27・お願いだからしゃべらないで
(;・ω・)新しく始めた『私には常識しか通用しません』
って『■異世界と女神とアンカーと』の倍くらいの
量なんですよこのままいくと週の作業量が3倍になr
日本・とある都心のマンションの一室―――
家主である少女が、ペットらしき猫に向かって
TVを見ながら話し掛ける。
「ん? 何なに、変質者が捕まったんだってー。
ヤダこのへんじゃない」
「あ、私が片付けておいたヤツですかね、多分」
ニュースでは、気絶していたところを巡回中の
警官が見つけ―――
保護して事情を聞いた後に発覚して逮捕、
という流れになっていた。
「貴方の仕業だったの、コレ。
フラールでトニックさんとソルトさんを捕まえた
事があるから(2章13話)、それなりに戦闘力が
高い事はわかっているんですが……
やっぱり軍神が鍛えてくれたから?」
「そうですね。
さすがに『戦と争いの裁きを行う神』―――
戦闘についてはエキスパートですし」
フィオナはその答えに、ちょっと首を傾げ、
「でもアタシの前だと、チョロ……娘に激甘な優しい
パパなんですけどねー。
何かちょっと想像つかないなあ」
「父親が実の娘に対してチョロイのは、ある意味
仕方のない事かと」
「ウンわざわざ言い直してくれてありがとう。
でもでも、じゃあナヴィは?
同性から見てパパはどう見えるの?」
彼女の言葉に、ナヴィは少し前の天界での出来事を
思い出していた。
―――ナヴィ回想中―――
■回想その1
│ ■天界・フィオナの神殿 │
「……何をしてらっしゃるんですか?
ユニシス様」
神殿の門の前でうろうろしている彼に、ナヴィは
後ろから声をかける。
「い、いや……ちょっと……
この前の仕事が長引いちゃって……
ママとのデートの約束が遅れちゃった?
みたいな」
「お仕事ならアルフリーダ様も怒りは
しないでしょう。
家の前で不審者全開でいる方が怒られますよ。
ハイ入りましょう」
「ま、待って! 待ってくれ!
まだ心の準備というものがああぁあああ」
■回想その2
「ユニシス様、書類忘れたでしょう。
届けに来まし……ん?」
大神殿に忘れ物を届けに来たナヴィは、
壁に身を寄せてへばりついているユニシスを見て
疑問の声を上げる。
「何しているんですかユニシス様?
今回のお仕事は潜入訓練とかですか?」
「いやその……
新人の女神が入ってきたんだが、妙に懐かれて
しまって。
それで彼女から身を隠しているんだ。
ホラ、仕事でもあまり他の、それも若いコと
仲良くするとママが来て大変な事になるから」
―――ナヴィ回想終了―――
「まあ、家庭内とお仕事モードでは違うのは
よくある事ですよ。
そとではかっこいいしおところらしいと
おもいますよ? わたしからみても」
ナヴィの視線は彼女ではなく斜め上を見るように
泳ぎ―――
おかしな口調も相まってフィオナは疑問を呈する。
「何で後半8ビット的な棒読みなの?」
「そうですか? きのせいではないでしょうか。
それではそろそろ、ほんぺんすたーとしましょう」
│ ■温泉宿メイスン │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
定時の神託が終わって一夜明け―――
フィオナが泊っている部屋には、アルプとレイシェンが
一緒に残っていた。
情報屋のトニックとソルトは、『女神の導き』の一員、
レンティルと一緒に相場の情報収集、そしてナヴィは
シンデリンのところへ『前払い』の奉公労働者として
出向いていたためである。
「む~ん……
何か策を考えないといけないんですが……
クルーク豆の暴落を止める方法は~……」
頭をフル回転させるも、なかなか解決策やアイデアは
まとまらず―――
女神は悩みに悩み続ける。
「あれ?
……そうえばパック殿は」
レイシェンは周囲を見回し、改めて新メンバーと
なった異形の者を探す。
「え!? いない!?
ちょっと待ってよ、ただでさえこんな時に
あんなのに目立たれてしまった日にゃ……!」
慌ててイスから立ち上がり、部屋から出ようと
する女神を、第一眷属の少年が呼び止め、
「た、多分中庭にでもいるんじゃないでしょうか。
僕が探してきます」
そうして彼が出ていった後は、同性2名が部屋に
残され―――
焦りの色が濃いフィオナと、それとは対照的に
レイシェンは冷静さを保っていた。
「フィオナ様、そう心配なさる事はないかと。
彼もそう、うかつな行動を取る事はないでしょう」
「そ、そうかしら?
ていうか、ずいぶんとアレを信頼している
みたいだけど」
昨晩のやり取りを知らない女神は、レイシェンの
態度に少し驚く。
「い、いえ。
フィオナ様のお力で変化なさったものなの
ですから、別に悪事を働く事は無いと推測
いたします」
「まあしょせんは植物だし何が出来るとも
思えませんけど、とにかく外見がアレだから……
見られたら絶対騒ぎになるから、大人しくして
もらわないと」
「まあその……
確かに、あのお姿は万人に人気が出る類のものでは
ないと思われますが……」
とりとめのない会話をしつつ―――
彼女たちはアルプとパックの帰還を待った。
│ ■マービィ国・ファーバ邸 │
同じ頃―――
いつも通り、温泉宿メイスンにいる協力者からの
報告メモを受け取った『枠外の者』は、その内容に
頭を悩ませていた。
「どうかしたのかね、ファーバ君」
そこへ、拠点を同じくしているもう一人の
『枠外の者』が問いかける。
「んん~……
宿屋『メイスン』にいるこちらの手の者―――
ビンスからの報告を見ていたんですが」
ダークブラウンの短髪をかきながら、面倒くさそうに
彼はラムキュールと対峙する。
「いや……
例のシッカ伯爵令嬢の行動を報告して
来たんですけどねえ……
中庭で何者かと語っていたと―――」
「彼女にも子飼いの間諜が?
しかし、いたとしても不思議ではないが、
そのようなものを使う性格でも無かったような」
それなりに付き合いの長いラムキュールは、その情報を
消極的に分析する。
「俺もそーは思うんですけど~……
何かこう、今回はいつもの報告と比べて歯切れが
悪いっていうかですねえ。
ま、もうちょい精度を上げるよう命じて
おきましょう」
何か引っかかる物を残して、『枠外の者』2人は
会話を切り上げた。
│ ■温泉宿メイスン・2階廊下 │
「(う~ん……ファーバ様への報告へは一応
ああ書いたけど―――
もしかすると見間違いかも知れないし……
うむうう~……)」
フィオナ一行の宿泊部屋と同じ階を、宿屋メイスンの
若い従業員の男性が、悩みながら歩いていた。
彼はファーバの息が掛かった手の者で、宿に滞在・
宿泊している客の監視を引き受けており―――
この宿での行動は彼を通して筒抜けになっている。
「(でもなあ……
あの伯爵令嬢―――
独り言を言っているような感じでもなかったし。
でも、でも……
あの話し相手は……
植物の化け物としか……)」
彼はブンブン、と首を左右に振り、
「(この宿屋の宿泊客や出来事を報告するだけで、
たんまり金がもらえるんだ。
変な事を言って信用を失うわけにはいかない。
よく考えるんだ。
あんな生き物、いるわけないだろう。
この事は忘れて―――)」
ドン! といきなり衝撃を受け、彼は我に返る。
見ると、監視対象である少年が倒れていた。
「も、申し訳ございませんお客様!
大丈夫ですか?」
「いっいえ。ごめんなさい!
僕も急いでいたものですから」
何も問題はない、というアピールを兼ねてアルプは
すぐに立ち上がる。
それに合わせて彼もペコペコと頭を下げるが、
「コチラモ不注意デアッタ、スマヌ。
主ヨ、気ヲツケルノダ。
急グノハワカルガ、焦ッテ怪我ヲスレバ
元モ子モナイゾ」
その声はすでに立ち上がった少年からではなく、
なぜか足元あたりから聞こえ―――
「……えっ?」
彼が“それ”に気付くと、アルプは慌てて抱え上げ、
「しっ、失礼します!!」
「我ガ主、ダカラ走ッテハ危ナイト―――」
「お願いだからしゃべらないでくださいぃいい!!」
絶叫するようにして走り去る少年を、
ビンスはただ呆気に取られ見送った。
脳が見た現実と状況を把握・分析するのに
数秒かかり、それを完全に理解した時―――
「(ほ、本当にいた!
この目で見た!
しゃべっていた!!
こ、この事はやはりファーバ様に
お伝えせねば……!)
そして、アルプが走っていった方向とは逆に、
彼も早足でその場を離れた。
│ ■温泉宿メイスン・最上級客室『光の間』 │
│ ■シンデリン一行宿泊部屋 │
「んっふふふ~ん♪」
メイスン最上階の部屋では―――
よほど機嫌が良いのか、シンデリンが笑顔で
ソファに寝そべっていた。
手には何らかの書類らしき物があり、その内容に
満足しているように見える。
「どうしましゅたか?
シンデリンお嬢しゃま」
「っ!!」
ナヴィの言葉に、彼女は思わず体を横へ
のけ反らせ、顔を隠す。
「……いい加減、シンデリンお姉さまは……
『しゃま』に慣れるべき……」
「ベルティーユ様、お茶をこぼしまくっておりますので
お拭きください」
ネーブルは持っていたハンカチで彼女の手と
テーブルの上を拭うと、今度は姉の方へ視線を向ける。
「しかしシンデリンお嬢様、ずいぶんとご機嫌の
ようですが―――
何か良いお知らせでもあったのですか?」
彼女は姿勢を質問してきた少年の方へ寝たまま
その身を反転させて、
「クルーク豆の相場なんだけどね。
今、半分どころか1/3まで落ちているんだって。
もしかしたら1/5まで落ちるかもって」
「それだけトーリ家が損害を被るという事ですよ?」
当然の疑問をネーブルが口にするも、シンデリンは
意に介さないというように話を続ける。
「いいのよぉ。
そのための『担保』でしょう♪
まあ損害が低いに越した事はないけど……ね」
彼女はそのまま視線だけをナヴィに向けて、
「それで―――
何か『策』は出来たのかしら?
女神様の方は」
「協力者は増やしたみたいでしゅけど、
こりぇといった『策』はまだみたいでしゅね」
それを聞くと、彼女は余裕の表情に変わり、
「楽しみだわぁ♪ どっちに転んでも」
「……私も……期待してる……」
と、笑顔を見せる姉妹とは対照的に、少年2人は
アイコンタクトで意思疎通を行う。
「(もしこのまま本当に私やアルプ君、ファジー君が
奉公労働者になっても……
この2人に何かされる未来が見えないのでしゅが)」
「(まあそうですね。
もしそんな度胸がおありであれば、とっくに私が
何かされていると思います)」
そんな彼らの様子を見て、トーリ家の令嬢が
不審そうに問いかける。
「何か言いたい事でも?」
「いーえー、別に?」
「何でもないでしゅよ?」
その答えに姉妹は『むー』と不機嫌そうな声を
同時に上げた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3227名―――