37・ちょい待ちちょい待ち
( ・ω・)目次の題名だけ読んでいると、
何の小説だかわからなくなる(白目)
日本・とある都心のマンションの一室―――
リビングで寝転がりながらTVを見る、家主の
少女とペットと思われる猫が一匹、体をくっつけて
くつろいでいた。
「なかなかこのウイルス騒ぎ収まらないですねー。
この世界の神は何しているんでしょ?」
「少なくとも貴女の100倍は仕事しているんじゃ
ないですか?」
女神の不満にすかさずカウンターを入れる
お目付け役(猫Ver)。
それに対しフィオナは―――
「いやいや……
てか、ココはアタシの仕事場じゃ無いし。
そもそもやれる事は限られているでしょー」
「そういう事は、自分の信仰地域でもきちんと
仕事をしている神が言うものですけどね……」
「最近はちゃんとやっているでしょー!!」
さすがにフィオナもナヴィに反発し、彼も素直に
反省の意を示して訂正する。
「そうですね。
確かにここ最近は―――
少し言い過ぎました、お許しください」
「わ、わかればいいのでございますですよっ」
思ったよりも従順な反応だったのか、女神は
少しうろたえながら謝罪を受け入れる。
「ですが、地球でも何か神として出来る事は
無いのですか?
トレーニングとか、何かの訓練とか」
「う~ん……
でもこちらで出来る訓練って言っても、
せいぜい走り込む、とか?」
ナヴィの提案に、フィオナは同意しつつもその
手段がわからずに聞き返す。
「そうですねえ……
確か地球では―――
転がってくる岩を避けるとか、
荒れ狂う海に飛び込むとか……」
「それ訓練じゃなくて特訓って言わない?
もしくは人外になるためのナニカ。
まあいいわ、そろそろ本編スタートしますねー」
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
自作自演の魔物撃退から一夜明け―――
夕方になって、女神様一行はトーリ家姉妹が泊る
高級客室に集まっていた。
神託を行うためだが、いつもは定期的に夜に
していたが、情報屋2名の調査と、その到着を
待つために夕方へと変更。
それは予めフラール・バクシアへも伝えられていた。
「さてと……
やるべき事はやったと思いますけど」
「……ん……
こっちの準備は……いい……」
シンデリン・ベルティーユ、そしてネーブルが
ホストとして彼らを見守る中―――
この部屋では二度目の神託が行われようとしていた。
「では、神託を繋ぎます……
ファジー、ポーラ。聞こえますか?」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「はい、大丈夫です!
バーレンシア侯爵様、ビューワー伯爵様、
グラノーラ様も同席しています」
第二眷属が元気良く応答し、続けて他国の
第三眷属も―――
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「わたしの方も準備は出来ています。
ボガッド家夫妻もシモン君も揃っています。
どうぞ始めてください、フィオナ様」
定位置のようにシモンを隣りに座らせて、
ポーラはバクシアからマービィ国へ向けて
開始を勧めた。
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「えーと、では……
トニックさん、ソルトさんが集めた情報から……
もう何か噂がすごく広まっているとかで」
女神が2人に促し、ソルトからまず報告する。
「もうほとんどマービィ国の主なところには
噂が広まっていると見ていいだろうな。
『女神様が4ヶ所の農業特区に降臨し、
そこで暴れていた魔物を追い払った』
内容はだいたいはこんな感じだ」
次いでトニックからも、
「魔物が出現し、どの特区からもいなくなった―――
これは国の機関が確認している。
特にアルプさんとシッカ伯爵様が担当した
ところに、グレイン国のお偉いさんが居合わせた……
ってのが大きいようだ」
レイシェンは彼の報告を、複雑そうな表情をしながら
受け止める。
│ ■アルプの家 │
「それで、これからはどう動けばいいんでしょうか」
「これでグレイン国の新農法導入は―――
マービィ国は元より、各国も慎重になるんだろう
けどさ。
これであちらのダメージはどんなモン?」
第二眷属の少年とその姉が、状況の把握と今後の
疑問を口にする。
「……相手はグレイン国ですからね。
蚊が刺したほども感じないでしょう」
「そ、それでも十分―――
『新貴族』、『枠外の者』へのけん制には
なったと思われますが」
バートレットとマルゴットが、厳しい現実と
擁護するような効果を語る。
「序列1位の国ですからね……」
「そもそも、国力では勝負にすらなって
いなかったんですから……
何か出来た、という事自体奇跡ですよ」
アルプの母、ソニアとポーラの妹、メイも―――
それを追認する。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「一矢は報いた……
というところですかのう」
バクシアでその屋敷の主人が、同じ商人の言う事を
肯定するように話す。
「まあ、何はともあれ今後だ。
あちらさんも、同じ手は使えないと判断
するだろ」
「ひとまずは―――
お疲れ様でした、フィオナ様。
そして、皆様……」
シモンとポーラは、これで一応ひと段落着いたように
マービィ国の一行をねぎらう。
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「(え” いやいやいやちょい待ちちょい待ち。
これで終わり? 終わりなんですか?)」
何か今回の件が終了したような雰囲気になりつつ
ある中、女神は困惑しながら否定する。
「(他に何かあるなら言ってみるでしゅよ。
さあここで一発逆転の手を)」
「(ぬあぁああああ何でこーなるのー!!
アタシちゃんと言われた通りにしたのにぃ……!)」
「(ご自分で何も考えなかったからじゃね?)」
女神とお目付け役が心の中で身もフタも無い応酬を
繰り広げる中―――
シンデリンは微笑を、ベルティーユはいつもの
無表情を女神様一行に向ける。
「さーて……♪
そちらの用意は出来ていますか?
アルプちゃん、ファジーちゃん、ナヴィ様……♪」
「……これで……1人につき2人……
ううん……取り換えっこも……!
帰ったらベッドは……3人で寝られるよう……
キングサイズに……!」
「何気に私もその人数に入れられてます?」
契約の実行に欲望全開になる姉妹に、従者のネーブルが
ツッコミを入れて―――
その空気を変えようとしてか、アルプがおずおずと
発言する。
「それで、その……
クルーク豆の相場はどうなってますか?」
肝心の、クルーク豆のイメージ好転について彼は
問うが……
それに対し『女神の導き』、レンティルは―――
「それは残念ながら……
あまり変わらず、と言ったところです」
続けて、トニックとソルトも詳細を語る。
「女神様と魔物の印象が強過ぎたのか、
フィオナ様によって清められたクルーク豆で
魔物が撃退された、という話が―――
それほど広まっていないようなんだ」
「そもそも、魔物もクルーク豆から生まれたものなら、
撃退したのもクルーク豆だしな……
その辺、ちょっと微妙だったかも知れねえ」
室内が重苦しい空気に押しつぶされそうになる中、
不意にフィオナの声が雰囲気を一変させる。
「……へ? バーレンシア侯爵?
えーと、シンデリンさんに?
はい、いますけど……」
「え? 私に?」
突然、それまで発言の無かった貴族の登場に、
室内の視線が集中した。
│ ■アルプの家 │
「あ、お久しぶり。
えーとね、話によると今、君のところに
クルーク豆があるそうなんだけど……
それは合ってるかな?」
ファジーを中継・電話の子機のようにして、
バーレンシア侯爵は他国へ語り掛ける。
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「ええまあ……
それはもう大量に。
え? 売って欲しい……ですか?
それは商売ですから、いくらでもご用立て
いたしますけど。
でも何のために?
……え? 贈答用?」
貴族と商人の会話が始まり、周囲の人間はそれを
固唾を飲んで見守る。
│ ■アルプの家 │
「うん。それねー、僕と同じ貴族用に用意
出来たらと思って。
身分が高いと伝統とか儀礼とかウルサイんだけど、
新しい物とか流行ものとか、それも縁起物って……
あんまり気を使わなくて済むから楽なんだよね」
侯爵の話す事に、ファジーが首を傾げ、
「縁起物……ですか?」
「クルーク豆ってただの豆だ……豆でしょ?
今回、魔物になったり追い払う武器になったりは
してるけど」
ミモザが続けて話した言葉に、バーレンシア侯爵は
彼女を指差して、
「そうそう、それ!
僕も商売やってた事があるからさ。
売り込む時の文句とか理由とか、いろいろと
あると便利なんだよ。
それで、今回のクルーク豆なんだけど―――
『魔物を追い払った、めでたい豆!』
『女神様が清めた、魔を払う豆!』
これで他の貴族にも売り込めたらなー、
なんて……
あ、もちろんフラールに輸入するのなら
グラノーラ家を通すから」
その時―――
バクシアで商人―――
老人と少年が大きな声を張り上げた。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「それじゃあああ!!」
「それだ!!」
それにつられるようにして、フラールでも
マルゴットが声を上げる。
│ ■アルプの家 │
「あ、トーリ家のシンデリンさんですか!?
グラノーラですが、クルーク豆はどれくらい
確保出来ております!?
全体の半数以上!?
もっと買い付ける事は可能でしょうか!?」
その剣幕に貴族の男性2名は押され―――
平民の姉弟とソニア・メイはポカンとしてそれを
見つめる。
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
そしてマービィ国でも、商人の女性は活発に
フィオナを通して声を張り上げていた。
「すいません! バクシアのボガッド家に
お願いしたい事が……!
今すぐミイト国へ言伝を頼めません事!?
伝言はトーリ家の本家へ向けて、
今すぐ大量のクルーク豆の受け入れ態勢と
流通確保を……!」
目まぐるしく商人たちが国家間で話し合う中、
それを他の人間はぼうぜんと見つめていた。
│ ■マービィ国・ファーバ邸 │
フィオナ一行の商人たちによる神託騒動があった
3日後―――
『枠外の者』の一員である商人、ファーバは、
自分の邸宅でイライラしながらお茶に口を
付けていた。
「まったく……!
『オバケ』騒動の余波か、いつまで経っても
『連合共同金融安定局』の話が進まない。
魔物もとっくにいなくなったと、確認も済んで
いるというのに……
何を手間取っているんでしょうねえ」
そこへ、ノックがなされ―――
同じ『枠外の者』ラムキュールが、部屋の主の
同意を得て入ってきた。
「これはこれはラムキュール殿。
今日はどのようなご用件で?
あいにく、『連合共同金融安定局』の話はまだ」
「ファーバ、君が先物で契約しているクルーク豆……
どのくらい確保してある?」
若者の言葉をさえぎるようにして、ラムキュールは
確認のように質問する。
「はぁ? まだ現物はありませんよ。
放っておけば値下がり続ける物を何で」
「各国からクルーク豆の問い合わせが殺到している。
……今の相場、知っているか?
例年の2倍―――
まだ上がり続けているぞ」
「……は?」
ファーバの言葉を最後に、室内に静寂が訪れた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3322名―――