12・……お触り……厳禁……!
( ・ω・)コロナ予防接種した腕にまだ
違和感。
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主と思われる、黒髪セミロングの少女と、
ペットと思しきシルバーの長毛種の猫がリビングで
くつろいでいた。
「……何をしてらっしゃるんですかフィオナ様?
またマルチプレイですか?」
「いやー周回前提でやってるんですけどね。
邪神ちゃんたちが協力してくれるおかげで、
ママとしていた時よりめっちゃ効率上がって
ますよ」
お目付け役(猫Ver)であるナヴィの問いに、
女神がスマホから顔は上げずに答える。
その画面をナヴィがのぞき込むと、
「あー、今やっている人たちですか?
……どれが誰ですか?」
ゲーム上、本名では無いのは知っているものの、
そのどれもが彼には理解し難く―――
『宇宙人に毛が生えた程度』
『触手は問いません』
『我はもう足を洗ったんですよ刑事さん』
『押してダメなら押し倒せ』
『真・台風13号』
その画面に表示された名前を見てナヴィは悩むが、
「あー、これはですね。
『宇宙人に毛が生えた程度』
→邪神ちゃん
『触手は問いません』
→サキュバスちゃん
『我はもう足を洗ったんですよ刑事さん』
→堕天使ちゃん
『押してダメなら押し倒せ』
→悪霊ちゃん
『真・台風13号』
→ワーフォックスちゃん
という事になっています」
どういうネーミングセンスなのか理解を放棄した
彼は、改めて女神の方を向き、
「それでフィオナ様は?」
「いや一番上のプレイヤー表示の名前ですよ。
『神になるのだ』です!」
どうツッコんでも負けのような気がしたナヴィは、
涼し気な表情でスルーし、
「今は参加されていないようですが、
アルフリーダ様は?」
「ママは、『七つの大罪を一人で背負う女』
という名前でプレイしています」
いいのかそれは、という表情の彼に女神は、
「以前はパパにちなんだ名前でやっていた
そうなんだけど、それは恥ずかしいから
止めてくれって言われて変えたんだって」
「それはどのような……
あ、やっぱりいいです。
それじゃそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■グレイン国 │
│ ■王都ウィーンテート │
「……まさか、グレイシア王妃様直々に、
とはねえ」
立派な武装をした騎士たちに守られるようにして、
王都の道を進む一行があった。
フォックスタイプのフレーム眼鏡に、頬にクロスの
傷を持つ、青みがかった短髪の侯爵が―――
周囲のメンバーに確認するようにつぶやく。
「それだけ―――
バーレンシア侯爵様を高く評価しているのだと
考えられます」
長い金髪をなびかせた、いかにも女性騎士といった
風体の伯爵令嬢が答え……
「国内に入るなり、王室騎士団が出迎え……
本気過ぎるでしょ。
そして王都内、王宮前から今に至るまで
護衛付き」
「……いったん、トーリ財閥の王都内屋敷に……
というのも……
『まずは王妃様にあいさつを』で断られた……
……よっぽど、すぐ会いたいんだと思う……」
バイオレットのロングヘアーをした姉と―――
それと同じ色の髪を身長と同じくらいまで伸ばした
妹が、同時にため息をつく。
「しかし―――
『バクシアの鬼神』、『フラールの剣聖』……
お二人とも、グレイン国にもその名を知られて
いたのですね」
真っ赤なロングヘアーの豪商の娘が二人へ
向き直る。
「ふーん。
確かに2人とも強そうだもんね」
赤茶のツインテールの獣人族の少女が、
シッポを揺らしながら感想を語る。
「そんな二つ名があったなんて、初めて
知りましたよ」
少し眉間にシワを寄せて、銀の短髪の伯爵が
深く息を吐く。
「で、でもネーブルさんは護衛だからいいと
しても―――
俺やお嬢、ポーラはこのまま同行しても
大丈夫なのか?」
ブラウンの肌の、短い黒髪をした少年が
不安そうに話す。
それに対して、黒髪黒目の少年が、
「特に何も言われませんでしたし―――
何かあればどこかで止められるでしょう」
「出迎えがあったとはいえ、命令に等しい
ですからね……
こちらは従ったまでですから、問題には
ならないかと」
銀のロングウェーブの髪を持つ、第三眷属の
少女が続き―――
騎士団に先導されながら、彼らは進んでいった。
│ ■グレイン国・王宮中庭 │
10分ほどして……
広大な庭の敷地内にある三階建ての施設で、
バーレンシア侯爵一行は跪いていた。
「このような粗末な小屋でお迎えしてすみません。
ここは、庭の休憩所のようなものでありまして、
身内くらいしか使う者がいない場所なのです。
どうかお気を悪くなさらず」
豊かな長い黒髪をまとう、外見的にはアラサーと
思える、高貴そうなドレスに身を包んだ女性が、
一段高いところから彼らを見下ろす。
そしてもちろん侯爵のメンバーで……
グレイシア王妃の言葉を額面通りに受け取る者は
いない。
『身内くらいしか使う者がいない』―――
王妃がそう言う意味は、王家の人間か、それに
近い者しか入れないという事である。
そこに呼ばれたという事は、身内と同じくらい
信用し、また認められたという意味でもあった。
「まずは先日の、フラール・バクシア両国の
結婚式にご出席頂きまして―――
感謝の意をお伝えに参りました。
婚姻の儀の担当として、また責任者として
このレンジ・バーレンシア……
心より御礼申し上げます。
両国の王家からは、後日正式な使者が
送られてくると思いますので」
まずはバクシアの侯爵が代表として礼を述べる。
「―――大儀でありました。
さて、堅苦しいのはここまでにして……」
王妃が、他の貴族令嬢と見られる女性やメイド、
侍女、女性騎士の面々と一行に歩み寄り、
「??」
「どうかされましたか?」
グレイシア王妃をトップとする集団が、
バーレンシア侯爵とビューワー伯爵を取り囲み、
「あ、あの」
「何だ……何でしょうか?」
他のもう一つの女性集団が、ネーブルとシモンの
周囲に集まる。
「いえ、今を時めくバーレンシア侯爵殿を
一目見たいという者が多くおりまして。
こうしてお近付きになる機会をと所望されて
いたのです」
「し、失礼ですが……
僕たちはいったん身支度を整えるために、
どこかへ立ち寄る時間が無かったので―――」
「少々汗をかいております。
あまり近付かれると」
貴族位二名の男性の言葉に、一番位の高い女性は、
「いえ、急がせたのはこちらでございますゆえ。
一向に構いません」
グレイシア王妃は持っていた扇子で口を隠しながら
大きく息を吸い―――
他の女性陣もラジオ体操のように深呼吸する。
「そ、そちらが気にしなくてもですねっ、
ダメですよ彼の匂いはわたくしだけの―――
ってそういう事ではなく……!」
レイシェンが何とか体を張って集団と2人の
間に入り……
その光景に侯爵と伯爵が戸惑っていると、
もう一方の人だかりから、
「ちょっと離れてくれませんこと!?
このコはトーリ財閥の護衛なんですからね!?」
「……お触り……厳禁……!」
シンデリンとベルティーユがネーブルに群がる
女性たちを引きはがし、
「わたしたちはただの付き添いであって……!
シモン君は観賞用でも売り物でもありません
っての!」
ポーラがシモンを囲む女性を、その間に入って
密着するように引き離していた。
バーレンシア侯爵とビューワー伯爵は、
『どちらにも助けを求められそうにないなー』と、
諦めた表情になったが、
「失礼します。
……少々よろしいですかな?」
そこへ男性の声して、全員が一斉にそちらへ
振り向く。
「バスタ……騎士団副団長か。
そなたをここへ呼んだ覚えはありませんが?」
そこには―――
金髪の髪を整髪剤か何かでエアリーにまとめた、
20才半ばの、軽そうなイメージの男性が
立っていた。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「とゆーわけですっかりオチ要員になった
わけでしゅがご感想は」
「んんっ!?
ま、まだオチ要員と決まったわけでは―――
それに出番があるだけマシとゆーか」
シルバーの短髪の従僕に対し、主筋の女神が
反発する。
「しかし、せっかくこうしてアルプ君とも
ファジー君とも一緒にいるのに―――
まったく距離が縮まらないというのは」
銀のロングウェーブの髪の、第三眷属の妹が
危機感を募らせる。
「あり?
メイさん、あなたアルプ君一筋だったのでは」
フィオナの問いに彼女は口元を歪ませ、
「何を言っているんですか……
美少年は別腹って言葉知らないんですか?」
「おう話がわかるじゃねえか」
(だからダメだと思うんですけどねえ)
二人の会話を聞いていたナヴィは、思っても
口には出さず―――
「しかし、このままだと本当に進展が
なさそうでしゅし……
出番と言ってましたが、この際『アンカー』でも
頼ってみたらどうでしゅか?
(そして正論で怒られて来い)」
彼の提案に女神はガッツポーズを取り、
「いいですね!
ちょうど二ヶ月ぶりくらいですし、
彼らにも出番を与えてあげませんと」
「メタりゅな」
そう言うと女神は精神を集中させ、意識を
地球の自宅、そのPCへ飛ばすと―――
ネット上の向こうとやり取りを始めた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在6277名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
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