38・本当に残念だわ、本気が出せなくて
( ・ω・)次かその次あたりで5章終わります。
6章に続きますが、ネタどうしようかな……
日本・とある都心のマンションの一室―――
スマホをポチポチと操作しながら、寝転がる少女と
飼い猫が一匹―――
「へー、猫って汗かかないんですか」
「?? どうしてそのような事を?」
エアコンの効いた部屋で女神に体をくっつけながら、
お目付け役(猫Ver)は質問する。
「いえ、ママからちゃんと塩分補充とかしてる?
ってメールがあったので。
それで何となく、貴方ってどうやって体温調整
してるのかなーって思って」
「アルフリーダ様からですか。
確かに、猫の姿では肉球以外に汗をかく事は
ありませんね」
ナヴィはいったん離れて、ぐぐーっと伸びをする。
「へえ、そんなところで体温調整するんですか」
「体温を下げるというより、緊張したり興奮したり……
そういう時に肉球に汗をかくみたいです」
彼の言葉に、フィオナは思わず手で口を押え、
「(こ、興奮……♪)」
また何かくだらない事を考えていると判断した
ナヴィは、それをスルーした。
「で、でも―――
それじゃどうやって体温調整しているんですか?」
その問いに、ナヴィは首を少し横に傾げて目を閉じ、
「確か、呼吸と聞いた事があります。
ハァハァ、と荒い呼吸をしたり、舌を出したり
して―――
それで体温を下げるんだとか」
それを聞いたフィオナは横になったまま転がって
ナヴィに背を向ける。
「(ハァハァ……♪
荒い呼吸……舌を出して……♪)」
再びくだらない事を考えていると判断した
ナヴィは、それを再度スルーして―――
フィオナのスマホを肉球で操作し、音声で
検索するアプリを起動させる。
「えーと……
『もじょ』、『びょうき』、『あたま』―――」
「スイマセン正気に戻ったんで。
人のスマホで不穏当なワード検索止めてもらって
いいッスか?」
彼女はスマホを取り返すと土下座のように猫に
頭を下げ、それを見たナヴィもため息をつく。
「まったく、じゃあ……
そろそろ本編入りましょうかね」
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「フラールは100! バクシアは500!
あとミイト国・トーリ家へは全部ボガッド家を
経由させて!
手数料!? 割増で構いません!」
シンデリンはフィオナという端末を通して、眷属である
ファジー、ポーラは子機として、それぞれの国へ指令を
通達する。
しかし、それを1日1時間程度とはいえ、神託とは
異なる情報をぶっ通しで伝える女神は―――
さすがにグロッキーになっていた。
「ね、ねえシンデリンさん……
ちょっと休憩しません?
短時間とはいえ情報処理能力が限界を」
「……ん……
ちょっとハリキリ過ぎ……」
フィオナとベルティーユから指摘された彼女は
ハッと我に返り、
「し、失礼……
久しぶりに儲けられる商売が出来そうでしたので。
つい商人の血が……」
「仕事モードのお嬢様は久しぶりに見ます。
普段からきちんとこうしてくださればいいのに」
従者のネーブルから皮肉交じりに言われると、
そちらへシンデリンは向き直って、
「出来る女ってのはね。
公私の区別が出来ている事が条件なのよ?」
「そもそも今回は仕事はしないと
おっしゃっていたのでは―――」
「だーかーらー!!
正論で水を差さなくてもいいでしょー!!」
主従のやり取りを見ながら、もう一方の主従の
主の方は、
「(何かネーブルってナヴィに似ているような
気がするんですよねえ……)」
また一方の従の方も、
「(シンデリンさんって、フィオナ様と
どこか性格が似ているような気がしゅるん
でしゅよねえ)」
と、主従似たり寄ったりの感想をそれぞれ思い―――
ひとまず休憩を入れる事になった。
従者であるネーブルがお茶を用意し、それを
トーリ家姉妹とフィオナ・ナヴィを加えて
4人でテーブルを囲む。
「これで経済危機は去ったと思われますが……
『枠外の者』や『新貴族』は、例の件を諦める
でしょうか?」
シンデリンのすぐ傍らに立ったまま―――
従者の少年は、今後の話を4人に振る。
「大義名分を失った今、強行する可能性は
少ないんじゃないかしら」
「……ん……
シンデリンお姉さまに……同意……」
姉妹が彼に答えると、今度はナヴィが別の話を振る。
「しかし、大丈夫でしゅかね?
シンデリンしゃまはともかくとして―――
ボガッド家やマルゴットしゃん、それに
バーレンシア侯爵様は身内・味方でしゅので……
しょれがこの機会を利用して、儲けてしまっては」
彼の懸念に対し、女神も同調しつつ消極的に否定する。
「ま、まあ……
万が一の時は、奉公労働者になるのが担保だった
わけですし?」
そこへ商人姉妹が別角度から助け船を出してきた。
「大丈夫だと思うわよ?
もともと、下手をすれば価格が1/10にまで
なるところだったのを、2/3でいくらでも買うと
保証した事で、安心感が生まれたはず」
「……さらに……ブランド化された……
来季からは高額で……買って……もらえる……
今、ちょっと苦しい……くらいで……
文句は……出ない……」
商人としての彼女たちの言葉に、他の一同は
うなずき―――
「さて、お茶を飲み終わったらもうひと働き
お願いしますわ、女神様」
「や、やけに気合い入ってますけど~……
でも、トーリ財閥からすれば今回の商売だって、
儲けは微々たるものじゃないですか?」
未だやる気満々のシンデリンに、フィオナは呆れ
ながらも、トーンダウンを願うが―――
「確かに利益はそこまで出ませんけど、
あの! バーレンシア侯爵様ご推薦ですからね。
各国の貴族たちに販路を作る絶好の機会なのです!
このチャンスを逃す事なんて出来ません!」
そしてフィオナは、この後の激務回避を断念し―――
それを他の3人は苦笑しながら見守っていた。
│ ■マービィ国・ファーバ邸 │
「く……くそ!
ほとんどをトーリ家が買い占めてやがる……
これから現物を買い足そうにも資金が」
一方で、もう一人の商人であり『枠外の者』、
ファーバは、先物取引で契約したクルーク豆の
確保に追われていた。
そこへ、ノックが聞こえ―――
ファーバはぶっきらぼうに返す。
「ラムキュール殿ですか?
申し訳ないが、今は忙しくて」
そして扉の向こうから姿を現したのは、彼が名指しした
人物ともう一人、『新貴族』の伯爵の二名であった。
「! これは失礼を……
マイヤー伯爵様。
そ、そうです!
例の『連合共同金融安定局』の話は―――」
すがりつくように挨拶もそこそこに問うと、
彼は首を左右に振り、
「……今回は見送られた。
記念すべき一回目の経済破綻の事例として―――
救済国第一号になるのは、さすがに不名誉だと
思ったようだな」
その報告にファーバは愕然となり、続けてもう一人の
『枠外の者』、ラムキュールも口を開く。
「それより、現物は用意出来ているのか?
クルーク豆の相場―――
今調べて来たが、例年の4倍の値段で取り引き
しているところもあったぞ」
青ざめた顔をしている青年にマイヤーは背を向け、
それを彼は呼び止める。
「ど、どちらへ?
マイヤー伯爵様」
「敗北を認めに……
いや、見事な手腕を称えに行こうかと、な」
彼が扉に手をかけると、なおも商人は食い下がり、
「し、『新貴族』の狙いはこの国を経済支配下に
置く事でしょう!
今ならまだ間に合います!
『連合共同金融安定局』への要請を―――」
振り向く事なく、『新貴族』は答える。
「我々は計画を主導しただけだ。
貴様らが何をしようが『新貴族』のフトコロは
痛まん。
そこまで面倒を見る義理も無い。
では、これで失礼する」
一瞥もせず、そのまま伯爵は部屋を退出し……
後には『枠外の者』である商人2人が残された。
20代後半と思われる男は、テーブルに顔と両腕を
伏せる『後輩』に声をかけ―――
「それで、どうするのだ?」
「……こ、このまま、では……
そ、そうだ!
トーリ家から融通してもらえば……!
同じ『枠外の者』同士、話をすれば何とか」
それを聞き、ラムキュールは深く息を吐く。
「あのお嬢さんなら、本国は元よりバクシアや
各国への輸送をもう決めたようだぞ。
さすがに序列3位の国の財閥だ。
考えられない速度で、商談をまとめている」
まさかリアルタイムの神託を使えるとは思って
いない彼は、ただ事実を淡々と述べて突き付ける。
そして現実に打ちのめされたファーバは、
テーブルから上半身を起こすと、深くイスに
腰をかけ直した。
「こうなったら、損害を抑える事に全力を
注がないと……
まずは取引を全キャンセルした場合の、
残金について交渉を……
それと、違約金についても……」
独り言のようにブツブツと語り出すファーバに対し、
『先輩』がずい、と彼の目の前に顔を突き出す。
「……助かりたいか?」
言っている事が理解出来ず、若者は視線が点に
なるが、彼はそのまま言葉を続け、
「クルーク豆の現物なら私が少しは確保してある。
この国の有力な商人や誰かさんが……
一切手を付けなかったおかげでな。
それを君に回してあげよう」
ファーバはラムキュールの顔を見上げると―――
自分が受け入れるしかない、という事を理解し、
その軍門に下るように頭を下げた。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「お、お疲れ様でした。
フィオナ様、ナヴィ様」
自分の部屋に女神が戻ると、留守番をしていた
第一眷属の少年が出迎え、その疲れをねぎらう。
「まあ、多分今日で落ち着きましゅよ。
各国への売買がほぼ決まったので、もう忙しい事は
無いかと思いましゅ」
彼女の後ろに続いて、お目付け役も室内に入ってきて
手荷物を下ろす。
「ふへぇええ~……
仕事モードのシンデリンさんってスゴいんですねえ。
さすがは財閥のお嬢様」
「そこは僕もちょっと驚きました……
何かビシッとした、大人の女性って感じでしたね。
同じ商人のマルゴットさんも、時々あんな感じに
なっていましたっけ」
アルプが他の女性を褒めるような事を言い―――
フィオナも思わず反射的に自身の事を語る。
「あ、アタシもですねえ。
きちんと仕事モードになればあれくらいは」
「で、でもフィオナ様は神様ですから……
それに、あまり人間の世界には干渉出来ないって
理解しておりますので」
少年の言葉に、少女は留飲を下げたようで、
「そ、そーなんですよねえ。
本当に残念だわ、本気が出せなくて」
その子に気を使われているんだよ気付けよ、という
ツッコミを言葉には出来ず―――
ナヴィは話題を変える材料を見つけるために周囲を
見渡す。
「しょういえば、もうあの2人は―――
フラールに着いた頃でしょうか」
情報屋であるトニック・ソルトは、この国での仕事は
ほぼ終わったと判断され、マルゴットのグラノーラ家、
およびボガッド家のサポートへ回るため―――
マービィ国から出国していた。
「そうですね。
『女神の導き』のレンティルさんも、事後処理で
忙しそうですし」
それを聞いていた女神は、メンバーの中の同性の姿が
見えない事に気付く。
「あれ? レイシェンさんはどちらへ?」
「先ほど、すぐに戻ると言って出掛けられましたけど」
そう言って少年は窓の外を見つめ―――
それにつられるように、男女もそちらへ視線を向けた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3868名―――