37・ほりぇさっさと導けぇ
( ・ω・)どんなに時間が開いても
付き合ってくれる『アンカー』たちは
実は聖人かも知れない(暇人ではない)
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主である少女が、訪問客を出迎えていた。
黒髪セミロングの女神・フィオナは、まず
目の前の少女3人に言葉をかける。
「明けましておめでとー。
今年もよろしくね」
顔の片方が黒髪ストレートで隠れている邪神。
ロングウェーブのブロンドを持つ堕天使。
首までウルフカットの、季節にしては肌寒さを
感じさせる露出の多いワーフォックスの人外
3人組が、あいさつする。
「明けましておめでとー」
「今年もよろしくお願いします」
「あ、そうだ。
これこれ」
半獣人の彼女がごそごそと荷物を取り出し、
「これ故郷のお土産です。
女神様の口に合うかどうかわからないけど」
「ん? 中身は何ですか?
別にそんなヘンな物じゃないでしょう?」
受け取ったフィオナは、箱を見つめながら
聞き返す。
「ただの干し肉のセットだよー。
尾頭付きの」
「お肉で尾頭付きって結構ハードル高いと
思うんですけど」
その場にいた他の女性陣は中身を想像して
微妙な表情になる。
「まーまー。良かったらもらっておいて。
いらなかったら捨ててもいいから」
「う、うん……
せっかくだから『ありがとう』」
すると、邪神も荷物を取り出し、
「じゃあワタクシも……
捨てようかと思っていたんですが、
良かったら食べてください」
「いやそんなモノ渡されても」
次いで堕天使も箱を差し出して、
「これ捨てようかと思っていたんですけど、
良かったら捨ててください」
「最初から捨てなさいよ!!」
そんなやり取りを、ちょうど帰ってきた
シルバーの短髪を持つ少年が物陰から見ていた。
「……あの人たちは今年も何をやって
いるんでしゅかね、
人じゃないでしゅけど。
それじゃそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家・食卓 │
「う~ん……
これで手数というか手札はそれなりに
揃ってきた感じだけど」
まずはオリイヴ国で獣人族のオークションを
中止させ―――
また彼らの森の開拓を見送り、
その見返りとしてBL本の製作・流通・販路の
利権を『枠外の者』・『新貴族』に渡した。
それでも女神が悩んでいるのは……
その効果的な使い方についてである。
お揃いの緑の短髪とロングの髪を持つ、
第一眷属の少年と母親が、心配そうに
声をかける。
「あの、フィオナ様―――
何が問題なのでしょうか」
「今回の件で、『枠外の者』も大人しく
なりましたし……
他に何か心残りでも」
その問いに、ホワイトシルバーの短髪の
貴族青年と―――
真っ赤なロングヘアーの商人の娘が
補足するように答える。
「いえ、今回の件はすでに問題解決しており、
すでに成功していると言えます」
「フィオナ様がお悩みなのは―――
今回手に入れた成果や人脈を、どのように
生かすか、という事でしょう」
ビューワー伯爵とマルゴットの言葉に、今度は
銀のウェーブをしたロングヘアーの……
第二眷属の妹が、
「女性限定ですが、この世の半分は
女性ですからねえ。
あれだけのブツ、動かしようによっては」
「ちょっとメイさん、はしたないわよ」
彼女と女神は同時にヨダレを袖で拭き、
それを男性陣は困惑した目で見つめる。
「確かに、扱いようによっては―――
相当な効果を発揮出来ると思いましゅが。
でも、そうなると……
扱う『人』そのものも限定されてきましゅよ」
ナヴィの指摘に、フム、と伯爵がうなずく。
それを見てアルプが疑問の声を上げる。
「どういう事でしょうか?」
「……例えば、このフラール国だけであれば、
私でもそのビジネスを広めたり、宣伝したり
する事は可能です。
ですが、それ以上となると」
「特に今回は序列上位国が関わっていますから。
それに対し、伝手をつける人選は―――
かなり難しいと思われます」
マルゴットが補足するように説明する。
「でも、それならあのミイト国のトーリ財閥の
姉妹や、シフド国でもグローマー男爵様、
カトゥ財閥令嬢も絡んでいるんだし」
メイの出した人選に、バートレットは首を
左右に振る。
「問題はその方々が、『枠外の者』『新貴族』で
ある、もしくは関わっていた事です。
『女神の導き』の今後も考えますと―――
あまり彼らを全面に押し出すのは、得策では
ないと思われます」
う~ん……と全員が考え込む。
そこでナヴィがフィオナの肩を叩き、
「出番でしゅよ女神様。
ほりぇさっさと導けぇ」
「ちょっと軽過ぎやしませんかねえ!?
いえアタシも考えてますけどぉ!!」
神様の主従のやり取りを困惑しながら、
周囲の人間が見守る。
そこでフィオナは一息ついた後、
「そ、そうです!
こういう時こそ『アンカー』ですよ!
ちょーっとお待ちくださいませ!」
こうしてフィオナは地球、自分の部屋へ
意識をダイブさせ―――
PCから回線へと繋げた。
【 おー、生きてたかー 】
【 今まで何してたんだ? 】
【 二ヶ月ぶりか。ホント久しぶり 】
皮肉のこもった歓迎を受けて、女神は反発する。
「い、いいじゃないですか!
それだけ問題が無かったって事なんですから!」
【 つまりここに来るって事は、何らかの
トラブルが発生したんか 】
【 で? 今回は何が起きた? 】
そこでフィオナは改めて状況を説明する。
【 あー、広報というか宣伝にそれなりの人が
必要なのね 】
【 眷属っつっても基本平民だしなあ 】
【 身分が高くて、『枠外の者』『新貴族』の
どちらにも属さず…… 】
【 それでいて、序列上位国を相手に出来る
人間、ねえ 】
PCの向こう側で、人選の条件が絞られていくが、
【 何かめっちゃ条件がハードやな 】
【 下関条約より厳しい要求だぜ 】
【 まあ、条件に限りなく近い―――
ならなんとか? 】
最後の『アンカー』の言葉に女神は飛び付き、
「い、いるのなら多少の事には目をつむります!
ではそこで『アンカー』と行きましょう!
『アンカー』は今のスレで……
900!
聞きたい事は―――
『広報・宣伝役の人間』!
―――さあ、アタシを導き給え……!!」
>>900
【 レンジ・バーレンシア侯爵 】
「……む?」
そこでフィオナはいったん『アンカー』を終え、
その情報をフラール国へと持ち帰った。
│ ■アルプの家・食卓 │
「と、という結果が出ましてございましてですね」
それを聞いた一行はうなずきながら、
「そうですね。
実は私も、その人選しかないと思っていました」
「今はリーディル様とフラウア様の結婚の準備で、
相当お忙しいと思われますが―――
一度相談してみるべきだと」
バートレットとマルゴットが私見を述べ、
「で、でも大丈夫かな……
(精神負担的に)」
「断られる事は無いかと思いますが―――
少々不安が(侯爵様の胃に)」
アルプとソニアの母子は、やや戸惑いながら
意見を口にする。
「んー、心の予備が3本くらい必要じゃない?
正直に伝えたらポッキリ折れそう」
誰も口には出さなかった事をあっさり語るメイに、
周囲も同じ認識はあったので沈黙し、
協議の結果、『もし面倒な事になりそうだったら、
侯爵様の名前を出してもよいか』、聞きにいく事に
なった。
│ ■フラール国・バクシア国代官館 │
「ん? いいよ別に」
フォックスタイプの眼鏡にやや青みがかった
短髪、頬にあるクロスの傷跡がある青年―――
バーレンシア侯爵はレイシェン・シッカ伯爵令嬢と
共に、書類の山と格闘していたが、
訪問客が来たと聞いて手を止め、彼らと向き合い、
用件を聞くとそれをあっさりと了承した。
「あの、聞き届けて頂いて何ですが……
本当によろしいのですか?」
マルゴットを始めとして―――
ビューワー伯爵・フィオナにナヴィが代表として
訪れたのだが、拍子抜けするくらいに話が通った
事で、やや困惑する。
「『枠外の者』『新貴族』の関係者じゃダメって
いうのはわかるし、まあ僕は今……
良くも悪くも有名だからね。
それに、バクシアとフラールの王家の結婚式の
招待状を各国に送らなければいけないんだけど、
その先触れというか、前フリと思えば」
彼にしてみれば、書状を送るのも初めてという
相手がたくさんいる中で―――
予め、他の方法で誼を通じる事が出来れば、
という事情もあった。
「ええと、じゃあ……
各国にある商品を送る際、バーレンシア侯爵様の
名前を一緒にお付けしても?」
おずおずと女神がたずねると、
「うん、それでいいよ。
僕自身、今はご覧の通り多忙で動けないから、
それとなく結婚式が控えている事も伝えて
もらえると助かるかな。
それなら、次に招待状を送る際、すんなりと
話も通ると思うから」
「あ、それならミイト国へはわたくしの方から
送っておきますわ。
元『新貴族』とはいえ―――
ディーア公爵様とも伝手がございますから」
金髪のロングヘアーを顔を振って後ろに回し、
両手で書類を揃えながら伯爵令嬢もお手伝いを
宣言する。
そこでマルゴット・フィオナ女性陣はレイシェンに
近付き、
「ではこれがブツの見本となりますので」
「出来たての極上であります。
どうかこれでお一つ」
非合法の物を扱うような形で2人から本を
手渡された彼女は……
それをペラペラとめくって中身を確認した後、
パタンと閉じ、
「いい物ですねコレは……
ちょっと考えがあります。
わたくしに付き合ってもらえません?
バーレンシア侯爵様、少しお時間頂けますか?」
「ん? ああいいよ別に。
キミもずっと働き詰めだったから、休憩を
取ってくれ」
その言葉に頭を下げると、女性陣は別室に
移動し―――
後には男性陣だけが残された。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5933名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。
みなさまのブックマーク・評価・感想を
お待ちしております。
それが何よりのモチベーションアップとなります。