16・それに何の意味が?
( ・ω・)茶番ネタを考えるあまり、
本編のネタを忘れる事がある(本末転倒)
日本・とある都心のマンションの一室―――
玄関で、家主と思われる少女がうろうろと迷い、
それをペットらしき一匹の猫が見ていた。
「ううぅう~ん……
少し待つべきかしら、それとも一気に
行くべきかしら」
セミロングの黒髪をした少女は悩みながら
つぶやく。
外は窓越しでもわかるくらいに暗く―――
天候が悪化しつつある事は理解出来た。
「まあこの時期は集中豪雨も多いですから……
たいした買い物でも無ければ、少し待機して
みたらどうでしょう?」
お目付け役(猫Ver)が提案すると、
フィオナは首を左右に振って、
「大丈夫です!
こういう時こそ日頃の行いがものを言うんです!
アタシのここ最近の善行の積み重ね―――
今こそ見せてあげますよ!」
バタン、とマンションの扉を閉めて出て行き、
5分後……
ポツポツと雨が降り始めたかと思うと、それは
すぐに豪雨となり、雷光と共に轟音もし始め、
約15分後―――
見る影もなくずぶ濡れになった女神が
マンションに帰宅した。
「ぬあぁああ何ですかアタシが出掛ける
タイミングでアレ!?
しかも帰った途端晴れてきてるし!」
「日頃の行い定期」
0.5秒でツッコミを返すナヴィに、
フィオナは振り向いて、
「いやいやいやおかしいでしょー!!
この前なんてミミズが熱々の道路に不快な姿を
現したのを、視界に入らないようにして見逃して
あげたのに!」
「ただの見殺しじゃねーか。
それがどこの善行だ。
まあさっさとお風呂入ってください」
お目付け役の返答にフィオナはきょとんとして、
「へ? お風呂?
もしかして沸いてるの?」
「あれだけ盛大にフラグ立てまくって
いったんですから、嫌でも予想つきますって」
「そ、そうですかー。
じゃあ、ありがたく頂きますね」
いそいそとバスルームへ向かう女神をナヴィは
見送って、
「さて、それじゃそろそろ……
本編スタートしますか」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■職人ギルド街・印刷工房 │
「おっつかれー。はい、飲み物♪」
緑に近い茶髪の短髪を揺らしながら、
カーレイがナヴィに、
「キーラ君も♪
何なら口移しでも」
ブロンドの髪を後ろにまとめ、顔の両側に
ウェービーヘアーを垂らしたメヒラが、
獣人族の少年にカップを差し出す。
それを渡されたシルバーヘアーの少年2人は、
疲れた表情でふぅ、とため息をつく。
そこで今度は彼らの主筋&妹である、
黒髪セミロングと赤茶のツインテールの
少女たちが近付いてきて、
「でもホントに疲れた顔してますね、ナヴィ」
「キーラ兄、そんなに体力無かったっけ?」
その問いにお目付け役と獣人の兄は、
「まあ、ちょっとでしゅね」
「別種の疲れっていうか」
イスに座り、出された水分を補給しながら話す
彼らに、
「またまた~♪」
「別に減るものでもなし、ねぇ♪」
青年と思える外見の女性と、ハーフアップの
女性が共にからかうように言うが、
「いや、確かに何かが減っているような
気がするんでしゅよ」
「減っているとゆーか、
削られているとゆーか……」
するとフィオナがずいっ、と2人に近付き、
「そ、それは何か……
意識し始めちゃっているという事!?」
「何をでしゅか」
次いで、カガミもキーラに近付くと、
「カガミは、何があってもキーラ兄を
応援するよ!」
「何をだよ。
どう勘違いしているか知らないけど、
ボクたちが疲れたっていうのは―――
あの独特の空間というか、熱い視線というか
雰囲気にだからね」
少年たちはグロッキーな表情を隠そうともせず、
困ったように言葉を返す。
「まーまー。
おかげさんで作業は順調だよ」
「この分なら―――
『敷き写し』用の絵も、すぐに
準備出来るかもなあ」
カーレイ・メヒラの後に、絵描き組がウンウンと
うなずく。
「でもこれだけ絵描きさんがいて……
まだ必要なんですか?」
疑問に思ったフィオナがたずねると、
「モデルとなる対象が一組だけですからね」
「私たちが描いた絵の中で、一番出来が良いものを
選別して―――
それをさらに『敷き写し』に回すので」
絵描き組が口々に説明する中、ナヴィとキーラは
彼女たちの方を向いて、
「……だから、私とキーラ君が一緒の状態で
モデルになるからじゃないでしゅか?」
「ボクとナヴィさんが別々にモデルになれば、
一度に描く枚数も上がると思うんだけどなあ」
普通に考えて、効率の良い方法を提示する彼らに
「「「それに何の意味が?」」」
ハモるように女性陣が答え―――
その威圧感に、少年2名は押し黙った。
│ ■メルリア本屋敷 │
数時間後―――
フィオナ一行は、シフド国で拠点にしている
メルリア財閥の屋敷へと戻った。
『成果』である絵を確認しながら、ピンクの
ロングヘアーの女性は、眼鏡を直しながら
感想を口にする。
「ふぅん、よく描けているじゃないジュル」
「ヨダレを垂らしながら格好つけても
ムダだからね、メルリア」
キーラのツッコミに口元をぬぐい、彼女は
絵をテーブルの上に置く。
「まあでも……
確かに絵描きさんは多いし枚数も捗っている
みたいだけど、全部使うわけじゃないのよね?」
メルリアが置いた絵を何枚か手に取り、
フィオナは疑問を口にする。
「『敷き写し』用の絵は、確かに一番出来の良い
ものを使うけど―――
モデルを描く時は、いろいろな角度から描いて
いるでしょ?
それで構図の違う絵も用意出来るのよ」
「あー、それでぐるっと取り囲んでいたんだ」
屋敷の主の答えに、獣人族の少女が納得したように
答える。
「しかし、このままじゃ身が持たない
でしゅよ(精神的に)」
「体力的には大丈夫だけどさ。
いつか限界がくるかも(精神的に)」
不満を堂々と口にするナヴィとキーラに、
メルリアはなだめるように、
「んー……
後は組み合わせ次第でどうとでもなると
思うけど」
「絡みを期待するのはわかりますけど、
単体でもそれなりに破壊力はあると
思うんですよ彼らは。
アタシの知識では―――
確かこういうグッズもありまして……」
フィオナの説明に、女性陣は鼻息を荒くして
近付き、同時に男性陣は距離を置く。
「……何を話しているのかな、
フィオナ様は」
「どうでもいいというか―――
また日本文化知識を語って
いるのかと。
うかつに声はかけない方がいいと思いましゅ」
こうして、熱気を増すフィオナ・メルリア・
カガミと―――
それを対照的に冷めた目で見る少年2名、
という図式が出来上がった。
さらに1時間ほどして―――
夕食には少し早いという時間に、ある人物が
メルリア本屋敷を訪れていた。
薄くはあるが、短髪の白髪と……
真っ白な口ヒゲを生やした老紳士が、屋敷の
女主人と対峙する。
「グローマー男爵様。
本日はどのようなご用件で?」
「若い者は話がせっかちでいかんのう。
とはいえ、お前さんの事だ。
ある程度情報は把握しているのだろう?」
互いに腹の探り合いのように、本題になかなか
入らないが、
「ボウマン子爵様が手に入れた物であれば、
すでに知っておりますわ。
外の景色を箱の中に映す―――
からくりでしょう?」
「やれやれ、知っておったか。
その事で相談を受けてきたのだよ。
何か商売に出来ないか、とな」
その答えに、思わずメルリアはテーブルの上に
上半身を伏せる。
「いやいやいや……
だって男爵様との勝負をするって
言っているんでしょ?
何で敵の相談に乗っているんですか」
「勝手にあちらが勝負だーって、一方的に
宣言しているようなものだし。
おかげで情報は手に入るが……」
互いに困惑した表情を見せるが、すぐに
令嬢と貴族は立ち直り、
「でもあのからくりって、上下逆さまにしか
映せないんでしょ?
それでどうやって実用に耐えうると」
「いや、ワシが見た時はこう―――
上からのぞき込む事で、問題を解決しておった」
それを聞いたメルリアは一瞬黙り込むが、
「……詳しくお話を聞かせてもらえるかしら?」
「うむ。
そのからくりについてじゃが―――」
こうして『枠外の者』の財閥令嬢と、
『新貴族』の男爵は、30分ほど話し込んだ。
「なるほどねえ……
すぐに改良したってワケ。
商才はともかく、頭のいい人物のようね」
「ワシと同じく、ダテに長生きはしておらん。
それはそうと―――
こちらの事はどうする?」
それを聞いたメルリアは、両目を閉じて眉間に
シワを寄せるが、
「全部話しても構わないわ。
どうせその当主様の性格からして―――
真似はしないでしょうし」
「よくわかっておるのう。
でもまあ一応、お主の方で渡してもいい
書類などは分別しておいてくれ」
グローマー男爵の言葉に、彼女は席を立ちあがり、
「確かにそれもそうね。
こっちは絵の製本だから、何も持ち帰らないでは
あちらも不審に思うでしょうし」
そう言いながら、テキパキと書類をまとめて
いった。
同じ頃、疲れて寝入った兄と同室で―――
カガミが何やら探していた。
「あれー? おかしいな。
キーラ兄に見せられないガチ絵、
どこに置いたっけ」
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5694名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。