15・男の子、だから少年じゃないの?
( ・ω・)5章が長引いたせいか、作中の
季節感が春夏秋とばして冬のままだったり。
日本・とある都心のマンションの一室―――
「んは~……
もぉお~……」
ゴロゴロと寝転ぶ家主と思われる少女と、それを
見つめるペットと思われる猫が一匹。
「何をうなってらっしゃるのですか?
フィオナ様」
お目付け役(猫Ver)が女神にたずねると、
「だってぇ、
そろそろくりすますでーじゃない~……
街もだんだんとそれ一色になりつつあるのに、
今年もまたハーレムを作れずに終わるのかと
思うと」
「最初のハードルが高過ぎるんじゃ
ないですかね?
そもそも、アルプ君とすら親密になれていないと
いうのは―――」
現実を突きつけるナヴィに、フィオナは反発し、
「だって神様なのに出来る事が少ないんだもん!
せめてココに連れて来れたらまだ」
その発言に、猫は首を傾げ、
「……ココに連れて来てどうするつもりですか?
それで何か進展する見込みは」
「自宅に連れ込みさえすれば何とかなる。
後は勢いでどうとでもなる。
そうアタシ一人アンケートの結果で出ています」
彼女の答えに、フー、と呆れとも諦めとも取れない
ため息をついて、
「お前一人かよ。
ただの決意表明じゃねーか」
「し、失礼な!
アンケートですから、客観的意見も必要かと
思って、他の人にもきちんと北から南まで
聞いてきましたよ!」
その返しにナヴィは感心し、
「それは失礼しました。
ていうか北から南までってどんだけ」
「北は北千住から南は南千住まで?」
「足立区と荒川区で何やってんだよお前は。
自治体に迷惑かけるな。
まあ、そろそろ本編スタートしましょう」
│ ■オリイヴ国 ガルバン家 │
│ ■『女神の導き』オリイヴ国拠点 │
「あ、あのう」
2人の来客を招いたガルパンは―――
貴族と豪商の娘を前に固まっていた。
「お久しぶりです、ガルパン殿」
「フラール国以来ですね。
私たちの事はお構いなく……」
バートレットとマルゴットは砕けた感じで話すが、
身分差、財力の違いは明白で―――
目の前の彼は緊張の色を隠せない。
「このお2人は、アルプ君と一緒に初期の頃から
フィオナ様を支援しているメンバーでしゅ。
信頼出来ましゅよ」
ナヴィがフォローを入れるが、家の主はブンブンと
首を左右に振り、
「それは存じ上げておりますが―――
こちらには、この方々をもてなす事など、
とても」
ナヴィは別格の存在だとしても、この世界で
れっきとした伯爵、そしてグラノーラ家令嬢を
前に、彼は困り果てた表情を見せる。
それに対し2人は―――
「私たちは支援に来たのです」
「ナヴィ様と共に戦うため―――
これは、女神フィオナ様の意思でもあります。
ひとまず、現状わかっている事を確認させて
ください」
「は、ははい! では……」
それからガルパンはナヴィと2人で、貴族の男性と
財閥の女性に情報を共有し始めた。
│ ■オリイヴ国 市街地・メルリア屋敷 │
「ん~……」
『枠外の者』の一人である、屋敷の主の彼女は、
一通の書類を前に面倒くさそうに声を上げた。
「どうしたのさ、メルリア?」
獣人族の少年はそんな彼女の態度に気付き、
向きを変えて対峙する。
「フラール国から『お客さん』が来たみたい
なんだけどぉ~……
バーレット・ビューワー伯爵サマに、
マルゴット・グラノーラご令嬢。
女神様御一行の中でも―――
かなりの古株だわ」
書類をテーブルの上に置くと、彼もそれに
目をやる。
「あら? キーラ、貴方って人族の文字が
読めたの?」
「そりゃあねー。
都会の情報をもっと知りたくて、
リオネル兄さんからもらった本を読みあさって
いたからね。
で? そのやってきた2人……
あちらに取っては重要な人たちじゃないの?」
フー、と一息つくと、メルリアは立ち上がり、
「でも、最初の眷属の少年と事実上のリーダーと
思われる―――
バーレンシア侯爵様の姿が見えないわ。
何より、この期に及んで女神様が来ていない。
あの獣人族と思われる少年は男だったんで
しょう?」
キーラはかつて対峙したナヴィの事を思い出し、
答える。
「まあボクと同じくらいの―――
ん? でも少年って言ったら男じゃないの?」
頭の上に?マークを付けそうな感じで、彼は
質問を返す。
「まあそれはいろいろあるのよ。
男の娘とか―――」
「?? 男の子、だから少年じゃないの?」
キーラに取っては理解出来ない、噛み合わない
会話が続けられ、時は過ぎていった。
│ ■フラール国・バクシア国代官館(改2) │
同時刻―――
バーレンシア侯爵は、自分の館で書類整理に
追われていた。
「あの、そろそろお休みになられては。
もう3時間くらい座ったままですよ?」
手伝いに来ていたレイシェンは、心配そうに
彼に話しかける。
「え? もうそんな時間経ってた?
ふいぃ~……」
彼女の言葉を聞いて、バクシア国代官は
大きく伸びをする。
「僕から頼んだ手前、ビューワー伯爵の仕事も
代行しなければならないからね。
君がいてくれて助かったよ。
マービィ国の時といい、助けられてばかりで。
そういえば、何か希望はあるかな?
前回のお礼もまだだし」
「ひゅいっ!?」
突然の申し出に、思わずレイシェンは飛び上がる。
「?? どうかしたのかい?」
「あ、いえ、えーとえーと……
それならば、うう、ううう、運動なんて
いかがでしょうか?」
直立不動で固まっている彼女は、未だに
書類の山を見る侯爵の視線からは外れており、
「ん! いいねえ。
そういや、ビューワー伯爵ともご無沙汰
だしなあ(剣の訓練が)」
「ごぶっ!?」
急に吹き出すように慌てる伯爵令嬢を、
侯爵は心配する。
「大丈夫かい?
まあ、あくまでも軽く汗を流す程度で、
激しい運動は避けて……」
「はげしっ!?」
彼が顔を書類から上げると、耳まで真っ赤になった
レイシェンの顔があり―――
「ど、どうしたの?
お腹でも空いた?」
「いえ、ごちそうさまです……♪」
「??」
一人満足する彼女を前に、バーレンシア侯爵は
ひとまず休憩する事を決めた。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「ん~……」
「んんん~……」
第一眷属の少年の家で、うなり合うように
お互いに向き合う、女神と少女。
それを、家主である母子が遠目で見つめていた。
「お母さん、フィオナ様とメルさん―――
何しているんだろう?」
「きっと何か複雑で難しい事を考えて
いるのでしょう。
邪魔をしてはいけません。
グラノーラ様、ビューワー伯爵様も動いて
いるんですから……
アルプも何か相談されたら力になるんですよ」
その会話をよそに、同世代と思われる女子2名は、
「―――やっぱり、母一人息子一人のいる家で、
息子をターゲットにするってハードル高いと
思うんですよ」
「そうなんですよねえ。
着せ替え人形にする程度なら、お義母様も
ノッてくださると思うんですけれど。
それ以上一気に攻め込む度胸は」
そこへ、お目付け役から神託が無理やり
繋げられる。
(またくだらない事で盛り上がってましゅね)
「ナ、ナヴィ!?
バカな、なぜここが!?」
│ ■『女神の導き』オリイヴ国拠点 │
「ここも何も、貴女は6章の第一話から今まで
そこからろくに動いていないはずでしゅ。
しょれで、バートレットしゃんと
マルゴットしゃんの方針が決まり
ましゅたので、一応報告でしゅよ」
そこで、彼は貴族と商人へと話を振る。
「私は、貴族の人脈を使って、この国の
『枠外の者』『新貴族』の調査をします。
バーレンシア侯爵様からも―――
いざという時は自分の名前を使ってもいいと
言われておりますし」
「私の方は……
消極的ではありますが、万が一のため
『枠外の者』の策が実行された時の
対策を練ります。
噂を真正面から潰すのは難しいでしょうが、
何とか手立てを考えます」
│ ■アルプの家 │
「でも、事実じゃない事なんでしょう?
否定出来れば……」
フィオナの一般論に対し、マルゴットは答える。
(事実ではない事だからこそ―――
完全に否定出来ないのです。
元からあちらもそれは承知でしょう)
それを聞いていた少女2人は、微妙な表情になる。
│ ■『女神の導き』オリイヴ国拠点 │
「脳の7割が欲望、3割が本能に直結している
フィオナ様が心配する事じゃないでしゅよ。
一応、夕方の定刻にまた各国で神託を繋ぎ
ましゅので―――
しょれを心にとめておいてくだしゃい」
(アタシは自分に正直なだけよ!!)
反発する女神と、それをどんな顔をして見たら
いいのかわからない周囲を置いて―――
その時を待つ事になった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5214名―――