかと思いきや、対人対策も
しっかりとされている。
フェイントにまったく引っ掛からん」
「視線より先に気配を読ませてもらって
ますから。
それを差し引いてなお―――
回避には全力を使っていますけどね」
ネーブルとバスタの時とは異なり、
激しい打ち合いこそ無いものの……
両者とも体力より神経をすり減らし、
肩で息をし始めていた。
「侯爵様……!」
「何て戦い……」
同じBトーナメントの出場者である、
ビューワー伯爵と、その隣りにいる
マルゴットが思わず声を上げる。
試合前までいたレイシェンとガルディは、
Aトーナメントでの出場のため、そちらへ
戻っていたが、
バーレンシア侯爵とマイヤー伯爵の試合は、
観客の注目をほとんど持って行く形で、
選手たちもまた釘付けになっていた。
「マイヤー伯爵が本気を出しているなんて、
何年ぶりに見るかねえ?」
ピンクとホワイトの中間色のような短髪をした
王室騎士団長は―――
軽口を叩く一方でひとすじの冷や汗を流し、
「10年前なら、マイヤー伯爵様が
勝っていたでしょうね。
ですが今の侯爵様は、軍神にも認められた方……
1対1なら負ける事はまずありませんわ」
レイシェンが、煽るでもなく余裕でもなく、
まっすぐな瞳で戦いを分析する。
「軍神……
彼らに稽古を付けていたあの男か。
そういえば、彼はどうしてこの剣闘会に
出場しなかったのだ?」
「ご存知?
神様って、人間のする事にはあまり
介入出来ないそうですよ?」
その答えにガルディは苦笑し―――
二人で試合の行方に目を戻した。
「うおー。
何かスゴいね。
でもこのままなら、侯爵様の勝ちかな?」
カガミは一緒にいるナヴィに話しかけるように、
試合の感想を述べ、
「わからないでしゅね。
体力勝負なら若い侯爵に分があるでしょうが、
もはや精神力の勝負に入ってましゅから。
そうなると経験の多い方が有利でしゅ」
その言葉に赤茶のツインテールの獣人族は、
『おおー』と感嘆の声を上げ、
また二人が切り結ぶ度に―――
観客の興奮と歓声は高まっていった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在6521名―――
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