13・アタシが(精神的に)死ぬ
( ・ω・)ついに150話突破!
応援、ありがとうございます!
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主と思われる少女がベッドの上で、真剣な眼差しで
手に持った紙製の箱を見つめていた。
「フフフ……まさかアタシが、お前ごときの
世話になる日が来るとはな」
「医薬品相手に何をイキっているんだお前は。
ていうかまた風邪ひいたんですか?」
そこにのそりと、お目付け役(猫Ver)が現れ―――
主筋である女神の奇行をたしなめる。
「うーん、何かね。
頭が重いしボーッとするし……」
「だから神様モードに戻ればすぐに回復するでしょう」
風邪をひいた時はすぐそれで治していた過去から―――
ナヴィはフィオナに同様の方法を提案する。
(3章7話参照)
「いやでもアタシは今、人間の眷属がいるんですから、
自分の身でもいろいろ知っておかないと。
神様だからこそ、その苦しみや痛みを理解して
おかねばならないはずです……!」
「本音は?」
「アルプやファジーが実際に熱を出したりした時に、
どのタイミングで優しくしたり看病したりすれば
いいのかデータをですね汗びっしょりになった時
とか着替えさせて汗を拭いたりしてハァハァ」
隠す事なく本音をダダ漏れさせる女神に、ナヴィは
呆れながら聞き返す。
「それなら看病する側にならないとダメでしょうに。
第一、お一人で何をどう検証するんですか?」
それを聞いた途端、フィオナはハッとした表情になる。
「そこに気付くとは……天才か……!」
「はぁ、もう。本当にこの方は」
ため息をつきながら、お目付け役は人間Verになる。
「え!? な、何で人間の姿に?」
「いやだって、看病の仕方のデータを取りたいん
でしゅゆね?」
テキパキと、彼は洗面所まで向かい、ハンドタオルを
濡らして持ってきた。
そしてフィオナを仰向けに寝かせると、
「どりぇ、熱は……」
ナヴィは彼女の額に手をあてて、体温を測る。
「うひぇええ」
「妙な声を出さないでくだしゃい。
でもかなりありましゅね……
じゃ、タオルを」
すると今度は、襟首を広く開けるように―――
「ふぇえっ!? ぶうえぇええっ!?
あ、頭にするんじゃないの、こういうのは!?」
「実際は違うみたいでしゅよ?
最近では、首回りや脇の下とかに挟むのが
いいみたいでしゅ。
あとは―――」
「あ、あとは?」
熱が出た顔を、さらに真っ赤にしておずおずと
聞くフィオナ。
「えーと、足の付け根といいましゅか……
太ももの間に挟むのが―――」
「ぶひゃうっ?!」
女神は奇妙な叫び声を上げると、そのまま失神した。
それを見下ろすお目付け役は、首回りにタオルを
かけると布団をかけ直して、
「―――やれやれ。
この程度で気を失うとは、先が長そうでしゅね。
しょれではそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■オリイヴ国 ガルバン家 │
│ ■『女神の導き』オリイヴ国拠点 │
「ふみゅう。となると……
この国で経済破綻、もしくは混乱が起きるような
兆しは無い、という事でしゅね?」
「現時点では、という前提ですが―――
大きな動きはありません」
神託から一夜明けて……
ナヴィは自分なりに情報をまとめようと、
ガルバンと一緒に状況を整理していた。
「でも今回、『枠外の者』の関与は確実であり、
奉公労働者のオークションも準備されていましゅ」
「はい。我がオリイヴ国は料理用のオイルが主な
輸出品ですが……
マービィ国のように、買い占めや相場変動の
兆候も見られません」
彼の答えに、ナヴィはポリポリと頭をかく。
「しょれにも関わらず、『枠外の者』は行動を
進めている―――
まるでこちらがいないかのように……」
両腕を組んで両目を閉じ、天を仰ぐかのように
顔を上に向けてナヴィは悩む。
「(こういう時、軍神様だったらどうしゅるか……
戦いは何も直接的なものだけではないでしゅ。
しょれは前回の、市場操作でもわかっていたはず。
今回の『枠外の者』の狙いは……)」
そこで、ナヴィは一度ビクン、と体を揺らし―――
そしてすぐ冷静になって、神託を繋いだ。
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
ちょうどその頃―――
第一眷属の少年の家では、彼とその母親が不安そうに
ある光景を見つめていた。
「お母さん、フィオナ様とメイさんが昼食を作って
いるんだよね?」
「そうなんだけど……
食事の用意って、こんな音や光線や爆発音が
するものかしら?」
まるでゲームの効果音のような音と―――
アイドルのステージ演出のようなフラッシュが、
台所から漏れ出ていた。
「大人しくひき肉になれェ!!」
「お芋の皮という理由だけで十分だ!!」
今度は女神と第三眷属の妹の掛け合いが聞こえ、
「……料理、してるんだよね?」
「そのはずなのよねえ。
何か壊れてなければいいけど」
息子はおろおろと見守り、母親はおっとりとした
視線でその光景を見つめ―――
「フィオナ様! トドメを!!」
「覚悟はいいか? アタシは出来てる」
いったいどうしたものかと母子は戸惑いながら
何も出来ずにいたが、そこへナヴィからアルプへ
神託が繋がれた。
「……あっ! ナヴィ様?
フィオナ様ですか?
ええと、今何ていうか……
はい? ええと、それであの……
その言葉を伝えればいいんですか?
はい、はい……わかりました」
「?? アルプ、ナヴィ様から何を言われたの?」
ソニアの質問に対する答えの代わりというように、
彼は台所へ近付き、
「あのーフィオナ様。
ナヴィ様から伝言がありまして……
『今すぐ神託を繋げ。
さもなければアルフリーダ様から預かっている
お前の幼少の頃の詩集を次の神託時に発表する』
と……」
と、アルプの言葉が終わるか終わらないかのうちに、
女神は転がるようにして台所から出てきた。
│ ■『女神の導き』オリイヴ国拠点 │
「まったく……
ようやく繋がりましゅたかダ女神」
フィオナとの神託を確認したナヴィは、呆れるように
一息つく。
(あ、危なかった。
あんな物を公表されたらアタシが(精神的に)死ぬ。
てゆーか何かあったの? ナヴィ)
用件を聞く女神に、お目付け役はある事を頼む。
「今まで行った事のある各国で、調べて欲しい事が
あるんでしゅ。
正確には、『枠外の者』の手から救い出した
事のある国で」
│ ■アルプの家 │
「んー、それだと―――
フラール、ルコルア、マービィ……
って事になるわね。
フラールには私とアルプが、ルコルアには
ミモザさんとファジーがいるから……
バクシアに連絡して、マービィ国に誰か
派遣してもらいましょう」
(お願いしましゅ。
こちらも出来る限り、『女神の導き』に
動いてもらいましゅので)
一通りの連絡を終えると、アルプが心配そうに
フィオナを見上げる。
「ナ、ナヴィ様から何か」
「ん? あー、ええと……
大した用件ではありませんでした。
今までアタシが救ってきた方々の―――
『女神』に対する評判はどうなっているか、
それを調べてみて欲しい、との事です」
その返答に、母子は顔を見合わせ―――
息子の方から口を開き、
「それなら、すぐにでも」
するとフィオナは首をブンブンと左右に振って、
「た、食べ終わってからにしましょう。
ちょうど出来上がったところですし、それからでも
遅くはないです」
こうして、フィオナとメイ、そして家主の母子は、
いったん昼食を取る事にした。
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「……なるほど。
話はわかった。
ネクタリン(ポーラ)さん、フィオナ様は他に何か
おっしゃっておらなんだか?」
昼食後、フィオナはすぐに第三眷属であるポーラに
神託を取り―――
それはすぐにローン・ボガッドへ伝えられた。
「いえ、他には……
ただナヴィ様からの要望でもあるらしいです」
「直接現地に行ってるんだし、何かつかんだんじゃ
ねーのかな」
彼女の横にはシモンもおり、情報共有をする。
「……もしかすると、別々の方向を見ながら、
ワシと同じ推測に至ったのかも知れん」
「?? 推測?」
ポーラが聞き返すと、彼は構わず言葉を続け、
「しかし困ったな。
トニック君、ソルト君の2名はシフド国へ
行かせてしまったし。
マービィ国へ行かせる者がおらん。
『女神の導き』が動いてくれているとはいえ、
他に信用ある者と言えば―――」
こうして女神の仲間たちは、フィオナの指示の下、
行動を開始し始めた。
│ ■オリイヴ国 市街地・メルリア屋敷 │
一方、『枠外の者』の一員である女性は―――
獣人族の少年をはべらせるように、ソファの隣りに
座らせてティータイムを楽しんでいた。
「んー、美味しい♪
キーラ、貴方もどう?」
銀の巻き髪を持つ少年は、勢いを付けるようにして
ぐいっとお茶を飲み込む。
「あら、まだご機嫌ナナメ?」
「何もしてないし、何も教えてもらってない。
ジッとしてるだけじゃん」
乱暴にガチャッ、とカップを置くと―――
それに動じる事なく、メルリアは話を続ける。
「そう、ね。
確かに今回は、目立った動きはしてないわ。
……ね、貴方に聞きたい事があるんだけど、
例の『女神様』のイメージってどんな感じかしら?」
唐突に話を振られた彼は、少し考え込み、
「どう、って―――
メルリアのような連中の悪巧みを、片っ端から
潰してきた……
英雄? 神サマ?」
「そう、ね。
絶望しかない状況をことごとく覆し、
人々を救い、希望になった―――
まさに『神様』よねえ♪
誰も敵わない。
無敵の存在。
……そんなところかしら♪」
いたずらっぽく口元を歪めると、彼女はそのまま
飲んでいたカップをテーブルの上に置いた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在5180名―――