26・生キ方……トイウ事デアロウ
勝手にランキングでは結構評価が高いけど、
本家であまりそうじゃないのはつまり
きちんと文章を書く人たちからは評価
されな;y=ー( ゜д゜)・∵ターン
日本・とある都心のマンションの一室―――
いつものようにリビングで女神と、
お目付け役(猫Ver)がくつろいでいると、
インターフォンのチャイムが部屋に響き渡る。
ナヴィは耳をピン、と立てて、気配で察知したのか
訪問者の名前を口にする。
「アルフリーダ様?」
「え? ママ?」
慌てて娘が出迎え、母親を家の中へと
招き入れる。
「あっつー……
ちょっと飲み物ちょうだい?」
「はい。お待ちくだしゃい」
人間Verに戻ったナヴィは、主人の要望に
答え、冷蔵庫へと向かう。
「ママ、今日はどうして地球へ?」
「フィオナちゃんの様子見っていうのもあるけど……
最近、お役所がうるさくてね」
そこにナヴィが戻ってきて、3人分のコップを
テーブルに置いて飲み物を注ぐ。
「あ、ありがとナヴィ」
「しかしお役所が、でしゅか?
何か問題でもありましゅたか?」
「え” 別にアタシのところは……」
お目付け役の質問に娘は動揺し―――
それを見て母親は首を左右に振る。
「あー、違うわフィオナちゃん。
別に何かあったとかじゃないの。
ただ、初期にトラブルがあったにしては、
順調に信仰地域や眷属を増やしているし……
それも神様初心者が、よ?
評価が高くなっていく反面、レアケースだから、
お役所も不安らしくってね。
だから親御さんがこまめにケアしてあげて
くださいって、要請が来ているのよ」
「あー、お役所がうるしゃいってしょういう……」
母親の説明にホッとしたのか、フィオナは
出されたコップの中身を一気に飲み干す。
「ぷはー、そういう事でしたか。
じゃあ、今日来てくれた用件はそれだけ?」
「まあ、フィオナちゃんの顔を見に来たって
いうのもあるけど……
本音を言うと、買い物とかもしたかったのよ。
ただどこも今やってないのよねー。
自粛ばっかりでウンザリしちゃう」
ため息をつくアルフリーダに、ナヴィが追認するように
会話に入る。
「まあ今は仕方ないでしゅよ。
状況が状況でしゅし……」
そーなんだけどねー、と納得しない女神に、
娘が何か思いついて提案する。
「あ! じゃあママの能力で何とか出来ません?
ウイルス消しちゃうとか」
「おっ、いーねー♪
思い切ってバーッとやっちゃう?」
母娘の会話にさすがにお目付け役が割って入り―――
「しょんな部屋の模様替えでもしゅるような
感覚で、役所の人の胃に穴を開けるような事は
やめてくだしゃい。
しょれではそろそろ、本編スタートしましゅ」
│ ■温泉宿メイスン │
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
―――夕刻。
いつものように神託という名の定期連絡の時間を
迎えた女神は、各国にいる眷属へ話しかける。
「準備はいいでしょうか、ファジー、ポーラさん」
│ ■フラール国・アルプの果樹園 │
│ ■アルプの家 │
「は、はい!」
「バーレンシア侯爵様、ビューワー伯爵様、
グラノーラさんも揃っているぜ」
第一眷属とその姉が現場の状況を伝え、
│ ■バクシア国・首都ブラン │
│ ■ボガッド家屋敷 │
「こちらもローン・ボガッド氏と奥様、
シモン君もおります」
「それではお始めください、フィオナ様」
第三眷属、そして第一眷属の義祖父が、今日の
神託の開始を促す。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「え、えーっとですねえ……
まずは最初に報告したい事があります」
―――女神説明中―――
フィオナが一通り、例の『加入者』の件を伝えると、
すでに知っていた同室の面々は沈黙を守るが……
│ ■アルプの家 │
「ぼ、ボクはいいと思います。
あの、ぱんつぁーふぁうすとさんの事もありますし」
ファジーはルコルアでの一件があるのか、好意的に
受け入れ―――
「例の鉱山の件ですね、話には聞いています」
「ですが、その『パック』さんは―――
いったいどのようなお力があるのでしょうか」
続けてソニアとメイが、詳しい情報を要求する。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「あ……えーと、しょの~……
今はまだ公表するべき適切な時期ではないと
ゆーか……」
「官僚的答弁やめるでしゅ。
本人? がいるんでしゅから、直接聞いてみれば
いいでしゅよね?」
ナヴィの提案に、同じ部屋の中にいる2人の情報屋と
第一眷属、伯爵令嬢、そして『女神の導き』の一員が
“それ”に注目する。
そして、『パック』の第一声は―――
「……豆トシテ生ヲ受ケ、コノ姿ニナッテカラ
マダ3日モ経ッテハオラヌノダ。
正直、何ガ出来ルノカハ己ニモワカラヌ。
ダガ―――
我ガ主あるぷ様、ソシテ主ガ神ト崇メル
ふぃおな様……
ソノ為ナラバ全身全霊デ尽クス所存……
必ズヤ、我ガ主ニ勝利ヲ献上シヨウ……!!」
彼(彼女)が言葉を発した後、しばらく静寂が
訪れ……
そして各国にいる眷属や信者、支援者の反応は―――
│ ■ボガッド家屋敷 │
「よくわからねーが、気合いだけは伝わってくるな」
「フィオナ様の手によって作られたものです。
きっと何か、後で力になって頂けるかと」
シモンが率直な感想を言った後に、ポーラが
補完するように話を引き継ぐ。
「そうですな……
ファジー君の言う通り、ルコルアでの時の
ように―――
いざという時、動いてくださるのでしょう」
│ ■アルプの家 │
「ですが、その……
ルコルアでの一件は、人を選ぶものでした」
「もし危険な任務であるのならば、今度こそ
私が―――」
アルプと同国の商人と貴族が、彼の身を案じて
もしもの時のための交代、身代わりを申し出る。
「いやまあ……
今回は破壊してどうなるものでも無いからねえ。
危ない目にあう事は無いと思うよ?
どちらかというと必要なのは策だね。
クルーク豆の暴落を止めるための―――」
そこへ、バーレンシア侯爵が基本に立ち返り、
いったん話の要点を元へと戻した。
│ ■フィオナ一行宿泊部屋 │
「まーそうだな。
俺たち、そのためというか情報戦の助っ人として
派遣されたんだろうし」
「動く時が来れば言ってくれ。
いつでもスタンバイしとくぜ」
トニックとソルトが自らの用途と支援を語るが、
レンティルは不安を隠しきれず、
「しかし、今現在クルーク豆の相場は―――
2/3どころか半分以下になっているとの
噂です。
こうしている今も下がり続けているでしょう。
ここから持ち直すなんて事が、本当に可能
なのでしょうか……?」
すると、それまで黙っていた伯爵令嬢が口を開く。
「本来なら、このまま終わるだろう。
だが―――
すでに想定外の事は起きている」
そしてフィオナの方へ向き直り、
「わたくしは信じます。
フィオナ様を、最後まで―――」
彼女の言葉を聞いて、初老の男性も続く。
│ ■ボガッド家屋敷 │
「……そうですな。
何より、フィオナ様がいらっしゃって―――
どうにもならなかった事などありません。
それはこれまでの事実が証明しております」
そして彼を御用商人としている侯爵様が、実現可能な
話に仕切り直す。
│ ■アルプの家 │
「とにかく―――
人間の方は人間の方でやれる事をやろう。
僕の領地やルコルアでの工場建設―――
ボガッド氏に全部丸投げ状態だけど、
なるべく進めておいてくれ。
あって困るものじゃないし。
それと……」
言いにくそうな様子の侯爵を、第二眷属とその姉が
気遣う。
「?? どうかしましたか、侯爵様」
「何かあるのかい?」
促すように言われて、彼はマービィ国へ向けて
語りかける。
「いや―――
シッカ伯爵令嬢の事だけど……
いろいろと大変な事になってしまってすまない。
もし今回の件、無事終われば―――
出来る限りの事は何でもさせてもらうから」
それを聞いたマルゴットとバートレットは
サッと顔色を変え、
「あ―――」
「侯爵様、それは―――」
その後、突然レイシェンが気絶した事が
各国の仲間に伝えられ……
神託は、今日のところはいったん閉じられる
事になった。
│ ■温泉宿メイスン・内庭 │
深夜になって―――
気絶から目覚めたレイシェンは、頭を冷やすため
宿の内庭を一人、目的もなくさまよっていた。
「はぁ……わたくしとした事が。
あの人から声をかけて頂いただけで、何たる
失態を……ん?」
ほぼ無人、申し訳程度の照明の明かりが
灯る中―――
正式にメンバーの一員となった『パック』が、
月明りを浴びるように、片隅にいた。
「貴殿は……」
「―――しっか子爵令嬢、デアッタカナ?
何用カ? 眠レナイノカ?」
決められた立ち位置のように、彼女はその植物の
隣りに立ち、一緒に月光浴に興じる。
「はは……
思いがけず、たっぷりと睡眠を取って
しまったからな」
異形とはいえ正式にメンバーに加わった事、
そして人外であるからか―――
他の仲間と話すより、つい口が軽くなる。
「なあ、パック殿……
わたくしは女神様の下へ来てから日が浅い。
今までの奇跡も、直接この目で見て来たわけでは
ないのだ……
だから不安は―――
どうしても拭い去る事が出来ない。
この状況、本当に覆せるのだろうか?
そして……わたくしに何が出来るのだろう……」
パックは、首にあたる部分の茎をいったん下げると、
月夜を見上げる。
「我モ、コノ姿ニテ意思疎通ガ出来ルヨウニ
ナッタノハ、ココ数日ダガ……
何ガ出来ル、出来ナイトイウ二択デハナイ……
ソノヨウニ考エテイル。
アエテ言ウノデアレバ……」
「……言うのであれば?」
時間にして3秒も無かっただろうが、両者に取っては
長い沈黙の後、
「生キ方……トイウ事デアロウ。
少ナクトモ我ハ、あるぷ様……主ニ必ズヤ
勝利ヲ捧ゲル、ソレガ今ノ我ノ存在意義ダト
思ッテイル……」
「パック殿……」
その会話が切り上げる合図であるかのように―――
人間の女性はその場を後にし、元々いた異形の
植物だけが残った。
(……笑止ナ……
彼女ニハ偉ソウニ語ッタガ、タカガ一介ノ
植物ニ過ギヌコノ身ニ何ガ出来ヨウ……
ダガ、ソレデモヤラネバナラヌ。
我ガ主ノタメニ、イザトナレバ文字通リ……
我ガ身ヲ賭シテデモ―――)
パックは誓うように、また月夜を見上げた。
カシャ☆
―――女神フィオナ信者数:現在3218名―――