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02それはソシャゲ課金の闇よりも深く



アタシは女神。

女神、フィオナ・ルールー。


神として初めての仕事は超絶ホワイトな信仰地域しょくばで、

暇を持て余していたアタシは、別の世界に渡り、

そこの文化の勉強に没頭していた。


数ヶ月、電子上の幼馴染や年上年下職業人種人外問わず

ラブラブな時間を過ごしていたアタシは、

信仰地域に近付いてくる不穏な空気に気付かなかった。


妄想を止めて目が覚めたら、信者数が15%に

減っていますと天界市役所から連絡が来てしまった。


もし信者数が短期間で10%未満になってしまった場合、

アタシは神の資格をはく奪され、由緒あるルールー家の

名誉に傷を付けてしまう。

そして来世は焼き芋の包み紙にされてしまう。


問題解決のためにアタシは信仰地域、

フラール国へとやってきた。

果たして神託を受け取る眷属けんぞくは見つかるのか?

問題解決の糸口は?


信仰が減っても心は女神。

信者は必ず守ってみせる!

その名は、女神、フィオナ・ルールー。




「―――とは、言うものの」


│ ■女神:フィオナ・ルールー  │

│ ■果樹の豊穣を司る優しき女神 │


正直、農業従事者しか信者いないんじゃ、というスキルで

何が出来るのだろうか、という疑問はある。


だからこそ、フラール国でも1/5程度の

信者数だったわけで―――




│ ■フラール国・とある果樹園上空  │




しかし、眼下に広がる景色は、果樹をたっぷりと実らせた

木々が映る。


各所の果樹園を見渡しても、大豊作というほどではないが、

飢饉や冷害、風害にやられた気配もない。


それならばなぜ、アタシの信者が減る?


取り合えず、もう少し地上に近付いてみるか―――


「ん?」


身分の高そうな、20歳くらいの女性が何かをしゃがんで

抱いている。

ピジョン・ブラッドのような真っ赤で、それでいて

情熱的なロングのレッドヘアー。


着ている着物に負けないくらいの―――赤。


抱いているのは子供?

女性の妹だろうか。

娘って事は無いわよね、年が近過ぎるし……


「よしよし……もう泣かなくていいのですよ。

 少しの辛抱ですから……


 誰も貴方に手出しはさせません。

 怖い思いもさせません。

 これからは、私が守って差し上げます。


 だから―――私の11人目の弟になりなさいデュフフ♪」


まともかと思ったら最後の行と語尾で台無しな人でした。

んん? 今、11人目の『弟』って……


「でも……でも僕は、お母さんが帰ってくるまで、

 この果樹園を守らないと―――」


あ、れ―――男、の、子?


年は……11、2だろうか。


華奢で、折れてしまいそうな腕。

陶器のように白い肌。

吸い込まれそうな―――グリーン・アイ。


ちょうどアタシがやってたアイドルゲームに出てきた、

めっちゃ可愛い男の子のように―――


「天使や……天使はここにおったんや……!」


決めた。

もう決めた。

今決めた。


あの子をアタシの未来の夫、旦那に!!


私が包むべきはアメでも焼き芋でもない!

あの子だ!!


あの、弟兼夫―――

その名も弟夫オトウット!! (造語命名:女神フィオナ)


そうと決まったらアタシも混ぜ―――

否、あの女の手から救わねば!!




「無理強いは止めなさい、グラノーラ家の名に

 傷がつきますよ。

 マルゴット」




え? 今度は―――あの女性……え? こっちも男?

貴族かしら。

いかにも身分の高そうな衣装に、顔立ちは―――


金髪に……高い身長の割には華奢な体。

音楽を奏でるために作られたような、四肢の先端―――


か、完全にアレじゃん!

リアル某精霊エルフ様じゃああぁああああ!!


「うおぉおおお何ここ!?

 アレも攻略対象って事でいいの?」


「今のアンタ控え目に言って三国一のクズ」


「おいおい、そんなに褒めるなよ照れるぜ」




……ん?


いつの間にか、羽の生えた猫みたいな生き物が

アタシの隣りに浮かんでいた。


「誰、ていうか何ですか? あなた?」


「あなたのお母様から、誰を眷属にしたかを

 見届けるように言われたお目付け役―――

 ナヴィと申します。


 言っておきますが、今あなたの姿は誰にも見られません。

 一時的に信仰の力を高めているだけで、触れる事も何も

 出来ませんから」


「え、何ですかその生殺し」


ま、まあいい……取り合えずアタシは今回、

このフラール国に情報集めと眷属を決めにきたんだ。


取り合えず眷属はあの弟夫オトウットだな。

本命はあの子にしておこう。




「ビューワー……奴隷嫌いの貴族様が、何の御用かしら?」


「その子を―――アルプを離しなさい。

 嫌がっているでしょう」


「嫌がってる、ですか」




彼女の手から離れたアルプという少年は、

そのまま、ビューワーという貴族の足元へ―――

そして、立ち上がったマルゴットという娘と対峙中。


おお、美男美少年は絵になるわデュフフ♪




「よだれ拭け、女神」


しかし、何か因縁浅からぬ関係って感じね。


「……ねぇ、ビューワー様。

 その子の何がわかるの?」


「…………」


「今日、私がここに来るまで―――


 いったい何人のエロジジイとエロババアが

 その子の顔と体を舐め回すように見ていったか、


 ご存知?」




「な、なんだと……

 この天使様に何て事を……ジュルリ」


「多分それは今のお前と同じな? ダ女神」




「そんなに私に引き取られるより―――

 この子が出荷される時を待つ方がいい訳?

 脂ぎったオヤジや豚のようなオバサン相手に」


「……連合国内での奴隷売買は、禁じられています」


「ええ、そうよね。

 今このフラール国で行われているのは、

 奴隷売買どころじゃない。

 まるで人間オークションだわ」




―――は?


「……何の話?

 ここ、そんな国だったっけ?」


ちょっと、そういうドロドロ展開

苦手なんですけどアタシ。




「数年の間です。

 何とか、その時だけしのげば―――」


「ああ、後継者をバクシア国で育てて、適齢になったら

 帰してくれるって話?

 へーえ、信じているんですか、あんなの」


「…………」


「帰さない理由なんていくらでも付けられますわ。

 そして今のフラール国はバクシア国に逆らえない。


 ―――絶対に」


「バクシア国が約束を違えると?」


「私は貴方より身分は下。

 でも、バクシア側の人脈はこっちが上よ。

 入ってくる情報も―――


 ……まあいいですわ。

 それで、どうするんですの? その子―――アルプを。

 確か、税金の支払い期限は明日ですよね?」


「…………」


「私ならその子を守れます。

 でも、ここの果樹園は諦めて。


 全ては、守れないから―――」




―――ああ―――これ、あれですね。

神になる修行時代に散々勉強させられた、アレ。

嫌というほど頭に詰め込まされた、人間の―――醜さ―――


そして―――悪意―――


人間というものに絶望しないように―――


そう―――それはソシャゲ課金の闇よりも深く―――


「いろんなところから怒られるから、やめよう?」




それからのビューワーとマルゴット、2人の話を要約すると

・フラール国の王だかトップが急死した。


・後継者の選定が終わっていなかった。

・相続がスムーズにいかない事を理由に、

隣国のバクシアが待ったをかけて介入。


・連合国の安定のためと称して、バクシア側で

フラール国後継者を教育するため、

適齢になるまで『保護』する。


・フラール国は後継者が帰還するまで、

バクシア国の代官の管理下に置かれる。


―――で、


・バクシア側が管理しているが、連合公認なので

基本やりたい放題。

・税金を引き上げて、払えない人間を

『一定期間』奉仕・奉公する事を条件に

税金を肩代わりする。




「ほんで、合法的な人間オークションに

 実質なっちゃってるって事ですか」


それですでに、あの弟夫オトウットのお母さんも

売却済みって事で―――


そりゃ、果樹の豊穣なんか願っている場合じゃ

ないですよねーーーwww


―――これ、どう考えてもアタシの出来る範囲超えてね?

―――果実を実らせてどうしろと?




「ん? って事は……

 ―――不可抗力、ですねコレは!

 そう思いませんかそこの鈴木ビリー田中さん!」


「誰だよ」


「よし、そうと決まれば―――

 パパに泣きついて何とかしてもらう事にします!


 あ、でもこのまま帰ると……

 アルプが―――あの女、マルゴットの物に―――


 ……よし!

 眷属ロックオン! 狙いはあの子!

 そして―――『神の恩寵おんちょう』、発動!!」




「―――えっ」


少年の前に、光り輝く果物が転がった。

それは―――地球でいうところの、リンゴに似た果実。


アルプが恐る恐る手にしたそれに、2人が顔を近づける。


「こ、これ……

 アルプの税金払ってお釣りがくるどころじゃ

 ありませんわよ!


 ―――ビューワー様が?」


「いえ……私は知りません。

 突然、空中から落ちてきたように見えましたが」


「…………

 ―――女神、フィオナ様……?」




おおお、こっち見てますよ可愛いぃいいいい!

さて、それでは威厳と慈愛に満ちた、

最初の挨拶をせねば―――


「フフ……そうですよ、アルプ。

 このアタシこそ、果樹の豊穣を司る女神・フィオナ!

 そして、今から貴方はアタシの神託を受ける

 眷属に―――」


「ハイ残念ですがここでタイムオーバーです」


「ウッソマジで!?」


宙に浮いたまま、ナヴィが途中で口を挟んだ。


「眷属の決定と神の恩寵を同時に使った時点で信仰力が

 切れたんですよ。

 さあ、いったん戻ります、何か言いたい事が

 あればお早く」


「えぇえいきなりそんな事言われても!

 あ、あの―――


 ア、アタシは信者を見捨てたりしません!

 だから、信じて待っててくださーーーい!!」




女神は強制的に引き戻され―――

後に残されたのは、何もない空を見上げる3人。


我に戻った順に、今の状況を理解しようとし、

そして戸惑った。


「あ、あの―――

 お2人には聞こえましたか?

 女性の声が―――」


「んっ!? 敵か! 例えメス猫でもアルプの視界に

 入る女は許しません!」


「女性の声と言っているでしょう。

 しかし―――ここには私たち、3人しかいません。

 少なくとも、私たち以外の人の声は

 聞こえませんでしたよ」


「ね、ねえ、何が聞こえたんですか? アルプ」


「え、えっと―――何かドタバタしてたみたいですけど。

 しんたく、けんぞく―――最後に、


 『見捨てたりしない』って……」


「まさか―――」


「本当に、女神、フィオナ様が―――?」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在288名―――


―――神の資格はく奪まで、残り88名―――



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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり甘やかすと女神も駄女神になるのね(´;Д;`) どれだけ課金で闇堕ちを実感しちゃうの⁉︎((((;゜Д゜))))))) 開幕から駄女神感満載で笑うとともに、管理する世界は割とヘ…
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