32・アグレッシヴビーストモード
( ・ω・)今回はちょっと長め。
(安定して書けない)
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主と思われる、黒髪セミロングの少女と、
シルバーの長毛種の猫がリビングでくつろぐ。
「あ~……
ようやく涼しくなってきた感じですねえ」
「そうですねえ。
いくぶん、パトロールもしやすくなって
きています」
フィオナはスマホの画面を見て寝転び―――
ナヴィは毛づくろいをしながら語り合う。
「パトロールですか。
外に出る猫はナワバリで巡回するって
よく聞きますけど。
何か変わった事とかあります?」
「ん~……
最近は邪神たちも仕事に就いておりますので、
これと言って問題は。
あ、でも―――
新たな人外が噂を聞きつけているとかで、
ご主人様から注意を受けています」
その答えに少女は体勢を仰向けからうつ伏せへ
立て直し、
「ん? ママから?
いったいどんな」
「たいした事では無いのですが、今ルールー家は
五人の人外の身元保証をしております。
なので、そこに頼めば自分たちも保証して
もらえると……
そんな噂が出回っているようでして」
ナヴィの返しに、フィオナはあぐらをかいた
状態で両腕を組み、
「いや何じゃそりゃ。
いくらウチでも、無制限に引き受けるわけじゃ
ないデスヨ」
「そうなんですよねえ。
酷いところになると、『住み込みで三食昼寝、
あと美少年付き』と噂になっているようでして。
困ったものです、まったく」
女神はスマホの画面を見ながら、
「何ですかそれはもー。
そんなオイシイ案件なんてあるわけないっしょ」
手元の画面を操作しながら、何かのアプリで
遊んでいるであろう女神を見て―――
彼はたそがれながら、
「まったくもってその通りでございますね。
それではそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■グレイン国・王宮中庭施設 │
│ ■バーレンシア侯爵一行宿泊部屋 │
「えーと……」
「……ハハ……」
青みがかった短髪の侯爵がその眼鏡を直し、
隣りで金髪ロングの女性騎士といった感じの
伯爵令嬢が、困ったような微笑みを浮かべる。
「記憶が無いのは申し訳なく―――
いえ、責任を取らないという選択肢は
ありませんが」
「い、いえ……
私にも何が何だか、ですので。
まだそうと決まったわけでは」
同じフラール国出身の、シルバーの短髪の伯爵の
青年と、真っ赤なロングの髪を持つ豪商の娘が、
視線をそれぞれ上下逆に向けて語る。
「いやまあ何だ、その」
「わたしどもはまだいいとしましても」
黒髪・褐色肌の少年と、銀のロングウェーブの髪の
第三眷属の少女は、コホンと咳払いし、
「あのう、どうしてフィオナ様とメイさんは、
裸で僕のベッドで寝ていたんですか?」
「ミモザ姉もそうだったけど―――
昨日の夜ってそんなに暑かったっけ?」
グリーンの瞳と短髪を持つ第一眷属の少年と、
ブラウンの短い髪の第二眷属の少年は―――
話す相手に視線を向ける。
「え? あ、いやぁその。
あ、暑かったんでしょうかねえ。
それで一番安心というか、落ち着くアルプの
元へと」
「わ、わたくしもそんな感じでぇ~。
つい無意識に?」
女神・フィオナと、姉と同じ髪を持つ第三眷属の
妹・メイは焦りを隠しながら答え、
「そ、そう!
アタイも暑いなーと思ったら、いつの間にか
ファジーのベッドにいたんだ!
無意識だよ、無意識!」
首まで伸びた弟と同じブラウンの髪を
いじりながら、ミモザも返す。
「無意識ですかー。
それなら仕方ないですね」
「僕も暑かったのか、いつの間にか脱いじゃってた
みたいだしー」
アルプとファジーはあっけらかんに話す。
「……私も、昨夜はシンデリン様と
ベルティーユ様の侵入を許してしまった
ようですが―――
初めてではないにしろ、お2人ともその、
服を着ていなかったというのはどういう……
いえ、私もなのでそこは強く言えないのですが」
黒髪黒目の従者の少年が、頭を抱えながら
主筋の二人に向かい、
「え? あー、うーんと。
実は私も記憶に無くってー」
「……不覚……!
記憶さえあれば、既成事実にしてる……!」
同じ長いバイオレットヘアーを持つ姉妹が、
一方は明後日の方向を、一方は握りこぶしを
作りながら語る。
「どうなんでしゅかね、これ」
「カガミ、まだ子供だからわかんなーい」
獣のような縦線の瞳を持つ従者と、赤茶の
ツインテールの獣人族の少女が―――
観客のようにその光景を見守っていた。
「まあ、別に攻撃を受けたわけでもないし、
敵のした事でも無ければ、そう警戒しなくても
いいんじゃないかな?
その、何だ―――
レイシェン・シッカ伯爵令嬢」
「ははいっ!?」
バーレンシア侯爵の問いに、彼女は振り向き、
「一応、その、『するべき事』は、本国へ
帰ってからで……いいかな?
さすがに経緯がわからないとはいえ、
僕だって男―――
あ、もちろん君の意思は尊重するけれど」
「よ、よろしくお願いしますっ!!」
事実上のプロポーズに、レイシェンは深々と
頭を下げる。
「マルゴット・グラノーラ令嬢」
「え? は、はい」
ビューワー伯爵の声に商人の娘は返事をして、
「全ては剣闘会が終わってから、
こちらから」
「ふ、不束者ですが―――
どうぞ末永く」
伯爵青年の前で、顔を真っ赤にした彼女が、
ブンブンと首を上下に振る。
「あのさ。
いいのか、ポーラ?
俺、青果店の跡取り息子だけど」
「わ、わたしだって別に平民ですし……
それに今や高級青果店『パッション』は、
各国の上流御用達のお店。
お父様、お母様も承知してくださると
思いますわ」
シモンが頭をかきながらたずね、ポーラは
それに合意する。
「?」
「??」
アルプとファジーはどういう事かわからず、
目をぱちくりさせていたが、
「で、では―――
アタシたちはまた、女性でしか扱えない品に
ついて話し合いますのでっ」
パンパン、と手を叩く女神の言葉に、
「わかった。
じゃあ、ビューワー伯爵、ネーブル君。
稽古にでも」
「はい」
「わかりました」
そこで剣の使い手である男性陣は退室し、
「じゃあ俺は、厨房の手伝いにでも―――」
「あ、それなら僕も」
「ボクもお供しますっ」
シモンの後に、アルプ・ファジーが続き、
「私は、その辺りを見回ってくるでしゅ」
ナヴィも去り、後に残された女性陣は互いに
顔を見合わせ―――
「どゆこと?
どゆこと!?
どーゆーこと!?」
「お、落ち着いてください女神様」
「私たちにも何が何だか……」
「でも記憶がその、あまり」
フィオナの問いに、レイシェンとマルゴット、
ポーラは頭を抱え、
「いやその、あの状況は誰がどう見たって、
言い逃れの出来ないものでしたけど」
「……記憶が……無い……!
これは致命的……!」
シンデリンとベルティーユが微妙な表情で、
自分たちの身に起きた事を語る。
「フィオナ様ぁ~。
アレって本当に『媚薬』だったんですかぁ?」
メイがジト目で非難するように話すが、
「そ、そのはず、ですけど……!
そうだカガミさん!
確か混ぜるのはお任せしましたよね?」
「そだねー。
この屋敷の人の目を盗んで、ちゃんと
夕食に混ぜたし。
あ、でも―――
監視役の人もいたはずだけど」
フィオナの問いにカガミが答えると同時に、
シュタッ! と複数の侍女とメイドらしき
女性が姿を現す。
「それにつきましては……」
「どうも私たちもその料理を食べてしまって
いたようで―――
記憶が抜け落ちているのです」
そこでレイシェンが獣人族の少女へ詰め寄り、
「どうして彼女たちの夕食にも!?」
「あー、来客用と使用人の人たち用の区別が
つかなかったから?」
全員が視線を落とす中、マルゴットがハッと
なって、
「まさか、グレイシア王妃様の食事にも……?」
「あ、いいえ―――
王妃様はすでに本王宮へ戻っていたはず
ですので」
伯爵令嬢の答えにみんなホッとするが、
「それにしても、今回のような事態は
いったい―――」
ミモザが独り言のようにこぼすと、
『あー、フィオナちゃん?
アレ、媚薬じゃないわよ?
似たようなものだけど』
室内に、アルフリーダの声が響いた。
「マ、ママ……!?
いえ、それより―――
アレって媚薬じゃなかったんですか!?」
その質問の答えに、室内の全員が神経を
集中させる。
『アレはねえ……
媚薬、というより、自分に素直に正直になる、
みたいな?
口には出さないけど実は好きだったとか、
そういう場合はそのまま一直線ね』
ざわざわと、室内にどよめきが広がり―――
『だからねー。
潜在的にも相思相愛だと、そのまますんなり。
バーレンシア君とレイシェンさん?
ビューワー君とマルゴットさん?
シモン君とポーラさん?
あとファジー君とミモザさん。
この辺りは鉄板で決まりかしら』
名指しされた女性陣は、戸惑ったり照れたり、
喜びを表現したりする。
『それでまあ、近くに対象がいなかったりすると、
効果は無いのよね。記憶が無くなるだけで……
使用人の人たちは多分それ。
あ、あとナヴィは混ぜられた食事を
避けているから』
「んむううぅう~。
なかなかやるわね。
……ってアレ?
アタシやメイさん、それにこちらの
姉妹は―――」
女神の質問に、名指しされなかった彼女たちは
次のアルフリーダの言葉を固唾を飲んで待つ。
『あー……
男1人に女2人の場合かあ。
言いにくいんだけど、この木の効能って
ちょっと変わってて―――
1対1じゃないとその、相手を満足させようと
返って本物の媚薬に近くなっちゃってね』
シンデリン・ベルティーユはおずおずと
片手を挙げて、
「えーと、つまり?」
「……その意味するところは……」
そこでいったん間が置かれ、次に女神の母親から
聞かされたのは、
『いやー私も時々パパ相手にこれ使ってるのよ。
イリュージョンで幻影見せて、私を複数に
見せたりして―――
そうするともうアグレッシヴビーストモードに
なって何ていうか失神するまで』
「ストップ!! ママストーップ!!
ここ18禁じゃないから!!」
「カメラさん止めてください放送事故です!!」
フィオナとメイが両手を上げて制止し―――
室内の温度が一気に高まった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在6452名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
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