32・ぐれーとうるとらどりーむ
( ・ω・)メルリアの姓名を全く考えて
いなかった事に気付く(遅過ぎ)
天界・フィオナの神殿―――
そこで一人の少年が、片膝を立てて―――
ある人物の前で頭を下げていた。
「―――で、報告は以上になりましゅ」
「まあそうかしこまらないでいいよ。
僕も今こんなだしね」
そういう彼は、十代前半くらいの少年の姿に
なっていて、着ている物は天界のそれとは
明らかに異なり―――
「……また異世界のソシャゲーの衣装でしゅか。
影響受けまくりなんでしゅから」
ナヴィが呆れたように話すと、ユニシスは
ポリポリと頬をかきながら、
「どちらかと言うと、むしろそのネタの収集の
ために、ソシャゲーやってんじゃないのかなあ」
「前向きと言いましゅか、欲望に忠実と
言いましゅか―――
しょういえば、アルフリーダ様はどこに?」
彼は近くのイスに座り、部屋の中を
きょろきょろと見回す。
軍神は『ああ』と一言置いて、
「ママなら、他の女神たちとの会合に
出ているよ」
「……?
珍しいでしゅね。
しょういうのはユニシス様との接点を
持たせないように、可能な限り回避して
いたと思うのでしゅが」
首を傾げるナヴィに、ユニシスは苦笑しつつ、
「いくらママでも、女性は全てNGって事は
無いさ。
既婚者たちの集まりだって言ってた」
「ふみゅ。しょれならまあ」
従僕は納得するも、軍神は遠い目で続け、
「後は、何でもまあ―――
いろいろと夫婦生活がマンネリ化してきた
女神さんたちに、自分が仕入れてきた知識を
教えてあげているようでね……」
「天界にも、日本文化が根付きそうで
何よりでしゅ。
しょれではそろそろ、本編スタートしましゅね」
│ ■オリイヴ国 │
│ ■奉公労働者オークション会場内・控室 │
「……こちらでよろしいかしら?」
ピンクのロングヘアーをした、豊満な体の女性が、
2人の少年をエスコートするように席に座らせる。
そしてグローマー男爵、キーラ、カガミも
テーブルを挟んで座り―――
「さて……
神の御使い様が、『枠外の者』と」
「『新貴族』に何の用かのう?」
対極の存在、場違いとでも言うように、
妙齢の女性と老人は自らの立場と地位を
それぞれ表明する。
そこへ、激しくノックの音が響いた。
「……? 誰ですか?」
「あっ、あの!
フラール国のビューワー伯爵様が、どうしても
お目通りをと」
その声が終わらない内に扉が開かれ―――
本人と、そして室内の獣人族の兄が姿を現す。
「伯爵様!」
「リオネル兄!」
アルプとカガミが声を上げ、次いで残る
2人も口を開く。
「ど、どうしてこの場へ?」
「『交渉』を手伝うためです。
貴族の方もいらっしゃるようですしね」
ファジーの問いにバートレットが答え、
「リオネル兄……
ボクたちを連れ戻しに来たの?」
「どちらかというと、カガミが何か
やらかさないかと心配で―――
オークションなんてあったら、自らノリノリで
舞台に上がりそうだし」
「すごーい!
何でカガミの考えていた事わかったの!?」
獣人族の兄妹たちのやり取りを横目に―――
『交渉』はスタートした。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「よ、よし……!
何とか相手を交渉の場につかせる事は
出来たみたいです」
女神・フィオナの言葉に―――
その場にいた女性陣に安堵のため息が広がる。
「伯爵様もサポートとして同席しましたから、
一方的にやり込められるという事は無いはず」
「フィオナ様、アルフリーダ様―――
この後はどのように」
マルゴットとレイシェンが、ようやく光明が差した
ような表情で、2人に視線を向ける。
「あ、ええとですねーそれは」
フィオナが何とか言葉を出そうとするが、
母親の女神が阻止するように、彼女の口の前に
腕を水平に伸ばす。
「?? マ、ママ?
どうしたんですか?」
「……忘れたの、フィオナちゃん?
ここから先は人間同士の話し合い―――
神様はもう手は尽くしたわ。
これ以上はさすがに手は出せない」
それを聞いて、周囲はゴクリと唾を飲み込む。
「た、確かに……」
「そういえばそうだったよな……」
ソニアとミモザが視線を落とすが、
アルフリーダは続けて
「そう悲観的になる事は無いわ。
後は、私たちが教えた事や渡した物を活用すれば
いいの。
別に人間に口を出すなとは言ってないんだから、
アドバイスなら―――
神託を通していくらでも出来るでしょ?」
「そ、そうです!」
「『新貴族』はともかく『枠外の者』の
メルリアさんなら、アレを渡せば」
ポーラ・メイ姉妹が勢いよく話に入り、
シンデリン・ベルティーユ姉妹も、
「『切り札』はこちらにある……!
女性ならば抗えないアレが……!」
「……後は……それを……
どう効果的な一手にするか……
のみ……!」
場が妙な興奮に包まれたところで―――
意識は再びオリイヴ国に向けられた。
│ ■奉公労働者オークション会場内・控室 │
「さて、お話というのは―――
言うまでもなく、奉公労働者と獣人族の
オークションの件でしょうか?」
「それと、噂の拡散の停止です。
女神様の威厳を傷付けるような―――」
メルリアとビューワー伯爵がまず交渉の
口火を切り、そこへグローマー男爵が
真っ白な口ヒゲに手を当てながら割って入る。
「ほっほっ。
しかし、噂とは本来、根も葉もないこと。
人がどう理解し伝えるかまでは―――
ワシらの責任ではないのではないかね?」
余裕とも挑発とも取れる言葉で、老人は返す。
「何であれ、フィオナ様、アルフリーダ様の
尊厳を汚す事は許されません」
「神の意思に逆らう事が―――
恐ろしくはないのですか?」
アルプ・ファジーは眷属として、怒りとも
悲しみともつかない感情を彼らに向ける。
「……その『神様』の事ですけど。
今までの実例から察するに―――
制限、もしくは限定的な介入しか
出来ないんじゃありません?」
メルリアの言葉に、眷属2名と貴族の表情が
一気に固くなった。
│ ■アルプの家 │
「な、何でその事を!?」
フィオナが動揺した声を出すと、同じく
『枠外の者』であったトーリ財閥の令嬢が
眉間にシワを寄せて語る。
「どうやら、その辺りはきちんと調べて
いるみたいですね。
確かにこれまでの出来事で―――
天罰、もしくは直接的な『奇跡』は
見られません。
せいぜい、果実がすごく美味しくなる
くらいで……
基本的には人間界のルールに沿って、
という事を見破られているのでしょう」
「……さすが、ミイト国の『枠外の者』……
一筋縄では……いかない……」
妹もそれを補足するように認め―――
全員がオリイヴ国の次の成り行きを見守った。
│ ■奉公労働者オークション会場内・控室 │
「ワタシたちだって、例えばこの
オークションだってお金かかってるし、
獣人族の売買は別に違法じゃないわ♪
手を引け、というのなら―――
それなりの物を頂きませんと。
きちんと信者やお仲間には儲けさせて
あげているんでしょ?」
隠す気も誤魔化す気もなく、メルリアは
見返りを要求する。
│ ■アルプの家 │
「ある意味―――
ここでの迂闊な選択は、『枠外の者』の要求を
受け入れる事になります。
そうなれば、今度はその情報をどのように
使われるか……」
「この女狐……
要求は受け入れられないって確信した上で
言っていますね。
ですが、こちらには『切り札』がある……!」
そこでマルゴットとレイシェンの2人は、
他の女性陣へアイコンタクトを取る。
「アルプ……」
「ファジー。
ちょっと話を聞いてくれ」
身内であるソニアとミモザがオリイヴ国へ
向けて話し、
「最も効果的な―――」
「それでいて、希少性も高いプレゼン……!」
ポーラとメイがそれに続き、
「ちょうど、室内の女性も2人―――」
「……美少年2名に……
『あの本』を渡させる……!
それは、すぅぱあはいばーすぺしゃるぐれーと
うるとらどりーむ……!」
最後にもう1組の姉妹である、シンデリン・
ベルティーユが結論を出し……
こうして、アルプとファジー、2人の眷属へ
指示が成された。
│ ■奉公労働者オークション会場内・控室 │
「(は、はい!)」
「(わかりました、では―――)」
意を決したように、少年2人が立ち上がる。
「あ、あの……
メルリアさんっ」
「カ、カガミさん!」
突然の指名に、女性と少女は一瞬戸惑うが、
次の行動を言葉を待つ。
すると、アルプはメルリアに、ファジーは
カガミに一冊の本を差し出す。
「……これは?」
「なーにー?」
見た事もない材質の表紙、そしてデザインの
本に目を奪われるが、すぐに質問に転じる。
「わ、わかりません……」
「はい??」
その答えに、メルリアは拍子抜けしたような
声を出す。
「な、何でも男性は見てはいけない―――
そのように女神様から承っております。
あ、ただボクの姉や他の女性の方々は
見ても平気そうでしたので」
「(まさか、いきなり呪い殺したりは
しないと思うけど……)」
ファジーの説明を聞いて、どうしたものかと
悩んでいると―――
「どれどれー?
わっ、すごいキレイな絵ー!!」
好奇心が服を着ているような獣人族の少女が
遠慮なく本をめくる。
同時に、アルプとファジーは自分で自分の
目を両手で隠し―――
「……見た事も無い技法ですけど……
……確かに絵はキレイで、字は読めませんが
だいたい分かりま……
だいたい……ええと……」
そして彼女たちは食い入るように顔を本へ
近付ける。
「メルリアさん?
どうかしたのかのう?
ずいぶんと鼻息が荒いようじゃが」
「えーと、カガミ?」
「何か目が血走ってないか?」
関係のある男性陣が問うも―――
それには答えず、しばらく沈黙が続いた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5353名―――
( ・ω・)最後まで読んでくださり
ありがとうございます!
基本、土曜日の午前1時更新です。
休日のお供にどうぞ。