08・お手伝いと告白と
日本、とある都心部のマンションの一室。
そこに住む、外見的には一人暮らしの
少女と飼い猫―――
いそいそと動き回る女神フィオナを、
お目付け役兼サポート役の猫が
見つめていた。
「何をしてらっしゃるんですか、
フィオナ様?」
「んー、例の薄い本の新しい隠し場所を
ですね」
いつもの事と思いつつ、ナヴィは彼女に
ツッコミを入れる。
「……またくだらない事を。
あ、注意してください、そこ。
ゴミ箱が―――」
「あ」
目の前に集中していたフィオナは、
かがんだおりに後ろのゴミ箱を
倒してしまった。
「見事にヒップアタックで
ゴミ箱を倒しましたね」
「アタシは後ろを振り返らない!」
「何か言ったかコノヤロウ。
それじゃ、そろそろ本編入りますー」
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
│ ■グラノーラ家所有馬車 車中 │
「ん~……」
「マルゴットさん、まだ気になるんですか?」
眉間にシワを寄せて考え込む彼女に、
アルプは心配そうな顔で話しかける。
「気持ちはわからなくはないですが―――
結局、バーレンシア侯爵からも、情報は
もらえませんでしたからね」
あれから3日後―――
マルゴットの馬車で、アルプ・バートレットの
3人はバクシアへ向かっていた。
もちろん、アルプの『商売』のためである。
「意外と律儀というか、順法精神あるのよね。
職務に忠実だし」
「あの姉弟もメイド服騒動で追及出来ません
でしたし……
フィオナ様もまだ、本来の力を取り戻して
おられないみたいですので」
「で、でもナヴィ様は気付いていて、
それであえて口にしないようでしたし。
何よりフィオナ様、ナヴィ様のお二人が
おられる間は、大丈夫かと」
アルプはミモザとファジーの身を案じ、かばうように
懸念材料を否定する。
「仕方ないですね。
今は、ビジネスに集中するとしましょう。
でも本当にいいの? アルプ。
私、あなた専属の御用商人みたいに
なっちゃっているけど―――」
「僕じゃわからない事も多いですし、
それに、おじい様との難しいお話は
マルゴットさんやバートレットさんが
いないと、僕……」
「頼りにされたものですね。
まあ、悪い気はしませんよ」
貴族と商人と果樹園の息子を乗せて―――
馬車はバクシアへの旅路を急いだ。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家・食卓 │
「えっと……フィオナ様にナヴィ様。
ご飯出来ましたよ」
家の主人が不在で、食事係となった
ミモザとファジーの姉弟が、昼食を
運んできた。
「おーおー、苦しゅうない」
「もしもし? ありゅふりーだ様でしゅか?
ええ、フィオナ様が―――
ベラベラと、調子に乗った事を」
「即刻ママに通報するの止めて!」
それを見ながら、クスクスとファジーは笑い―――
ミモザも、緊張が解けた面持ちで眺めていた。
「神様ってのは、意外と人間くさいんだねえ」
「ミ、ミモザ姉!
フィオナ様はまだ、本来の力が戻って
ないって―――」
「(悲しい事にこれで限りなく正常ですこの
ダ女神、と言ってやりたい気がしないでも
ないそして反省は絶対にしない)」
「(ア、アタシが悪かったですから……
とにかく今は美味しく頂きましょう)」
席に着いた4人は、それぞれが同じ
昼食を食べ始めた。
「―――そういえばさ。
眷属であるアルプさんについて行かなくても
良かったのかい? フィオナ様」
「出来ればそうしたかったんですけど、
アタシはフラール国の『豊穣を司る女神』
なんですよ。
他国に行く力も権限もありませんし、
あちらにはあちらの神様がおりますから」
「ナヴィ様もそうなんですか?」
おずおずとファジーがナヴィに質問する。
「私はありゅふりーだ様の使いなので、
しょういう事は無いのでしゅが。
ただ、今はフィオナ様のサポートを
命じられておりましゅゆえ」
「アレ?
でもパパやママは、結構いろいろなところを
自由に行き来していたような―――」
「あのお二人は別格でしゅよ。
地域や国どころか、その世界まりゅごと
任しぇられりゅお方でしゅ」
「何かスゲーな……
アタイには想像も出来ない事だよ」
食事をしながら、改めて2人は異次元の存在だと
ミモザとファジーは思い知らされていた。
「そういえば、午前中は何をしていたんですか?」
「ン、ファジーと手分けして果樹園の見回り。
それと、地面に落ちている小枝とかゴミとか
拾うくらいかな」
「そんなに落ちてないけど、結構広いから
まだ2人で1/3も出来てないと思います。
午後も同じ作業になるかと」
そこまで話したところで―――
ナヴィが、食事の手を止める。
「私が手伝ってもいいでしゅか?」
「え? ナヴィ、貴方が?」
いきなりのナヴィの申し出に、フィオナが
聞き返す。
そしてミモザも困惑した声を上げる。
「い、いや。神の使いなんだろ?
それが―――
仕事をやってもらうってのは、その」
「私は、『豊穣の女神・フィオナ様』の
サポート役でしゅから、果樹園の手伝いは
問題ないでしゅよ」
「こう言ってくださるんですから、
手伝ってもらえば? ミモザ姉」
「……じゃあ、お願いするよ」
「別に自分がしたいってだけでしゅので、
お気を使わじゅに」
こうして午後から―――
ナヴィも作業に加わる事になった。
「じゃあ、アタシは眷属であるアルプの家を
死守していますから」
「ウチは何と戦っているんでしゅ?
―――飲み物くらい用意しておいてくだしゃいね」
このダ女神、という言葉を飲み込み、食事を終えると
ナヴィはミモザとファジーについて行った。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
「じゃあ、午後からはファジーはあっち
回ってくれ。
アタイはこっちからやるから」
「はーい」
午前中に終わったところまで戻ると、
ミモザとファジーはそれぞれの場所へと別れた。
「私はどこを見回ればいいでしゅか?」
「そーだな。
……もうちょっと向こう側―――
こっちついてきてくれねーか?」
促されるままに、ナヴィはミモザの後に
ついて行った。
3分ほど歩いただろうか、ミモザは周囲を見渡し―――
改めてナヴィに向き合う。
「……あのさ、ナヴィ様。
どこまで知ってるんだ?」
「?? 何でしゅか?」
「アンタが神の使いだって事はわかった。
フィオナ様の降臨もこの目で見た。
―――全部知ってるんだろ?」
その言葉に、ナヴィは少し考え込む。
「もしかして、マルゴットしゃんのお屋敷に
いた事を言ってるんでしゅかね?」
その言葉に、ミモザはガックリとうなだれた。
「やっぱり、知ってたんだね―――」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1149名―――