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34・よくこんなご大層な理由を

( ・ω・)今回は目測を誤って前フリの茶番が

長くなってしまいましたが、本番も長くしたので

大丈夫( オイ )



日本・とある都心のマンションの一室―――


一人の少女がベランダの窓越しに外を見ながら、

眠そうにしている猫を撫でていた。


「雨ですねえ」


「雨ですね……」


うとうととしながら、お目付け役の猫は彼女の

ひざ元で相槌を打つ。


「ナヴィって雨の日はいつもだるそうに

 してますけど……

 やっぱり元猫だから?」


「元猫と言いますか、今も本当の自分は猫だと

 思ってますが……

 確かに何ていうか、体内の時計がおかしく

 なっちゃう感覚はありますね……」


くわぁ、と大きく口を開けてアクビをすると、

彼はカーペットに座っているフィオナの膝に

頭を乗っける。


彼女はそこに手を伸ばし、首を撫でながら、


「でも、いくら雨に弱いと言っても……

 室内ですし、別にパトロールも雨天決行って

 わけじゃないんでしょう?


 子猫の時の記憶とか、そんな感じ?」


「そうですね、アルフリーダ様に出会う前の記憶も

 うっすらと残っていますので……


 外に出なくても何というか、体にべったりと

 まとわりつく湿気とか……

 ずぶ濡れになった事もありますので……

 それを思い出しますと、どうしても体が妙に

 グロッキーになってしまいまして……


 ……うーにゅ……」


寝ぼけながら言っているのかと思うほど、ナヴィは

すごく気だるそうに手足をピクピクと動かす。


「まあ雨でびしょびしょになるのって、

 いい思い出じゃないでしょうし。


 あ、そうだ!」


「……みゅ?

 何でしょうか……?」


意識を何とか保って受け答えをする彼に、

フィオナは―――


「いっその事、人間Verになったらどうなの?

 その方が毛皮も無くなるしー、さっぱりするかもよ?

 いえ別に何もやましい事なんてこれっぽっちも考えて

 ませんしぃ?

 ぐったりしてるし今なら抵抗も少ないんだろうなぁ、

 とか……♪」


後半、下心丸出しの言動に当人が気付いているか

どうかはともかくとして、一応の提案がナヴィに

出される。


「……そう……ですねぇ……

 気分転換……の……ため……にも……」


そう言うと彼の姿は人間のそれに変わり―――


「……えっ?」


それを見てフィオナは一言発した後、硬直する。


自分の膝の上に頭を乗せた少年が、

一糸まとわぬ―――

とまではいかないまでも、最低限の肌着、つまりは

パンツ一枚で横たわる。


「……ん……みゅ……

 では……こりぇで……」


そしてそのまま、彼女に膝枕をしてもらったまま、

いわば密着状態で寝息を立てる。

一方でフィオナは、突然の事態に対して分析と把握の

ため、脳をフル稼働させていた。


「え? いやちょっと待ってくださいこれは何と

 言いますか望んだ以上の結果が突然転がってきて

 ですねしかしでもこんなオイシイ状態ってアタシ

 想定してないっていうかいやいいのホントこんな

 美味しそうな子羊いえ子猫が自ら自分を差し出す

 なんて何考えて―――


 ……あわびゅっ」


フィオナはそのまま膝枕は維持しつつ、上半身を

後ろへのけ反らせ、背中をカーペットに押し付けた。


そこへベランダから母親が侵入し、


「ぷはー、もうっ嫌な雨ね。

 あ、フィオナちゃんもう新イベやってる?

 ちょっとマルチして欲しいところが……あん?」


そこにはほぼ全裸まであと一歩の従僕と、幸せそうな

表情のまま気を失っている娘が重なっており―――


「え? 何? 事後? 事後なの?

 もしかしてフィオナちゃんもう大人の階段

 のぼっちゃった?」


さすがのアルフリーダも、フィオナとナヴィの

非日常の状態にうろたえるが、すぐに周囲を見渡すと

同時に、鼻をフンフンとならし、


「……ン? でも、ナヴィが脱いだ衣服は見えないし、

 何よりフィオナちゃんは服を着た状態なわけで……

 それに私とパパが一戦交えたような匂いもまったく

 しない……」


唇に手をあてて考えるアルフリーダは、やがて一つの

結論に達し―――


「とにかく、このままじゃ風邪引いちゃうわ。

 ソファに持っていきましょう」


彼女は片手に従僕である少年、片手に娘を抱えると、

リビングのソファーへと向かった。




「……と、というわけでしてぇ……」


「まあ、そんな事だろうとは思いましたけど」


母親に介抱され、意識を取り戻したフィオナは、

こうなった経緯を説明して呆れられていた。


話を聞くアルフリーダの膝には猫Verになった

ナヴィが、喉を鳴らしながら寝息を立てている。


「ナヴィはいつの間に猫に戻ったんですか?」


「これは私が戻したのよ。

 このコは私の従僕だからね。

 主人わたしの任意でそれくらいは出来るわ。


 それはそれとしても―――

 何であなたはせっかくのゴチソウを前にして、

 そのチャンスを逃すのかしら……

 恋愛ごとに関しては、普段から餓狼がろうのごとく

 機会を狙っているクセに」


ため息をつきながら呆れるアルフリーダに、

フィオナは反発し、


「だだ、だってですねえ!

 いくらアタシが腹ぺこオオカミだからって、

 いきなり目の前にニンニクマシマシネギチャーシュー

 大盛りを出されたら対応出来ませんって!」


「普段何を食べてるのよアナタは。


 まあ肝心のナヴィがこんな状態じゃ、

 ハッスル出来なかったかも知れないけど……」


その言葉に、娘は大きく首をブンブンと縦に振って、


「そうですそうです!

 そ、それにもうちょっと信頼関係を醸成じょうせいしてからの

 方が大変よろしいと思われますです、ハイッ!」


「(……これだけナヴィが無防備になるのも、

 信頼の証だと思うんだけどねー……)」


「?? 何か言った、ママ?」


「ううん、別に。

 それじゃそろそろ、本編スタートするわね」




│ ■温泉宿メイスン・大部屋  │

│ ■フィオナ一行宿泊部屋   │




「えーと……

 俺とソルトが調べたところによると……

 マービィ国内にある農業特区全部に、

 『オバケ』が出現しているって話だ」


シンデリンへの報告から1日経って―――

戻って来た情報屋2名を前に、フィオナたちは

報告に耳を傾ける。


「まーた派手にやってますねえ……」


「まあ全部って言っても4ヶ所くらいだけどな。

 特徴や外見が一致してるし―――

 本人? かその分身と見て間違いないだろう」


続けてソルトも説明し、調査した記録書類に

視線を落とす。


「あ、あの。

 それ以外のところには?」


おずおずと聞いてくるアルプに、トニックが答える。


「他は何つーか噂レベルだな。

 具体的な見た目とかはあやふやだし……

 多分見間違いか、『オバケ』の話を聞いて

 パニックになっているだけだと思う」


「という事は、逆に言えば……

 パック殿たちが出現しているのは、農業特区だけに

 限定されているのですね。


 つまり―――

 パック殿の計画通りに事は進んでいると」


そこで全員が顔を見合わせる。

そして第一眷属の少年が口を開き、


「はい。


 そこで僕たちがパックさんたちを排除すれば、

 ひとまずこの混乱は収まるでしょう。


 後はそこからどう動くか、です」


パックがアルプに伝えた作戦―――

それは、自らが騒ぎを起こし、アルプたちにそれを

解決させようというものだった。


すでにクルーク豆の相場の暴落は止められない。

そうならば、もっと悪い材料を提供して相場を

崩壊させ―――

そこから巻き返しを図る、というものであった。


そこでまずグレイン国の新農法と結びつけて、

自分たちはそれで生まれたのだと主張、同時に

グレイン国に責任と悪印象を植え付ける。


それから自分たちを排除すれば、クルーク豆の

イメージは好転し、買い取り先も増えるのでは

ないか、と提案したのだ。


暴落そのものは止められないかも知れないが、

少なくとも女神がこの一件に関わっている、

という事を知らしめる事になるし、何より

アルプがこの案を承諾したのはパックの―――


「ソレデコノ国ニ一時的ニデモ希望ヲ与エル事ガ

 出来ルノデアレバ……安イモノデハナイカ」


という言葉が少年に決心させたのであった。


「それではその……

 じゅ、準備というか、練習を……」


「は、はいっ。

 シンデリンさんの提案は昨夜、フラール・

 バクシアのメンバーにも了承されましたし……」


フィオナ・レイシェン女性陣2人の提案に、

男性陣の方―――

特にアルプの表情は複雑になる。


「そ、そうですね。

 ナヴィ様もすでにそちらに行っておりますから」


そして、眷属以外の男性メンバーである、

トニックとソルトは、


「じゃあ、あの……

 また俺たち、情報収取してくるわ」


「農業特区以外は問題ないと思うけど、

 念のためそっちももう一度」


最後に残った男性のレンティルに、アルプは救いを

求めるような視線を向けるも―――


「ど、どうか作戦成功のため、ご尽力を

 お願いいたします」


彼が少年に頭を下げると同時に、女神と伯爵令嬢は

アルプを押し出すようにして一緒に部屋を退出した。




│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』  │

│ ■シンデリン一行宿泊部屋         │




「はあ……」


「ふみゅう……」


3人が到着した先はトーリ家姉妹が泊っている

部屋で―――

そこにはため息をつくナヴィとネーブルと、対照的に

満面の笑顔でシンデリン・ベルティーユが出迎える。


「あ、いらっしゃ~い♪」


「……揃った……!

 主役が……!」


明らかに姉妹の視線はアルプへと集中し、そして彼は

困ったような笑顔でそれに応える。


「まあ、アルプ殿……

 思うところがあるのはわかりますが。


 先日のトーリ殿の申し出は、理にかなっている

 ものだと思います」


慰めようとしているのか、説得しているのか、

自分でも半々の感情を抱きながらレイシェンは

彼に促す。


「は、はい。それはわかっています」


彼もまた、自分に言い聞かせるようにして―――

その『申し出』を思い出していた。




―――アルプ回想中―――




「このままじゃ、少し―――

 物足りないわ」


前日、シンデリンに相談しに部屋を訪れた一行は、

突然の彼女の言葉に注目する。


「も、物足りない、と言いますと?」


心配そうに聞き返す女神に、彼女は人差し指を立てて、


「今の作戦では、あのパックとやらの『オバケ』が

 農業特区で暴れる……

 そして女神ご一行様がさっそうと現れ、それを

 退しりぞける、で合っているかしら?」


コクコクとうなずく一同に、シンデリンは続けて、


「それで女神様が連れて行くのは―――

 供をしているナヴィ様に、第一眷属・アルプさん、

 そして護衛のシッカ伯爵様……

 でいいのかしら」


「ええまあ、そのつもりですけど……」


フィオナの返答に、彼女はナヴィとアルプの顔を

交互に見ながら、


「シッカ様はともかくとして、少年とはいえ

 男2人を従わせている女神様、っていうのは

 ちょっとどうなのかしら」


「アタシは一向に構わっ」


ナヴィがフィオナの脇腹に肘打ちを入れると、

彼女の言葉が中断される。

それを見てシンデリンは困惑しつつも話を続け、


「えーと、その……

 『男装の女神』って噂(4章25話)、聞いた事が

 無いかしら。

 多分アルプ君かファジー君を女性と間違えて混同

 しちゃったんだと思うんだけど。


 それだけ『女神』イコール、女性陣で固めている、

 というイメージが強いのよ。

 少なくともこちらの世界では」


打撃を受けた場所をさすりながら、フィオナは

体勢を立て直す。


「な、なるほど……」


「だからなるべく、周囲は女性で固めておく方が

 いいんだけど……ね♪


 それに、これは今後のためにもいいと思うの」


「と言いますと?」


フィオナが聞き返すと、シンデリンは一息ついて、


「今回、これで女神様およびその一行は―――

 完全に『枠外の者』・『新貴族』に敵と認識

 されるでしょうね。


 そして『奇跡』を起こせば、連合国家内の

 宗教上層部や権威は当然黙っていない。


 フィオナ様やナヴィ様はともかく、眷属の

 身の安全を願うのであれば、『身元』は

 なるべくわからなくした方がいいわ」




―――アルプ回想終了―――




「……はぁ」


アルプは思わずため息をつくが、ちょうど

同室にいたナヴィ・ネーブルと目が合い、

彼らもまた同じ事を思い出していたのか、


「というか、女装させるためだけによくこんな

 ご大層な理由を付けるものでしゅ」


「しかも一見、筋が通っているものだから

 性質たちが悪い……」


グチるように語る2人に対し、4人の女性陣は

目を反らし、そのうちの1人が話題を変えるように

口を開く。


「で、ですが……

 アルプ殿やファジー殿は、眷属になられてから

 長い上、年少者ですので―――

 用心するに越した事はないかと」


「えっと、ポーラさんは?

 それに護衛とはいえ、シッカ伯爵様だって……」


アルプは心配になったのか一番新しい眷属と、

彼女自身の事をレイシェンにたずねる。


「ポーラ殿も平民とはいえ、徴税官の娘です。

 役人の身内を狙うのはリスクが高いでしょう。


 わたくしはミイト国の貴族ですし―――

 バーレンシア侯爵様に救って頂いた時から、

 覚悟は出来ておりますゆえ」


そしてうやうやしくフィオナに一礼すると、

彼女はあたふたとしながら、


「そ、そーいえば……

 行動を起こすのはいつにしますかっ?」


何とか会話を継続しようと話題を周囲に振ると、

トーリ家の妹の方が提案してきた。


「……早い方が……いいと思う……」


「?? それはまたどうして……」


不審そうに伯爵令嬢が聞き返すと、今度は姉の方が、


「例の―――

 『連合共同金融安定局』への申請を、この国の

 王族が決定したらしいの。


 決起するのなら、今日か明日にでも、って感じね」


その言葉に、トーリ家の姉妹と従者以外の全員が

顔を見合わせた。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在3278名―――



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