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29・もうこの子ったらちょっと目を離すと

(;・∀・)ユニーク数、もう

『私には常識しか通用しません』に

抜かされそう。



日本・とある都心のマンションの一室―――


手元をのぞき込みながら、真剣な眼差しでスマホ端末を

操作する少女が一人。

それを同居している猫が見つめていた。


「……いつになく緊張しておりますが、フィオナ様。

 そのような気の抜けない何かがあるのですか?」


女神は、視線は小さな画面に向けたまま応答する。


「全身全霊でいくわよ。

 アタシの好きな推しキャラの新衣装カードが

 手に入るこの新イベント……!」


またくだらない事を―――

とは口に出さず、ナヴィはフゥ、と軽くため息をつく。


「……?」


そこへ何かの気配を感じ、彼はピンと耳を立てた。


『貴女も新イベント入ったわね、フィオナちゃん……

 属性、補助アイテム、周回の準備は出来てる……?』


フィオナの母であり、ナヴィの直属の主人である

アルフリーダの声が室内に響く。


「マ、ママ!

 そんな悠長なこと言ってないで、早くスタート

 しないと。

 期間限定イベントはスピードが命なんだから!」


『甘いわね、フィオナちゃん……

 戦場では焦った者から死んでいく……

 この鉄則を忘れてはいけないわ……』


「ゲームの話ですよねコレ?

 そんな物騒なものじゃありませんよね?」


お目付け役のツッコミにも動じず、母娘は

新規のイベントへ没頭する。

しかし、そこでフィオナの方に動きがあった。


「え? いきなりアップデート?

 一体何が……ム!?


 ……っはぁああああ!?

 いきなりルールの変更って? え? ちょ、

 何コレええぇえええ!!」


『どうやら、クリアが簡単過ぎると見た運営が、

 バランスを修正したようね……!』


そのやり取りを、へー、という感じでナヴィは

ただスルーしていく。

フィオナの絶叫はなおも続き―――


「いやいやいや! あり得ねーでしょ!!

 まだイベント初日なんですよ!?」


『落ち着いてフィオナちゃん!

 実戦では突発的な事態などあって当然……

 臨機応変に対処するのよ!』


「だからゲームの話ですよねコレ?」


もはやナヴィのツッコミなど無いかのごとく、

母娘はギャーギャーとゲームでヒートアップ

し始め―――

彼はそれ以上の介入を諦めた。


「はあ……

 それではそろそろ、本編スタートしましょう」




│ ■温泉宿メイスン      │

│ ■フィオナ一行宿泊部屋   │




「…………」


「あー、えーとでしゅね……」


翌日の昼―――

情報収集から帰ってきたトニックとソルト、

そしてレンティルから報告を受けた女神は

口から魂が半分ほど出かけており……

それをどうしたものかとつついている

お目付け役がいた。


見かねた第一眷属の少年が場を仕切り直すため、

改めて情報屋の2名に確認する。


「でも、そんなに噂が広がっているんですか?

 昨日の今日ですよ?」


「それはこっちも驚いているんだが……」


「事実は事実だし……なあ?」


困惑しながらも、アルプに追認を告げる。

そして『女神の導き』の一員も続き―――


「なにぶんにも小さな国ですので、あっという間に

 広まったとも考えられるのですが」


それまで無言を貫いていた伯爵令嬢が、

不意に口を開く。


「クルーク豆の暴落に向けて―――

 希望がほとんど無い状態……


 元々ネガティブなところに、パック殿の噂が

 伝わって……

 それで一気に形を得て具現化した、

 というところでしょうか」


全員が視線を落とす中、介抱しているフィオナから

ナヴィが顔を上げ、


「しょれで、肝心の相場はどうなってましゅか?」


その質問に、トニックとソルトの表情は険しくなり、


「俺たちが調べた時点で、1/4―――」


「今日中に1/5まで下がるかもって話だ」


ため息をつく事すらためらわれるのか、誰も反応せず、

ただ重苦しい空気が室内を支配する。


「ほ、他に何か情報は?

 どんなふうに噂が伝わっているのか、とか」


何とか希望を見出そうとするアルプの問いに、

レンティルが片手を上げて、


「幸か不幸か、と言っていいかもわかりませんが……


 『あんな化け物が出たのは、クルーク豆を

 変な農法で栽培したからだ』

 と話す者も出てきているようです」


彼の返答の後に、ナヴィはフィオナを正座させて、


「変な方法で成長させた女神ならここに

 いるんでしゅが」


「もうこの子ったらちょっと目を離すと、

 すーぐ火の玉ストレート投げてくるんだから♪」


2人のやり取りにどう対応したらいいかわからず、

遠巻きに周辺は様子を伺うが―――


「フム……


 変ナ農法……ト言ワレタカ。

 ソウイエバ、ソレハ農業特区デ行ワレテイルト

 聞イタガ」


突然の植物の言に、全員の視線がそちらへ向く。


「な、何かお考えがあるのですか?」


レイシェンの質問に、クチバシのような葉の集合体を

天井へと向け、


「イヤ―――

 噂ニ便乗シヨウ、ト思ッテナ……」


その言葉の意図がわからず―――

一同は顔を見合わせた。




│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』  │

│ ■シンデリン一行宿泊部屋         │




「ただ今戻りましたでしゅ」


「……お帰りなさい……」


本来、ナヴィは奉公労働者としての拘束時間内で

あったが、まだ本契約では無い事と、同じ宿屋内

という事で―――

ある程度の自由は許可されていた。


室内に入った彼をシーツにくるまったままの

ベルティーユが出迎えるが、他にいるはずの

人間の姿を求めて、ナヴィは周囲を見回す。


「みゅ? シンデリンしゃまとネーブルしゃんは

 どちらへ」


「……お風呂……」


オバケの噂に怖がって室内から出るのを拒否して

いるので、大浴場ではないだろう。

となると必然的に内風呂、という事になるのだが……


「お2人で、でしゅか?」


そこで、渦中の人物の声が聞こえてきた。


「ナヴィさん、私は脱衣所にいます」


何でそんな事を? と聞き返そうとすると、

もう一方の渦中の女性の声が―――


「ネーブル!? ちゃんとそこにいてよ!

 今髪洗っているんだから……」


状況がわかったナヴィは目の前の妹に視線を戻し、


「付き添い、でしゅか」


少女は静かにコクリとうなづき、


「……次……私……

 ナヴィさん……付き添い……」


ベルティーユは身にまとっているシーツから

手を伸ばすと、ナヴィの片腕にしがみついた。




1時間ほどして姉妹の入浴は終了し―――

改めてナヴィと情報共有を行う。


「暴落の話ならこちらにも入ってたけど……

 あのオバケの噂、妙なところに飛び火していたのね」


早朝には暴落の情報を掴んでいたシンデリンだが、

さすがに噂までは知らず、呆れるのと驚くのと、その

中間のような表情になる。


「生活が苦しくなるのは確実でしょうから、

 何かのせいにしたい気持ちもわかりますが」


「……それが余計に……暴落を招いている……」


ネーブルの感想にくっつけるようにして、

ベルティーユが皮肉な現状を正確に語る。


「シンデリンお嬢しゃまの立場としては―――

 どうでしゅか?」


不意に話を振られた彼女は、ビジネスモードになり、


「元から、例年の相場の2/3で買い取るって

 話だから、それ以上の損害は出ようも無いし

 変わらないわ。


 通常であれば少しでも損害分は取り戻したい

 ところだけど、今回は担保があるし……ね」


くるくると自分の長髪を指に巻き付けながら、

事も無さげに答え、今度はシンデリンの方から

質問が飛ぶ。


「それで、そちらはどうなの?

 まだ対抗策とか無いの?」


ナヴィは少し目を閉じたあと、んー、と口を

一文字に結んで、


「何かしようとはしているのでしゅが……

 しょの意図がちょっと見えないでしゅ。


 まあ、本日の神託れんらくで『する事』の共有は、

 しようと思っているのでしゅが。

 もしかしたら、フラールやバクシアから、何らかの

 策が出るかも知れましぇんし」


「…………」


頬に人差し指を当てて、何事か考え込むシンデリン。

そんな姉に、ベルティーユは疑問を抱く。


「……シンデリンお姉さま……

 何をお考えに……?」


「ん、いや話変わるんですけど―――

 何か、他国にいる人とフツーに話し合って

 いるような内容ですねー、とか」


ナヴィはきょとんとした顔で、


「実際に直接、フラール・バクシアと

 話しているんでしゅよ。


 フィオナ様が認めた眷属がいなければ

 なりましぇんが―――

 ミイト国でもした事ありましゅし。


 確かその時、3人ともいましゅたよね?」


レイシェン子爵(当時)とギュウルフ男爵の

税金対策のためにミイト国でも神託を使った

事があるのだが(4章33話)―――


「まさかあの時、本当に―――

 他国と交渉を?」


「私とベルちゃんは国家間の商法の差と、

 その違いについて書類審査してたから……」


「……ん……

 ……あまり……見てなかった……」


どうやら3人とも、他国とリアルタイムで連絡を

取り合っているという事を、理解していなかった

らしい。


「……じゃあ、提案なんだけど―――

 その神託とやらを、この部屋で見せてもらう事は

 出来るかしら?」


シンデリンの提案に、ナヴィはコクリとうなづき、


「こちらは別に構いましぇんが……

 いいんでしゅか?」


奉公労働者あなたの契約が絡んでいる当事者でもあるしね。


 それにここ、宿屋の中では最高級の部屋なの。

 精一杯おもてなしさせて頂くわ」


こうして、今日の神託はシンデリン一行の部屋で

行われる運びとなったのだが……




―――夕刻。


神託の時間となり、フィオナ一行はシンデリンたちが

泊まる部屋へ、続々と上がり始めた。


「うわー、大きな部屋ですね。

 10人くらい泊まれるんじゃないですか?」


「こんな部屋、僕、見た事も無いです……」


その余りの違いに、女神と第一眷属の少年は

感嘆の声を上げる。


「フィオナさんとアルプ君とシッカ様、

 それに『女神の導き』、レンティルさんと……

 そちらの2人は情報屋さん? だったかしら」


初対面のはずのシンデリンに次々と名前や立場を

言い当てられ、彼らは困惑する。


「どうして、我々の事を―――」


「俺やソルトは、ラムキュールに絡んでいたから

 知られていると予想はしていたけどよ」


すると従者が一歩前に出て、


「トーリ財閥の調査能力を甘く見ないで頂きたい。

 身元不明の者など、お嬢様のいる部屋に上がらせ

 ません」


ネーブルが答えると、改めて財力、力の差を

思い知らされ、3人は押し黙る。


「あ、しょういえばもう一人……

 一匹? 一本?」


「そ、そういえば彼がいました。

 ええと、彼女たちに紹介してもいいのでしょうか」


ナヴィとレイシェンが『新たな仲間』の存在に

気付き、どうしたらいいものかと戸惑う。


「え? もう一人?」


「……どこ……?」


姉妹が周囲を見渡してもどこにもおらず―――

すると、足元から声がした。


「……オ初ニオ目ニカカル。

 我ハパックト申ス者……


 女神・ふぃおな様ニコノ姿ヲ与エラレ、

 あるぷ様ヲ主トシテ仕エテイル。


 以後、オ見知リオキヲ」


しばらくその異形の植物を姉妹は凝視していたが、

やがてふっと糸が切れたように、その場に倒れ込み、

神託の予定時間は大幅に遅れる事になった。




カシャ☆


―――女神フィオナ信者数:現在3244名―――




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