06・止める気はゼロなんでしゅね
( ・ω・)有給って何をすればいいんだっけ。
日本・とある都心のマンションの一室―――
熱心にTVを食い入るように見つめる少女と、
ペットと思われる猫が一匹、リビングでそれぞれの
時間を過ごしていた。
「……何をそんなに熱中しているんですか、
フィオナ様」
「ん?
あーコレ、声優ライブ!
いやー最近は声も良くてイケメン美少女な
声優ってたくさんいるしー」
それを聞いたナヴィは背を曲げて伸びをしながら、
「意外ですね。
フィオナ様、こちらの人間というかアイドルに
ご興味がありましたっけ?」
「いやいやいや。
アルプだってファジーだって生身でしょーよ。
地球の世界にだってイケメンイケオジ美少年は
いるでしょうし、大好物ですよ!」
その返答に、彼は前足で顔を洗いながら、
「でもその割にはインドア生活ですよね?
時間はこの国の学生に比べればほぼ毎日が
日曜日ですし……
直接コンサートとかに行かないんですか?」
「まあその~……
そこはいろいろと制限があるとゆーかー」
ナヴィが首を傾げると、彼女は言いにくそうに
しながら口を開き、
「1・もともと地球は信仰地域外なので
目立った行動は出来ない。
2・トラブルに巻き込まれる可能性。
3・身バレした時の処理が超面倒くさい。
(目撃した全員の記憶を消すとか)
4・何かやらかした時のママの恐怖。
というところですね。
特に4。
というか4が全て」
「自重出来ているようで何よりです」
そこでナヴィは彼女に近付き―――
隣りに密着して座る。
「あ、あとはねえ。
そもそも、そんなにリアルの人に直接会いに
行くのは個人的にハードルが高いってゆーか?」
「そういえば、モニターの向こう側にさえいれば
二次元でも三次元でも平気とかおっしゃって
おりましたね」
(3章11話参照)
「よく覚えていやがっておりますねえ。
その通りですよコノヤロウ」
平手で叩こうとする女神とシッポで応戦する
お目付け役。
ビシビシビシ、と攻防の音が続く中、ナヴィは
軽く一回あくびをして、
「ふぁあ……
それじゃそろそろ、本編スタートします」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■メルリア本屋敷 │
カーレイ―――
彼女によってフィオナとカガミが連れ去さられ、
また屋敷の主であるメルリアも同行し、部屋には
少年2名が残されていた。
「静かでしゅねえ」
「そうだね」
それまでのドタバタとは対照的な静寂の中、
彼らは意見交換を始めた。
「しょういえばリオネルしゃんは今何を?」
「リオネル兄なら、今は獣人族の窓口として
町へよく出ているみたいだよ。
集落の方も、いつまでも引きこもったままじゃ
いられないと思ったんじゃないのかな」
出された飲み物を口に付けながら、一息つく。
一見、物音ひとつしない空間―――
だが彼らの耳は通常のそれではなく、離れにある
同じ屋敷内の部屋の喧騒を感じ取っていた。
『もー待ってー!
あと何回着替えればいいのー!?』
『こっ腰の締め付けが……効くぅ』
『もうちょい頑張ってくれよ♪
モデルさんなんだろ?』
妹と主筋の会話を確認し、2人はいったん視線を
合わせる。
「平穏っていいでしゅねえ」
「そうだね」
特に何のリアクションもせず、ソファに座り直す
彼らの耳が、引き続き会話をキャッチする。
『もう助けてよキーラ兄ー!
寝ている間に勝手に三つ編みにしたのは
謝るからぁ~』』
『ナヴィ助けて~……
もう二度とママから、子供の頃に最初に覚えた
えっちな言葉とか聞き出そうとしないから……』
それを聞き届けた獣人族の少年と女神の従僕は、
「ナヴィ様、お茶のお代わりは?」
「お願いしましゅ。
しょれと私を呼ぶ時はナヴィでいいでしゅよ?」
「ん~……それはちょっと。
じゃあ、ナヴィさんで」
こうして2人は特に何の行動も起こさず―――
彼女たちが部屋へ戻ってくるのを待っていた。
―――2時間後―――
「おおおぉおお……」
「ウボァー」
ヨロヨロになった獣人族の少女と女神が、お互いを
支えるようにして部屋に入ってきた。
「ちょっとは手加減しなさいよ、カーレイ」
「悪ぃ悪ぃ♪
ちょーっとばかし気合い入っちまってさ」
続いて女主人が、短い茶髪の……
地球で言えばホストのような細い、それでいて
しっかりした体格の『女性』をたしなめる。
「いやー堪能した堪能した♪
これであと10年は戦える」
満足気に話すカーレイに対し、被害にあった
フィオナとカガミは、
「何と戦うんですかねえ」
「あれって戦闘用の服だったの?」
グロッキー状態になっている2人に、ようやく
ナヴィとキーラが話し掛ける。
「お疲れ様でしゅ」
「2時間もよく頑張ったなー、カガミ」
それに対し女神と獣人族の少女は噛みつくように、
「貴方も貴方よ、ナヴィ!
主人のピンチなんだからさっさと
来なさいよね!」
「キーラ兄、絶対聞こえてたでしょ!
何で助けに来てくれなかったのー!!」
ナヴィとキーラはそれを聞くと肩をすくめて、
「えー、何の事でしゅかねえ」
「別に、普段からボクにやっている事を少しは
身を持って知ればいいのに、とか思ってないし」
とぼける2人に、少女たちは反論する力も残って
ないのか、うなるようににらむ。
「ぐぬぬ」
「う~っ」
それをメルリアがなだめ―――
何とか『話し合い』をするために、場はいったん
落ち着いた。
「じゃあカーレイ、貴女が協力してくれるのね?」
「おう。
ジアからも、何人か見繕うように言われて
いるから、すぐに集められるぜ」
そこでようやく、メルリアとフィオナは安堵の
表情を見せる。
「やっぱり全員女性ー?」
カガミが質問すると、
「そういう注文だったからねえ。
あ、男のモデルはそちらが用意して
くれるんだろ?」
「それは大丈夫ですけどぉ~……
いいんですか?
カーレイさんみたいに、女性じゃなければ
ダメって人ばかりとか」
恐る恐るフィオナが確認する。
「カーレイは確かに女性好きだし、女性受けする
タイプだけど、ここまで強烈なのはそういないと
思うから」
「むしろ男の方が安全だと思うぜー?
だから安心してくれ!」
両腕を腰につけて胸を張るカーレイに、
「別の意味で安心出来ないんですけど……」
「ま、まあ……
作業自体には関わらないでしょうし、ね?」
メルリアが慰めるように言うも、フィオナと
カガミはぐったりとテーブルの上に突っ伏す。
「じゃ、俺はこれで!
場所や人員は手配しておくからよ」
そう言うとカーレイは、片手を振って部屋から
退出した。
ナヴィは未だに体力が回復しておらず、ぐったり
しているフィオナに近付いて、
「まあ、よく頑張ったでしゅよ。
こうまで体を張って役に立ったのは初めてじゃ
ないでしゅか?」
「慰めるのか貶めるのかどっちかにしてくれると
助かりますけどねえ……」
そして獣人族の兄も妹へ近付いて、
「普段、ボクがどういう思いでお前のオモチャに
なっているのかわかった? カガミ」
「もうそれは死ぬほど……
次からはちゃんと手加減するね……」
「止める気はゼロなんでしゅね、わかります」
諦めと悟りが入り混じったような空気になる中、
メルリアが新しいお茶請けのお菓子を使用人に
運んで来るよう、呼びかけた。
│ ■商業ギルド本部 │
「どうだった?」
「おう! 話は通してきたぜ。
これから場所と人員の確保だ」
その日の夕暮れ―――
一仕事終えたという顔で、カーレイが商業ギルドを
訪れていた。
「と言うと……
よっぽど気に入ったのかしら?」
ミドルのダークブラウンの髪に手を添える
ジアに、カーレイが寄り添う。
「大丈夫大丈夫♪
俺は浮気なんてしねーって」
ジアはついっ、と体を離し、
「誰との浮気になるのよ、まったく……
そういえば作る物は見てきた?
それは大丈夫なの?」
「あー、ありゃスゲェな。
確かに一定の女性客が見込めると思うぜ。
俺もアレ欲しいし」
すると彼女は一瞬きょとんとして、
「そうなの?
男には興味が無いものとばかり……」
「いやいや。
ホラ、アレだ。
実用するのと観賞用は違うだろ?」
それを聞いたジアはクスリと笑い、つられて
カーレイも大笑いした。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5565名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。