07・モデルという名のイケニエ
( ・ω・)ここ数日、静電気攻撃を立て続けに食らう。
日本・とある都心の片隅―――
日中でも人通りが少ないと思われる、寂しげな
裏路地で……
一人の少年が2人の女性と対峙していた。
「……どういうつもりでしゅかね?」
シルバーの短髪を風になびかせながら―――
明らかに異国の顔立ちを、目の前の異性へと
向ける。
「だってねえ……
人間に手を出すといろいろうるさいし」
「久々の『お仲間』で―――
しかもこんな可愛い子なんて、ここ百年は
見なかったもの……!」
一方はコウモリのような翼に悪魔のシッポを
備えた、10代半ばの外見、
もう一方は鳥の羽―――
色が黒いという事を除けば、天使のような姿の
女性が佇んでいた。
「はあ、話し合いはいつも通り無理っぽい
でしゅね」
その言葉と同時に、彼の短髪が逆立ち―――
口元には人間のそれではない牙が見え、手には
鋭い爪がいつの間にか備わっていた。
「ああ、いいいわぁ……♪
そのお姿もお美しい……♪」
「私どもに取ってはこの戦いすらご褒美……!
いざ、行きますわよ!」
そして人外の戦いが人知れず始まった。
―――10分後―――
「しゃて、落ち着きましゅたか?」
少年に戻ったナヴィの前で、小悪魔と堕天使の
2人の女性が正座していた。
「うへ~い……」
「2人がかりでもダメってどういう……」
目立ったケガこそ無いものの、ボロボロになった
彼女たちは涙目で答える。
「まったくもう……
顔を傷付けないように戦うだけでも大変
なんでしゅよ?
しばらく反省してくだしゃい」
「は、はぁ~い……」
「やっぱり怒ってます、よね?」
チラチラと見上げる2人に、上から声が
かけられた。
『本当に反省してましゅか?
じゃあ脱ぐでしゅよ』
「え?」
「は?」
小悪魔と堕天使がキョトンとして聞き返す。
『許して欲しければ、その体でご奉仕するでしゅ』
「あ、あの―――」
「それに従うのにやぶさかではありませんが、
出来れば落ち着いた場所で……」
そう言いながらも、彼女たちは自ら衣服に
手を伸ばす。
『どうした? 早く脱ぐでしゅよ。
しょれとも脱がされる方が好みでしゅかね?』
「あ、あの―――
それはもう本望といいますか」
「あ、ああ、遂に……!
受け入れて頂ける日が」
彼女たちは喜んで立ち上がると、そこには……
背を向けて女神をアイアンクローのように仕留める
お目付け役がいた。
「お・ま・え・は・何・を・
し・て・い・る・ん・で・しゅ・か?」
「ぐげげげげいや何か帰りが遅いなーと
思いましてそうしたらちょうど面白そうな
ところに出くわしましてですねいだだだだだ」
突然の光景に2人の人外が戸惑っていると、
女神はナヴィの背後の彼女らに、片手の親指を
上に向けてサインを出す。
それに対し小悪魔と堕天使も同じサインを
出して答え、
「(ぐっじょぶだ、女神よ……!)」
「(この妄想忘れぬぞ。
礼はいつか必ず……!)」
そして2人の姿が消え―――
後には2人の人外の男女が残された。
ナヴィはようやくフィオナの顔面から手を放し、
「あーホラ、もう。
逃げられちゃったじゃないでしゅか」
「ゴ、ゴメンってば。
ていうか、いつもあんな感じなの?」
その問いに、彼は頬を人差し指の先でかきながら、
「敵対していれば容赦はしないでしゅが、
好意で来てましゅからねえ。
扱いが面倒なんでしゅよ。
それじゃそろそろ、本編スタートしましゅね」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■メルリア本屋敷 │
カーレイが嵐のように訪問・過ぎ去った翌日―――
女神と従僕の主従、そして獣人族の兄妹は……
屋敷の主である女性商人と話を詰めていた。
「じゃあ、予算はある、人員も施設も揃ったと
見て良いって事で」
「そうね、後は待つだけ―――
多分、早ければ2・3日中……
遅くても1週間以内には連絡があると思うわ」
フィオナの話に、メルリアが対応する。
「じゃあ私とキーラ君は、モデル候補として
待機でしゅね」
「ジッとしているの苦手なんだけどなあ」
次いで、ナヴィとキーラが伸びをして、
「じゃあカガミはー?
この辺、散歩してきてもいいー?」
「まあお前なら、多少の事は大丈夫だろうけど」
妹の希望に、兄は心配しながらもやや肯定する
形で答えるが、
「……そういえばお前、よくカーレイさん相手に
あんな長時間ガマンしていられたな」
「そういえばそうでしゅね。
フィオナ様についても、不思議に思って
いたんでしゅけど」
少年2人の疑問に、妹と女神は、
「それなんだけどさ、何か抵抗出来なかったん
だよねー。
怖いとかそういうんじゃなくて、逆らえなかった
っていうか」
「アタシも似たような感じですね。
この作業が終わるまで動けない、って感じで」
それを聞くと、メルリアがロングのピンクヘアーを
手で触れながら、
「同性に対して、変な魔力でも持っているの
かしら。
そういう気がないコでも、なぜかカーレイには
逆らえないのよね。
天然というか魔性というか……」
半ば投げやり的に話す彼女だが―――
周囲もその説明を受け入れていた。
「それはそうと……
この件、『枠外の者』や『新貴族』は何か
言ってきてないのでしゅか?
グローマー男爵も、あれからずいぶんと
大人しいと言いましゅか」
ナヴィの質問に、メルリアは人差し指を顔の前で
立てて左右に振り、
「グローマー男爵は位こそ男爵だけど……
代々続く名家であり、シフド国の利権の
総元締めにして調整役。
彼が目を光らせていれば問題無いわ。
それに―――」
「?? それに?」
フィオナが聞き返すと、女主人はクスリと笑って、
「女性はこの件ではほぼ味方だし、
男性で女性の集団を敵に回すような人は……
先が見えていないバカしかいないわよ」
その答えに、ナヴィとキーラは口元をやや
引きつらせ―――
フィオナとカガミは何かを共有したように、
メルリアと同じ表情になってニヤリと笑った。
│ ■シフド国・首都バーサー某所 │
「フフフ……そうかいそれでモデルという名の
イケニエはどれくらいいるんだい?」
「イケニエ言うな。
しかしメヒラ、お前も相変わらず見境ねーな」
カーレイはとある一軒家を訪ね―――
そこにいる女性と対峙していた。
メヒラと呼ばれた彼女は、男装している
カーレイとは対照的に……
長髪を後頭部でハーフアップにまとめ、顔の両側に
ウェービーヘアーが垂れる。
「美しいものに性別はねぇのさ……!
それより、少女たちは堪能したと聞いたが、
そこにいた男の子の方は?」
「アレもすげー美形さんだったよ。
一人は獣人族だったが、もう一人はシルバーの
短髪で……
そこらの女より美人だった。
お前の手で化粧してやりゃ、女でも騙されると
思うぜ」
ナヴィとキーラの事もよく観察していたようで、
その魅力と情報を余すところなく伝える。
「あんたにそこまで言わせるなんてな。
こりゃ楽しみだぜ……!」
「話によると、『女神様』にゃ眷属の少年が
あと一人、女性の眷属もいるって話だ。
眷属じゃねーのもいるけど……
伯爵様や高級青果店の息子さんもいるとか」
それを聞いたメヒラは口元をぬぐい、
「ほう……じゅるり。
身分も職業も選り取り見取りってトコかい?」
「そうだ。さあ楽しくなってきただろ?」
欲望に忠実な会話が2人の間で取り交わされ、
時間は過ぎていった。
│ ■メルリア本屋敷 │
「ふみゅう。
となると、最低でもあと2日は予定が無い
わけでしゅね」
与えられた部屋に戻った主従は―――
ナヴィはメモで予定を書き留めて確認し、
フィオナはソファで寝転んでいた。
「そうね。
だからそれまでは英気を養って……」
「お前の場合は放っておけば年中英気を養って
いるでしゅよ。
時間があるのなら、少しはお世話になった
人たちへ顔見せでもするでしゅ」
突然の提案に、体を横にしたまま女神は
体の向きを従僕へと向ける。
「え” それはいったい……」
「バートレットしゃんとマルゴットしゃんへ、
少しは感謝を伝えるでしゅ。
フラールは始まりの信仰地域でも
ありましゅたし―――
アルプ君の母親が救出出来たのも、お二人の
助けがあってこそ。
……しょういえばフィオナ様。
また天界市役所から、新たな称号とか来てない
でしょうね?」
(4章26話参照)
そこで女神は凍り付いたように硬直し、
「だだだ大丈夫だってばパパ!」
「私はユニシス様じゃないんでしゅけどね。
取り敢えず一度、地球に戻ってから確認
しましょう」
「あっハイ」
逃げられないと悟った彼女は―――
大人しく一緒に一時、戻る事にした。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5577名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。