06・少年とメイド服
仕事は休みでしたが、家の中にこもり一話書き上げました。
だって暑かったんですもの。
日本、とある都心部のマンションの一室。
そこで一人の少女がテーブルに座り―――
足元の床に一匹の猫が、それぞれの昼食を
楽しんでいた。
「もぐもぐ」
「モグモグ……」
「あ、フィオナ様。
ベーコン落としましたよ」
自分の目の前に落ちて来た物を確認し、
お目付け役は女神に告げる。
「まったく、イキのいいベーコンです」
「イキのいいレタス・イキのいい焼売・
イキのいい担々麵に続いてシリーズ4
突入ですねいい加減にしろ」
「この前はイキのいいウーロン茶がいましたよ」
「液体にまで適用するのは
さすがにどうかと思いますが」
「まーまー。
美味しく頂ければそれでいいのです。
それじゃ、本編入りましょう」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■宿泊小屋の部屋 │
「ミモザ姉、お腹減ってきたね」
ミモザとファジーの2人は、割り当てられた自室で
食事の時間を気にしてた。
「もうそんな時間?
じゃ、そろそろ呼び出しとかあっても
いいと思うんだけど。
こっちから行くかい?
多分、果実ならあると思うし……」
扉に向かおうとした2人に、逆に向こうから
ノックの音と声がかけられた。
「ミモザさん、ファジーさん。
失礼してもいいですか?」
「アルプさん?
あー、ちょうどこっちも出ようとしてたんだけど。
食事の時間かい?」
室内に入ってきたアルプは、縦に重ねた
2つの箱をテーブルの上に置いた。
「えっと……
何ですか、コレ?」
「あ、コレは君の分の服です。
僕のだけど、ちょっと大きいくらいで
着られると思います」
「ええっ!?
い、いいんですか?」
驚くファジーにうなづくと、今度はミモザに
向き合う。
「で、こっちはミモザさんの分です。
ただ、僕には女性の服はよくわからないので……
ご自分で選んで着てください」
「何から何まですまないねえ。
……って何だこりゃ!?」
箱の中から出てきたのは―――
メイド服やドレス、ロリータコーデと
言われるもので、派手な物から際どいものまで
いろいろと用意されていた。
戸惑うミモザに、持ってきた少年は言い訳のように
説明をする。
「えーと……バクシアのお得意様が、
僕に送ってきてくれたものなんですけど。
どう見ても女性向けなので―――
多分間違えたんだと思いますが、
女性用の服はこれしか無いんです。
あの、着られるものを自分で選んで、
それを使ってください」
「あ、ああ……わかったよ」
「それと、食事の用意が出来ていますので。
一緒に食べましょう」
「えっ? あれ?
て、手伝ってませんけど、ボクたち」
「今日は歓迎の意味も込めて僕が作りましたから。
お手伝いは明日から、お願いします」
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■高級青果店『パッション』 │
「ねえ、ポーラ姉さま。
アレを送ってからひと月ほど経ちますけど、
どうなっているでしょう?」
「フフ……きっと最初は驚くでしょうね、
アルプ君。
何を思うか、どう反応するか―――
それを想像するだけでも立派に妄想の糧に
なりますわ」
「きっと何を着ても似合うわぁ、アルプ君……
それで目覚めてしまっても、それはそれで
アリですわよ!」
同じ頃、ポーラとメイは自分たちの贈り物に
思いをはせ、いろいろと妄想を巡らせていた。
イスに腰掛ける姉妹を、立ったままの少年が
耐えられずに声をかける。
「なあ、2人とも―――
いつまでそうしているつもりだ?」
シモンが、呆れながら姉妹を見下ろす。
「ヤダ、シモン君もしかして嫉妬?」
「アルプ君を狙っているのはメイですから、
わたしの事は安心して狙っていいんですのよ?」
「そうじゃなくてだなあ……
アルプを待っているんだろうが、
フライングし過ぎだ、アンタら」
「そういえば、シモン君にもメイド服
贈った事がありましたよね?」
「あー、あったなそういえば」
頭をガシガシとかきながら、苦笑いする。
「着ないんですか?」
「着ないって」
「……どうして!?」
「こっちのセリフだそれはあぁあああ!!」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■宿泊小屋の部屋 │
「ぷふー……いいお湯だったぁ♪」
「お風呂、狭いって言ってたけど、
余裕で2人で入れたね。
ちゃんと髪拭いた? ファジー」
「ン、大丈夫」
食事の後、ミモザとファジーはお風呂を
もらい―――
自分たちの部屋へと戻ってきていた。
「……もうずっとココにいたい。
ミモザ姉と一緒に」
「そりゃアタイだってそうさ。
でも―――」
「ウン……わかってる。
あのさミモザ姉、あの人―――
ナヴィ様って、ホントに神の使いだと思う?」
「どうだろうね。
ホントにそうなら、何もかもお見通し―――
アタイらの正体に気付いてなければ、
おかしいんじゃないか?」
ベッドに深く腰掛け、そのまま天井を向くミモザ。
「……だよね。
気付いてて、見逃してくれているって
可能性は……?」
「心配性だね、ファジーは。
そりゃアタイらは直接、
彼らを敵視している訳でも
憎んでいる訳でもないさ。
だけど、『枠外の者』の依頼で―――
調査に来ている事に変わりはない。
連中が何考えているのかわかったもんじゃ
ないけど、ロクでもない事は確かだろ」
「…………」
「間接的にしろ、こっちは『枠外の者』に
協力しちまっているんだ。
それなら、アタイらを見逃す
理由は無いよ。
余計な事を考えてないで、今日はゆっくりと
寝るんだね」
「……ウン、わかった」
髪を吹いていたタオルを畳んで、棚の上に
置くとベッドに向かい、姉の横に座る。
「しかし、どーしたもんかねコレ」
ポーラ・メイ姉妹からの贈り物を、
改めて引っ張りだして手に取る。
そしてその中のメイド服をまじまじと
見つめていた。
「綺麗な服だと思うけど―――
着ないの?」
「いや、どう見ても農作業用じゃないだろ。
―――着て欲しいのか、ファジー?」
「えっ?
あ、あの、ミモザ姉なら似合うと
思うよ?」
「んふふ……そっかあ?
じゃあ、ファジーもコレ着てみない?」
「っ!? な、何でボクが!?
コレ女の人の服って、アルプさんも
言ってたじゃない!」
「いーじゃない、物は試しってね♪
ファジーが先に着たら、アタイも
考えてあげるよー♪」
「だ、だから脱がさないでミモザ姉!
わかった、着る! 着るってばあ!
そ、その代わりミモザ姉も後で
それちゃんと着てよ!」
「ハイハイ、わかってますって。
ファジーちゃん♪」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1111名―――