15・この圧倒的なアウェー感
( ・ω・)やっとワクチン接種予約が決まった
(書類はだいぶ前に来ていたけど、
予約可能な施設が無かった)
日本・とある都心のマンションの一室―――
リビングで、家主と思われる少女が、ペットらしき
一匹の猫と対峙していた。
「50%引きだと思っていたら50円引き
だったって事ありますよね」
「何を言い出した?」
フィオナの突然の物言いに、ナヴィは首を
傾げながら聞き返す。
そのミドルロングの黒髪の先端を、指先で
くるくると絡めながら女神は話を続け、
「いやだって『お買い得!』っていう表示まで
あったんですよ?
レジに持って行って気付いた時の衝撃と
言ったらもう……!」
フィオナの必死の言い分に―――
お目付け役(猫Ver)はふぅ、と一息付いて、
「そもそも、安売りなんて買わなくてもいい程度の
お金は、アルフリーダ様から出してもらっている
でしょうに」
「それはそうなんですけどぉ~……
そのあたりママ結構絶妙といいますか。
困らないけど贅沢は出来ないレベルの金額に
収めてくるんですよね」
彼は女神の返答に、自分の体を舐めて毛づくろい
しつつ、
「それでいいじゃないですか。
それとも、節約してまで欲しい何かが
あったんですか?
必要な物なら、たいていはアルフリーダ様か
ユニシス様に話せば、買ってくれると思うん
ですけれど」
ナヴィの説明に、フィオナは視線を反らして
「あー……その~……
もし半額だったら、ガチャ1回分は浮くかなー
って思ったり思わなかったり」
『そんな事許すわけないでしょ』
そこへ―――
室内に、母親であるアルフリーダの声が響き渡る。
「マ、ママ……!」
「アルフリーダ様。
やはりそこはきちんとしているのですね。
もう少しフィオナ様にお説教お願いします。
いくら趣味に対してはある程度ご寛容とは
いえ―――」
従僕が促すと、主人である女神は
『単発ガチャなんてやるだけムダよ。
やるなら確率UP&オマケ付きの時に
集中しないと。
少ないチャンスをものにするには―――
闇雲に回すだけではいけないわ』
「た、確かに……!
アタシが間違っていたわ、ママ!」
その母子のやり取りを見たナヴィは、そのまま
何事も無かったかのように廊下へ出て―――
「さてと……
そろそろ、本編スタートしますか」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■メルリア本屋敷 │
ロングのピンクヘアーの女性が、眼鏡を直しながら
目前の少年少女たちに話しかける。
「それで、ジアから連絡が来たので―――
カーレイとメヒラの工房へ行って欲しいの」
シルバー、そして似たような白銀の髪を持つ
少年2名が微妙な表情になる中……
対照的に赤茶のツインテールをした獣人族の
少女と、黒髪ミドルの女神は満足気な表情で
うなずく。
「結局、モデルとして行くんでしゅか」
「ていうかさ、あの本を作るのに女の子の格好
する必要あるの?」
ナヴィとキーラが今さら過ぎる不満を表明すると、
「諦めて大人しく運命を受け入れて♪」
「ね、神様もこう言っている事だしー♪」
フィオナとカガミが満面の笑みで答える。
「そんな人為的な運命認めてたまるかでしゅ」
「はぁ、もう……
一応言っておくけど、ボクもナヴィさんも
身体能力高いんだから、いつでも逃げられるん
だからね?」
釘を指すようにキーラが話すが、そこでナヴィと
顔を見合わせ小声で、
「(でも何か、あの集団から逃げられる気が
しないのは何でだろう?)」
「(わかるでしゅ。
物理とかそういう次元じゃない力が
働いている気がするんでしゅよね)」
そこでメルリアがパン、と手を叩き、
「あ、キーラ。
もし逃げるのならワタシも一緒にお願いね♪
あなたとならどこまでもイクわ」
「はいはい」
大人びた少年が姉をたしなめるように返答して、
ひとまず2人は工房へと向かう事にした。
│ ■職人ギルド街・印刷工房 │
「おう! 来たな2人とも!」
「で、そちらの2人は何しに来たんだ?
遠回しに言うと帰れ」
緑に近い茶髪をした青年風の女性と―――
ブロンドの髪を後ろにまとめた女性が、
少年2名と少女2名に正反対の言葉をかける。
「この圧倒的なアウェー感、嫌いじゃない」
「まったく遠回しじゃない件について」
女性陣のやり取りをナヴィとキーラは
どんな顔をして見たらいいのか困惑していたが、
「はは、冗談だよ冗談!」
「2人に取っちゃ大切なご主人様と妹なんだ。
機嫌を損ねるような真似はしないって」
カーレイが豪快に笑い飛ばし、メヒラも
腰に手をあてて意地悪そうに笑みを作る。
こうして全員が2階へと上がっていき、
ナヴィとキーラの『モデル』の仕事が始まった。
│ ■商業ギルド本部 │
「来たわね、メルリア」
商業ギルド、本部長室で―――
部屋の主であるダークブラウンの髪をした
女性が、来客を出迎える。
「貴女がそう言うって事は、ワタシが来る事を
わかっていたワケね?」
彼女の問いに、ジアは飲み物を用意しながら、
「何もないのに好き勝手に動けるほど、
私も貴女もヒマじゃないでしょ。
ルコルアとマービィ国から―――
『枠外の者』が来たそうね?」
「ええ。
これと言った物を持っていなかったので、
商談は成立しなかったけど。
彼らについて何か知っているのね?」
メルリアがジアの元を訪れたのは、
近況の情報収集のためで―――
そして『来たわね』という彼女の第一声で、
新たな情報がある事を確信していた。
「貴女の屋敷を訪れた後、彼らは……
ボウマン子爵家へ行っているわ」
「はぁ……寄りに寄って。
まあ、ワタシと同じように、今後の商売の
顔つなぎならわかるけど」
そう言いながらも、メリルアの顔は複雑になる。
「そうね。
少なくともボウマン子爵家では、
『新商品』が売れたそうよ」
「……新商品?
めぼしい物は特に無かったはず」
彼女はテーブルの上の飲み物に口を付けると、
ラムキュール・ファーバ組との商談の記憶を
引っ張り出して探す。
「外の風景を、箱の中に映し出すからくりって
貴女知っているかしら?」
ジアの質問に、メルリアは首を傾げ、
「どこかで聞いた事がある気がするわ。
ルコルアの鉱山で―――
外と小さな穴が開いた時に、真っ暗な洞窟の
中に逆さまの光景が映し出されたって……
それを人工的に作ったって事?」
「そうそう。
ルコルアって職人の国でしょう?
原理自体は簡単だったんで、再現に成功
したらしいの」
商業ギルド本部長の説明に、興味なさげに
財閥令嬢は頭をかく。
「あら?
何かつまらなさそうね」
「だって、逆さまにしか映らないんでしょう?
それさえクリア出来れば、ビジネスに使えそう
だけど―――
それに風景を映すだけならすぐに飽きられるわ。
お金持ちの道楽なら別にいいけど……
何らかの実用性や対象が無いと、ちょっと手を
出すには厳しいわね」
さすがに序列上位国の財閥の出だけあり、
商売の嗅覚と実現可能性については、それなりの
目と見識があった。
「じゃあ―――
ボウマン子爵様が買い取ったのは、何らかの
実用性と対象を見出したってところかしら?」
「―――!
なるほど……その情報が今回の商品って事ね?」
するとジアは首を左右に振って、
「あちらも新たな商売を計画しているらしくて、
異常なほど情報をシャットアウトしているのよ。
今のはあくまでも私の推測で独り言」
「そう、独り言、ね……
でもなかなか楽しい時間だったわ。
お茶代はこれでいいかしら?」
ジャラッ、と金貨が入った袋をテーブルの
上に置く。
「普通の職人の給料、3ヶ月分くらいは
ありそうね。
ありがたく頂くわ」
「ここのお茶はとっても高くで『価値』がある
物ですもの。
これからも飲ませてくださるようお願い
しますわ」
こうして、2人にしかわからない取引を
した後―――
メルリアは部屋を後にした。
│ ■ボウマン子爵屋敷 │
ところ変わって―――
子爵家の屋敷、自室で当主がティータイムを
楽しんでいたところ、ノックの音がした。
「誰じゃ?」
「例の『風景を映す箱』について―――
改良型の試作品が出来上がったそうです。
それについてご確認をと」
「ほお。3日しか経ってないというのに、
早いものじゃな。
入るがよい」
茶髪に近い金のツインテールをした、外見上は
幼い当主・ベラが入室を許可する。
「へえ、もう出来たんだ。
ね、ベーちゃん。私も見ていい?」
明るい緑のショートボブをした少女が、席から
腰を浮かせて聞く。
「まあ待て。まずは私からじゃ。
どれどれ……」
テーブルの上に置かれた箱―――
その上の一端には開閉可能なフタが付いており、
持ってきた職人らしき者がそこを開ける。
「さあ、どうぞ。
ボウマン子爵様―――」
「ウム」
ベラ当主がイスから立ち上がり、のぞこうと
するが……
その低過ぎる身長では、箱の横に目線が
来るだけで―――
見かねたアーユが助け船を出す。
「ほら、ベーちゃん。
私がイスを支えていてあげるから……」
「よ、余計なお世話じゃ!
決して離すでないぞ!」
アーユがイスを、万一のために職人がベラを
いつでも支えられるようにスタンバイし、
ボウマン子爵家当主はようやく箱をのぞく。
「フム、これは―――
なるほど、こうして見れば上下逆の問題は
解決しておるな」
「はい。子爵様から鏡のアイデアを聞いて
おりましたので……
ならばいっそ、写される側面を斜めにして
上からのぞきこめば、と」
「えーなになに!?
どうなってるのー!?」
こうして職人と子爵家当主、その孫が―――
はたから見れば、大人と少女2人が、騒がしくも
楽しくやっている光景のまま……
時間が過ぎていった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5687名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。