表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/402

14ママ最強



「ふふ、あの子―――

 上手くやっているかしら」


│ ■女神:アルフリーダ・ルールー  │

│ ■時と成長を司り、見守る女神   │


「大丈夫だよ。僕とママの娘なんだ。

 きっと今頃、神の資格はく奪の危機は

 去っているはずさ」


│ ■軍神:ユニシス・ルールー  │

│ ■戦と争いの裁きを行う神   │




天界の、とある神殿―――


そこは住まう神々の力を示すように、豪華な調度品と

家具が、所狭しと並ぶ。


軍神・ユニシスと女神・アルフリーダは、

そこから下界を見守っていた。


「ところで、ママ。

 聞きたい事があるんだが―――」


「何、パパ?」


「―――あのザックとかいう人間についてだが、

 もしかして手を出したのか?」


「え、だって娘の眷属、その子の父親に

 なるかも知れない人『だった』のよ。


 挨拶くらいするのは、当然じゃないかしら」


妻の答えにウンウンとうなずきながら、

夫はさらに質問を続ける。


「そうか。それで―――

 『成長』させたのかい?」


「だあってぇ、彼がそう望むんだもの。


 ちょっと『成長』の話を持ち掛けたら―――


 『もっと金を稼げるようにしてくれ!

 年に金貨100万枚手に入るくらいに』って。


 そこに達するまでの年月分、

 心臓も『成長』させちゃった訳なんだけど―――」


「まあ本人が望んだ事であれば、仕方ない。

 ところで、もう1つ聞きたい事があるんだけど」


「何かしら、パパ?」


「何で僕はこの姿になって、

 バインド(拘束)かけられているんですか?」


そこには―――

12、3歳と思われる黒髪の少年が

イスに『固定』されていた。


少年にしては少しだけ髪が伸び過ぎているような―――

その細面は中性的な印象を周囲に与える。




「だって、パパが私と初めて会った時って、

 あのアルプって子と同じくらいの年齢でしたよね?」


「うん。それがこの姿に『戻された』理由?

 で―――

 どうしてバインドを?」


「ちょうどパパと私の関係も、眷属から

 スタートしたし―――

 フィオナと同じように、神としての初仕事だったし」


「いや、だから何でバインドを」


「え? だから、昔を思い出して懐かしんで

 あの時の情熱を再び―――」


これから何が行われるかを正確に察知した彼は、

拘束から逃れようと全身に力を入れつつ、言葉を

選んで何とか妻を説得しようとする。


「ちょっと待ってくれないか。

 話せばわかるから―――

 このバインドをすぐ解いて」


「やだ、パパったら。

 だからこれからじっくり話し合うんでしょう?


 ―――激しい肉体言語でな!!」


「い、いやだから口で話を……!」


「大丈夫♪

 口だけじゃなく、ちゃんと舌も手も使いますから。


 時と成長を司る女神が命ずるっ!

 あの素晴らしい愛をもう一度!!


 ―――いただきまーーーす!!!


 あ、そろそろ本編もスタートするわね」




│ ■バクシア国・首都ブラン  │

│ ■ボガッド家屋敷      │




「あの、亡くなられたって―――」


シモン、マルゴット、バートレットの3人は、

改めて事の顛末てんまつを詳しく聞いていた。


「おお、結婚式を挙げたその日の夜にな。

 5日前か―――


 ソニアさんが、いつまでもザックが寝室に

 来ないというので、使用人総出で探したら、

 自分の部屋で事切れておった。


 心臓発作だと。

 ま、アイツにはお似合いの最期だ。


 結婚式当日に死んだというのは外聞が悪いから、

 今はまだ伏せておるがね」


「あの、お義父さま。

 あまり彼の事をそう言うのは……」


「本当に―――貴女は優しいのう。


 どうせアイツ、ロクでもない手を使って

 無理やり結婚に持ち込んだんだろう。


 だが、そのおかげで―――

 こんなに可愛い娘と孫まで出来たんだ。


 あのバカには感謝せねばな」


「……息子さんと、仲がお悪かったのですか?」


ずけずけと話す老人に対し、

バートが控えめに質問する。




「一度大病を患った時―――

 あのバカめ、ワシを無理やり隠居させおった。


 商才はからっきしのクセして、

 そういう事には長けておってな。


 あまつさえ、

 『枠外の者』と手を組みおって―――


 ボガッド家の恥さらしだ。

 商人の風上にも置けん。


 ワシが実権を取り戻したら、どちらにしろ

 勘当するつもりでおったよ」


一通り、恰幅のいい老人が話し終えた後、

今度は老婆がぽつりぽつりと語り始める。


「一人息子で、甘やかし過ぎたのも

 いけなかったと思います。


 よもや、人生の伴侶である女性すら、

 こんな形で手に入れようとしたなんて……


 だけど本当に良かったわ。

 貴女と、この子が不幸にならなくて」


「お義母さま、そんな……」


「で、でもよ。夫が死んだのなら―――

 どうしてそこでアルプに連絡しなかったんだ?


 結婚や旦那の死は伏せていても、

 別にそれくらいは出来ただろ?」


「ああ、それはちょっとゴタゴタしてての」


「―――どういう、事でしょうか」


マルゴットが訪ねると―――

次のような答えが返ってきた。


ザックが死んだ後―――


表面上は世間体のために死を隠したのだが、

その間に、婚姻関係について親戚が

異議を唱え始めた。


だが、結婚に関する書類は全部揃っており、

公式にソニアはザックの妻だと認定されている。


つまりザックの死後、遺産は全て彼女が受け取る

権利があり―――


その一人息子であるアルプが、いずれ相続する事になる。




「それを知った親戚が何をしでかすか

 わからなかったから、全部の手続きや

 『準備』が済むまで―――

 アルプ君の存在は伏せさせてもらったのだ」


「今日でほぼ全ての手続きが終わったんですよね?


 そうしたら、アルプちゃんが来て―――

 本当にびっくりしたわ。


 こんな偶然があるなんて―――」


「―――偶然、ではないと思います。


 そうですよね? フィオナ様―――」


(―――買い被り過ぎです。

 アタシは、人の死や運命を変える能力なんて

 持っていないのですから。


 貴方を助けようとする人、

 理不尽な事にあらがおうとする人―――


 その努力が、実を結んだという事でしょう)


「……フィオナ様?」


ソニアが、息子の発言を聞き直す。


「ああ、コイツは女神フィオナ様の眷属なんだぜ。


 そうだ、アルプ―――

 論より証拠だ、アレをご馳走してやったらどうだ?


 なあ、ここに果実はあるかい?」


「ええ、ありますよ。

 ちょうど買ってきたものが」




―――そこでアルプは、母、そして祖父母になった

2人に、例の果実を振舞った。


反応は、店で試食をやった時のそれと等しく―――


3人とも、非常に驚き―――

彼が女神の眷属である事を、素直に受け入れた。


「長生きはするものだな……

 こんな味がこの世に存在するとは」


「まるで若返るようだわ。

 生命を吹き込まれているかのよう―――」


「豊穣の女神、フィオナ様……

 私たちをお見捨てにはならなかったのですね……」


一息付いて、老人がテーブルから顔を上げる。


「ビューワー君、グラノーラ君……

 バクシアがずいぶんと迷惑をかけたようだね。


 君たちが奉公労働者の解放に動いているという

 情報は耳にしていた。


 罪滅ぼしというつもりはないが―――

 『枠外の者』と組んでいた、バカ息子にも

 責任はあるだろう。


 そして―――

 相続税その他を差し引いて、ソニアさんには

 遺産を受け取る権利がある」


その後―――

アルプの義理の祖父となった老人と、

ソニア、マルゴットを交えて話し合いが

行われ―――


ソニアは金貨8千枚を受け取れる事になった。


そのお金はもちろん、奉公労働者の解放に

使われる事になったのだが―――


一気に人が移動すると混乱するとの理由から、

1ヶ月に300人程度解放していこう、

との結論になった。


また、アルプは祖父母になった2人に請われ、

この街で商売する間はボガッド家の屋敷を拠点にし―――


商売が終わったら、母、ソニアと共に

フラール国へ戻る事になった。


果実さえあれば商売になるので、

2ヵ月に1度、バクシアのシモンの店で

試食専門に『出稼ぎ』をすると約束して。




「こちらに来た時は―――

 また屋敷ウチに泊まっていっておくれ」


「はいっ! おじい様、おばあ様―――」


義理の孫となったアルプは元気良く答え、

そして、いつまでも名残惜しそうに老夫婦は

彼らを見送った。


余談だが―――

代官であるバーレンシア侯爵について聞かれ、


「もし不当な扱いをアルプが

 受けておるようなら―――

 全力で潰す!!」


戸籍上、ソニア・ボガッド、アルプ・ボガッドと

なった2人は、義父・祖父であるローン・ボガッドが

『後見人』となる『準備』を終えており、


そう息巻いていたのたが、

アルプの商売の取り分を1割にしてもらったという

話を聞いて、


「何と無欲な若者なのだ!!」


と感激し―――

彼に借金がある事を聞くと、同じバクシア首都にある

侯爵の館へ向かい、その肩代わりを申し出た。


アルプの商売―――と言ってもほとんどが

チップだが、総額にして金貨2千枚以上にも達し、


借金の清算書と同時に、

金貨200枚入りの袋を受け取ったバーレンシア侯爵は


「はい? 何コレ?

 ほんと何コレ?」


という言葉を残して―――

直立不動で立ったまま気絶したという。




│ ■日本国・フィオナの部屋  │




「ふふふでゅふふふふ……♪


 これで弟夫オトウット、アルプのハートは

 すでに我が手中に……

 もはや何人たりとも邪魔はさせぬ……!」


「だから何で気持ち悪いラスボス風になるんだよ。

 信者全員解放するのは半年ほど先だって

 聞いてました?」


『信仰地域で実体化するには、

 少なくとも半数以上は戻らないとダメよ、

 フィオナちゃん』


「あうぅ……

 でもママ、ありがとうございます。

 最後までアタシのワガママを聞いてくれて。


 そういえば、パパは?」


『あ、パパはちょっと

 しぼっちゃったっていうか―――』


「搾る?」


『大丈夫、ママから伝えておくから。

 それに言ってたわ。

 僕とママの娘なんだ、心配いらないって』


「パパ……!」



【 結局、最後何かチートっぽくねえ? 】


【 チートだチートだ!! 】


【 大人しく白状した方が身のためだぜ? 】



「ふっふっふ……何とでも言いなさい。


 もはや事件は解決しています。

 貴方たちは用済みも同然なのですから」


「酷ぇ」



【 もっと戦に勝利した女騎士っぽく言って? 】



「すでに勝利したこの身に、

 いかなる誹謗ひぼうも中傷も効かぬ!


 役目を終えたその身に用は無い!

 速やかに退くがいい!!」


「実は仲良いだろアンタら」


―――この後―――


バクシアとフラールの間で起きた、

奉公労働者の行き交いは、

『奉公労働者大量ターン事件』として

歴史に記される事になる。


だが、この事件の背後に―――

女神フィオナが異世界に渡った事、


そこで彼女に助言をした頭脳集団

『アンカー』の存在があった事は

誰にも知られていない。


―――別にいいか、知られなくても。















―――2章に続く?―――


―――続いた―――





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ