06・誰が転移させると思ってんだコラ?
( ・ω・)今の会社で人間ドッグ3回目。
採血やり直し3回。さすがに痛かったよ……
天界、フィオナの実家―――
そこでナヴィ(猫Ver)は、主人である
アルフリーダとその夫、ユニシスに対し
定例報告を行っていた。
「……というわけで、今度はグレイン国へ
行くのではないかと。
詳しい人選が決まり次第、またお伝え
いたします」
シルバーの、ペルシャのような長毛種の外見に、
鳩のような羽を背中から伸ばした彼は、そこで
ペコリと一礼する。
腰まで伸ばした金髪をさざ波のようになびかせ
ながら、女神は屈んでナヴィの頭をなで―――
「ご苦労様でした。
引き続きよろしくお願いしますね」
隣りにいた、黒髪の長髪・褐色肌の軍神も
彼に声をかける。
「そういえばナヴィ。
天界市役所に行ってきたようだが、何か
用事でもあったのかい?」
「あ、そうでした。
今、フィオナ様のいる世界でお世話に
なっている、邪神さんや堕天使さんたちの
滞在許可が正式に出たそうです。
ルールー家の後見があれば、という事で
通ったみたいですよ」
それを聞いたアルフリーダは立ち上がり、
「あ、そうなの?
じゃあさっそく教えてあげなきゃ。
ついでに『ホワイトデー』イベが差し迫って
いるから、その打ち合わせもしないと。
『ひな祭り』イベが終わってすぐだけど……
ウチが保証人になってあげているような
ものだし、これくらい役得よねー♪」
軽やかな足取りで彼女はその場を離れ―――
後には一人と一匹の男性陣が残される。
今度は夫が屈んでナヴィと目線を合わせ、
小声で
「(……でもよく通ったものだね?
他に悪霊とサキュバスとワーフォックスだっけ?
いくらルールー家が責任を取ると言っても)」
「(さすがにそこまで言われたら断れなかった
そうです。
担当者の人が頭抱えてました……
『超えちゃいけないラインの上で反復横跳び
しないでください』って泣きつかれましたよ。
私が可能な限り5人を見張っておきますと
言ったら、その部署全員に拝まれました)」
妻の従僕から事情を聞いたユニシスは、眉間を
人差し指と親指でつまみながら、
「(次の出勤日、担当部署に何か差し入れを
持って行くよ)」
「(そうした方がよろしいかと。
それではそろそろ、本編スタートしましょう)」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「……まあ、そんな事になったのですか」
第一眷属の母親である、グリーンの長髪を持つ
女性が、飲み物を出しながら語る。
それを手にしながら、黒髪セミロングの女神が
口を開き、
「というわけでですね、ソニアさん。
アルプ君とファジー君は、今回はグレイン国へ
行く事になりそうです。
その前に眷属の中でポーラさんとカガミさんが
先行する事になりますが」
「じゃ、あたいらの出番は後かい?」
第二眷属の姉の女性が、首まで伸びた
ブラウンの髪を手でクルクルと絡めながら、
聞き返す。
「そういう事になるでしゅね。
ただ眷属が先行さえしていれば、フィオナ様の
転移能力であっという間でしゅから―――
しょの時はミモザさんやソニアさん、メイさんも
一緒に行けると思いましゅよ」
シルバーの短髪の、陶磁器のような肌をした
女神の従僕の少年が説明する。
それを聞いた銀のロングウェーブの髪を持つ
姉妹が、
「じゃあポーラ姉さまが先で……
わたくしは後発となりますね」
「えっと……じゃあ、シモン君も同行させて
構わないかしら?」
個人的な希望をおずおずと第三眷属は
申し出るが、
「でも俺には店があるしなあ……
それに俺じゃちょっと同行させてもらう
理由がなあ。
ビューワー伯爵様やお嬢なら、フラールでずっと
バーレンシア侯爵様を支えてきたから、同行する
資格はあるけどさ」
名指しされた、褐色肌・黒髪短髪の少年は、
微妙な表情で頭をかく。
「で、でもシモンさんだって―――
果実の販売でいろいろと協力してくれた
わけですし」
グリーンの短髪の少年―――
第一眷属のアルプが、尊敬する兄貴分を擁護する。
「あ、それなら―――
アルプさんの果実の献上と、取引き先の拡大と
いう事で行けばいいんじゃないですか?
さすがにそこまでの理由があれば、店を離れる
のも反対はされないかと」
第二眷属の少年―――
姉と同じブラウンの短い髪のファジーが、
解決策を提示する。
「ないすあいでぃあ~♪
愛しているわファジーちゃん!」
両手で抱きしめようと突進するポーラを、
ミモザは片手で押し戻す。
「じゃあ今回は、フィオナ様は留守番と
いう事で……
アルプ君はわたくしにお任せを」
「誰が転移させると思ってんだコラ?」
その横でプロレスのように―――
女神とメイが力比べのごとく、両手を
がっつりと組んで拮抗する。
そして微笑みながらその光景を見つつつ、
ソニアがナヴィの方を向き、
「ところで、他の方々は」
「シッカ伯爵令嬢はそのまま―――
バーレンシア侯爵様のお手伝いをしていましゅ。
マルゴットさんはトニックさん・ソルトさんの
手配に、ビューワー伯爵様は一度ご自分の館へ
戻られたかと」
2人の話を聞いて、情報屋の少女が口を挟む。
「アイツらを使うのかあ?」
「『女神の導き』へ方針を伝えるのと―――
今後の意見も聞きたいという事でしたので」
フィオナがメイから両手を離して、事情を
説明する。
「……あれ?
しょういえば、あの獣人族の兄妹は?」
ナヴィがそこで、キーラ・リオネル・カガミの
3人の姿が見えない事に気付く。
「あの、キーラさんとリオネルさんは、
家に帰ってきてからすぐ自室で横になると
言って……
今はカガミさんが付き添っています」
「侯爵様の館にいた時から、かなりお疲れの
ようでしたからね。
ボクたちはある程度、その……
いろいろ慣れていましたけど」
アルプとファジーは不安そうに話す。
なんだかんだ言ってこの2人は第一眷属と
第二眷属であり―――
「お二人はそれなりに場数を踏んでいましゅ
からねえ」
「食事の時間になるまでは、休ませてあげて
ください」
女神の主従の言葉で一段落すると、部屋に
落ち着いた空気が戻ってきた。
│ ■フラール国・バクシア国代官館 │
その頃―――
夕方とはいえ、まだ明かりを灯すほどではない
日の光の中、一目を避けるようにして複数の
人間が、木陰で何事か話していた。
「では、ブツはこれで」
「……内容は……保証する……
でもナマモノなので当人には絶対……
見られては……いけない……」
そこにいたのは、バイオレットのロングヘアーを
した女性と―――
それと同じ色の髪を身長と同じくらいまで伸ばした
少女。
「有り難く頂きますわ。
……おっふ♪ これはなかなか……」
いかにも女性騎士といった鎧に身を包んだ、
長い金髪を持った貴族令嬢が、それに目を
通しながら悶える。
彼女たちはトーリ財閥の姉妹である、
シンデリン・ベルティーユ。
そして『ブツ』を受け取ったのは、
レイシェン・シッカ伯爵令嬢である。
「そーゆーのは、家に帰ってからに
しませんかね」
短い黒髪に黒目の少年が、呆れつつ―――
周囲を警戒しながらつぶやく。
「ネーブル、ちゃんと見張ってる?」
「……ネーブルお兄ちゃんは、今……
こっちを見ては……いけない……」
「見ませんっていうか、見ろって言われても
拒否します」
ため息をつきつつも、彼は警戒態勢を解かない。
「でも貴女たちもいい趣味をしていますね……
あんな美少年従者を連れてきて『ブツ』の
受け渡しとは」
「わかります~?」
「このシチュエーション……
妄想の糧として……極上……!」
「わかるぅ~」
・・
4人の女性陣は、見張りの従者をよそに
盛り上がる。
「しかしこの絵柄……
まだまだ女神様が持ってきたくださった物に
比べれば数段劣りますが……
これはこれで味があっていいものです」
「わかるー」
レイシェンが本を見つつ興奮しながら語り、
それに同意する答えが返ってくる。
「表紙はなるべく高尚にして、凝ったものに
しようと思います。
手に取る抵抗も減るでしょうし、何より
中身とのギャップが……!」
「ワカルー」
シンデリンの方針に、賛同する少女の声が返され、
「……何にしろ今は……
モデルの絶対数が……足りない……
各国で隠れた素材の発掘も……急務……!」
「わかるうぅうう」
ベルティーユの提案に、また少女の声が返され、
「え?」
「ん?」
「……誰……?」
3人が声の方向を見上げると、
「何で止まるのー?
もっと次のページめくって!
早く早く!」
木の枝に逆さにぶらさがった―――
赤茶のツインテールをした獣人族の少女、
カガミが上から鼻息荒く見つめており、
「「「ぬわあぁああああっ!?」」」
レイシェン・シンデリン・ベルティーユの
3人の叫び声と、ネーブルが駆け付けてくるのは
ほぼ同時だった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在6213名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。
みなさまのブックマーク・評価・感想を
お待ちしております。
それが何よりのモチベーションアップとなります。