28・お、オバ、オバケ相手にはねぇ
(;・∀・)以前と比べて、ユニーク数が週
+150~200増加しています。
『私には常識しか通用しません』のついでで
見に来てくれる人が増えているなー。
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主である少女が、イスに座って目の前の
PCを介して何やら相談していた。
「てなわけでですね……
何かお知恵を拝借頂ければと思いまして」
【 だってなあ……最近全然出番ねーし 】
【 前回だって(5章25話)、結果発表だけで
終わっちまったし 】
【 タイトルに入っているのに、俺らの扱い
最近雑じゃね? 】
ネットを通じて女神はアンカーたちと話し合うも、
不満と消極的な態度を示される。
「し、仕方ないじゃありませんか!
そもそもあちらの世界では、あなた達の存在って
説明出来るものじゃないですし」
【 まぁ確かに、表立って動く事は出来んわな 】
【 最近じゃ眷属増えたせいか、出来る事や
選択肢も増えてきてるしなあ 】
そこへ、お目付け役でもある同居人(猫Ver)が
話しかけてくる。
「何をしてらっしゃるんですかフィオナ様。
あー、何かご相談を?」
彼の言葉に凍り付いたように固まる女神。
そんな彼女をスルーして、ナヴィはPCの画面に
見入る。そこには―――
「ふむふむ……
『今度入るお金で買えるナヴィのコスプレ衣装』?
あー、給付金の事ですか。
それでえーと、チャイナドレス、ナース服、巫女、
侍、男子小学生体操服、魔法少女( 男の娘 )
……と。なるほど、いろいろあるものですね」
「あれ? え? お、怒らないの?」
フィオナは疑問に思いつつも安堵するが、予想していた
反応が返ってこなかった事で、疑問を口にする。
「んー、何と言いますか。
ほ と ん ど 経 験 あ る か ら。
アルフリーダ様の手によって」
ナヴィの答えをフィオナはゴクリ、と言葉と
共に飲み込み―――
「さ、さすがママ……!
これは負けていられないわね!」
「(ちなみに父親も私と同じくほとんど経験済み
なのですが、それは軍神の名誉のため黙って
おきましょう)」
「?? ナヴィ、何か言った?」
「いえ、別に。
変な事で対抗心燃やされても困るなー、と。
それではそろそろ、本編スタートしましょう」
│ ■温泉宿メイスン │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「う~ん……」
「ご、ごめんなさいっ。
姿を見られずに連れ戻そうとしたのですが」
フィオナ一行は頭を抱えていた。
異形の植物・パックを回収し、これで何事もなく
終わったと安心したのも束の間―――
翌日の昼には、『妙な生き物を見た』と宿屋の中で
噂になっていたからである。
「フム……
シカシ、コノ姿ハカヨウニ珍シイモノデ
アロウカ?
葉モ茎モ根モ、普通ノ植物ト変ワッタ部分ハ
無イト思ウノダガ」
「普通の植物は自力移動しませんし、
しゃべりませんから……」
パックの疑問に、レイシェンが正論で応える。
「はぁ……参りましたね。
ただでさえ値下がっているクルーク豆の相場に、
影響が出なければいいのですが」
『女神の導き』・レンティルの言葉に、アルプが
振り向く。
「え、影響と言いますと?」
「ただでさえ好転しそうに無い状況の中、
この―――
いえ、パックさんの噂です。
見る人が見れば、クルーク豆の葉や茎で
構成されているお姿とわかりますから」
そばに控えていた情報屋2人もうなづく。
「まあ、確かにな……」
「少なくとも、良い方の噂にはならんわなあ。
その辺も調べてくるか?」
女神が彼らの方へ視線を移動させ、ぺこりと
頭を下げる。
「お願いします。
そーいえばナヴィは?
もう夕方になるのに、まだシンデリンさんの
ところ?」
ナヴィは現在、奉公労働者としてトーリ家姉妹の元へ
出向いており―――
基本的には朝食後から夕方まで・そして入浴後から
就寝までの間は彼女たちの部屋、それ以外は
フィオナの部屋へ戻るような生活になっていた。
「あ、じゃあ僕が呼んできましょうか?」
「うん。彼と情報共有しなければならないし、
意見も聞いてみたいから……」
そしてしばらくのやり取りの後―――
アルプはナヴィを呼びに、
レンティルは『女神の導き』と情報共有、
トニックとソルトは情報を得るために部屋を後にした。
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「……で、そちらの方はこれといった動きはナシ、と」
「そうでしゅねえ、昨夜の定期連絡でも、
進展らしい話は無かったでしゅし」
ネーブルとナヴィ、2人の少年がイスに座りながら、
テーブルの上のお茶を飲み交わす。
そして2人の主人である姉妹へ視線を移し―――
「……いい加減、ベッドから降りて来ては
いかがですか? お嬢様」
呆れるようなネーブルの声の先で、彼女たちは
ベッドの上で―――
まるでハロウィンの定番のオバケのごとく、シーツに
くるまっていた。
「だだだだってねえ。
確かに貴方は強いけどぉ~、物理限定じゃない。
お、オバ、オバケ相手にはねぇ」
「……正体がわかるまで……
この部屋から出るのは……断固拒否……
……内風呂とトイレのある部屋で良かった……」
奇妙な植物のオバケの噂は、宿屋の中全体に
広がっており―――
それが姉妹の行動を制限していた。
「(……で、そのパックさん? という植物が
噂の原因なんでしたっけ?)」
「(多分おそらく絶対にそうだと思いましゅ。
害は無いと思うんでしゅけれど)」
2人はヒソヒソと情報を交換し、今後の方針を
話し合う。
「(私としては、このままでいてくれた方が、
護衛としても楽と言いますか)」
「(しょうでしゅね。
動いてもらわない方がこちらとしても
やりやすいかと。
では、現状維持でお願いしましゅ)」
企みとも密約ともいえない内容で彼らは結託し、
維持という名の放置を決め込んだ。
│ ■マービィ国・ファーバ邸 │
「…………」
屋敷の主はとある手紙を見て、苦笑とも困惑とも
取れない表情を浮かべていた。
「どうしたのだ、ファーバ。
そんなに妙な内容なのか?」
同室にいたマイヤー伯爵は、表情を変えずに
問い質す。
「宿屋『メイスン』にいるビンスからの
報告なんですけどねえ。
何でも、植物のオバケが出たと―――」
ひらひらと紙を振るファーバに、もう一人の
『枠外の者』が、意味を理解するために説明を
求める。
「オバケ?
そういう噂があの宿屋にあったのか?」
「いえ―――
『この目で見た』『しゃべっているのも聞いた』
そう報告してきています。
しかも、当初は見間違いかと思ったが、確認が
取れたので、との念の押しようで」
どう取らえていいのかわからず、ううむ、と
うなるラムキュールとは対照的に―――
ファーバは軽い微笑すら浮かべていた。
そんな彼らを見て、白髪交じりの男が再び問う。
「それで、どうするのだ?」
ファーバは額を人差し指で少しかいて、
「どうもしませんよ。
オバケは、『枠外の者』の管轄でも―――
対処出来るものでもありませんのでねぇ」
彼から視線と言葉を返されると、伯爵は、
「『新貴族』の手にも負えないが、な。
まあ―――
国への土産話にはなるだろう」
そして、これ以上話す事は無い、というように、
沈黙が訪れた。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
その夜―――
定期の神託が行われた後、女神とナヴィ、アルプ、
レイシェンの4人は一息ついていた。
パックの件については、どこまで噂が広がっているか
調べて欲しいとの事で―――
トニックとソルトが調査中、またレンティルも一緒に
要所を回って情報を収集しており、神託では特に
目立った話も無く終わったからである。
「もー、クルーク豆の相場を回復させる策を
考えなきゃならないのに……
余計な手間が増えちゃって」
「その元凶は貴女でしゅが、
理解しておられましゅかね?」
女神のグチに、ナヴィはすかさず火の玉ストレートを
投げ込む。
「ナ、ナヴィ様。
その事につきましては、僕にも責任が……」
パックを連れて来る際、従業員に見つかってしまった
罪悪感からか、アルプが擁護を兼ねて口を挟む。
「いやいや。このダ女神がクルーク豆を
いじくらなければ、こんな事になって
いないでしゅ」
ヘッドロックを女神に極めるお目付け役を見ながら、
第一眷属も伯爵令嬢も反応に困っていた。
「そ、それはそうとナヴィ様。
そんなに目撃者がいたのですか?」
「しゃて―――
今のところ、アルプ君が見られたという
従業員だけじゃないでしゅかね?」
「ウム。彼以外ニ我ノ姿ハ見ラレテオラヌハズダ」
当の植物も加わり、現状をみんなで確認する。
「とにかく今は、トニックさん達が情報を
持ち帰るのを待ちましょう」
アルプの一言で、いったん話は切り上げられ―――
翌日を迎える事になった。
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「……!」
ネーブルは扉の外の気配を察して目が覚めた。
しかし、すぐには動けず、まず敵意の有無を確認する。
間もなくノックの音が聞こえ、それに対してベッドの
中から声をかける。
「……何のご用でしょうか」
「あ、トーリ家宛てに書類が―――」
彼は少々お待ちください、と言いながら、両腕に
しがみついたまま寝ている姉妹を引き離す。
ちなみに左腕にベルティーユ、右腕にシンデリンが
抱きついていた。
ネーブルが手紙を受け取って戻ると―――
彼がベッドから抜けた事で目を覚ましたのか、
姉妹が目をこすりながら出迎える。
「ん~……?
何だったの?」
「わかりません。
トーリ財閥からでは無いようですが」
寝ぼけまなこでネーブルから書面を受け取ると、
シンデリンは封を見て納得した声を上げる。
「ああ、これアレよ。
この国のトーリ財閥の取引先の商家に、
クルーク豆の相場の報告をお願いしていたの」
そう言いながら中身を取り出し、内容に目を通す。
「でも、午前中と午後だけでいいって言ってたのに、
こんな朝早くから?
どれどれ、えーと
……? 何コレ?」
彼女の疑問の声に、妹もベッドから起きてきて
従者と一緒に文面をのぞき込んだ。
│ ■マービィ国・ファーバ邸 │
同時刻・早朝―――
枠外の者2人が、拠点にしている屋敷で
腕組みをしながら悩んでいた。
「……その報告は本当なのか、ファーバ?」
「ええ。少なくともこの国の商売に関しては、
我がファーバ家の下に―――
いち早く情報が集まりますから」
その返答にラムキュールはいったん目を閉じ、
「クルーク豆の相場がいきなり例年の1/4に
下がっただと……
何が起きているのだ?」
「どうもあのオバケの噂が後押ししている
みたいですねぇ。
ま、こちらとしては下がる分にはどうでも
いいんですけど」
ラムキュールはその言葉に対して目を閉じたまま
頭を不機嫌そうにかき―――
ファーバは持っていたカップに口を付けた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3240名―――