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11・ご対面



日本、とある都心部のマンションの一室。


その部屋の主人である少女が戻るのを、

ペットらしき一匹の猫が出迎える。


「ただいまー」


「お帰りなさいませ、フィオナ様。

 ―――どうかしたのですか?

 どこかお疲れのようですが……」


「あー、別にどうって事はないんだけど。

 占い師っていうか、変なのに絡まれちゃって」


「占い、ですか。

 いったい何を?」


質問と同時にナヴィは首を傾げ、先を促す。


「何かね、『貴女の前世がわかる』とか言って

 呼び止められたんだけど。


 面倒くさいんで受けてあげたら、

 『包み紙!? アメの包み紙!?』

 とか叫んで混乱してたんで、そのまま

 帰ってきちゃった。


 季節の変わり目とか多いんですよねー」


「この場合、その占い師の人の能力は

 本物だったんじゃないでしょうか?」


「あー、そういえばママ、

 まだアタシの前世戻してないのかなあ」


「人じゃないっていうか生き物ですら

 ないですからね。

 そりゃ混乱もするでしょう。


 では、そろそろ本編入ります」




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │

│ ■アルプの家・食卓       │




ミモザの告白から3日後―――


ファジーにも事情を説明し、依頼主である

ラムキュールに全てを説明する、そして

契約を破棄、もしくは怒らせて向こうから

断らせるという方向で話はまとまった。


その話し合いに、ファジーも付いて行くと

言い出したのだが―――


「……どういう事!? ミモザ姉!」


「いやー、アンタの分まで全部洗濯しちゃってさあ。

 あいにくそれしか残ってないんだ」


黒を基調としたロリータコーデに身を包みながら、

ファジーは抗議の声を上げていた。

丸襟ブラウスにジャンパースカートを合わせた

それから、白く華奢きゃしゃな足がのぞく。


「そんな偶然っ!

 あるわけが―――」


「ん? じゃあその恰好でバーレンシア侯爵の館まで

 来てもいんだよ?」


怒る弟分とは対照的に、ミモザは微笑んで

勝ち誇ったかのように言い返す。




「う~……っ」


「まあまあ、ミモザさんにはアタシが

 同行しますので―――

 ファジー君は、ナヴィとお留守番を

 お願いします」


「家の中だけなら、誰にも見られないので

 大丈夫でしゅよ。

 ここはフィオナ様とミモザしゃんに

 任せておくでしゅ」


「むー……」


納得出来ない、という態度を隠そうともせず、

それでも打開策は見つからないので―――

頬を膨らませたまま、彼は2人を見送る事にした。




│ ■フラール国・バクシア代官館への道中  │




アルプの果樹園から、2人は徒歩でバーレンシア侯爵の

代官館へと向かっていた。


「そういえばさ。

 フィオナ様の事、どう言えばいいんだ?」


「?? どう、とは?」


「いやだって、『こちら神様になります』

 なんて言っていいのかい?


 そりゃあの降臨とか目の前で見せてくれりゃ

 一発だろうけど」


「んー……でも今回の主目的というかメインは、

 相手を『怒らせる』か『あきれさせる』

 ですからねえ。


 それに、本来人間同士の取り決めには、

 口を出せない決まりになっていますので……」


人間以上の存在に、必要以上に関わらせてしまって

いる事を、ミモザは自覚させられる。




「……そうだったね。


 じゃあ、恐れ多いけど―――

 アタイと一緒に果樹園で働いている

 同僚って事にしていいかい?」


「構いませんよ?

 他に注意する事は」


「―――決して、油断だけはしないでくれ。


 『枠外の者』の考えはわからねーけど、

 一筋縄ひとすじなわでいくような人間じゃないのは確かだ。


 言葉の裏に何が潜んでいるかわかったもんじゃない。

 くれぐれも、うかつな受け答えは避けて欲しい」


「わかりました。

 ―――そろそろ、見えてきましたね」


そして彼女たちは目的地―――

バーレンシア侯爵の代官館へとたどり着いた。




│ ■フラール国・バクシア国代官館  │




「―――待たせたかな。


 今日はファジー君は一緒ではないのかね。

 そこのお嬢さんは?」


グレーがかった髪を持つその男は―――

相変わらず不健康そうな細面から、鋭い視線を

投げかけながら席に着いた。


「(……どうだい? フィオナ様)」


「(これはなかなかのハンサムさんじゃ

 ないですか。

 アタシのジャンルに加えなければ。


 これだけの美形さんはきっといい人で味方だ

 きっとそうだそうに違いないアタシはそう思う)」


「(油断すんなって言ったよね?

 アタイ、確かに言ったよね?


 ねぇ?)」


2人が小声で話し合うのを前にして、男は

鋭く静かな眼光と共に声を投げかける。




「それで、あの報告は―――

 部外者にするような話では無いと思うのだが」


「あ、ああ。えーと」


ミモザに対し、ラムキュールは当然の正論を

突き付ける。


「あ、いえ。

 アタシはミモザの同僚で……そして証人です。


 女神・フィオナ様から―――

 そう言われてきておりますので」


「……んん?」


怪訝けげんそうに、声と共に彼は疑問を返す。


「証人、とは?」


「ああ、女神・フィオナ様から―――

 全て正直に話しても構わない、そう言われて

 来たんだよ」


「女神?

 フィオナ様?


 ああ、確かそういう名前の女神様の眷属、

 という『設定』だったかな。


 ―――いいだろう。

 聞かせてくれたまえ」




―――ミモザ説明中―――




「……って訳なんだけどさ」


「ふむ」


否定も肯定もせず、ラムキュールは目を

閉じていた。


「神の使いとやらのナヴィ様が現れ―――

 それに続いて女神・フィオナ様が降臨―――


 すごい奇跡に立ち会ったものだね」


皮肉、そして若干の呆れを込めて彼は返答を

声にする。


「ウソは言っちゃいないよ。

 全部本当の事さ」


「彼女の言う通りです。


 どのような金剛石ダイヤも、可憐かれんな美しさを持つ花も

 くすんでしまうような美貌びぼう、そして大らかな

 包容力を持った女神・フィオナ様は確かに

 降臨されました。


 そして彼女に全てを告げ―――

 全部を話してくるようおおせになったのです」


フィオナの言葉に、深いため息をついて

ラムキュールは応える。




「―――そうかね。


 では、神様とやらがいらっしゃるのであれば―――

 無礼にも彼女たちの身辺を調べていた我々は、どんな

 天罰を受けるのですかな?」


「それは無いと言っていた。

 何でも、人間同士の取り決めには手を出せない

 決まりなんだとさ」


「それは、それは。


 ―――で、今、その果樹園には

 神の使いがいらっしゃる、と。


 大変結構な事だよ」


「何が言いたいんだ?」


その言葉に不穏な空気を感じ取ったミモザは、

敵意にも似た感情を込めて返した。




│ ■フラール国・アルプの果樹園  │

│ ■アルプの家・食卓       │




「―――来た、ようでしゅね」


「?? 何がですか? ナヴィ様」


おもむろに顔を上げたナヴィを不思議そうに

ファジーが見つめる。


「ファジー君はなるべく家から出にゃいように

 お願いしましゅ」


「?? 言われなくたって出ないです。

 こんな姿で―――」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在1203名―――



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