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02・どこかで、誰かが



「君達! 猫と遊ぶのは好きかね!?

 アタシは大好きだ!!」


「何を言い出した?」


「という訳で早く人間の姿になりなさい。

 なってくださいお願いします」


とあるマンションの一室で、女神はお目付け役兼

サポート役に拝み倒していた。


「肉食獣の檻に入って、一週間生き残れたら

 考えますよ」


「アタシは虎かライオンですか!?


 ―――そういえばナヴィ、あなた

 人間の姿の時は舌っ足らずなしゃべり方に

 なりますけど、逆に猫の時は何で普通に

 話せるんですか?」


「元々、猫の声帯で人語は無理ですから。

 だから猫の時はイメージを音声にして伝えて

 いるんです」


「……それ、人間の姿の時も出来ないの?」


「…………


 ―――あ」


「…………」


「……そ、それでは本編に入りましゅねっ!」




│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷  │




「もうおちになるのですか、フィオナ様―――」


マルゴットが名残惜しそうに、フィオナに

声をかける。


「ごめんなさい。

 今回はようやく事が一段落したので、様子見と

 顔見せを兼ねて来ただけなんです。


 『果樹の豊穣』、それが本来のアタシの仕事―――

 いつまでも特定の人に関わっている訳には

 いかないのです」


「……仰る通りです、申し訳ありません」


「あ、あのっ、フィオナ様!

 次は必ず、母と一緒に―――」


続いてバートレットが、そしてアルプが

別れを惜しむ。


「そうですね―――

 あと、力が完全に取り戻せれば、もう少し

 時間が出来るかも知れません。


 新たな信者獲得も期待していますよ、アルプ」


「はいっ!!」


「では、これでしちゅれいしましゅ」


次いで、うやうやしくナヴィが頭を下げた。


「マルゴットさん、バートレットさん……

 アルプの事、よろしくお願いします」


「この身命しんめいに変えましても」


「万一の時に備え、ボガッド家とも連絡を密に

 しておりますので、ご安心ください」


そしてお互いに深々と頭を下げ―――

フィオナとナヴィの体は光に包まれた。




「(……実際のところどうなのですか?

 残ってあげた方がいいのでは。


 それと―――念願のアルプ君に会っても

 何のアクションも起こさないのは

 意外でした)」


「(いやーココお風呂はあるみたいなんですけど、

 エアコンもシャワーも無いと来たもんです。

 彼とのベッドインプロレスをするにはちょっと

 環境がですね)」


「(帰ったらデスバレーボム確定な? お前)」


「(え? ナ、ナヴィから夜のデスバレーボム……

 でもそれは人間の姿にならないと出来ない訳で

 じゅるり)」


「(本当にブレませんね縛り付けてでも

 置いてくるべきだったか)」


「(止めて!

 あんな環境、か弱い都会っ子のアタシじゃ

 すぐ死んでしまうわ!)」


「(大丈夫ですよ。


        担当

 お前が死んでも代わりはいるもの)」


「(それ第三者視点で言うセリフじゃ

 ないですよね?)」


いつも通りの掛け合いをしながら、

彼らは今の住まい―――

日本国のマンションへと戻って行った。


「さて―――今日はもう遅いわ。

 二人とも泊まっていくんでしょう?」


「あ、はい」


「…………」


バートレットはその言葉に応えず、

ただ窓の外をジッと見つめていた。




「どうしたんですか、バートさん?

 外に何かあります?」


「―――いえ、何でもありません。


 それと、後でいいので少しお時間を。

 今後の奉公労働者の解放スケジュールなどを

 話したいので」


「……ええ、そうですね。


 ではアルプ、そろそろお風呂も用意させるわ。

 みんなと一緒に入ってらっしゃい」


「はいっ!

 ここのお風呂、すごく広いので楽しみですっ!」


はしゃぐアルプとは対照的に―――

二人の目は、微笑みの底に疑問を隠していた。




―――数時間後―――




アルプが眠ったのを確かめるように、マルゴット、

バートレット、そして執事の老人の3人が、

複雑な表情で席に座っていた。


「あの時―――

 ナヴィ様が感じた外の気配……

 それを貴方も感じた、というのね?」


「敵意ではありませんでしたが、

 二人ほど気配を感じました」


「お嬢様、ビューワー様―――

 言いにくいのですが、我が家の使用人に

 そのような事をする者はおりません」


やんわりとその事を否定する執事。

それは家の者を疑われた事に対する怒りと

いうより、もう1つの可能性を示唆しての

ものだった。


「わかっているわ、爺。

 だからこそ問題なの。


 予想はしていたけど―――

 今回の件、私達は結果的に『枠外の者』のした事を

 ひっくり返したわ」


「虎の尾を踏んだ、という事ですか。


 ―――しかし彼らは利益にのみ忠誠を

 誓っているはず。

 報復や意趣返いしゅがえしなど、何の益にもならない事を

 するものでしょうか?」


「警戒はするかも知れません。


 もし今回の件が一過性のものではなく、

 何らかの計画があったとして、ですけど」


「お嬢様。

 バクシアでの奉公労働者の解放は予定より順調です。


 元々、『枠外の者』の調査に従事していた者を

 復帰させますか?」


「お願いします」


その後、夜を徹して話し合いは行われ―――

翌朝彼らは睡眠不足の顔でアルプと対面し、

心配される事になった。




│ ■フラール国・とある宿屋の一室  │




「もう、確かにアイツの顔は見たけど、

 ミモザ姉もバッチリ顔覚えられんじゃ」


フラール国内のある安宿、その一室で―――

ナヴィに見られた姉妹がその事で話し合っていた。


「も、もう暗かったし多分? 大丈夫?

 しっかりとは見られていないと

 思うんだけどねぇ。


 あの人が猫並みの夜目でも無い限り―――」




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「はっ、くしゅーんっ!!」


「どうしたんですかナヴィ、風邪?」


今の住まいに帰った彼らは、いつもの日常に

戻っていた。


「いえ、どこかでささやかなフラグが立てられた

 気がしまして」


「???」




│ ■フラール国・とある宿屋の一室  │




「それで姉ちゃん、あの人が女神様の眷属?

 って事でいいの?

 他に何人かいたみたいだけど」


「水もしたたる美少年、って話だったから―――

 他に誰か招待したって話も聞かないし、

 彼で間違いないわ。


 もしそこに、本当に女神様や他の従者とやらが

 追加で来ていたのでもなければ、ね」




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「ぷっくしゅっ!!」


「ナヴィ、本当に大丈夫なの?」


立て続けにくしゃみをするお目付け役に、

女神は心配そうに声をかける。


「いえ、何かどこかで的確にフラグを

 立てられ続けているような気が―――


 どうかお気になさらないでください」




│ ■フラール国・とある宿屋の一室  │




「でも、ミモザ姉……

 確かにすごく綺麗な人だったけど、

 あの人が女神様の眷属って本当なのかな?


 だとしたら、ボクたち―――

 とんでもない事に手を貸しているんじゃ……」


恐る恐る話す弟に、姉は手を振りながら

不愛想な声で語る。


「はン、眷属眷属って―――

 彼はただの人間よ、周りがそう言っているだけ。


 もし本当に神様とやらがいるってンなら、

 ソイツは無能でマヌケで大馬鹿者よ。


 そうじゃなければ、

 アタイらの国はあんな事に……!」


「ミモザ姉……」


「っと、つまらない話してゴメン。


 とにかく特徴はとらえたわ。

 後はいったん報告に戻りましょう。


 ホラ、来なさい。

 明日は早いんだから―――」


「はぁい」


そういうと彼は、姉が待つ狭い布団の中に

潜り込んだ。




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「?? ムム、むぅ」


「今度はどうしたんですか?

 本当にどこか具合が悪いんですか?」


「いえ、今度は―――

 貴女の顔を見て全面的に同意というか、

 よくぞ言った! というような感覚が」


「もし病気だったら看病してあげるから

 大丈夫ですよ?

 あ、その時はきちんと人間の姿になって

 もらって寝汗拭くとかその他いろいろ

 お世話させて頂きますからハァハァ」


「何か面倒くさいところに飛び火しやがったな。

 体調は別にいいですから。


 そういえば『アンカー』とはどうしてますか?

 少しはつながりを持っていた方がいいかと

 思うのですが……」


「え? あ、えーとそれなら大丈夫っていうか?

 攻略方法とか聞いたりしているので」


「……まあ、ゲームの話題とか世間話くらいで

 とやかく言う気はありません。

 適度に関係を保っておくのはいいと思います。


 それでは、私はこれから天界へと向かいますので、

 何かあればすぐにご連絡を」


「え? どうして天界に?」


「今回の事をアルフリーダ様に報告しに

 行かなければなりませんので」


「ぶうぇええっ!?

 いや、あの、ハイ。

 行ってらっしゃいませでございます」


突然のナヴィの言葉に、フィオナはあたふたと

挙動不審な踊りを見せる。




「『フラール国へ行ってきました』

 『眷属に会いました』

 『特に問題はありませんでした』


 ―――そう報告するだけですよ。

 幸いにも、あちらの方々も良い人ばかり

 でしたし」


「い、意外と事務的なんですね」


ナヴィの回答に、ホッとした表情になるフィオナ。


「何だかんだ言っても、フィオナ様の力で

 事態が収束に向かったのは確かですからね。

 水を差すような事はしませんよ。


 何か、お母さまやお父様に伝える事は

 ありませんか?」


「んー、特に無いですけど……

 出来れば今後の方針とかする事とか、

 あとそれとなく、パパやママの近況を

 聞いてきてくれると嬉しいですかね」


「わかりました。

 では行って参ります」


そして、母親の従僕を見送った後、

フィオナは机に座り、PCに向かう。


「あっぶねー、さて。

 ナヴィが帰ってくる前に、『攻略法』

 まとめておかないと、っと……」




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在1030名―――




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