01・第一印象って大切だよね
とある薄暗い一室で―――
顔の見えない、男女すらわからない数名が
集まっていた。
互いに顔を見ようともせず―――
それは見るまでもない仲であるのか、
それとも認識は必要としない関係なのか。
「バクシア国のザック・ボガッドが―――
死んだそうだな」
「フフフ……ヤツはバクシア国内でも
1、2を争うほどの有力者―――」
「女神の眷属とやらに全てひっくり返されるとは
『枠外の者』の面汚しよ……
いやダメージでか過ぎワロエない」
彼らは『今回の件』……
フラール国が同じ連合国家であるバクシア国の
管理下になった事―――
そして、『奉公労働者大量ターン事件』で、
状態が一気に沈静化した事について
話し合っていた。
「計画の遂行に障害は付き物だが、
たった数ヶ月で初期段階すら
怪しくなるとは思わなかったぞ」
「―――だが、それでも損はしていない。
我々の利益は『奉公労働者』の
オークション、その競合の胴元……
いわばスポンサーなのだからな」
「しかし、フラール国程度すらこのザマでは、
我々の最終目標、目的の達成など
夢のまた夢―――」
「とにかく、慌てず冷静に残された者で、
事態の立て直しを図る事だ。
まずはその―――
突然現れた、女神の眷属とやらの調査を―――
もし女神様とやらがいたとしても、
それすら『買収』してみせよう」
「あらゆる手を使ってな。
今の我々に用意出来ない物は無い。
人でも物でも―――
あらゆる『供物』を捧げてやるのだ」
│ ■日本国・フィオナの部屋 │
「ね、ね、ナヴィ。
どこか変なところとかありませんか?」
「大丈夫ですよ。
元が変なのですからこれ以上変には
なりません」
「ねえアタシって貴方に取って
どんな存在なの?」
とあるマンションの一室で、いつも通りの
やり取りをする女神とお目付け役の猫。
「そうじゃなくて!
どこかおかしいところは無いですかって
言っているんです!」
「全部言うんですか?
多分1時間はかかる気が……」
「何でアタシのテンション、
そんなに下げてくれるんですかー!!」
「少しは落ち着いた方がいいと判断します。
―――フラール国、眷属のアルプ君に
ようやく会えるんでしょう?」
あの事件から3ヶ月後―――
信者数は、新たに信者となった新規の人間も含めて
1千人ほどになっていた。
ようやく、MAX時の半分まで信者数が戻った事で、
信仰地域に直接『降臨』出来るようになったのだ。
『……もしもし、フィオナちゃん?
まだいる?
確か今日、信仰地域の眷属の子に
会いに行くんですよね?』
「あ、ママ」
不意に、室内に声が響く。
それは彼女を心配する両親からのコールだった。
『フィオナ、初めて人間の前に姿を見せるのは
緊張するだろうが―――
眷属の子は、同じくらいの年齢の姿だと
聞いている。
それほど難しい事はないだろう。
まずは感謝を聞き届け―――
あとは威厳を保ち、そして供応を
受けて』
「わかってるってば、パパ。
初めての眷属の子の前で、失敗は
しないから」
『しかし、眷属の子か。
僕も確認したが―――
容姿も性格も、初めての眷属にしては
申し分ない。
だが―――』
「?? な、何ですか、パパ?」
父親の言葉に不穏な空気を感じ取り、
思わず聞き返す。
『もしあの子がフィオナの眷属から『彼氏』に
進化するようであれば―――
パパは全力で叩き潰す!!』
「ママ、この前パパ、他の女神と
ご飯食べてた」
娘はまず、父親を(社会的に)抹殺する
手段に出た。
『―――それは本当かしら、パパ?』
『え? い、いや、それは普通に誤解というか……』
『 質 問 に 答 え ろ 』
『だ、だって僕だって神様なんだよ?
天界上の付き合いだってあるし……』
『 あ ぁ ? 聞 こ え ん な ぁ ?
それじゃフィオナちゃん、ゆっくり
行ってらっしゃい。
ママはパパとちょっと『話し合い』
してるから―――』
「はーい! 行ってきまーす!!」
「(フィオナ……恐ろしい子!)」
お目付け役のナヴィは心の中でツッコミを入れて、
自分も付いていくため、彼女の近くに寄り添った。
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
「うぅ、ついにフィオナ様が……
緊張します。
何か失礼な事とか、失敗とか
しなければいいけど」
「大丈夫ですよ、アルプ。
あなたは眷属の務めをしっかり
果たしています」
「あの試食を行う度に、
フィオナ様の信者数も増えていますからね。
褒められる事はあっても、怒られる事は
ありませんよ」
グラノーラ家屋敷、そこの応接室で―――
マルゴット、バート、そしてアルプの3人は
出来る限りの豪華な服装を身にまとい、
彼女の登場を待ちわびていた。
「(―――アルプ……
貴方はよく頑張りました。
アタシの、自慢の眷属です。
今、そちらに
アタシの姿を見せます。
緊張する必要も、過度な礼節も
不要ですよ)」
「……! フィオナ様!?
あ、あのっ!
フィオナ様が―――来られますっ!」
少年の言葉を聞くと、大人の二人は
息を飲んで佇まいを整えた。
そして、室内、アルプの目の前が光に包まれ―――
「呼ばれなくてもやってくる!
頼んでなくても、やってくる!!
絶対唯一神フィオナ、
求めに応じ、ただいま降臨ーーー!!」
その時―――
確かに室内の時間は、止まったのだった。
我を取り戻した3人が見たものは、
シルバーの短髪の中性的な顔立ちをした
少年に襟首を絞められる、
セミロングの黒髪の女の子の姿だった。
「威厳を保てって言わりぇてましゅたよにぇ?
ユニシス様がしょう仰られて
おりましゅたよにぇ?
―――にぇ?(超笑顔)」
「ぐげげげ……い、いや、こういう第一印象は
インパクトが大事かと思いまして」
「ああ一生忘れられないでしゅよ!!
どうしゅるんでしゅかこの空気!!」
「あ……何かでも、こうやって美少年に
迫られているのってちょっといいかも♪」
「だからちょっとは事態の収拾を
図りやがりぇってんでしゅこにょダ女神ー!!」
―――10分後―――
ひとまず席に座り、落ち着いた様子で
5人は顔を見合わせていた。
「大変お見苦しい姿を見せて申し訳
ありませんでした。
いえ、こちらからはあなた達の姿は
見えていたんですが……
いざ会えるとなったら緊張してしまって」
「―――あの、フィオナ様……
もしかしてまだ、神様としての力が
戻っておられないとか……」
心配そうな瞳で、アルプがフィオナの顔を
下からの目線でのぞきこむ。
「ま、まあ確かに、全てという訳では
ありません。
まだ半分ほどですね」
「そ、そうですよねっ!
だから先ほどは、あの、まだ本当の
フィオナ様ではなくて……」
「(本当にええ子や……
いい方向に解釈してくれる人たちで
良かったですねホントにお前ごときには
もったいない)」
「(ひ、一言余計なんですよっ!!)」
心の中で話し合っている女神とお目付け役に
バートから次の質問が―――
「それで、その……
そちらの少年は?
彼も、フィオナ様の眷属なのでしょうか」
「私は、フィオナ様の母上、
女神アルフリーダ様に仕える者です。
ただの付き添いでしゅので、お気になしゃらずに」
「神の使い―――
フィオナ様と一緒についてきたのですから、
当然といえば当然ですか。
その佇まい、美しさから―――
疑う者などおりませんでしょうけど。
(それにこの舌っ足らずな言葉使い―――
アリだわ!)」
マルゴットは、ナヴィ(人間Ver)の姿を見て
嘆息のため息をついた。
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 中庭 │
すでに日も落ち始めたと思える頃―――
その夕闇に姿を隠す、2つの影。
忍び寄るように目立たず行動し、それは彼らの
行動が不穏なものである事を表していた。
「……ミモザ姉、
ここに女神様の眷属とやらがいるって
話だけど、その情報は本物なの?」
「この領地一帯の一番の豪商、
グラノーラ家―――
そこにわざわざ、果樹園のガキを招待する
理由が他にあるってんなら、
聞かせてもらいたいものだねえ」
そこには、姉弟のような一組の男女がいた。
弟の方はまだ小さく、10才を少しも超えて
いそうになく―――
姉の方も、弟より3、4才ほど年上に見える。
「とにかく、今日は確認だけよ。
ターゲットが誰かわからないと話に
ならないし。
その面拝んだらとっととズラかるわよ。
わかった? ファジー?」
「ん、でも―――
この距離じゃちょっと……
もっと窓まで近付けない?」
│ ■フラール国・グラノーラ家屋敷 │
「そういえば―――アルプのお母さまは
どうしたのでしょうか?」
「あ、ご、ごめんなさいっ!
実は今月は、僕がバクシアへ
出稼ぎに行く月なので―――
今母はボガッド家のお爺様、お婆様の
お世話を兼ねて、先行してバクシアへ
行っているのです」
ナヴィの問いに、アルプは慌てて頭を下げる。
「いえ、別にとがめている訳ではありません。
人間には人間の生活がありますから。
ましてや、今回の奉公労働者の解放は、彼女の
協力も不可欠でした。
ですので、一言お礼を言いたかったのですが……
それに、アタシが一方的に今回の降臨を
望んだのですから、アルプが気にする必要は
ありませんよ」
「(まったく……
こんなにご立派な理屈をこねられるのなら、
最初からそうしてくだされば)
―――みゅ?」
「? どうかしたのですか、ナヴィ」
その問いに答えず、猫特有の無音の動きで
席を立つと―――
ゆっくりと窓側まで、足音すら立てずに
窓の前まで移動する。
そしておもむろに、早過ぎもせず遅すぎもせず―――
自然な動作で窓を両側に開けた。
「あ」
「ん?」
ナヴィは、もちろん相手の名前は知らず―――
ミモザと対面した。
部屋から漏れる光で多少は逆光になったものの、
ミモザはナヴィの姿を、ハッキリとその両目で
真正面から見てしまった。
数秒、お互いが沈黙した後―――
ファジーがミモザの手を引っ張って走り始めた。
「(何やってんだよ姉ちゃーん!!
思いっきり目と目がバッチリ
合ったじゃん今の!!)」
「(ええ、それが私たちの
最初の出会いだったわ)」
「(何でいきなりラブストーリー始めるの!?
とにかくココから離れるよ!!)」
何事かと他の4人も窓側まで集まって
見てみたが―――
そこには、部屋の中から照らされる
薄暗い中庭の芝生が見えるだけだった。
「あの、ナヴィ様。
何かありましたか?」
心配そうに声をかけるマルゴットに、
ナヴィは首を横に振る。
「……いえ、私の勘違いでしゅ」
「あー、ナヴィは元、猫なんですよ。
だから気配に敏感なんです」
「え!? は、はぁ……」
「猫さんなんですか!?
すごーい! あ、でもシッポとか
ありませんけど」
「今は人の姿でしゅからね。
だから人の言葉がまだ苦手でしゅて。
猫の姿は、またの機会にでも―――」
その後、席に戻った彼らの間に、
猫になった時のナヴィに興味が集中し、
その話題で盛り上がった。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在1014名―――
1章最終話、いきなりPVが
5倍くらいに増えていたので驚きました。
見てくれる方が少しでもいる限り続けてみようと
思います。
ただ、連日投稿はキツくなってきたので、
不定期連載にします。どうかご了承ください。
3日~1週間の間隔目指して頑張ります。