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32・『まっちぽんぷ』でしゅよね?

( ・ω・)今のところ浮いた話がひとつも無いキャラが

初期のバートレット(フラールの伯爵)という事実に

今さら気付く。



日本・とある都心のマンションの一室―――


大量の買い物で得た袋や箱を前にして、母娘が

はしゃぎ、それを室内飼いとみられる猫が一匹

見つめていた。


「お! いーねーいーねーこの戦利品もなかなか♪」


「おおお! コレもえっぐいところを責めますねえ♪」


普通の肌着や衣服に加え、通常の使い道では

ないであろうデザインの衣装も散見する。


「じゃーコレはパパで、こっちもパパで……

 これは私が着るヤツね」


「おっふぅう……♪

 ねーねーナヴィ、コレなんかどう?

 あなた細いし、今流行りの男の娘キャラの

 ヤツでねー♪」


フィオナから話を向けられたお目付け役(猫Ver)

は、興味なさげにあくびで返す。


「ふぁあ……

 まあ、個人の趣味には口出ししませんけどね」


「直訳:こっちを巻き込むなって事ですね

 わかりません」


「いやわかれよ」


娘と従僕の会話を聞いていたアルフリーダは、

いったん手を止めて2人の間に割って入り、


「まあまあ、ナヴィはほとんどの事なら私が

 経験させているから……


 でも貴方の好みとかは無いの?」


さすがに主人である彼女からの質問は無下には

出来ず―――

彼は当たり障りのない答えを頭をフル回転させて

探し出す。


軍神ユニシス様のように元人間ならともかく、

 猫だった私の好みとなりますと……


 あ、そうです。

 ユニシス様からアルフリーダ様へ、何か注文とかは

 無いんでしょうか?」


逆質問のように返すナヴィに、アルフリーダは頬を

赤らめて、


「あ、え、その、な、なくは無いんだけどぉ~、

 えっと……♪」


その反応を見た娘と従僕はタッグを組むように

グイグイ押してくる。


「ほへー、やっぱりパパもそーいうのあるんだ……♪

 ねぇねぇママ、どんなのー?」


「身内とはいえプライバシーの問題が……

 なので、口外しない事を誓いますのでどうか」


興味津々のオーラを突き付けられて、彼女は観念

したかのように、口を開く。


「あー……

 別にキワドイとか引くとか、そういうんじゃ

 ないのよ?


 私も一度パパに、『何が一番いい?』って

 聞いた事があるんだけど―――」


フィオナとナヴィは決められたモーションのように、

同時にウンウンとうなずきながら先を促す。


「そ、それでね……♪

 最初にわ、私が出会った時に着ていた衣装が

 一番いいって……♪


 ってもう、何言わせるのよっ♪」


それを聞いていた少女と猫は、少し離れて

テーブルに座り、


「あーナヴィ。

 すっげー室内の空気が甘ったるくなったんで

 青汁出してくれる?」


「バケツでいいですか?」


フィオナとナヴィの反応を見て、アルフリーダは

少し慌てて、


「ちょっ!

 あ、あなたたちの方から話振ったんじゃないの!


 ま、まあいいわ。

 そろそろ本編スタートするわねっ」




│ ■マービィ国・クオン商会  │




シンデリンから、取引先への紹介状を

書いてもらった翌日の午前中―――

女神と第一眷属の少年、そして護衛の伯爵令嬢は、

その商会の倉庫へとやって来ていた。


「うっわー……」


「すごい量ですね。

 これ全部、クルーク豆……?」


山と積み上げられたその圧倒的な物量に、フィオナと

アルプはただ驚きの声と感想を漏らす。


「人口1万人5千人程度の小国とはいえ、

 輸出品目の主力でもあるわけですから。


 ……しかし、トーリ財閥の実力を改めて

 思い知らされます」


レイシェンの言葉に、フィオナとアルプも続き、


「シンデリンさんからの紹介状見せたら、

 ココの人、顔色が真っ青になってましたもんね」


「規模も何もかも違うでしょうから……

 僕がバクシアで初めて、ボガッド家を訪れた時以上の

 衝撃でしょうね」


話しながら、少年は倉庫の中を見渡し、


「でも、『お好きなだけ持っていってください!』

 って言われましたけど―――


 こっちは少しだけでいいんですけどね。

 投げつけるだけの分があれば……」


「「投げつける??」」


女性2人は、アルプの言う事にほぼ同時に反応し、

疑問の声を重ねるように上げる。


「あ」


しまった、とアルプの表情は変わるも、それを

見つめる女性2名の視線は彼に釘付けで―――


「……話さないと納得しませんよね。


 多分、もうパックさんは予定通り行動を起こして

 いるでしょうし……

 宿屋に戻ったらお話しいたします」


その答えに、フィオナとレイシェンはいったん顔を

見合わせると、すぐにアルプへ向けてうなずいた。




│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』  │

│ ■シンデリン一行宿泊部屋         │




「とは~……」


同じ頃―――

この部屋の主客であるシンデリンは、一枚の紙を

手にしながら、ため息ともつかない間の抜けた

声を上げる。


「……何……?

 シンデリンお姉さま……」


ベルティーユがそんな姉の姿を見て、

その理由をたずねる。


答え、というように彼女は手に持っていた紙を

ヒラヒラとさせ、室内の男性陣2人もそれに

注目し、


「どうかしたんでしゅか、お嬢しゃま」


「また、クルーク豆の相場について何か」


ナヴィとネーブルの問いに、彼女は体ごと

方向をそちらへと向ける。


「い~や~ねぇ~……

 暴落するのはわかってたんだけど……


 例の噂のせいで―――

 もしかしたら暴落じゃ済まないかも」


トーリ財閥は先物取引で、クルーク豆を相場の

2/3の価格で購入すると決めている以上、

状況を確認するために情報を逐一入手して

いるのだが―――

今回の報告について、シンデリンは呆れ果てた

様子で語る。


「……??……

 どういう……事……?」


「暴落はしているけど、それでも各国が一定数を

 輸入していたの。

 でも今回は、それすら止まるかも知れないって事」


妹の問いに、シンデリンは投げるように手にしていた

紙をテーブルの上に置いて、眉間に人差し指を当てる。


「しょれはまた、どうして―――」


「悪い噂が立ち過ぎて、敬遠されているって

 事でしょうか?」


ナヴィとネーブルが不安そうに質問すると、

彼女はコクリとうなずいて、


「ほとんど捨て値同然になっているところへ、

 植物のオバケの話よ?


 それが新農法で作られたから変なオバケが

 出来たんだって、尾ひれまで付いてね。


 わざわざそんな『売れない物』を輸入する

 選択肢って無いでしょ」


彼女の言葉を最後に―――

室内は重苦しい空気に包まれた。




│ ■マービィ国・ファーバ邸      │




「……ずいぶんと嬉しそうだな、ファーバ」


『枠外の者』・ラムキュールは、同類の年下の

若者に問いかける。


ダークブラウンの、乱れた髪型を気にもかけずに

撫でながら、屋敷の主人は鼻歌でも歌い出しそうな

表情で口元を歪め、


「いやぁ、だってねえ♪

 相場の下落が止まらないって言うんですから。

 しかも取引先はあのトーリ財閥♪


 こんな楽な儲けは経験した事がありませんよ」


『新貴族』のマイヤー伯爵が今日は不在だからか、

小躍りしそうに、その嬉しさを隠そうともせず―――

ファーバはいつも以上の軽口で先達に語る。


「結構な事だ。


 しかし、契約形態は先物では無かったか?

 現物は用意してないのだろう?」


「はぁ?

 そりゃそうですよ、期日はまだ先ですし……

 放っておけば下がる一方なのに、急いで準備する

 必要がどこに?」


ギリギリまで見極めて最大の利益を得る、という

事なのだろう。

それを聞いたラムキュールは、彼にくるりと背を

向ける。


「どちらへ?」


「少し気になる事があってな。

 出かけてくる」


言葉少なに部屋を後にすると、ラムキュールは

思考を巡らせながら早足で歩き出した。


「(現状でもクルーク豆は、相場の1/6か

 1/7まで低下していると聞く。


 その程度であればいくら買ってもフトコロは痛まん。


 もしシンデリン・トーリが勝算あってやっている

 事であれば―――

 わずかなリスクで勝ち馬に乗れる。


 ここはひとつ……

 彼女の方に付いてみるか)」




│ ■マービィ国・農業特区  │




「それで―――

 決して見間違いではない、と言うのだな?」


マイヤー伯爵は、奇妙な植物の化け物を見たという

報告を受け、現場である農業特区へ来ていた。


「じ、自分だけではありませんっ」


「こう―――

 葉っぱが口のように開き、茎は腕のごとく……

 根っこが動いて移動しておりました」


警備の兵士たちからの報告を受けて、彼は

戸惑っていた。

ただしそれは、苦悩によるものではない。


計画に支障は無く―――

マービィ国を経済危機に陥れるという目的であれば、

この動きはむしろ順調とも言えるからだ。


彼が困惑していたのは、兵士たちの証言が

一致している、イコール、事実らしいという

その一点にあった。


『魔物の出現』は連合国においても珍しい事態で、

さらにそれが危険性の高い魔物であれば、

各国で協力して事にあたる決まりになっていた。


「(しょせん、作り物か何かだろうが―――

 この経済危機が、魔物由来だと誘導されるのは

 少しマズい。


 だがこんな事をして何になる?

 危機的な状況は避けられないし、化け物になる

 豆だと噂が定着すれば……

 来年以降、どこの国も買ってくれなくなる

 可能性だってある。


 下手をすれば過剰な豊作より深刻な事態だ)」


頭の中で分析する伯爵に、不安そうに兵士が

質問する。


「あのう、これは新農法の影響だという噂も

 ありますが……」


「バカな事を言うな!

 それならば、あの農法の大元おおもとのグレイン国が、

 とっくに化け物だらけになっておるだろう!」


一喝いっかつして否定する彼の言葉に、それもそうかと

兵士たちは安堵のため息をつく。


「(それに―――

 ケガをした者がいるわけでもなし、この状況で

 危険と断定は出来まい。


 そもそも彼女……レイシェンが、無意味に人を

 傷付ける策を取るはずがない。


 本当の狙いはいったい何なのだ……?)」


一人考え込んでいると、召集した兵士たちはまだ

動揺が収まらない様子で―――

それを見た伯爵は、彼らに指示を出す。


「とにかく、警備を厳重にしろ。

 出荷までまだ期日がある。


 もし妙な物を見つけても決して手出しはするな。

 速やかにその場を離れ、仲間を呼べ。

 畑に被害が出なければ戦闘する必要は無い」


無理に戦わなくても良い、というお墨付きが

出た事で、兵士たちの表情がやわらぐ。


そして片手を振って解散を命じ―――

農場に平穏な空気が戻ってきた。




│ ■フィオナ一行宿泊部屋   │




夕食時、トーリ姉妹への奉公おしごとの中で自由時間になった

ナヴィを含めて、レンティルとトニック、ソルトも

集まった面々を前にして―――

アルプは改めて、パックとの取り決めを説明する。


「というわけで……

 これが今回の作戦の全容になります。


 騙すようですが、この方法しか無いと……」


少年の語る作戦に、レイシェンは思わず反発し、

その矛先はフィオナへと向かう。


「し、しかし……!

 それでは、パック殿だけが悪者に……」


女神は苦悩するように目を閉じながら、


「……わかってください。

 人間が仕掛けてきた事を、人間のルールの中で、

 神の力をほとんど使わずに解決する―――

 それには、限られた方法しか使えません」


「わ、我々のためにそこまで……」


レンティルは正座の状態からさらに土下座のように

頭を下げ、感謝の意を伝える。


「(何か悲壮感ひそうかん漂ってなっていましゅけど、

 地球あっちでいうところの『まっちぽんぷ』

 でしゅよね?)」


「(だーかーらー!!

 解決すればいいんですー!!)」


目の前で心の中だけで会話を始めた女神と、

お目付け役を前にして―――

一行はどうしたらいいかわからず見守っていた。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在3266名―――



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