17・こちらに取っても死活問題
( ・ω・)ワクチン打った左腕がまだ
四十肩、五十肩のように重い。
(歳のせいとは思いたくない)
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主と思われる少女を中心に、彼女と前後した
年齢とみられる少女たちが―――
ティータイムを楽しんでいた。
「てゆーかさ。
あなたにはナヴィって言う幼馴染が
いるじゃないの」
「そのあたりはちょっと微妙なんですよねー。
アタシが神様の修行中に神殿に来てたって
設定なんで」
「設定ゆーな。
それでも一緒に住んで長いんでしょ?
もう2年以上だっけ」
かつて何度もナヴィが返り討ちにした―――
悪霊・邪神・サキュバス・堕天使その他は、
今ではすっかり女神と仲良くなっていた。
「まあでも幼馴染って近いようで遠いからね。
うかつにそれで話進めようとすると、
『幼馴染との恋が絶対勢』と、
『幼馴染との恋に親殺された勢』が血みどろの
戦いをするように……」
「何そのこの世で一番不毛な争い」
フィオナが目を線のように細めると、
「それはそうと、貴女もそろそろ踏ん切りを
つけないと進展は無いわよ?」
「そうそう。
女神様である事とか恩人である事とか、
そういうものの上にあぐらをかいていると、
いずれとんでもない結末を迎えるんだから」
一見普通だが異様なオーラを放つ少女が、
お茶を飲みながら語る。
「とゆーと? 邪神ちゃん」
小さな黒い翼をぴょこっと出した堕天使が、
興味深そうに身を乗り出す。
すると邪神ちゃんと呼ばれた少女は、
ダンッ! とカップをテーブルの上に置いて、
「私も力があるんだから―――
そりゃあいろいろと考えたわ、ハーレムエンドを
狙ってね……!
でもね、いくら力があっても」
ゴクリ、と周囲の全員が続きに聞き入る。
「お金とか権力とか立場とか生まれとか、
様々なシチュを利用し、その全てを成功
させようとして……
攻略対象を広げに広げ、いろいろと見栄を
張ったあげく―――
結局は誰も私のそばに残らなかったわ……!
ええんか? 私と同じ失敗を繰り返しても
ええんか?」
目の座った邪神を前に、しばらくは全員が
無言でいたが、彼女はフゥ、と一息ついて
「だけどナヴィ様なら……
ハーレムエンドは許してもいいかも。
あの人、平等に愛してくれそうだし」
「あ”?」
「あ”?」
「あ”?」
「あ”? やんのかコラ」
急に一触即発の空気になるのを、気を使って
お茶請けを持ってきたナヴィ(人間Ver)が
目撃し―――
「取り敢えずあまり騒がしくなるよう
でしゅたら、叩き出すとしましゅかね……
それではそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■メルリア本屋敷 │
「それではこれより―――
緊急会議を始めたいと思います」
ピンクのロングヘアーに眼鏡をかけた、
この屋敷の女主人が、2人の少女を前に
語り出す。
「あれは厳重に管理・保管していたはず……
どこから漏れた!?
まさか身内に裏切り者が……」
「カガミの目を盗んで、なんて―――
敵の力は思ったよりも強大だよ」
セミロングの黒髪と、赤茶のツインテールを
した少女が、両腕を組んで眉間にシワを寄せる。
「外部へ漏れたとして、メルリアさん。
どういう経路で外へ出たかはわかりませんか?」
「フィオナ様、ここはシフド国でも有数の財閥……
警備も一般とは比べ物になりません」
女神と財閥令嬢のやり取りの後、獣人族の
少女が口を開く。
「だとしたら、ここ数日のお客さんは?
内部から漏れていないのだと仮定すると―――
外から来た人間しか考えられないと思う」
ウンウン、とうなずく2人。
そして女主人は、
「そうね……
まず、カーレイとメヒラは除外して
良さそう。
わざわざ自分たちの商売道具を盗む意味は
無いし―――
次は最近商談に来た、ルコルアとマービィ国の
『枠外の者』だけど……
こちらを敵に回すほどの度胸も利益もあるとは
思えない。
後はグローマー男爵様くらいだけど、
金銭的にもこちらの味方だし、敵に回る理由が
あるとは……」
そこでフィオナがカガミに向かい、
「その門外不出の書類は―――
いつ頃無くなったのか覚えていますか?」
「カガミの記憶だと……
昨日、印刷工房から帰ってきた時には
無くなっていたと思う。
でもその前の日―――
綿密な打ち合わせのために、深夜ここにいる
3人で集まって、書類を吟味していたから、
その時まではあったかと」
それを聞いたメルリアはクイッ、と眼鏡を直し、
「つまり、犯行時間は……
一昨日の深夜から、先日の夜、という事に
なるわね」
「その間に一体誰が―――」
「何のために……」
深刻そうに悩む3人の女性陣を、冷めた目で
見つめる少年2人が、いつの間にか室内にいた。
「何かものすごい問題のように言ってましゅけど」
「単に、ボクたちには見せられない絵が
どこかにいったって話だよね……
まあこちらに取っても死活問題では
あるんだけどさ」
白銀の髪の2人の少年に対し、妙齢の女性と
少女2名は、
「いや重大な事は重大ですよ。
言い換えてみれば、アタシの所持している
同人ジャンルが知人にバレるようなもので」
「致命傷じゃないでしゅかソレ」
主筋の女神の説明を従僕の彼はバッサリと斬り、
「これはしばらく―――
ナヴィ様とキーラには屋敷にこもって
もらうしかないわね……!」
「絵描きの人たちには屋敷に来てもらえば
いいし、衣食住、何ならどんなお世話も
カガミたちですれば―――」
「どさくさに紛れて何言ってるの?」
屋敷の女主人と妹の提案を、キーラは
ツッコミで切り返す。
「まあ冗談はともかくとしてでしゅ。
この屋敷から無くなった事は間違い
ないんでしゅね?」
「それならやっぱり、客や外部の人を
疑うべきだと思う。
そのいかがわしい絵を最後に見たのは
いったいいつ?」
反論はしたいが、3人の女性陣はゴニョニョと
下を見ながら、しぶしぶと説明に入る。
「え~と……
一昨日の深夜、ナヴィとキーラが寝静まってから
この応接室で見てましたでーす……」
「その後は……アレ?
カガミとキーラ兄の部屋まで持ち帰ったと
思うんだけど、どうだったかなー?」
少女2名が状況を思い出す中、メルリアも
思い出したように、
「そういえばあの時―――
カガミちゃん、絵を忘れていったような。
それで確か、ここの書類棚にまとめて」
そこでしばしの沈黙が訪れ、
「―――あ」
メルリアは血相を変えて立ち上がると、
そのまま絶句した。
│ ■ボウマン子爵屋敷 │
「のう、そろそろ―――
意地を張るのはやめたらどうかな」
「余計なお世話よ。
何十年私の友人やってるの?
だいたいあなたが現役なのに、私が引く
理由が無いじゃない」
すっかり白髪の部分が多くなった頭に、真っ白な
口ヒゲをたくわえた紳士が―――
孫を諭すように、茶髪に近い金のツインテールを
した少女へ話しかける。
「引退しろとは言っておらんわい。
年相応に大人しくなってくれと言っておる
だけじゃ」
「外見が年相応じゃないからねー、
ベーちゃんは」
ライトグリーンのショートボブの少女が、
呆れ気味に指摘する。
「余計なお世話じゃ!
それで何じゃ、ムダな説得に来ただけか?」
ボウマン子爵家当主は、不満気に男爵家当主に
聞き返す。
「まあ、土産じゃよ。
ワシのところの商売と張り合うのじゃろ?
参考にしても良し、それで諦めてくれるも
良しじゃ」
「安い挑発ね。
ま、乗ってあげるわ」
背の低いベラは、テーブルを乗り出すようにして
それを受け取る。
「……何か厳重ね。
こんなにぐるぐる巻きにしなければ
ならないほどの絵なの?」
「ウン、まるで何か封印しているような感じ」
ボウマン子爵家当主とアーユは、受け取った
それをまじまじと見つめる。
「ああ、それなんじゃがな……
男が見てはいけない絵という話なんじゃ。
女人禁制ならぬ男子禁制じゃな」
グローマー男爵の言葉に―――
2人の少女(一人は外見のみ)はきょとんとした
表情になる。
「へ? 何じゃそれは……
では売る相手は女性のみか?」
「そういう事になるな。
じゃから、製作から販売まで女性のみで
行う事にしている。
ワシも中身はよくわからん。
見る時はワシに見えないように見てくれ。
返す時も厳重に縛ってから、な」
するとベラとアーユは、膝の上に乗せるようにして
梱包を解いていく。
「お主は昔から変わり者であったが……
よくそんな商売に手を出す気になるのう」
「言っておくが、ワシとてちゃんと反応は
見るわい。
あの女性陣の食い付きは尋常では無かった。
だからこそ、商売として手を貸す事に」
バサバサと、ほどけた包装の音と、次いで
紙をめくる音が聞こえてくる。
「おー、何かスゴい綺麗な絵……
こんな技法は見た事がないのう」
「えー、こんな綺麗な男の人っているの?
でも想像にしてはすごく描写が」
ガサガサ、バサバサと次々と絵がめくられていき、
「……ふむふむ……
……ふ……む……!?」
「……ふお、ふおお……!?
へー、こうなっているんだ……」
テーブルの下で絵を見る女性陣は、
次第に熱気を増していき、
「いやいやいや、待つんじゃ!
私の経験の中でもこんな……こんな……!
ア、アーユ!
これは多分お主には、まだ早いものじゃぞ!」
「ベーちゃん!
こればっかりは譲れないよ……!
たとえ殺されてもこの絵を見るのを
止める気は無いよ」
ベラとアーユの反応に、グローマー男爵は
訝し気に
「どうかしたのか、2人とも」
するとボウマン子爵家当主は我に返り、
「あー、ちょっと男は別室で待機していて
くれるかの?
確かにコレは男子禁制じゃて」
「?? まあ……いいが。
確かに男子禁制の物を見る場に男がいたら
見辛いじゃろうて」
素直に席を立つと、グローマー男爵、そして
使用人の面々も退室し―――
同時にテーブルの上に絵が置かれ、メイドや
女性の使用人も興味深そうに集まった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5710名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。