10・薄い本に関してはちょっと知識が
( ・ω・)今回の章、まだ回想以外で『アンカー』
出てないな……
日本・とある都心のマンションの一室―――
セミロングの黒髪をした少女が、ペットと思しき
一匹の猫と対峙していた。
「んんん~……」
「どうしました、フィオナ様。
またガチャの軍資金でも足りなく
なったんですか?」
ナヴィの言葉に、女神は片手を左右に振って、
「いや『また』って何『また』って。
そんなんで悩むのって、限定イベントか
季節イベントか推しキャラのコラボの時
くらいでしょ?」
「結構あるじゃねえか。
ではいったい何を悩んでいたんです?」
フィオナは人差し指をアゴにあてながら、
「お仕事ですよ。
ホラ、アタシの信者数……
結構伸び悩んでいるというか、その」
「でも当初は神の資格はく奪の危険まで
あったんですよ?
それに比べればゼイタクというものでしょう。
あと、やはりフィオナ様は果樹の豊穣を司る
女神様なので―――
イメージ的に信者拡大が難しいというのが
あるかも知れません」
お目付け役に対して、女神はまた『ん~……』と
うなる。
「イメージと言いましても……
それがアタシの本来の役目ですからねえ」
「あちらの世界の世間一般で、どういうイメージか
確認出来ればいいのですが」
それを聞いたフィオナはスマホを取り出して、
「あー、確かに。
こういうのみたいに、検索とかで予測変換とか
出来たらいいんですけどね」
検索画面を見せられたナヴィは、フー、と
ため息をついて、
「まああったところで出てくるのは……
フィオナ ヘタレ
フィオナ 女神?
フィオナ 必要?
フィオナ ニート
フィオナ 喪女
フィオナ ドジ属性
フィオナ おねショタ
フィオナ 黒ブラ
くらいになるのが関の山かと」
「終わっているじゃないですかヤダー!!
ていうか何そのイメージ!?
特に最後!!」
お目付け役は後ろ足で頭をカカカッ、と
かきながら、
「だいたいあってる、と思うのですが……」
「お願い待って!
何か一つくらい女神らしい
イメージがあぁああ!!」
「無い物はありませんよフィオナ様。
では茶番はこれくらいにして本編スタート
しましょう」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■職人ギルド街・印刷工房 │
「ふー……」
「これで終わり、でしゅかね」
シルバーの巻き毛を持つ獣人族の少年と、
また白銀の髪を持つ少年が、疲れたような
声を発する。
あの後、絵描きの女性たちによって『デッサン』が
行われ―――
女装の後に、『通常』のモデルを終えた2人は、
さすがにグロッキーになっていた。
「いやー良かったぜ」
ライトグリーンの短髪の、見た目は美青年の
カーレイが、片手を振り上げて労う。
「どちらでもイケますわぁ……♪
こんな素材がこの世に存在したなんて」
いわゆる、お団子状に後ろで髪をまとめた
女性―――
メヒラが、その欲望を隠す事なく正直に述べる。
そこでロングのピンクヘアーをした女性が、
キーラに歩み寄り、
「でも意外ね。
貴方、獣人だし結構体力ありそうなのに」
「精神的な疲れは別だって、メルリア。
それより―――」
彼は一緒にいるナヴィと同時に、ある場所へ
視線を移す。
「フィオナ様はどうしてカガミしゃんと一緒に
デッサンを?」
カガミはすでに絵心についてはみんなに
認られており、彼女に関して問題は無いが、
さすがに抗議が女神に向かう。
「やーそのぉ。
こんな特等席は滅多に見られないと思うと」
「そうでしゅかあー。
じゃあしょんなに時間と体力が有り余って
いりゅなら、フィオナ様も『モデル』、
出来ましゅよねえ?」
彼のカウンターに、思わず女神と獣人族の妹は
身構えるが……
周囲は誰からともなく片付けを始める。
「あれ……?」
「どーいう事でしゅかね?」
少年2名が疑問を呈するが、
「あーコレはアレだな」
「せっかくの極上の妄想を目に焼き付けたん
だから、これ以上余計な情報は要らないって
ところかしら」
カーレイとメヒラが両腕を組んでうなずき、
フィオナとカガミ、メルリアも同調する。
『超納得出来ねえ』という表情のナヴィと
キーラを残して―――
ひとまず、工房の最初の『視察』は
幕を下ろしたのであった。
│ ■商業ギルド本部 │
「あら、メルリア。
いらっしゃい」
以前、訪れた事のある商業ギルド―――
その本部長室で、部屋の主である女性が出迎える。
ダークブラウンの髪を優雅に揺らしながら、
来た一行の面々を視線で流し、
「ああ、じゃあ……
カーレイはもう工房を用意したのかしら?」
「まあ、そのようでしゅけど」
「何でボクたちの顔を見て言うわけ?」
明らかに疲労の色が濃い少年2名のところで
ジアは答えたので、彼らはわかりきった質問を
向ける。
「で、いつから始められそう?」
ナヴィとキーラの視線から逃れるようにして、
ジアはメルリアへ声をかける。
「今日からでも開始出来そうな感じだったけど、
まあ本格的に始動するのは一週間後くらいだと
思うわ」
「そうですね。
今日は何というか、一応やる人だけ集まって
みた、という印象を受けました」
フィオナが補足のように続き、
「材料はそこそこあったような気がするけど、
準備はまだまだこれからってところかなー」
カガミも似たような分析と感想を述べ、
女神のお目付け役と獣人族の兄が感心しながら、
「よく見てましゅねえ。
しょこまでわかるものなんでしゅか」
「人間族の工房なのに、見ただけでよくそこまで
わかったな、カガミ」
すると少女2名は顔を背けながら、
「あー、まあ、薄い本に関してはちょっと知識が
あると言いますか」
「まー今はカガミも絵描いてるし?
インクの匂いとかそういうのには敏感なんでー」
それを聞いてナヴィとキーラは微妙な表情に
なるが、空気を読んだ本部長が、
「後は、グローマー男爵様への報告が
あるんじゃない?」
その問いにメルリアは両目を閉じて、
「目星は付いたけど、まだ準備段階だから……
本格的に始動したところで『あいさつ』に
行こうかと思ってたんだけど」
「そう?
でも、『新しい商売』って何かと面倒よ。
ヘンな連中に目を付けられないうちに、
一言、声をかけておいた方がいいんじゃ
ないかしら」
本部長の忠告に、財閥令嬢はお茶を口に付けて、
「あの男爵様に盾突く命知らずが、この国に
いるとは思えないけど……
考えておくわ」
ビジネスの話を終えたメルリアとその一行は、
10分ほどティータイムを過ごした後……
商業ギルドを後にし、馬車に乗り込んだ。
│ ■メルリア本屋敷 │
「……あら?」
一行が本屋敷へ到着すると、その前に一台の馬車が
停車しているのが見えた。
メルリアの馬車と比べると、豪華ではないものの
ところどころ立派な装飾が取り付けられており、
格式高い雰囲気を放つ。
「あのおじいちゃんの匂いがするー」
カガミの言葉に、兄の獣人族も鼻をフンフンと
鳴らす。
「確かにあの人の匂いだね」
「噂をすれば……ってところかしら。
手間が省けていいけど」
一行は馬車を降りて、そのまま屋敷の中へと
入って行った。
「スマンな。
お邪魔しておるぞ」
「構いません。
ちょうどこちらからも、いつ出向くか
話していたところですので……」
真っ白になった口ヒゲをたくわえた紳士が、
応接室で待ち構え―――
屋敷の主であるメルリアが対応する。
「ほぉ。
と言うと、進展があったのかのう?」
「白々しいですわね。
その情報を手に入れたからこそ来たんでしょう?
全く油断もスキも無いんですから」
毒づく彼女の口調には、いくらかの畏怖も含まれて
おり―――
それを老人はカラカラと笑いながら流す。
「何、年寄りの耳は遠いのでね。
それでいち早く話を聞かせてくれる者が
いるだけさ」
「男爵様だけ?
護衛はどうしたんですか?」
一人なのを不審に思ってか、フィオナが
質問する。
「おや? お嬢さんは……」
「あ、えーと……
お母さんにはお会いした事ありますよね?
アルフリーダの娘、フィオナです」
口ヒゲをなでながら、ふむふむ、と女神の娘の
顔を見て、
「これはお可愛らしい。
どちらかというと、お父様似ですかな?
あと護衛は最低限にしておるのじゃよ。
一応この国でも名門の貴族なのでな。
襲おうという者は自殺志願者くらいしか……」
声のトーンが少し暗くなり、目の輝きが
修羅場を経験した人間のそれになった時―――
「おじいちゃーん!!」
笑顔のカガミが猛スピードでグローマー男爵に
飛び掛かり、
「失礼!!」
「ぬおおっ!?」
間一髪のところで、それを察知したキーラが
男爵をタックルするように抱え上げてその場を
離れる。
同時にそこを通過したカガミは壁を破壊し、
「いったぁ~……
何するのさキーラ兄」
「こっちのセリフだバカー!!
お前この人を殺す気か!?」
地面に降ろされた男爵は、片手を左右に
振りながら、
「大丈夫じゃ、こんな子供の戯れ程度……
でもお水ちょうだい頼むから」
「は、はい! どうぞ!
あと誰か医者呼んできてー!!」
メルリアが部屋の外へ向かって叫び―――
こうして応接室は一時、喧騒に包まれた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5601名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。