31・せめてサブミッション推奨
(;・∀・)シナリオ上では、季節的には
まだ冬という事実w
天界・フィオナの神殿―――
そこでナヴィ(猫Ver)は、お目付け役として
自分の主人・アルフリーダと、その夫ユニシスに
定期報告をしていた。
「……と、最近はこんな感じです。
地球に関しては、フィオナ様の行動範囲は限られて
おりますので、たいした変化も無く―――」
それを聞いて、夫婦は目の前の猫を交互に撫でながら、
「いつもお疲れ様、ナヴィ」
「ちょっと手のかかる子だけど、気長に見守って
あげてね」
アルフリーダが首元、アゴの下を撫でると、彼は
満足そうにゴロゴロと喉を鳴らす。
「そういえば、地球でも治安のいい国で過ごして
いるとは聞いているが……
いつぞやのように、また変質者が出たりとか
してないか?」
父親としての心配から、娘を気遣い確認をする軍神。
「そういう事はめったにありませんので、
ご安心を。
しかし―――
ユニシス様のご指導の賜物とはいえ、実際に
あれだけ動けるとは思ってもみませんでした。
特に私はベースが猫なので、いつの間に人間型で
あんな動きが出来るようになったのか……」
以前、不審者を人知れず成敗した(5章27話)
事のあるナヴィは、その時を思い出し我が身の
成長を実感する。
「それはそうよ。
あなたは昔、あれだけ戦場で人を……」
「は??」
いきなり主人から飛び出した不穏な発言に、
彼は疑問の声を上げる。
そして妻から目と目で意思疎通を受けた夫は、
慌てた様子で
「ダ、ダメだよママ!
あの時の訓練は彼の記憶から消しているんだ……!
血に染まった忌まわしい過去を思い出させては」
「ご、ごめんなさい。つい」
「ちょっとおぉおおお!?
私に何やらせたんですかあぁあああ!?」
目を丸くし、全身の毛を逆立たせて驚きを表現する
ナヴィ。
そこでアルフリーダは、優しく彼の頭を撫でて
落ち着かせる。
「冗談よ、冗談。
でもさすがね、パパ。
よくあの一瞬で私の意図を汲み取ってくれたわ」
「ハハハ……しかしあれだけ驚くとは。
すまなかったね、ナヴィ」
ナヴィは彼女の膝の上で撫でられながらも、
不機嫌そうにしっぽをくねらせ、
「そういう事を息ピッタリでやらないでください!
何だかんだ言って、本当に似た物夫婦なんですから、
もう……!
それじゃそろそろ、本編スタートしますね」
│ ■マービィ国・農業特区 │
レンティルに案内してもらった農業特区で―――
パックはその畑を前に佇む。
ホラー映画の演出の構図のごとく月光をバックにして、
茎と葉で形成された2本のそれを両腕を広げるように
畑と相対し、声を響かせる。
「同胞タチヨ……
我ガ声ニ応エヨ……!
我ガ主ノタメニ……
力ヲ貸スノダ……!」
すると、60cmほどに実り、生い茂った畑の
あちこちから―――
うごめく影が1つ、また1つと出現し始め、
パックの元へと集まり始めた。
│ ■温泉宿メイスン・大部屋 │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「ん~みゅ~……」
「ほらフィオナ様、もう朝でしゅよ。
―――シンデリンしゃんに例の件、頼みに行くん
でしゅよね?」
翌朝、まだまどろみの中にいる女神に、お目付け役が
揺さぶりながら起こす。
「んんん~……
もっと愛を込めて起こしてもらわないと……」
ここぞとばかりに図々しいお願いを繰り出すフィオナに
ナヴィは、
「ふみゅ、では―――
・愛のこもったぱんち。
・愛のこもったきっく。
どっちがよろしいでしゅかね?」
「イヤン……♪
せめてサブミッション推奨……♪」
そのやり取りを、どんな反応をしていいかわからず
第一眷属の少年と護衛の伯爵令嬢は見つめていた。
「あ、あれ?
そういえばレンティルさんと、あのお2人は?」
視線に気付いた女神はごまかすように、不在の
3人の行方をたずねる。
「トニックさんとソルトさんは、『女神の導き』へ
情報の共有と事情の説明のため、レンティルさんと
一緒に出掛けました」
「確か……『何が起きても動揺しないように』との
伝言でしたが。
しかし、アルプ殿の話では、またひと騒ぎ起きると」
そこで、女神が会話に割って入り―――
「今は信じて待ちましょう。
彼のする事を……」
こうして沈黙が訪れ、それをナヴィが仕切り直す。
「取り合えず朝食にしましょう。
まずは食べてから、でしゅ」
│ ■マービィ国・ファーバ邸 │
「……?」
同じ頃―――
屋敷の主・ファーバは2通の報告書を、何度も
見直していた。
「どうした、ファーバ?
また新たな報告でも?」
ラムキュールが質問を向けると、軽くため息をつき、
「いえね、昨夜農業特区でオバケが出た、と―――
警備に従事していた兵士たちが噂しているそうで」
「神様じゃなく、オバケ……ね」
思うところがあるのか、ラムキュールは独り言のように
つぶやく。
そして『枠外の者』2人の視線は、『新貴族』の方へと
移り―――
「不安になれば、そのテの噂は沸きだすものだ。
特に未開の弱小国ともなればな。
例の『連合共同金融安定局』に対する後押しにも
なるだろう」
「あれぇ? まーだ決まってなかったんですかね」
軽く、しかし意外そうに聞き返すファーバに、
隣りの男が答える。
「何せミイト国のトーリ財閥が買い支えているからな。
今年だけなら維持出来るだろうが……
今回の噂でとどめを刺す事になるかも知れん」
「そういう事だ……な。
近いうちに王家から連絡が来るだろう。
では、私はこれで失礼するよ」
マイヤー伯爵の言葉は、マービィ国に来た真の目的が
新農法の視察などではない事を裏付けていた。
『新貴族』を見送った『枠外の者』2名は、
互いに顔を見合わせる。
「……で、どうしますかねラムキュールさん。
まだまだ儲けられそうなチャンスはありますよ?
この噂で―――
下手をすれば、クルーク豆の相場は1/10
くらいまで落ちるかも♪」
その言葉に、彼は首を左右に振って、
「遠慮しておくよ。
今さら介入したところで、得られる利益は
微々たるものだろう」
「それは残念」
不適に笑うファーバに、ラムキュールはあくまでも
無表情を崩さず―――
そこでどちらからともなく、会話は切り上げられた。
そして、ファーバ邸を後にしたマイヤー伯爵は、
歩きながら一人、思考を巡らせていた。
「(レイシェン……
これが君の言っていた『奇跡』か?
失望させるな、とまでは言わないが―――
せめてもう少し想定外の事をしてみたまえ。
元婚約者として、期待しているよ)」
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「……クルーク豆を融通して欲しい?
まあ、約束通り買い込んでいるから腐るほど
ありますけど……」
朝食後になって―――
奉仕の仕事に上がるナヴィを含め、フィオナ・
アルプ・レイシェンの4人組が、シンデリンの部屋を
訪れていた。
そしていくらかのクルーク豆が欲しい、と彼女に
要望を伝えると、意図が読めない、というように
不思議そうな表情になった。
「……この国の、取引先の……
商人のところまで行けば……ある……」
「まさか全部ってわけじゃありませんよね?
どれくらい必要なんですか?」
ベルティーユとネーブルが受け答え、その方法を
伝えて目的を問う。
「それほどは必要ありません。
片手で持てるくらいのザル1つ分くらいの量で、
僕とフィオナ様、ナヴィ様、シッカ様……
あと数人分ほど」
シンデリンは人差し指を唇にあて、んー、とつぶやく
ように一声発すると、
「それなら後で手紙を書いてあげるから、
それを持ってトーリ財閥の取引先まで
行きなさい。
何をするつもりかわからないけど―――
これでも期待はしているんだからね?」
目はそのままで、口元だけニヤリと笑顔を作ると、
申し入れに対する同意と許可を伝えてきた。
そして奉公人としてナヴィを残すと―――
3人は下の宿泊部屋へと戻っていった。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「ん?」
「あれっ!?」
「確か……ガルバン殿?」
部屋に戻った一行を待っていたのは、帰ってきた3人に
加え―――
フラールで会った『女神の導き』・リーダー、
ガルバンが室内にいた。
彼は深々と頭を下げて一礼し、
「お久しぶりでございます。
フィオナ様、アルプ様、シッカ伯爵様……
マービィ国の一件を聞いて参じました。
その、我が組織もお恥ずかしながら、動揺が
広まっているようですので」
続けて、トニックとソルトが現状を報告する。
「まあ無理もねーけどな」
「『女神の導き』だけじゃなく、この国全体が
不安と不満でいっぱいになってるぜ」
実際に調べ、肌で感じ取った情報であろう事を
彼らは語り―――
レンティルがそれに続く。
「……ナヴィ様がその身を犠牲にしてトーリ財閥と
取引している事、バーレンシア侯爵様が私財を
投げ打って救済準備をしている事は私の口から
説明しました。
ですが、先の見えない不安というものは、
我々のような庶民に取っては恐怖ですら
あるのです」
重苦しい空気が室内に充満しつつある中で、
第一眷属の少年が、振り絞るように口を開いた。
「……僕の時もそうでした。
フラールでも、ルコルアでも―――
誰もが、もうダメだ、打つ手が無いと絶望していた
事でしょう。
でも、結果として両国は助かり、『枠外の者』の
思い通りにはなりませんでした。
まだ終わりではありません。
さらにこれから、もう一波乱あります。
どうか最後の最後まで諦めず―――
フィオナ様を信じてください」
アルプの次に、レイシェンも後押しするように
語り出す。
「アルプ殿の言う通りだ。
わたくしはミイト国の者だが―――
かつて、報われない忠誠に疲れ果てていた。
だがそれも、バーレンシア侯爵様が覆してくれた。
そのお膳立てをしてくれたのは女神様とその身内で
あると聞いている。
そちらはそちらで手を尽くし、耐えて欲しい」
2人の説明が終わった後、その希望の中心、
フィオナに全員の視線が集中する。
そして女神は―――
「とにかく……今は待っていてください、
としか言えません。
神の身で人間界に介入するのは―――
他の神々に良く思われない行為なのです。
ですが、アタシは決して信者を見捨てる事は
ありません」
そこへ、神託を通して彼からツッコミが入る。
(どうしたんですかフィオナ様。
ちゃんと対応出来ているじゃないですか。
どこかに頭をぶつけたんですか?
それとも、何か悪い物を食べたとか……)
「(ココじゃ基本、みんなと一緒に行動している
でしょーが!!
てゆーか、アンタと一緒の食生活だと思うん
ですけれども!?)」
神託を通して口論が勃発し、それを心配してアルプが
問いかける。
「あ、あの、フィオナ様?」
「ご、ごめんなさい。
という事ですので、どうか今しばらくお待ちを……」
申し訳なさそうにするフィオナに対し、
ガルパンは深々と頭を下げ、
「滅相もございません。
フィオナ様がご尽力くださっている事―――
確かにこの身に伝わりました。
『女神の導き』の動揺は何とか抑えます。
また、それを通じて他の者たちへも落ち着くよう
呼びかけましょう。
どうか、この国をお救いください」
こうして、ガルパンとの相談と、『女神の導き』の
方針が決まり、話し合いは区切りを迎えた。
│ ■マービィ国・農業特区 │
その夜―――
新農法を行っている施設で、動きがあった。
見張りの兵士が、何気ない噂話に興じていると……
「なあ、知っているか?
あの化け物の噂―――
この農場にさ……」
「クルーク豆が化けて出ているってヤツか?
変な農法で栽培したからって……
くだらねぇよ。見間違いか何かじゃねぇのか?
俺たちだって、ずーっとここで警備しているのに
一度も見た事ねーぞ」
「ソウイエバ我モソウダナ。
オ主トハ初見ダ」
どちらからともなく、笑い、そして違和感に気付く。
「……今、お前しゃべったか?」
「いや、ここには俺とお前しか……」
恐る恐る2人が背後を振り返ると、そこには―――
「ドウシタノダ?」
「オ望ミ通リ出テキテヤッタゾ?」
「我々ヲ生ミ出シタノハココノ畑デアロウ?」
複数の異形の植物が、彼らの目の前に姿を現し、
「ででで、出たあぁああ!!」
「ぎゃあぁああああ!!」
そして、農業特区はパニックに陥った。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3256名―――