09・まあつまり何だ暴走した
( ・ω・)作品のストックという概念が
理解出来ない(常にギリギリな作業量)
日本・とある都心のマンションの一室―――
「ふー、ただ今でしゅ」
「おろ? 人間の姿で帰宅とは……
また何か来てたの?」
リビングで同居人を出迎えたフィオナは、
冷蔵庫から飲み物を出す。
「いえ、今日はユニシス様に手合わせして
頂いておりましゅた。
一応、お目付け役兼護衛でしゅからね」
ナヴィは出された飲み物を飲み干すと、
軽く汗をぬぐう。
「修行かー。
アタシも初の信仰地域もらうまでは
よくやってましたねー」
アイスをかじりながら、女神は昔を思い出して
しみじみと語る。
「フィオナ様もやってみたらどうでしゅか?」
「やー、アタシは果樹の豊穣を司る女神だしー、
あんまり乱暴な事は……」
そこでんー、とナヴィは考え、
「もし、今の信仰地域が―――
力づくで相手を決めていい世界とか
でしゅたら?」
「そりゃ自ら修行頼みに行きますよ」
「さすがはフィオナ様、信じておりましゅた」
彼もアイスを受け取り、それを食べ始める。
「でもまー、アタシは女の子だし基本受け身
じゃない?」
「まあ生物学的にはそうでしゅけど」
お目付け役の言葉に不満気な顔になりながらも、
女神は会話を続け―――
「いやいや……
だってフツー、生物的にはオスがメスに
迫るモンでしょーが」
「しょれは否定しませんが―――
じゃあ実際に迫られたら?」
「そりゃまあ、相手によりますね。
嫌なら当然拒否もするでしょーし」
食べ終わったアイスの棒を口にくわえながら、
ナヴィはさらに質問する。
「では好みでしゅたら?」
「逃がさねえ」
ヨダレをふきながら答えるフィオナを見ながら、
「(……しょれでもいざ迫られたら―――
ヘタレるのが容易に想像出来てしまうのでしゅ
がねえ……)」
「?? 何か言った? ナヴィ」
女神の問いに、彼はアイスの棒を口から出すと、
「いえ別に―――
しょれではそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■メルリア本屋敷 │
「へー、それってカガミにもいつかもらえるの?」
「はい。何らかの活躍を示せば」
『称号』の報告を終えたフィオナとナヴィは―――
シフド国まで戻って来ていた。
もっとも、アルフリーダのような同世界での転移は
まだ出来ないので、一度地球に戻ってから再降臨、
という形を取ってである。
そして自室へ第四の眷属である少女とその兄を
呼び寄せ、彼らにも称号の話をしていた。
「カガミが活躍……
嬉しいような考えたくないような」
首まで伸びている銀髪の巻き毛をくるくると
手に巻きつかせながら、獣人族の少年が微妙な
表情になる。
それとは対照的に赤茶のツインテールの少女は、
空中に向かってパンチを繰り出していた。
「……しょういえば、キーラしゃんと
カガミしゃん、髪の色が違いましゅね」
「そういえばそうですね。
獣人族ってそんな感じなんですか?」
女神の主従の質問に、獣人族の兄妹は振り向き、
「カガミはおとーさん似なの!」
「ボクは母親譲りの髪の色で……
というより、ボクたちからすると人間族の方が
髪の色の種類が少なくて驚いてるよ」
その答えにフィオナはウンウンとうなずく。
「まあ種族が違いますもんね」
「しゃてと。これからどうしましゅか」
『称号』の情報共有の話は終わったので、今後
どう動くかナヴィが思案していたところ―――
ノックと共に屋敷の主の声が聞こえた。
「ちょっといいかしら?
印刷工房なんだけど、抑える目星はついたから、
あとはモデルさんに見てもらいたいんだって」
そこでひとまず4人は、屋敷の応接室へ場所を
変える事にした。
「ずいぶんと早いような……
カーレイさんが来たのって、つい先日
でしたよね?」
フィオナの質問に、ロングのピンクヘアーを
揺らしながらメルリアは答える。
「まあ、多分……
探したというよりは、どこかを乗っ取ったか
改造したか……ゲフンゴホン」
言いにくそうにする彼女に構わず、今度はナヴィが
質問を続ける。
「それはそうと―――
モデルに見て欲しいという要求は何でしゅかね?
技術的な事はわからないと思うのでしゅが」
「それは単純に、実際にモデルをしてもらう人に
どういう環境か見て欲しいだけだと思うわ。
汚いとか狭いとか、そういうのは嫌でしょ?」
そう一般論で答えるメルリアの視線はどこかを
泳ぎまくる。
「ホントーにそれだけ?」
キーラがたずねると、彼女は焦りながら
「え、えーと……
そのままなし崩しにモデルやってとか、
着せ替えさせられる事は十分予測出来ると
ゆーかー。
ま、まあお二人なら大丈夫でしょ。
もし本気で嫌だったら逃げられると思うし」
本命はそっちかー、と、フィオナとカガミは
目を細く線のようにした顔となる。
「……下見には行くだけ行ってみましゅか」
「そだね。
どちらにしろ、確認はしないと」
達観したように少年2人が答え―――
外出の準備を始める事になった。
│ ■職人ギルド街・印刷工房 │
「よく来たね、みんな!
じゃあさっそく中を案内するぜ!」
緑に近い茶色の短髪をした青年―――
いや女性が、メルリア一行を迎え入れる。
そこは石造りの建物で、中には版画用であろう
木の板、そして大量にまとめられた紙などが
置かれていた。
「モデルさんの部屋は二階だ。
取り敢えず見てみるかい?
一応、キレイにはしているつもりだよ」
カーレイが答えを待たずにドカドカと階段を
上がって行き―――
それに続いて5人も上へ向かう。
「ふーむ、なるほどでしゅ」
「イスが真ん中にあるって事は……
周囲に画家を配置するのかな?」
モデル担当のナヴィとキーラが周囲を見渡し、
自分たちが『仕事』をする時を想像しながら
部屋の中を確認する。
「後はじっとしているだけでしゅか」
「それが一番キツいかなあ。
メルリアで化粧や着替えとかは
慣れているんだけど」
「トイレ……はあちらでしゅね」
「こっちは着替え室と―――
全部二階で出来るようになっているのか」
少年は互いに言葉を交わしながら、平静を装うが、
「ねーねーナヴィ。
それはそうと……」
「キーラ兄。
あっちの人たちに何か言う事はないのー?」
フィオナとカガミの言う通り……
二階の上がった時点で、数名の女性が待ち構えて
おり、それぞれが妖しい光を目に帯びていて―――
「さあ、なんのことでしゅかね?」
「ぼくたちにはさっぱりわかりません」
あくまでも現実から目をそらす2人に、
メルリアがため息をつきながら、
「気持ちはわかるけど、話が進まないから。
それにしてもメヒラ、貴女が関わっている事に
驚きはしないけど……
絵の心得なんてあったかしら?」
髪をハーフアップにまとめたウェービーヘアーの
女性が、人差し指を顔の前で立てて左右に揺らし、
「いやぁ、絵描きは彼女たちのお仕事。
俺っちは『モデル』さんの魅力を極限まで
引き上げるだけ―――
確かに極上の素材だわ。
カーレイに聞いていたけど、想像以上だぜ♪」
舌なめずりしながら、複数の女性を従いつつ
ナヴィとキーラの距離をジリジリと縮める。
「映画ではよく見ましゅが、窓を突き破って
逃げるのは初めてでしゅね」
「人生何事も経験だよ、ナヴィさん」
もはや目も会わせず合意する少年たちに
カーレイが片手を振って、
「脱出はもう少し穏便に頼むよ、2人とも」
「いきなり工房で騒ぎ起こさないで、ね?」
メルリアも互いに両手の手の平をつけて
拝むように懇願し、仕方なく彼らは言う事を
聞く事にした。
結局2名はそのまま『着替え室』に連行され、
女性陣が残される。
「お手柔らかに頼むわよもう~……
そりゃ少しは慣れていると思うけど」
メルリアがくたびれた声を出すと、カーレイも、
「いや、あんなのを出されちゃメヒラも
ガマン出来ないだろ。
ま、すぐに済むと思うから―――」
そして待つ事10分ほど……
彼女たちの手でいろいろと施された2人が
姿を現すと―――
「……えっ? え??」
「キーラ兄……だよね?」
女性用の服に身を包み、化粧をさせられた
それは―――
ある意味経験豊富の2人に取っては珍しくも
何ともないものだったのだが……
唯一、未経験の『それ』にフィオナ・メルリア・
キーラが注目する。
「……何でしゅかね……」
「ちょっと窮屈?」
ナヴィとキーラの胸には立派な2つのふくらみが
あり―――
それは今までの女装では無かったもので、
3人とも驚きを隠せない。
「いやもー化粧ノリはバッチリだし、
それにいいだろコレ!
小さ過ぎず、それでいてちゃんと存在を
主張していてもうどこからどう見ても
美少女の中の美少女だぜ!!」
メヒラが胸を張って自慢気に話す。
女神と獣人族の少女の目は、従者と兄の胸に
釘付けになったまま―――
「(く……っ、い、いけません!
以前はママの胸でも『おっぱいこのやろう』
としか思えなかったのに―――
少しだけ興奮しそうになったアタシが……!)」
するとカーレイとメヒラと視線が合い、
(……さあ、こっちへ来るんだ……)
(……こっちの水は甘いぞ……)
「(こ、この2人……!
脳内に直接……!!)」
よくわからない攻防を3人が行っている中、
「それででしゅね」
「聞きたい事があるんだけど」
ナヴィとキーラの言葉で現実に引き戻された
フィオナが顔を向ける。
「な、何です?」
すると2人はカーレイとメヒラの方を向いて、
「いえ、確かモデルは男と限定していましゅたし」
「オリイヴ国でもモデルはしたけど、ボクや
ナヴィ様は普通に男の格好だったよね?
どうして女の子の格好になる必要が?」
(6章37話
『イイデスヨーその調子です!』参照)
『そういやそうだ』と、フィオナ・メルリア・
カガミの3人が気付く中、工房の2人は、
「趣味だ」
「将来的にこっちも売れるようになるかも
知れないので貴重な機会を逃してなるかと
思っていやそっちだって大人しくしてたし
まあつまり何だ暴走した」
「「ふざけるな(でしゅ)ーーー!!」」
カーレイ&メヒラの言葉を聞いた2人の絶叫が、
工房に鳴り響いた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5591名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。