10・パートナーは?
日本、とある都心部のマンションの一室。
PCを前に、考え込む女神・フィオナ。
そしてそれを見守るお目付け役猫・ナヴィ。
「何をしてらっしゃるんですか?
お悩みでもあるんですか」
「あ、いえ。
『アンカー』の事なんですけど……
もっとこう、効率よくリスク無く洒落ていて
それでいてシンプルで簡単に解決策を見つける方法は
無いのかなー、って」
「どこまで都合良くハードル上げる気だ。
『アンカー』だからこそ、柔軟な対応を
してくれていると思いますが―――
まあ、ご自分で検索なり何なりしてみたら
いかがですか?
せっかく『ぴぃしぃ』があるのですから」
その言葉に、すかさず女神は自分のPCと向き合う。
「おっけーグー〇ル!
『おいしい温泉卵の作り方』……っと」
「企業名は止めてください。
あと何検索してやがる」
「まあそういう事で」
「どういう事なの?
そろそろ、いい加減に本編入りますね」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家・食卓 │
「ね、ナヴィ。
『アンカー』の反応は?」
「ちょっとお待ちを。
今、フィオナ様の部屋との神託を繋いで―――
お、書き込みがいくらか来てましゅね」
ミモザや、この世界の人間ではわからない
概念の言葉で、女神と神の使いは会話を交わす。
「質問は―――
『枠外の者との手の切り方・断り方』……
「『アンカー』、今回の指定は新スレ100。
―――しゃて、回答は」
>>100
【 正直に全部話す 】
「……へ?」
その返答に、ミモザは言葉を失った。
【 ウソはいけないと思います(棒) 】
【 手切れ金はあるんだろ? ヘーキヘーキ 】
【 正面突破だ!(適当) 】
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「あの、フィオナ様……
いくら何でも、それは」
アルプの母、ソニアが不安そうに声を上げる。
つられて、アルプもまた不安気に神託に耳を傾ける。
「フーム」
ローンは、一人大きく頷いた。
「確かに、悪くない手かも知れません」
続いて、マルゴットも同意するように言葉を続ける。
「どういう事ですか? マルゴット」
「まあ、商売や契約ではよくある事なのよ。
こういうふうに、『わざと』するのは」
「わざと?」
疑問をそのままアルプが口にする。
「ワシとグラノーラさんは商売人じゃからな。
言いたい事はすぐにわかった。
つまり―――
『正直に全部話す』というのは、フィオナ様や
そこにおられる神の使い、ナヴィ様の事も話す
という事になる」
「だ、大丈夫なんですか?」
「ミモザさんは、報告とやらをしなければ
ならないのでしょう?
神様の使い・ナヴィ様がおられ―――
さらにそこへ女神・フィオナ様が降臨された。
全てを見通した上で、全部話してきても構わない、
と―――
そう正直に書いた報告書を持って行ったら、
『枠外の者』はどう反応すると思います?」
「あ―――」
そこで商売人ではないアルプとその母、
そしてバートレットも、ようやく理由を
納得した。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家・食卓 │
「―――まあ、アタイだったら信じねーわな。
この目で見ても、まだ信じられねーんだから。
もしかしたら、向こうから怒って契約破棄して
くれるかも……
ウン! 何だかうまくいく気がしてきたぜ!」
ここでやっと、ミモザの顔に明るさが戻ってきた。
「だけど、先に謝っておくよ。
最初は何て事言いやがるんだ、とか
思っていたからさ―――
神様ってのは、やっぱり深い考えが
あるんだね」
「ふ、ふふふ、見ましたか!
このアタシの深謀遠慮を!
(ああ良かった。またいい方向に解釈してくれて)
ああ良かった。またいい方向に解釈してくれて)」
「ほら、しょの滝のような汗を拭くでしゅ」
「……あとさ、アルプさん?
どうやって話しているのかわかんないけど。
アタイらの事―――いいのかい?
許してくれるのか?」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「フィオナ様がお認めになっているんでしょう?
それなら、眷属である僕が口を挟む事はありません。
これからも、よろしくお願いします。
―――お金? ですか。
前借り?
別に返す必要はありません。フィオナ様のおかげで
得たようなものですから。
それに―――僕も『枠外の者』については
思うところがありますので……」
アルプは視線を一瞬母親に移すと、彼女も
微笑みでそれに応えた。
「あらあら、いつまで起きているんですか、
皆さん。あなたまで―――
アルプちゃんも明日からシモン君のお店に
働きに出るんでしょう?
そろそろ寝ないとダメですよ」
そこへ祖母であるクレア・ボガッドが、
夜更かしをたしなめに現れた。
「ん……そういえば、ふぁあ……
ごめんなさいおばあ様、そろそろ……
……はい、フィオナ様。おやすみなさい……」
そこでバクシアとフラールの間で交わされた
神託は切られた。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家・食卓 │
「さて、と……
あとはいつ、アイツに断ってくるか、
だなあ」
「アイツ?」
ミモザは面倒くさそうに、『枠外の者』の
顔を思い出していた。
「アタイの依頼主の『枠外の者』さ。
ラムキュールってんだが……
報告書も提出しなきゃいけないし、
一度バクシアの代官の館で会わないと」
「バーレンシア侯爵の館でしゅか」
「まあ、代官様の館だからね。
妙な真似はしないと思うけど。
念のため、ファジーはココに置いていくよ」
ミモザの言葉に、ナヴィが不安そうに反応する。
「ふみゅう……という事は一人でしゅか。
誰か同行した方がいいかもしれましぇんね。
でもファジー君が残るとなりゅと、ここにも
誰か一人いた方が」
「あ! じゃあナヴィが行ってくれば?
アタシはファジー君見てるから―――」
「……ちゃんと面倒見れるんでしゅか?」
「もちろん!
お風呂から着替えからトイレのお世話まで」
「へ?
あの、そこまで子供じゃないんだけどさ」
「……ミモザしゃんはフィオナ様と一緒に
行ってきてくだしゃい。
ファジー君は私が見ておきましゅから」
「何でっ!?」
抗議の声を上げるフィオナに、ミモザも続く。
「いや、アタイもどちらかと言うと、
男の人についてきてもらった方が―――
その方が交渉で舐められない気もするし」
「そうとも思うのでしゅが。
鼠を捕まえるのは、猫の役目でしゅので」
「「??」」
ナヴィの言葉に、フィオナとミモザは顔を見合わせた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1191名―――