04・反応はしていたようで何より
( ・ω・)電車が遅延したら、なぜかいつもより早く
会社に到着していた現象についてご存知の方は
いらっしゃらないでしょうか。
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主の少女が、ペットと思われる飼い猫と
リビングでくつろいでいた。
「くあぁ~……」
「あー……
平和ですね、ナヴィ……」
カーペットの上でお互いにゴロゴロしながら、
女神とお目付け役はのんびりと羽を伸ばす。
「そういえばご主人様……
ちゃんとユニシス様と『仲直り』
しましたかねえ」
ナヴィの何気ない一言に、フィオナは手持ちの
端末を操作して、
「ダイジョーブじゃない? ホラ」
そう言って彼に画面を突き付ける。
そこにはメールアプリが表示されており、
―――――――――――――――
件名:パパより
メッセージ:たすけt
―――――――――――――――
それを確認したナヴィは、フィオナといったん
顔合わせした後、
「大丈夫そうですね」
「でしょ?」
何事も無かったかのように、彼らはまた
カーペットと並行に寝転ぶ。
その状態が続く事10分ほど―――
ふと、お目付け役がピクン! と耳を立てて
起き上がる。
「なになに? どしたのナヴィ」
「んー、また私の『お客さん』が来ている
みたいです」
ナヴィはそのまま人間の姿になり、身支度を
始める。
「今日は誰ー?」
「この気配は悪霊の人っぽいでしゅね。
ちょっと『話し合い』してくるでしゅよ」
玄関に向かう彼に、女神は後ろから声をかけて
「あ、ナヴィ。
ついでって言っちゃなんだけど、帰り
アイス買ってきてくれます?」
「バニラでいいでしゅか?」
「まあそのヘンは適当で」
「はい。では行ってきましゅ」
いくらかのやり取りの後、彼はマンションを
後にし―――
「ただいまでしゅ」
「お帰りー、ナヴィ。
じゃあさっそく頂くわね」
20分くらいで帰ってきた彼を女神は出迎え、
買い物袋の中を物色する。
「ありゃ?
5本入りの箱のヤツがもう開いているんだけど。
帰る途中で食べちゃったの?」
テキパキと冷凍庫にしまっていくフィオナに、
ナヴィは靴下を脱ぎながら
「あー、その1本は悪霊しゃんが暑さで
フラフラしていたので、あげてきたんでしゅよ」
それを聞いたフィオナは、一通りアイスを
冷凍庫へしまった後、
「いろいろとツッコミたいところは
あるんですけどぉ~……
まずナヴィはその中途半端な優しさを
誰にでも見せる事を止めた方がいいと
思います。
こりゃあ、ずっと付きまとわれるワケだわ」
「?? 何でしゅかそれ?
まあとにかく、本編スタートしましゅね」
│ ■シフド国 メルリア本屋敷 │
「印刷業が確保出来ない?」
「でも、手はずや準備は順調っぽいような事を
言ってませんでしゅたか?」
フィオナとナヴィの主従がきょとんとした表情で、
屋敷の主であるメルリアに聞き返す。
彼女はピンクのロングヘアーをまとめながら、
「ええ、その通りです」
「ちょっと待ってよ、メルリア。
準備するお金なら問題無いって言ってたじゃん」
首まで伸ばした銀髪の巻き毛を揺らし、獣人族の
少年が疑問をそのまま口にする。
「お金ならあるのよ、キーラ。
ただ人員が、えーと……
これは直接見てもらった方が早いかも」
「どこか行くの!?
カガミも行くー!!」
フィオナとナヴィは顔を見合わせ―――
メルリアの提案に乗って、現場を視察する事に
なった。
│ ■シフド国・首都バーサー │
│ ■職人ギルド街 │
「うわー……
ミイト国の首都もすごかったですけど、
ここも活気がありますねえ」
用意された馬車の中から外をながめる女神は、
その光景に驚きの声を上げる。
「これだけの首都を有するのは―――
人口100万以上を抱える、
序列上位三ヵ国のグレインとミイト、
そしてここだけですからね。
さて、そろそろ降りましょうか」
目的地に着いたのか、馬車は速度を落とし……
やがて大きな建物の前で完全に停止した。
「……ここは?」
およそ5階はあろうかという建物を見上げる
ナヴィに、
「商業ギルド本部です。
ここに印刷発注やその関連の人員の手配を
していました。
ただちょっと根本的な問題がありまして……」
「?? と言いますと?」
フィオナが問い返すと、彼女は両目を閉じ、
「それも、直接話してみればわかるかと。
あ、そういえば―――
今さらですが、『神様』のご身分は明かしても
いいのでしょうか?」
フィオナが別に、と答えようとしたところ、
ナヴィが割って入って、
「しょれは『ご想像にお任せしましゅ』で
いいんじゃないでしょうか。
下手に神様だと主張しても、商談が変な
方向に行きかねないでしゅので」
獣人族の兄妹もうなずき、
「それはそうかもねー」
「フィオナ様もナヴィ様も、くだけた態度で接して
くれるので忘れがちですが―――
相手が神様だと知ったら、緊張で話し合いに
ならなくなる可能性もありますし」
そして門番のような人が扉を開けると―――
メルリアと女神の一行は、中へと入っていった。
「あ、カトゥ(メルリア)様!
また例の件ですか?」
燕尾服に身をまとった、初老の頭髪の薄い
執事のような人物が出迎え―――
財閥令嬢に応対する。
「ワタシがここに来る用件って言ったら、
今はそれくらいでしょう」
「はー……わかりました。
取り敢えずこちらへ」
そして5人はエレベーターのような仕掛けで
最上階まで案内され、恐らくは建物内で一番
豪華であろう、応接室へ通された。
メルリアの両隣にキーラとカガミが座り、
その対面にフィオナとナヴィが席に着く。
そして斜めの一角に、財閥令嬢より少し年上と
思われる、キャリアウーマン風の女性が座った。
「メルリア―――
時間がかかるって言ったはずだけど?」
「ま、まあ……
それでどれくらいかかるのかなーって」
ダークブラウンのミドルヘアーを備えた、
その細面の女性は、メルリアの質問には答えず
他の面々に目を向ける。
「そちらのお二人は?
獣人族のキーラとカガミは話を聞いて
知っているけど―――
ああ、自己紹介が先ね。
わたくしは商業ギルド本部長、ジア。
よろしくお願いします」
深々と頭を下げる彼女につられて、
フィオナたちも返礼で頭を下げる。
「こちらは―――
この商売のアイディアを持ち込んできてくれた
方々よ」
「あら。
今話題の、『神の御使い』サマ?」
メルリアの答えに、彼女はクスリと笑う。
「それは……想像に任せるわ。
で、今のところどれくらい集まったの?」
ジアと名乗った女性は、フゥ、と一息ついて、
「だってねえ―――
女人禁制ならともかく、男子禁制の工房なんて
どこを探しても無いわ。
絵を描く人、模写、版画作成、製本に至るまで、
女性だけにしてって注文は……
いくら何でも難し過ぎるわよ」
メルリアはそこでチラッ、と女神とその
お目付け役に視線を配る。
「(なるほど、そういう事でしたか)」
「(確かに厳しいかもしれましぇんね)」
本部長は話を続け、
「ただでさえ職人は―――
気難しい人もいるし、『男だけの世界』と
思っているところも多いわ」
「お、男だけの世界……じゅるり」
ヨダレを垂らす獣人族の少女にジアは顔を向けて、
「?? どうしたのカガミちゃんは」
「妹の事は気にしないで。
病気だから」
彼女の兄の答えに、さらにわからない、という
表情を本部長は見せる。
「それで結局、今のところどれくらい
集まっているの?」
「えっと、まずは一つの工房くらいって
言ってたでしょう?
製本化するまでの作業に、だいたい
20人ほど必要なんだけど……
半分も集まってないわ」
彼女は気を取り直して令嬢の問いに答える。
「えーと……
原始的な手法ですけど、トレースとかは?」
「とれえす?」
フィオナの提案する単語に誰も覚えはなく、
ナヴィがすかさずフォローする。
「つまり薄い紙を重ねて、しょれをなぞるような
やり方でしゅが」
「ああ、『敷き写し』ですか。
しかし、それもある程度絵心のある者が
やらなければ……」
こうして小一時間ほど話し合いが行われ、
ある程度情報を共有出来たところで、一行は
商業ギルド本部を後にした。
「本格的な技術や職能が必要な仕事に、
女性は向いていないと言われると……
あ~……そりゃそうですよねえ」
男女同権などという概念そのものが無い世界、
そこで『女性のみ』の職人を確保するのが
いかに大変か、女神は帰りの馬車の中で
理解していた。
「ワタシも実際―――
女のくせに商売するなんて、とか言われたのは
一度や二度じゃありませんから」
メルリアも苦い経験を思い出したのか、
渋い表情になる。
「そういえばあのジアって人とメルリアは
知り合い?
やけに親しそうだったけど」
「彼女も女性ながら実力で本部長になった
人間だから―――
ウマが合うっていうか、まあ腐れ縁かしら」
そこでナヴィは、フィオナとカガミの顔を
見回して、
「ん? どしたのナヴィ?」
「あ、いえ。
しょういえばあのカガミしゃんがヨダレを
垂らしたタイミングで―――
よくフィオナ様はガマンしたなあ、と」
「フフフ……アタシほどの神ともなれば、
音を立てずに唾液を飲み込む事など
造作も無い事……!」
「反応はしていたようで何よりでしゅ。
もう私帰っていいでしゅか?」
そのやり取りを他の3人は複雑な目で
見ていたが、
「あの、この馬車はすでに屋敷に向かって
おりますので……」
メルリアのツッコミの後―――
職人確保の方法や検討の意見が交わされた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5547名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。