05・ずいぶんと限定的なご指摘
( ・ω・)仕事が忙しい時に限って、出社ボタンと
退社ボタンを押し間違えたりして余計に作業が増える。
日本・とある都心のマンションの一室―――
「ふおぉおおっ!?」
急に聞こえてきた声に、ペットであろう一匹の猫が
現場へ急行する。
しかし、そこは脱衣所であり……
さらに声はその奥、浴室から聞こえてくるようで
お目付け役(猫Ver)は足を止めた。
『虫でも出たのか?』と、ナヴィは様子を伺うが、
「うひょおおっ!!
ふぬぅんっ!!
どすこいっ!!」
と、次々と聞こえてくるフィオナの声に、
彼は理解を放棄し―――
彼女が出て来るまで待つ事にした。
やがてシャワーの音がして、同時に「ふぉおおお」
という声も響き……
5分もすると浴室から上がる音が聞こえ、
そして着替えを済ませて彼女が出てくる。
ナヴィはただ黙ってそれを見守っていたが、
一応状況を確認しなければ、という義務感で
フィオナに対して顔を上げた。
「あの、何があったんですか?」
その声に気付いたフィオナは視線を落とし、
「あ、ええとね、その。
お風呂入っていたんだけど」
「それでどうしてあのような声が出るので
しょうか?」
まず彼は最も疑問に思う事をぶつける。
それに対し女神は、
「いや何か設定を間違えたのか、お風呂に
足を入れたら、冷たくて」
「あー、水風呂になっていたんですね。
……それで?」
先を促すナヴィに、フィオナはやや焦りながら、
「それでですね、冷たいというのは確認
出来たんですよ」
「まあ、文字通り身をもって知ったでしょうから」
そこでコホン、と彼女はいったん間を置いて、
「でもえーと、ほら、最近暑かったし?
片足突っ込んでも耐えきれないほどじゃ
なかったし?」
「それはわからなくもありませんが……」
呆れながら答えるナヴィに、フィオナは続けて
「でね? でね?
何かこう『アタシなら出来る!』と思ったって
いうか自信というか―――」
「何でそんなくだらない事でチャレンジ精神を
発揮するんですかね」
「い、いやその何ていうか?
イケるって思ったらつい?」
それを聞いた彼は、後ろ脚でカカカカッ、と
頭をかきながら、
「それで結局どうなりましたか?」
「なんとか肩までつかる事に成功したんですけど、
3分くらいが限界でした。
あとは熱いお湯を浴びて何とか」
するとフィオナは正座し、ナヴィと目線を合わせ
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お約束のようにお互いに頭を下げた後、
彼はくあぁ……とあくびをして、
「じゃ、まあそろそろ……
本編スタートしましょうか」
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■メルリア本屋敷 │
商業ギルド本部から帰った一行は―――
改めて今後の方針を話し合う事にした。
「状況はわかりましたけど……
なかなか厳しそうですね」
フィオナは飲み物に口を付けながら、現状を
追認する。
「ジアの言う通り―――
女人禁制ならともかく、男子禁制の工房なんて
シフド国は元より、連合国内にだって多分
ありませんよ」
ロングのピンクヘアーを揺らしながら、メルリアが
答える。
「となると、やっぱり一から育てる必要が
ありましゅかねえ」
「お金はあるだろうけど、時間もかかりそう」
ナヴィとキーラも、ややネガティブに現実を
認める。
「まあ、急ぐ必要があるわけではないんだけど……
いつまでも利益にならないと、『枠外の者』と
してはいろいろマズイのよね」
メルリアが眉間にシワを寄せると、赤茶の
ツインテールをした獣人族の少女が、ピョンと
跳ねるように近付く。
「そういえばあのジアって人?
本の内容とかは伝えてあるー?」
「ええ、ある程度は。でもどうして?」
その答えに女神は首をひねり、
「あれ? でも妙ですね。
それにしては、何か食い付きが悪かったと
いいますか……」
「ウン。カガミもそう思ったからー!」
女性陣の反応に女神の従僕が軽くため息をついて、
「一応お仕事でしゅからねえ。
通常状態で本能まっしぐらなどこかの
女神とは違うんじゃないでしゅか?」
「どこかの女神って、ずいぶんと限定的な
ご指摘でございますねえ!!」
獣人族の少年は困惑し、その妹は『仲いいねー』
と流す一方で―――
屋敷の女主人はそれを眺めながら、
(まあ、あれは……
『別方向』だからねぇ)
と、そのまま両目を閉じた。
│ ■商業ギルド本部 │
「……やっと来たわね、カーレイ」
そのダークブラウンの髪をなびかせ―――
ギルド本部長のジアがそちらへ振り向く。
「俺に何の用だ?
一応これでも、忙しい身分なんだがな」
緑に近い茶色の短髪で、かつ端正な顔立ちをした
人物が、頭をガシガシとかきながらたずねる。
袖は半分めくられ、片手を長ズボンのポケットに
つっこんだまま、本部長へ視線を向ける。
「相変わらず、ね。
それはそうと―――
・・・
あなた、女性だけの職場に興味は無い?」
「そりゃあ、そんな天国みたいなところがありゃ
行きたいけどよ。
そんな冗談を聞かせるために呼んだのか?」
備え付けのイスに乱雑に腰を下ろすと―――
悪態をつきながら返す。
「あら? この私があなたに冗談を言った事が
あったかしら?」
つい、とジアはイスに座った人物に、その顔を
密着させるように寄せる。
「本当かよ」
「正確には男子禁制―――
あ、モデルには男の子もいるし、絵も基本
男性限定だけど」
すると、イスに座ったままその人物はぐいっ、と
ジアを抱き寄せ、
「意味わかんねーよ。
まあ、作業には関わんねえって事でいいのか?」
「理解が早くて助かるわぁ♪
それに、モデルの子だけど―――
この私から見ても『納得』のコよ?」
ジアを抱いたまま、彼女の髪を撫でて答える。
「お前にそこまで言わせるなんてなぁ。
期待はしていいって事か。
で、どこ行きゃいいんだ?」
「カトゥ財閥の屋敷よ。
あと、あなたの言う事を聞く部下を何人か
揃えてくれると助かるわ」
2人は離れると、ジアは場所や仕事内容について、
詳しく『来客』に説明し始めた。
│ ■メルリア本屋敷 │
「んな……っ!」
翌朝―――
メルリアは一通の手紙を受け取って
肩を震わせていた。
「どうしたの、メルリア」
「何かあったのー?」
同室にいた獣人族兄妹が、彼女の驚く声に
聞き返す。
「しょ、商業ギルドから……
紹介したい職人がいるって……」
「??
あの条件で見つかったんだ?
なら別にいいじゃない」
当然過ぎるキーラの返しに、彼女は
肩をすくめ―――
「それはそうなんだけどぉ~……
ちょっと人選がっていうか選べるほど人が
いないのはわかっているんだけども」
「何だかわからないけど、他のみんなも
呼んでくるー?」
「お願いするわ……」
意気消沈するメルリアを残し、カガミは他の2人を
起こしに部屋を出て行った。
「人が見つかったの? 女性?」
「しょれなら問題解決でしゅが―――
何かあったんでしゅか?」
呼ばれた女神の主従コンビに説明するも、
その顔色からか、逆に質問される。
「問題……
ナヴィ様とキーラは何も問題ないと思うわ。
あるとすれば、フィオナ様とカガミちゃん、
それにワタシかしら」
「ほえ?」
「何でー?」
少女2名が顔を見合わせる中、ノックの音が
室内に響く。
「メルリア様。
カーレイと申される方がお見えになって
おりますが……」
「出た……!」
扉越しの声に答えるメルリアに、今度はキーラと
ナヴィが顔を見合わせて、
「いや、出たって」
「オバケじゃないんでしゅから」
呆れながら言い合う少年たちの前で―――
乱暴に扉が開かれた。
「よお、男子禁制なんて条件で、職人を
募集しているのはここかい!?
おーいいねえ、とても可愛い子が
いるじゃないか!」
部屋に入るやその人物は、目にも止まらぬ早さで
カガミを抱き上げる。
「おおー!?
こ、このカガミをあっという間に捕まえるとは
一体……!?」
そして今度は影だけを残して、瞬間移動でも
したかのようにフィオナの背後につく。
「こちらのカワイ子ちゃんもなかなかそそるねぇ♪
衣装と化粧でバッチリ化けそうじゃん!」
「ふえぇっ!?
い、いえアタシはもうこれ以上攻略対象を
増やすなんて事はっ」
女神の言う事には耳を貸さず、その人物はまるで
荷物のように、軽々と2人を担ぎ上げる。
「じゃあカトゥさん?
この2人借りるからよ。
屋敷の衣装部屋使わせて欲しいんだけど」
「ちょちょ、ちょっとキーラ兄ー!」
「ナ、ナヴィ何とかしてよ!」
焦る少女たちに、それぞれの兄と従僕はハー……
と一息ついて、
「……カガミ。匂いで気付かないのか?」
「フィオナ様。その方は女性でしゅよ」
その答えに2人の少女は目が点になった後―――
ほとんど同時に叫び声を上げた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5559名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。