21・ちょっと皆様お待ちくださいませ
( ・ω・)仕事で今からハロウィンの
シナリオやってね♪と言われ、
段々と季節感を喪失しつつある。
日本・とある都心のマンションの一室―――
「う、う~ん……
アレ、アタシ何してたんだっけ……?」
疲労困憊の表情で、家主と思われる少女が
意識を取り戻して目をこする。
そこへ、室内に彼女以外の声が響き、
『フィオナちゃん、大丈夫?
貴女、徹夜して寝落ちしちゃってたのよ』
彼女の母親である女神、アルフリーダが
心配そうに声をかける。
「そっかあ……
えーと今は、半分くらいいったかしら?」
『このままじゃ倒れるわよ?
もう少し休憩を取った方が』
彼女の指摘に、フィオナは首を左右に振り、
「ダメよママ、今作業の手を休めるワケには
いかないわ。
この時しか無いって知っているでしょう?」
『でも、このままじゃ本当に体を壊すわ。
ナヴィに迷惑をかけてしまうかも……』
そこで彼女は急に元気いっぱいな表情になり、
「それが狙いよママ!
疲れ切って倒れているアタシに
駆け寄るナヴィ!
そして肩に手を回して抱き起し……
それからゲフゲフゲフ♪」
『そ、そうか……!
その手があったか……!
よし、今度パパにその方法を』
そこで勝手に妄想されていた
お目付け役(猫Ver)が姿を現し―――
「言っておきますけど季節限定イベントの周回で
倒れたって、私は微塵も心配しませんからね」
バッサリと切り捨てられた女神2人はうろたえ、
『む、むう……』
「我が策、ここに敗れしか……!
しかし覚えておくがいい。
ここでアタシが倒れてもいずれ第二第三の
アタシが……!!」
そんな2人を見て、ナヴィは軽くため息をつき、
「元気そうで何よりです。
ていうか神様モードになれば、疲労も何も
無効化出来ますでしょうに……
それではそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「んんんんん……
アタシですか?」
アルプとその母ソニア、そしてメイからも
注目された女神は戸惑いを見せる。
(まあ確かに―――
・女の子で
・人外の力を持ち
・幼少期を過ごした経験がある
……フィオナ様は全部あてはまっている
ワケでしゅて)
コクコクと、ナヴィの意見に周囲も同調し、
一方でフィオナは頭を抱える。
「いや、それでね?
カガミさんへの対応を何をどうするって
言うんですか?」
(でしゅから、似たような経験のある
フィオナ様に―――
当時、どのような対応をされたのか
参考意見として聞きたいと思いましゅて)
すると、母親であるソニアが片手を上げて、
「ですが、その……
今、フィオナ様はご立派に神様をしておられる
ワケでして。
ご教育の賜物でもあるとは思いますが、
環境やその他、ご自身の努力でもあるかと」
「直接的ではなく―――
もう少し客観的に見られる方の意見の方が……
ナヴィ様は、ご幼少の頃のフィオナ様の事は
知っていらっしゃらないのでしょうか」
不意に母子から話を振られ、ナヴィは悩む。
(しょれがでしゅねえ……
私はあくまでもフィオナ様の母、
アルフリーダ様の従僕でしゅて……
こうしてフィオナ様についているのも、
しょの命令によるものなんでしゅ。
そもそも幼少時のフィオナ様は私は知らないん
でしゅよ)
う~ん、と周囲がまた悩みの声を上げ、
その沈黙を女神が破る。
「つ、つまりですね。
アタシの幼少時代を知る、周囲の方々に
意見を聞ければ尚良し、って事ですよね?
それなら考えがあります。
ナヴィ、こういう時なら『アレ』、
使ってもいいですよね?」
(ああ、そうでしゅねえ……
では久しぶりに彼らに話しかけてみて
くだしゃい。
『アンカー』に……!)
許可を得た女神は精神を集中させ、意識を
地球の自宅、そのPCへ飛ばすと―――
ネット上の向こうとやり取りを開始した。
【 久しぶりだな 】
【 情報戦への対応を聞きに来た以来だっけ 】
【 で? 何か進展はあったのか? 】
口々に今の状況を問い質してくる彼らに、
フィオナは
「そ、それがですねえ。
今ちょっと状況が変わってきてまして」
そして彼女は―――
現状と、とんでもないトラブルメーカーが
獣人族にいる事などを説明した。
【 なるほど。で? 】
【 女の子の身で人外の力を持つ自分の経験を、
そのカガミとやらに対応させたいが…… 】
【 自分の幼少期を元に説明したくないから、
周囲の誰かに丸投げしたいって事か? 】
「そんな火の玉ストレートで言わなくても!」
いきなり図星を突かれたのか、フィオナは
感情的に反応する。
【 つーかナヴィはつい最近なのね 】
【 それで子供時代を知っているって言うと、
やっぱ家族か親戚、友達に限られるよなあ 】
「で、ではその中からでいいですからっ!
久しぶりに『アンカー』、いきます!
『アンカー』は今のスレで……
800~820の中で一番多かった意見!
聞きたい事は―――
『アタシの幼少期の教育対応を聞く人』!
―――さあ、アタシを導き給え……!!」
そして次々と書き込まれる、その人は……
【 アルフリーダじゃね? 】
【 アルフリーダだろ 】
【 お母さん一択 】
【 やっぱりアルフリーダ 】
【 あくまでもアルフリーダ 】
「ちょっと皆様お待ちくださいませ!
パパだっているんですよ!?」
予想はしていたが、アルフリーダ一色に染まる
掲示板の答えを見て、フィオナは抗議するも
【 いやだって……なあ? 】
【 娘に対する父親って、どうしても
甘くなるだろうしさ 】
【 ユニシスは特にそのタイプだと
思うんだよなー 】
「ぐぬうぅううう……!
こちらの家庭環境なんてほとんど話した事も
無いのに……!
敵は思考が読めるのか……!?」
歯ぎしりをするフィオナを横目に、『アンカー』は
決定し―――
その結果をフラールまで持ち帰る事になった。
│ ■オリイヴ国 ガルバン家 │
│ ■『女神の導き』オリイヴ国拠点 │
一方で―――
神託を繋げるナヴィの横で、バートレットと
マルゴット、そして家の主であるガルパンと
獣人族のリオネルが話し合っていた。
「ですが、カガミさんの事が事実だと
すると……」
「『枠外の者』も噂どころではなくなるのでは
ないですか?」
伯爵の男性と商人の娘の言葉に、ガルパンが
うなずくも―――
少年は静かに首を左右に振って、
「それはそうかも知れませんが……
うかつに動くと、連合国家に敵対する
口実を与えてしまう可能性もあります。
恐らく獣人族の大人たちはわかって
いるから、カガミを何とか大人しく
させていると思いますので」
うーん、と大人たちは悩み―――
「むしろ、噂だけならまだマシだったかも
知れませんね……
噂に加えて獣人族の悪評まで尾ひれに
付いたら、誘拐に正当性も付けられて
しまう」
ガルパンの推測に、バートレットと
マルゴットも複雑な表情となり、
「あまり悪い方向に考えたくは
ありませんが……」
「否定し切れないところが辛いですね」
全体の空気がネガティブな思考に支配されつつ
ある時―――
神託を繋いでいたナヴィが彼らに振り向いた。
「あー、ちょっといいでしゅか?」
「は、はい!」
「神託で何か決まったのでしょうか」
彼らがナヴィに一礼すると、
「取り敢えず、しょの……
フィオナ様の母であるアルフリーダ様が、
今回の件で相談に乗ってくれるそうでしゅ」
「「「……は?」」」
予想外の展開に―――
3人は驚くより前に、疑問の声を上げた。
│ ■オリイヴ国 市街地・メルリア屋敷 │
「しっかし、まあ……
こんなグダグダで情報戦だの何だの、
どうするつもりだったのさ。
カガミの事があるから、あまり強くは
言えないけどさ―――」
獣人族の少年の言葉に、『枠外の者』である
女性は頭を沈めたものの、語気を荒くして
「だーかーらー!!
ワタシの計画だと、さっさとオークション
開いて噂流すだけで終わるはずだったのよ!
それが他の『枠外の者』たちがあーでも無い
こーでも無いって……!」
「利益だけで組んでいる関係の危うい部分が、
もろに出ているのう」
メルリアの悲鳴にも似た叫びを、『新貴族』である
グローマー男爵が冷静に分析する。
「……とにかくキーラ、カガミの事は全力で
抑えておいて。
そして男爵様、貴方にはワタシの他の
『枠外の者』を黙らせる事をお願いするわ」
「ほっほっ。
まあ、いいじゃろう。
そしてアンタはその間に―――
オークションの実行と、噂をバラ撒く手配を
するという事じゃな?
お手並み拝見といこうかの、メルリアさん」
こうして、『枠外の者』の女主人、獣人族の少年、
『新貴族』の男爵の打ち合わせは―――
ひとまず終わりを迎えた。
│ ■アルプの家 │
「それで、あの―――
フィオナ様の母上であられます、
アルフリーダ様、ですか。
どのようにお迎えすればよろしいで
しょうか……?」
フィオナの母が関与すると聞いて、アルプが
おずおずとその対応の詳細を求める。
「ええと、多分大丈夫です。
もしかしたら口上だけかも知れませんし……」
「そ、そういえば制限があるんですよねっ。
眷属がいる場所でなければ、でしたっけ」
彼女の説明に、メイがサポートするように……
また自身とアルプを安心させるかのように言葉を
続けるが、
「ん~……
多分、そういう縛りはママには無いと
思います。
アタシとは比べ物にならないくらい強い
神様なので―――
一切の制限無くこちらの世界に介入
出来るかと……」
フィオナの言葉に、人間たちは緊張からか、
何人かゴクリと唾を飲み込んだ。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5261名―――