08・よくぞあそこから盛り返した
( ・ω・)『称号』の話なんて、誰が覚えて
いるだろうか(切腹)
日本・とある都心のマンションの一室―――
一通の書類を前に、一人の少女とペットらしき猫が
座っていた。
「あー……
これですねえ」
「また称号の通知を無視していたんでしゅね。
多分、時期的にポーラしゃんに付いていても
おかしくないでしゅよ」
『眷属の功績と称号』とタイトルが書かれていた
それは―――
かつてアルプとファジーに称号が付与された時の
書類と同じもので……
「まあ気付いて良かったでしゅよ。
ほれ、さっさと神眼展開してくだしゃい」
「は、はぁ~い……
しかし本当に久しぶりだわ」
彼女が意識を集中すると―――
目の前にスクリーン状の画面のようなものが
現れる。
「しゃて、どんな感じでしゅかね」
「待ってください、えーと……
■アルプ・ボガッド(旧姓クリスプ)
称号1『癒しの使徒』
称号2『運命を覆す者』
称号3『神樹の庇護者』NEW!
あ、増えてますよ!」
「これは、オリイヴ国であの植物モンスター……
もといパックを使役した事の功績によるもの
でしゅね」
次いで画面を下へスクロールさせていき、
「ファジー君は―――
■ファジー・ベリーニ
称号1『理を照らす者』
称号2『不当の破壊者』
称号3『打開を導く者』NEW!
おお、彼も増えていますね」
「ファジー君の助言は要所要所で、鋭いところが
ありましゅからね。
まあこりぇも納得でしゅ」
そしてさらに下画面へ視線と共に流していき、
「あ、ポーラさんにも称号が……!
■ポーラ・ネクタリン
称号1『人理の調停者』
称号2『表裏の支援者』
なるほどなるほどー」
「確かに表立った働きはないように見える
でしゅけど、知識を活用して―――
その世界に沿った解決に落とし込んで
いましゅからね。
基本的にバクシアとの連絡・協力が密に
出来るのは、彼女の存在が大きいでしゅし」
ふむふむ、と眷属が書かれているであろう一覧に
フィオナは目を通し―――
「さすがに、新しく眷属になったばかりの
カガミさんにはありませんねえ」
「まあ彼女はこれからという事で……
ん? これは何でしゅかね?」
ナヴィからの指摘に、彼女はスクロール下部に
現れた単語に視線を集中させる。
「?? 特別称号?
こんなのありましたっけ?」
「えーと……
眷属ではないが、信者として・支援者として
多大な貢献があった者に対する特例……
とありましゅね」
スッスッ、と画面を下へスワイプさせると―――
そこには3人の名前が表示された。
「おお、これは……!
■バートレット・ビューワー
特別称号『虐げられし者たちの盾』
■マルゴット・グラノーラ
特別称号『神ならぬ身の聖女』
■レンジ・バーレンシア
特別称号『真なる勇者』
な、なかなかイイ感じの称号が」
「あの3人にはそれこそ最初の頃からお世話に
なりっぱなしでしゅからねえ。
こりぇ、教えて差し上げたらどうでしゅ?
評価されれば喜ぶと思いましゅよ」
すると女神は両目を閉じて、
「じゃあ眷属の3人にも教えてあげた方が
いいですよね」
「ちょっと待て。
もしかして称号の事、まだ誰にも言って
なかったんでしゅか?
1年半以上経っているのに?」
その問いにフィオナは目を明後日の方向へ向けて
キョドりながら、
「ししし仕方ないじゃないですかー!
そもそもこの茶番とあちらの時間の流れは
違うし無視してるし!
それに発表しなければならないなんてどこにも
書いてないしー!!」
「じゃあ何のための称号なんでしゅかね……
はあ、じゃあ今からでもいいでしゅから
通達していきましょう。
それじゃそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「……まあ、アルプにそんな称号があったなんて」
第一眷属の少年の母であるソニアは、嬉しさと
驚きを半々にした表情を見せ―――
息子の成長と功績を喜んでいた。
「実際、だいぶ前から称号は授与されていたん
でしゅけどね本当にこの女神が申し訳ない」
「いやお願いダ女神くらいで止まって
アタシの別名ー!!」
ナヴィに頭を下げさせられるフィオナを前に、
同室の母子と、貴族・商人の面々は困惑する。
今回の称号授与の件について―――
元々家にいたメイの他に、バートレットと
マルゴット、そしてバーレンシア侯爵が
呼ばれていた。
「でもすごいですねアルプ君!
3つもの称号があるなんて!」
ウェーブのかかった銀のロングヘアーを
ぴょんぴょんと揺らしながら、メイが
興奮気味に話す。
ピジョン・ブラッドの長髪をした商人の娘が
それに続き、
「フィオナ様が本格的に降臨される前から、
苦難を乗り越えて来ましたもの。
当然の評価だと思います」
それを聞いて、アルプは真っ赤になってうつむく。
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「アタイのファジーも称号3つか。
まあいろいろと活躍したもんな!
姉として鼻が高ぇぜ!」
「も、もう……ミモザ姉ったら」
血は繋がっていないが、お揃いのブラウンの髪を
混ぜるように―――
姉は弟を抱きしめた。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「突然、称号の話をすると聞いて驚き
ましたけど……」
「ポーラにも2つ称号が授けられたんだろ?
しかも神様からなんてスゲーじゃん」
第三眷属の女性が現実感が無いように話し、
シモンが肯定するように続く。
「ネクタリン(ポーラ)さんには、それだけの
実績がある」
「もっと自信を持っていいのですよ」
屋敷の主である夫妻もまた、彼女に称賛の声を
かけた。
│ ■アルプの家 │
「しかしその、私たちにも称号というのは―――」
「『聖女』なんて、そんな大層な事は
しておりません。
出来る事をしてきただけで……」
一方でビューワー伯爵とグラノーラ令嬢が、謙虚に
自己評価を語る。
「そーだよねえ!!
ていうか何、僕が『勇者』って!!
魔王か何かと戦わなきゃいけないの!?」
フォックスタイプの眼鏡が与える冷徹な印象とは
対照的に―――
バーレンシア侯爵は滝のような汗を流す。
「いやまあその~……
た、多大な貢献があった方へ特別に贈られる
ものですから……」
フィオナが慰めるように彼に話しかけるが、
「でもですねそれならボガッド家とかどうなんで
しょうかあちらの方が資金面その他で功績は大
だと僕は思っているのですが」
涙目で侯爵が正論でまくしたてる。
するとナヴィが割って入り、
「しょれなんでしゅが―――
すでに称号が授与された人の血族というか
身内に、新たに称号は出されないんでしゅ。
そもそも眷属というのは、大勢の信者の中から
選抜されるものでしゅよ。
だから称号というのは元から、代表として
称されるような性質のものなんでしゅ」
彼の説明に、同室の人間は『おお』と納得の
声を上げる。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「なるほど……
そう考えると誇らしくありますな」
「アルプちゃんは正式な跡継ぎでもありますし、
ボガッド家の代表として―――
こんな喜ばしい事はないでしょう」
老夫婦は満足気な表情で受け入れる。
「あー……
それじゃ、メイも対象外なんですね?」
おずおずと、ポーラが手を上げてたずねる。
│ ■アルプの家 │
「そうでしゅね。
あと、ソニアさんもそうでしゅし、
血は繋がっていないでしゅが……
ミモザさんも同様でしゅ」
義理の祖父母がそうであるように―――
第二眷属の姉も対象外である事をナヴィは告げる。
│ ■ルコルア国・ファジーの家 │
「別に構わねぇよ。
情報屋なんて裏稼業をしてきたアタイにゃ
神様の称号なんて過ぎたモンさ。
そんなアタイについてきてくれたファジーを
誇りに思う。自慢の弟だよ」
「ミモザ姉……」
後ろから両手を回す姉の腕に、彼はぎゅっと
しがみつくように応える。
│ ■アルプの家 │
「でも、過去を振り返れば―――
今の状況が夢のようです」
アルプがグリーンの髪をなでながら両目を閉じ、
思いを馳せる。
「そうですね。
ソニアさんを取り戻したどころか、
奉公労働者を解放し―――」
「バクシアが我が国と婚姻を結ぶところまで
来ましたからね。
あの頃に比べれば雲泥の差でしょう」
商人の娘とフラールの伯爵も同調し、
「そうだね。
僕もここの代官になった時―――
こんな事になるとは想像すらしなかった。
今思えば、アレが人生の転機というヤツ
だったのかも」
バーレンシア侯爵もしみじみと述べ、
次いで女神の主従が、
「最初はホントーにいろいろありましゅた……
信者数なんてしょれこそギリギリでしゅたし
よくぞあそこから盛り返したというか」
「い、いいでしょ!
共に苦難を乗り越えた今は―――
絆の思い出となって記憶に刻まれて
いますから!」
フィオナとナヴィはいつものやり取りで
締めくくり、それを周囲は戸惑いながら
見つめていた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5585名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。